見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第352話】戦争の実感

 

 

 死の山での戦争当日の早朝――――死の山は全体的に傾斜がきつく、足場の悪い箇所もあるせいで馬を走らせることができない事もあり、俺達は自分達の足で駆けていた。

 

 北東軍を担当する俺、サーシャ、グラッジは持ち前の機動力で他の兵より少し早く移動し、時々湧いて出る敵を蹴散らしながら南にある大穴の魔獣集落へと近づいた。

 

 帝国所属のトーマスは俺たちの1つ隣である北軍で指揮をとっており、帝国・他国の人間問わず彼の的確な指示に感心しているようだ。とりあえず北軍は彼に任せておけば大丈夫だろう。

 

 機動力に長けた俺たちは現在の魔獣集落がどうなっているかを確かめる必要がある。初めて死の山を訪れた時よりも大穴1つ当たりの魔獣数が増えている可能性も考えられる。とにかく高さのアドバンテージが取れるうちに魔獣数の少ない集落から順番に潰していきたいところだ。

 

 あと3分ほど走れば最初の魔獣集落につく距離まで近づいたところで俺は地図を開いた。過去に俺達が集めた情報とグラドの残してくれた情報を合わせ、更に大陸南側の国々やダリアが調査してくれた情報を合わせた結果、集落の数は90以上あることが分かっている。

 

 魔獣集落1つにつき1万匹の魔獣がいると仮定すれば合計90万匹となるわけだ。死の山の戦争に参加した全戦士の数が20万人弱だから約5倍の戦力差となる……地図と勢力図を見る度に頭が痛くなってくる。

 

 だが、今回の戦いは人類側が魔獣側へ攻め込む形、つまり攻城戦だ。高さや挟撃の有利もあるし、最悪撤退という手も打てる。攻め込む回数が1回になろうが2回になろうが勝ちは勝ちなのだ。

 

 自分の心に言い聞かせながら俺は魔獣集落のある大穴を覗き込んだ……すると、俺達の予想を裏切る光景がそこにはあった。

 

 

 なんと想定の半分程度しか魔獣がいないのだ。今思えば大穴に向かう途中に現れた魔獣も数が少なかった気がする……以前パラディア・ブルーを使って死の山を歩いた時は襲われる事こそなかったものの、周囲にちらほらと魔獣の姿は見えていたのにだ。

 

 大穴にいる魔獣の数が少ないなら地表にいる魔獣の数は増えるはずなのに両方とも少ないのは妙だ……。もしかして南側に固まっているのだろうか? 俺と同じタイミングで大穴を覗き込んだサーシャは思いもしない幸運に驚きつつも、冷静に状況を分析する。

 

「今、サーシャ達がいる大穴だけ魔獣の数が少ない可能性も考えられるから油断は禁物だよ。もしかしたら、ここの大穴の魔獣数が減っている分、他が増えている可能性もあり得るし。だから伝達の兵士を多めに走らせて数の少ない魔獣集落が3つ以上固まっているポイントを発見したら、そこの中心から攻撃していこう。そうすれば魔獣集落が隣同士で増援にきても耐えられるからね。それでいいかな、ガラルド君?」

 

「つまり応援に来られても恐くない場所から順に潰していくって事だな? 良い手だと思うぜ。先に数が少なくて弱いところから着実に潰していくことが出来れば『魔獣数が多くなっている魔獣集落』に後から大人数で対抗できるわけだもんな」

 

「うんうん、付け焼き刃の作戦だけど魔獣集落の特性を突くことが出来ているから良い作戦だと思う。こまめに情報を運ぶ連絡兵への負担が大きくなるけど、そこは頑張ってもらわなきゃだね」

 

「そうだな、それじゃあ早速全軍に伝えることにしよう。伝達兵に情報を与えてくるぜ」

 

 俺は疲れない程度にサンド・ステップで移動し、北東軍の伝達兵たちに情報を伝えた。そこから残り5つの軍に情報が素早く伝わるよう伝達兵たちは懸命に走り出す。

 

