見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第349話】これからの二人

 

 

「ふわぁ~~。やっぱり天の糸から眺める景色はいいですね。時間によって違う絶景を見せてくれますし」

 

 リリスが夕陽に染まった雲海を眺めながらウットリとしている。リリスが満足そうで何よりだ。このままリリスには景色を味わっていてもらおう。俺は1人でキャンプの準備を進める事にしようと動き出す。しかし、リリスはすぐに俺の方へ向くと手早くキャンプの準備を始めだしてしまった。

 

「気を遣って1人で準備しなくていいですよ。暗くなってしまうと準備も大変になりますから、2人でササッと終わらせちゃいましょう」

 

 リリスにはゆっくりしてもらいたかったが、確かに暗くなってしまったら面倒だ。2人で準備を進める事にしよう。俺達は分担してキャンプの準備を進めた。

 

 地属性魔術で簡易的な壁や寝床を作り、部分的な穴を大布で塞ぎ、焚き火と防寒着と毛布、その他諸々の準備を終えてようやくキャンプの準備が完了した。

 

 後は晩御飯……それと一応夜食の用意もしておこう。俺は町から持ってきた食材と山岳地帯を歩いている途中に捕まえておいた川魚を合わせてハーブ焼きを作り、魚の身の一部を麦飯リゾットに入れて川魚リゾットを作った。ついでにハーブを使ったスープのおまけつきだ。

 

 我ながら素晴らしいクオリティだ。口を開けたまま食器を両手に持って構えているリリスがこちらを見ている事だし、早速食べてもらう事にしよう。

 

 

――――いただきまーす!――――

 

 

 2人同時に食事の挨拶をするとリリスが勢いよく食事を頬張り始めた。たっぷり作ってあるから慌てなくてもいいのだが……。

 

 リリスは蕩ける顔で食事を進める中、急に目をかっぴらいて口いっぱいに頬張っていた料理を飲み込むと料理の内容について語り始める。

 

「美味しくて食べる事に夢中になってしまって気付くのが遅れてしまいましたが、このハーブ焼きとスープは2人だけで旅をしていた時に作ってくれた料理ですね!」

 

「ようやく気付いてくれたか。折角なら昔を振り返られる懐かしい料理を作りたいと思ってな。どうだ? 旅の思い出が鮮明によみがえってくるだろ?」

 

「はい! あの時、ガラルドさんの事がもっと好きになりましたからね、素敵な振り返りが出来て嬉しいです。私が初めてガラルドさんに料理を作ってもらったあの日、アイ・テレポートで疲れている私を気遣って私のスープだけ塩分を濃くしてくれて凄くキュンときちゃいました。その時に初めて素材図鑑(マテリアル)の事を教えてくれたのですよね」

 

「そう言えば故郷の人間を除いて1番最初に素材図鑑(マテリアル)について話したのはリリスだったな。それまではスキルでもない不思議な能力を他人に教えたら気味悪がられてしまうかもしれないと思って避けていたんだけどな。何となくリリスには言っても大丈夫な気がして教えていたよ。それからシンバードの人間たちの優しさに触れて、世の中には信用しても大丈夫な人間が沢山いるんだなって思えるようになっていったんだ」

 

「出会った頃のガラルドさんは今よりもやさぐれているような……いや、疲れているような感じでしたからね。色々大変な思いをしてきた人なのかなぁって思っていましたよ。結局、素材図鑑(マテリアル)を得られた理由は何だったのでしょうかね?」

 

「最初は俺もリリスみたいに失っている記憶があって素材図鑑(マテリアル)を会得した過去があるのかもしれないと考えたりもしたんだ。だけど、過去視を通して記憶喪失なんかじゃないと結論付けたよ。恐らく俺が赤子の頃に『合成の霧』で複数の細胞を取り込んだのが原因で生まれた能力じゃないかと思ってる」

 

「う~ん、ですが細胞を入れるだけでそんなに多くの知識が入るものでしょうか? 知識とはあくまで後付けのものであって体験や経験によって蓄えられるものだと思いますが……」

 

「野生動物の幼体でも初めて見る植物や虫に対して確信をもって危険と判断する種族もいると聞いたことがある。細胞が内包している記憶というのもあながち侮れないものなのかもしれないぜ?」

 

「何だか学者さんみたいな事を言いますね。フフ、まるでゼロさんみたいですよ。そういえばガラルドさんは出会った頃から知識欲……いえ、冒険欲が旺盛でしたよね。最初に私がそう感じたのは――――」

 

