見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
戦争1日目の夕方――――突如上空に姿を現わした魔人ザキールは以前と変わらない人を小馬鹿にした笑みを浮かべている。もっと戦おうぜ、と挑発してくるザキールは戦争を楽しんでいて腹立たしいが、あいつのペースに乗ってはいけない。ここは皮肉の1つでも返しておこう。
「よう、久しぶりだな、ザキール! 優しいパパに羽を治してもらっただけじゃなく、脱獄までさせてもらえて良かったな。今度はパパに迷惑をかけないようにちゃんと活躍しなきゃいけないんだろ? それなのに魔獣集落を幾つも潰されちまって大変だな! 早く休戦して魔獣達を休ませた方がいいんじゃないか?」
俺が挑発で返すとザキールは手を強く握り、爪を皮膚に食い込ませるほど腹を立てていた。
このまま逆上して向かって来てくれれば、一気に
「フンッ、今は言いたいように言わせてやる。どうせお前らの命はあと僅かなのだからな。そんなことより貴様……さっきパパがどうだのと言っていたな? やはりシリウスあたりから過去の事を全て教えてもらったのか?」
「ああ、全て教えてもらったぜ。五英雄の過去も、アスタロトやクローズのことも、そして俺、ザキール、フィル3人の出生についてもな」
「……そうか、ならば一層絶望を与える甲斐があるな。全てを知ったお前たち人類側が為すすべなく散っていく姿を楽しませてもらうぜ」
「随分と自信たっぷりだな。1日でこれだけ魔獣集落を潰されても生意気な口を叩けるとはな。何か秘策でもあるのか? それともアスタロトがバックにいるから自信があるのか?」
「悔しいが現状、魔獣群は押されているし、俺様は1度お前達に負けている。だから確実に勝つ自信があるわけではない……だが、例え俺様が散っても最後に大陸の覇者となるのはアスタロト陣営だ! それだけは断言してやる!」
あのプライドの高いザキールにしては弱気な言い回しだ。それに自分が負けてもアスタロト陣営は負けない――――なんて言い方をしているのが気に掛かる。現状、俺達が優勢でいられているのは、まだ強力な魔獣群と戦っていないからなのだろうか?
俺達は南北から死の山の魔獣群を挟撃している関係上、中心位置の勢力に辿り着けるのはかなり後のこととなる。そこにはアスタロトやクローズが何か罠を張り巡らせて待っているのかもしれない。
ザキールの言葉が気になってしょうがないが、今は兵士達の士気を下げる訳にはいかない。強がって自信満々なフリをしておこう。
「人類側だってまだまだ力を残しているんだ、悪いが全くザキール達に負ける気がしない。慌てなくても近いうちに決着はつくんだ、お互いじっくり休んで全力をぶつけ合い、決着をつけようぜ。じゃあな」
「チッ、相変わらずムカつく奴だ。アイツと同じ血が流れていると考えるだけで寒気がするぜ」
ザキールは悪態をつくと、そのままゆっくりと南へ飛んで帰っていった。恐らく
今日の戦いで戦った魔獣の内、どれほどの数が
俺達は確かな手応えと適度な緊張感を維持したまま麓へと戻って休息し、明日以降の話し合いを行う事にした。各国の代表や軍人たちは各々に意見を交わし始める。
――――明日はアスタロト陣営の回復を邪魔するべく、早めに出陣するのがよいと思わないか?――――
――――いや、魔人ザキールの自信に満ちた物言いが気に掛かる。ここは長期戦覚悟でじっくり攻めるのが得策じゃろう――――
――――南側の軍との連携はどうする? 出来るだけ早く西端・東端の魔獣集落を制圧すれば、それだけ南側とも繋がりやすくなるが――――
ザキールの出現に緊張感が高まりつつも冷静に揉めることなく話し合いを出来ているようだ、流石は各国で要職を務める者達だ。そんな中、北軍を代表していた帝国所属のトーマスが意外な提案を持ち掛ける。
「皆さん、私から1つ提案させていただきたい。その提案とは明日以降の出陣において『我々帝国兵が先頭を進んで敵軍と最初に接触し、最も多くの戦闘をこなす』というものだ。理由は2つある。1つは我々が戦闘技術に長けていること、もう1つは死の山に遠征してきた我々帝国部隊を信用してもらいたいことにある。正直なところ、リングウォルドは他国から良く思われていないはずだからな。少なくとも遠征組だけでも信用してもらいたい」
これはかなり思い切った提案だ。ほぼ見返り無しに1番辛い役目を担うと宣言するなんて。よっぽど信用してもらいたいと思っているのだろう。言い換えればそれだけモードレッドの事を信用できないとも解釈できる。
帝国以外の国にとって、この提案はメリットしかないしリスクは無い。それ故に反対する国は現れず、トーマスの案は採用される事となった。
他にも細かく明日の事を話し合っている要人達を眺めているとサーシャが後ろから俺の服の裾を引っ張り、俺とグラッジだけに聞こえるよう小声で話しかけてきた。
「ねぇねぇガラルド君、1つ提案があるんだけどいいかな?」
「どうしたんだいきなり? 戦争の提案なら皆に聞こえるように言ってもいいと思うが」
「戦争に関わる事ではあるんだけど、今からする提案はサーシャの能力に関する話なの。大陸中の要人が集まっている状況ではなるべく避けたくて」
サーシャの能力……つまり
トラウマがきっかけで得たといっても過言ではないスキルだから説明を避けられるなら避けたいのだろう。俺が首を縦に振るとサーシャは説明を始める。
「サーシャね、黒猫サクで調べてみたい事があるの。それは過去視でアスタロト達が暮らしていたアジトが現状どうなっているのかってこと。もし今も拠点にしていて待機しているなら奇襲をかけるチャンスになると思うの」
「言われてみれば確かにそうだな。だが、いくらサクとサーシャで視界共有ができると言ってもアジトまで移動させられるものなのか? アジトのあった位置は死の山の中でも南の方だったはずだろ? それに視界は夜で真っ暗だぜ?」
「サーシャも今日まで沢山修行をしてきたからね。サクをギリギリまで小さくして尚且つ能力を一切発動できない状態に制限をかけつつ移動だけにしか魔量を使わないようにすればアジトまで持つはずだよ。それに猫は元々夜行性だから夜目が利くし、足場の悪い場所も人間よりテンポよく静かに進むことが出来るはずだよ」
「そうか、ならサクとサーシャに頑張ってもらうとするか。長丁場になると思うがよろしく頼む」
「うん、任せて。その代わり寝ずにサクを移動させ続けるから、もしかしたら明日のサーシャは疲れて使い物にならないかもしれないって事だけは覚えててね」
「ああ、偵察が終わったらゆっくり休んでくれ」
「それじゃあサーシャは自分のテントに戻って早速サクを移動させてくるよ。ガラルド君は他の人達に
サーシャは難しい宿題を出すと、そのまま自分のテントへと行ってしまった。
今回の戦争はとにかく勝利を収める事で頭がいっぱいだったから忘れていたが、よくよく考えれば赤ん坊の俺が暮らしていたアジトの近くで戦う事を意味する。
明日以降、どのような戦いの流れになるかは分からないが出来る事ならクローズの作ったアジトへ自らの足で行ってみたいものだ。
もしアジトへ行けたなら過去視では部分的にしか確かめられなかったアジトの全容を確かめてみたい。アスタロト、クローズ、そして母シルフィの足跡を見つけて彼らの事をより深く知ることができればいいのだが。