 馬が使えないから南側に伝わるには数十時間はかかると思うが仕方がない。そもそも北側の軍が南側の軍に情報を伝達するのは大陸北から大陸南へ伝達するのと同義なのだから。

 

 そこから俺たち北東軍と北軍・北西軍は連携を取り合って、魔獣集落を1つ1つ攻めていった。万単位の戦力がぶつかり合う光景はまさに圧巻だ。イグノーラでの戦争以上に地面の揺れを強く感じる。

 

 耳には魔獣の爪と人間の奮う剣・槍がぶつかり合う音が絶え間なく聞こえてくる。束になって聞こえる雄々しい怒声は毛穴まで刺激されているような音圧だ。だが、それ以上に驚かされる戦闘光景が死の山にはあった。

 

 それは遠距離攻撃同士のぶつかり合いだ。基本的に大穴に作られている魔獣集落に対して人類側が高所から魔術や矢で攻撃するパターンが多く、下側からは魔獣群がブレス攻撃・魔術・投石で応戦してきている。

 

 上下から各属性がぶつかり合う状況は、火、水、氷、岩、風、光、闇、矢、毒・麻痺ブレスが複雑に絡み合って眩い光を放ちながら押し合う異常な光景だった。

 

 色とりどりの攻撃とあらゆる音が重なる高低の押し合い、もとい衝突は熱いのか冷たいのかも分からない空間を作り出し、大穴の壁面に亀裂を作っている。垂直で高い大穴をカルデラのようなゆるやかな傾斜の大穴へと変えてしまった。

 

 俺はイグノーラの戦争ではずっと前線に立って戦ってきたが、今回は指揮をとる場面が多く、俯瞰で見る初めての大戦の規模に言葉を失うばかりだ。

 

 木は見ていたけど森は見ていなかったんだなぁ、と改めて感じさせられる。そんな俺は戦争という行為の激しさと恐怖に震えが止まらなかった。

 

 だが、今回はまだ人類と魔獣の戦争だから直視する事は出来る。これが人間対人間となった時に俺は戦う事が出来るだろうか? レックやレックの部下は帝国との戦争を想定して俺達に情報を与えてくれた訳だから俺だって人間と殺し合う覚悟をしなければならない。

 

 ずっと死の山での戦争を最終決戦だと自分に言い聞かせていたけれど、それはあくまで『人類対魔獣・魔人』という関係性の話であって帝国とは別の話だ。帝国と戦う未来がこないでほしいと思いながら俺は目の前に広がる戦場を駆けている。

 

 

 

 

 

 

 夢中になって戦っている間にも戦況は刻一刻と変化していて、気が付けば空が夕陽に染まっていた。伝達兵から得た情報によると現状、大陸北の3つの軍は想定よりも遥かに少ない損害で、合計12の魔獣集落を壊滅させたらしい。

 

 順調すぎるぐらい順調だ。このまま着実に魔獣の数を減らし続ける事が出来れば人類側が死の山の劣悪な環境で消耗しきってしまう前に決着をつけられるかもしれない。

 

 とりあえず今日のところは死の山の中での野営はやめておき、疲れている部隊から順に麓へ戻して2日目に備える事にしよう。俺は周囲にいる伝達兵に聞こえるよう大声で指示を出す。

 

「北東軍の伝達兵よ、北軍・北東軍に伝えてくれ。今日のところは一旦、麓へ撤退して体力の回復に努める! 順調な時こそ深追いせずに丁寧に1つ1つ魔獣集落を潰していくんだ! 総員撤退!」

 

 

 

――――おいおい、もう帰っちまうのか? 久々の戦争をもっと楽しもうぜ――――

 

 

 

 俺が指示を出した直後、南方の空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺は慌てて南側へ振り向くと、そこには羽を広げて浮かぶ魔人ザキールの姿があった。

 

 

 

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