 それからリリスは昔の俺の言動について色々と話してくれた。自分の性格や変化について話されるのは何だか気恥ずかしい。俺の話が終わった後も俺達はヘカトンケイルでの出会いから今日に至るまでの思い出を順番に語り合っていた。

 

 いつもがむしゃらに頑張っていたから、こうやってゆっくり話せるのは久しぶりな気がする。恐らく3時間ほど話しただろうか? 気が付けば俺は眠たくなって瞼を閉じていた。

 

 

 

 

 

 

 俺は何時間ぐらい眠っていただろうか? ぼやける視界にはまだ夜空が広がっている。もうひと眠りしよう――――と再び瞼を閉じると、リリスが俺の体を激しく揺さぶり始める。

 

「ガラルドさん! ガラルドさん! 起きてください! 綺麗な景色ですよ」

 

「んんぅ? 綺麗な景色ぃ? そんなもの真夜中の山頂から見えるはずが――――」

 

 俺は否定の言葉をすぐに飲み込んだ、いや、言葉を失ったと言うべきだろうか。俺の視界がクリアになった瞬間、今まで見た事がないほどに大きく強く輝く星空が視界一面に広がっていたのだ。

 

 16歳で故郷を出てから色々な場所を旅してきた俺は夜空を眺める機会が多かったから比例して綺麗な星空を見ることも多かった。だが、そんな俺でも経験がない程に1つ1つの星が大きく見える。

 

 感嘆のため息を吐く事しか出来ない俺を見て、リリスが嬉しそうに天の糸について語り始める。

 

「はじめてここへ来た時は定期船に乗る為に急いでいたので言わなかったことがあります。実は天の糸は『星に1番近い場所』と言われているそうです。天文学が大好きだった父に教えてもらいました。父は私が12歳の時に病気で亡くなってしまいましたから、本当は天文学の話をもっと聞きたかったのですが……」

 

「ん? そういえばリリスが親の事を話すのは初めてだな。どんな親だったか聞いてもいいか?」

 

「お母さんは見た目も性格も私にそっくりで神官として働いていました。いつも元気でニコニコしていたので友達も慕ってくれる人も多かったです。そんなお母さんもお父さんが亡くなってからみるみる元気が無くなって1年後に亡くなりました」

 

「自慢のお母さんってわけだな。それじゃあ父親はどんな感じの人だったんだ?」

 

「性格や言動はガラルドさんに似ている人でした。見た目は全然違いますけど、私はお父さんが本当に大好きで小さい頃からずっと『お父さんと結婚したい!』と言っていました、ファザコンってやつですね」

 

「なんだか凄く想像できるな……」

 

「そんなお父さんは私を軽くあしらいながらも愛情を持って育ててくれて、よく星や宇宙の話をしてくれました。お父さんはいつも口癖のように『いつか大陸の外の景色を見て、星の外にも出てやるんだ。天の糸からは大きく星々が見えるんだから、きっと星々に触れることもできるはずだ』と言っていました」

 

 リリスの父親はスケールの大きな夢を持つ人物のようだ。リリスは大好きな父親が俺に似ていると言っているが、もしかして普段から俺にくっ付いてくるのも本能的に父親の影を俺に重ね合わせているのだろうか?

 

 最近の俺はリリスに対して嫉妬深くなっている自覚がある。リリスの父親にまでライバル心を抱いてしまうのは我ながら本当にダサくて嫌になる。そんな俺の心情が顔に出ていたのか、リリスが俺の顔を覗きこむ。

 

「何だかガラルドさんの眉間に深い皺が刻まれていますね。何か考え事ですか? 最終決戦も近いですし、悩みがあったらどんなことでも教えてくださいね」

 

「どんなことでも……か。これを言ったらリリスにカッコ悪い男だと思われてしまいそうだから正直言いたくなかった。だが、考えたって答えは出ないし聞かせてもらう事にする。リリスは俺と出会ってからずっと大好きだと言ってくれていたけれど、もしかして父親を重ねていたからなのか? それにグラドに懐いていたのも……」

 

 俺は我慢できずに嫉妬のこもった問いかけをしてしまった。しかし、リリスは嫌な表情は微塵も浮かべず、むしろ茶目っ気の含んだ笑顔で答えを返す。

 

「うふふ、確かに私にそっくりのお母さんがお父さんに惚れて結婚したわけですから、私もお父さんみたいな人を好きになる可能性はあるかもしれません。でも、私は人間時代から女神となった今に至るまで恋愛感情を抱いた人はガラルドさんだけですよ。もしかしてヤキモチ妬いちゃいました?」

 

「………。」

 

「私は女神であると同時に小悪魔でもあるのです! 沈黙は肯定と捉えちゃいますよ~、なんちゃって!」

 

 そこからリリスは恥ずかしくなるくらいに俺の好きな点を話し続けた。それと並行するように父親との楽しかった思い出やグラドに抱いていた気持ちについても教えてくれた。

 

 リリス曰く、どうやらグラドという男は過去視で見た印象よりも更に真面目で、色々と考えすぎた挙句、落ち込むことの多い人間だったらしい。それでも、村人、イグノーラ民、仲間達にとって頼りがいのある男であり続けなければいけない、とプレッシャーを感じたまま、ずっと気張って生きてきたそうだ。

 

 魔獣寄せのスキルを持っている事が判明し、イグノーラ北の小屋で兵士の監視の元、リーファと2人暮らしている頃は精神的にかなり追い詰められていたらしく、自身の弱いところを全てリーファに吐露していたらしい。

 

 グラドが本当は強がっているだけだということをリーファはペッコ村にいる頃から勘づいていたようでグラドの事が放っておけなかったそうだ。

 

 俺だってシンバードやガーランド団を背負う立場として強がっている場面も多い。そういう意味ではグラドと俺も似ているのだろう、血も繋がっているわけだし。

 

 リリスは「話したい過去は全て話せました」と呟くと突然自身の鞄から握りこぶし程のサイズの箱を取り出して蓋を開けた。その中には橙色と呼ぶには少し赤い色……黄赤(きあか)色の光を放つ2つの指輪が入っていた。リリスは指輪を見せてくれた理由を語る。

 

「この指輪はお父さんがお母さんにプロポーズをした際に贈ったものです。元々リングウォルドでは男性が家から代々受け継いできたリングを修繕し、自慢の宝石をはめ込んで贈る風習があったらしく、お父さんは天の糸でお母さんにプロポーズしたそうなのです」

 

「そうか、それじゃあリリスにとって天の糸は景色や星空を楽しむだけの場所じゃないって事だな」

 

「その通りです! ですので大好きな人とここへ来るのは小さい頃からの夢でした。そんな憧れの場所へ2回も来られて嬉しいです。そして今はあの時よりも更に大きな気持ちを抱いて……」

 

 いつもストレートに好意を伝えてくれていたリリスが言葉を詰まらせて、耳を真っ赤にしながら俯いてしまった。

 

 リリスにとって今回の旅は想いを伝えるだけでないのだ。天の糸への思い入れと過去の話を伝えて指輪まで持ち込むぐらいに気持ちの入った計画だったのだから。恥ずかしくなるのも無理はない。

 

 好きな女性にここまでさせておいて何も返さないのは男じゃない。ここは俺が自分の気持ちを伝える場面だろう。

 

 俺はずっとリリスの好意に居心地の良さを感じながらも何も具体的な愛情表現を返さなかった。そんな弱虫な自分とは今日でおさらばだ、俺は頭に浮かんだ言葉をそのままリリスへ伝える。

 

 

「ここからは俺に言わせてくれ。俺はリリスを愛してる――――ずっと一緒にいてくれ」

 

「やっと……やっと、ガラルドさんから聞きたかった言葉を……聞けました」

 

 

 リリスは両手で顔を覆い、笑顔を浮かべながら大粒の涙を落して泣き始めた。ずっと、おちゃらけた愛情表現をしてきたリリスでも好意が一方通行なのかもしれないと不安だったのだろう。

 

 恥ずかしがらずにもっと早く好意を返せばよかった。今、リリスは喜んでくれているけど申し訳ない気持ちになってしまっている。だから、償いというわけではないけれど、勇気を出して俺から彼女を抱きしめよう。

 

「ガ、ガラルドさん?」

 

 いきなり俺が抱きついた事でリリスは声を裏返しながら驚いている。だけど、構わず言葉を続ける。

 

「今まで恋愛に無関心なフリをしちまってごめんな。これが俺の気持ちだ」

 

「……人間と女神、両方の生を通して今日が1番嬉しい日です。私はこんなに幸せでもいいんでしょうか?」

 

「当たり前だろ? 最終決戦が終わっても俺達はずっと一緒に楽しく暮らしていくんだぞ?」

 

「ずっと……ですか。ガラルドさんは人間で私は寿命の無い女神族ですから一緒に老いていく事は出来ません。それに寿命以外でも他種族が恋仲になるのは不都合な点もあるかもしれません。それでも本当に私でいいのですか?」

 

 リリスは喜びとは違う震え声で俺に覚悟を問いかける。人間と女神族が愛し合った歴史は存在するのか分からないし、人間と女神族が愛し合うえでどんな障害があるのかも分からない。

 

 だけど俺が好きになったのはリリスであり、好きになった女性がたまたま女神族だっただけだ、俺の選択が変わる事はない。不安がるリリスを安心させたい気持ち、そしてリリスへの愛を抑えられなくなった俺は気が付けば唇を重ねていた。

 

 目を点にして驚き、何も言えなくなったリリスを前に俺は素直な気持ちを口にする。

 

「これが俺の答えだ。女神だろうと障害があろうと関係ない」

 

「ガラルドさん……」

 

 俺の名前を呟く事しか出来なくなったリリスは俺の胸に顔を埋めて思いっきり抱きしめている。抱きしめる強い力と中々顔を見せてくれない態度が照れ隠しなのかは分からない。さっきまでのしおらしさが消えている。いつもみたいに本能的に動くリリスが帰ってきたようで嬉しい。

 

 我ながら照れくさいアクションを起こしてしまったせいで、この後どう動けばいいのかまるで分からない。恋愛経験の無さがここにきて響いてきた……と参っていると抱き合う俺達を照らすように朝日が昇ってきた。

 

「わぁ~、見てくださいガラルドさん! あれが私の見て欲しかったもう1つの景色ホライゾン・リングです!」

 

 ホライゾン・リング(水平線の指輪)という名に相応しい景色が遥か遠くに広がっている。その景色は昇ってきた太陽の光が海に浮かぶ丸い鉱山を黄赤(きあか)色に染め上げており、鉱山によって半円状の影ができるはずの海面もどういう理屈か黄赤(きあか)色に染め上がっている。

 

 結果、俺達の眼には大きく綺麗な黄赤(きあか)色のリングが水平線に重なる形で浮かび上がって見える。さっきリリスが見せてくれた両親の指輪を思い出させてくれる――――息をのむほどに最高の景色だ。

 

 何も言えずにホライゾン・リングを眺めていると、リリスは再び指輪を取り出して語りだす。

 

「改めて指輪と水平線を見比べてください、とても良く似ていますよね? お父さんは天の糸から素晴らしい景色が見える事を事前に調べておいて、そのうえで指輪を加工し、タイミングを見計らってプロポーズしたそうです。ロマンチストで素敵ですよね」

 

「ああ、カッコいい親父さんだな。俺にはそんなロマンチックなデート計画を立てられそうにないぜ」

 

「ふふふ、今のガラルドさんには、まだそこまで頑張って欲しいなんて言いませんよ。でも、いつかは素敵なエスコートをお願いしますね。なので今日はお父さんの真似で構いませんから私にコレを……お願いします」

 

 そう言うとリリスは指輪を俺に渡してきた。この行動の意味するところは指輪を付けて欲しいという事だろう。

 

「後日改めて指輪をプレゼントしてもいいんだぞ? 本当にいいのか?」

 

「いいのです。大事なのは恋人になれた今日、この場所で指輪を付けてもらう事なので。あ、でも別の日に別の指輪もプレゼントして欲しいです」

 

「フッ、ちゃっかりした女神様だぜ。それじゃあ、改めて……」

 

 俺はリリスの前で片膝をついて指輪を右手に持ち、自身の左手をリリスの左手の下側に添えた。そして、慣れない手つきで指輪をリリスの指に通した。

 

「お母さんもこんな気持ちだったのかもしれないですね。私は世界一幸せ者です」

 

 リリスはしみじみと呟くと指輪をつけたばかりの手を俺の頬に添えて、向こうから突然キスをしてきた。さっきは俺からキスをしたから心の準備が出来ていたけど、いざリリスからキスをされると凄く照れくさくてドキドキしてしまう。

 

 そんな俺の心情は顔に出ていたのか、リリスはクスクスと笑いながら俺を揶揄う。

 

「あれ? ガラルドさん、顔が真っ赤ですよ? 綺麗なお姉さんからキスされてビックリしちゃいました?」

 

「ば、馬鹿いえ、全然照れてないっての! そんなことを言ったらさっきのリリスなんて耳まで真っ赤にしてたぞ!」

 

「あーっ! 女の子に恥をかかせるなんていけませんよー! まったく……いい男への道のりはまだまだ遠いですね」

 

「なんだと!」

 

 結局いつもの馬鹿を言い合う俺達に戻ってしまった。だけど今日、俺達2人の関係性は大きな変化を遂げた。間近に迫る戦いも、戦いに勝った後も、大変な未来が待っているかもしれないけれどリリスと一緒ならきっと大丈夫だろう。

 

 軽口を叩き合った俺達はその後も遠くに浮かぶホライゾン・リングを眺め続けた。その間、もう1つのホライゾン・リングも2人の手の間で輝き続けていた。

 

 

 

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