見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「みんな、悪いがザキールと1対1で戦わせてくれ。上手く言えないがザキールは俺の手だけで倒しきらなきゃいけない気がするんだ」
俺が我儘を言うと全員が何を言っているんだ! と反対の姿勢を示していた、至極当然の反応だろう。俺の言葉にザキールですら面を喰らっているようで、舌打ちと共に反論する。
「チッ、いよいよ俺様も舐められたもんだなァッ? イグノーラでの戦争を忘れたのか? ガラルド、グラッジ、レックの3人が死に物狂いになってようやく俺様1人に勝てたんだぞ? ガラルド1人で勝てるわけがないだろうが!」
「自分が馬鹿げた事を言っていて、合理的じゃないことも分かってるさ。それでも俺は1人でお前を倒す。兄弟喧嘩ってそんなもんだろ?」
「なに? 兄弟喧嘩だと? 馬鹿な事を言うな。母親に憧れの強いフィルとは違うんだぞ……」
「そのフィルと俺はこれまで2度戦ってきた。俺が何も知らない頃、そして過去視で全てを知った後にな。2回目の戦いではお互いがお互いを羨ましがっていたよ。俺は才能を欲して、フィルはシルフィ母さんの
「……貴様は何が言いたい?」
「ザキールもシルフィ母さんへの憧れが強かったんじゃないか? じゃなきゃここまで立派な幻影魔術は身につけられなかっただろ?」
「だ、黙れっっ!」
ザキールは話を終える前に振りかぶった悪魔の右手を俺の頭へ振り下ろす。迫る腕に対し俺は両腕を交差させて
「なんだと? 俺様の悪魔の右手を回転砂も使わずに防いだのか? 前回の戦いから1年も経っていないのに、どうしてそこまで成長してやがるんだ!」
「さあな? 強くなることでしか俺の望む未来が手に入らないから必死に努力できたのかもよ。それより俺の問いかけを大声で否定するなんて随分と分かりやすいじゃないか。別に母親に憧れるぐらい普通のことだろ、どうしてそんなにも強く否定する?」
「別に母親への憧れを否定している訳じゃない……。ただ、俺様は……俺は魔人という恵まれた肉体を手に入れたにも関わらずフィルとガラルドに大きな差をつけられない自分に腹がたっているだけだ! 何故フィルは人間の身でありながらトルバートの器として生きる人生を放棄したんだ? どうしてフィルはアスタロト様から離れる許しを得られたんだ? 何故ガラルドは普通の人間未満の資質しかないというのに
ザキールは怒りか悲しみか分からない震え声で叫び、いつの間にか自分の事を俺様ではなく『俺』と言っている。子供の頃はフィルと関り、近年では侮っていた俺にすら負けてしまっている。ザキールはきっと計り知れないレベルのコンプレックスを抱えているのだろう。
俺はザキールの問いに対する答えを持ち合わせてはいない……だから黙る事しか出来なかった。その後、俺は八つ当たりのような打撃を何度も防御し、ザキールは嘆きの声をあげ続けていた。
「俺は何のために生まれたんだ? アスタロト様が勝利して人類の消えた大陸になったら、その時、俺には何の役割があるんだ? 俺は同じ魔人であるアスタロト様と比べてどうしてこんなにも弱いんだ? なあ? 教えてくれよ、ガラルド!」
「お、落ち着けザキール! 俺はパニックになったお前に勝てても嬉しくない! 俺は逃げも隠れもしないから気持ちを整えろ!」
ザキールは魔獣群の核と言ってもいい敵軍の要だ。なのに俺は塩を送ってしまっていた。だが、このまま目の焦点すら合っていないザキールを殴り倒すのも違う気がする……どう違うのかは上手く言えないが、とにかくそんな勝ち方はしたくない。
俺はザキールとの間に回転砂の障壁を作り出して分断し、クールタイムを挟むことにした。砂の向こうで動かなくなったザキールは勢いよく床へ座り込むと、再び嘆き始める。
「アスタロト様はイグノーラ城の牢屋から俺を救い出してくれた後にこう言ったよ『昔、トルバートの器として作り出したお前達3兄弟はそれぞれ何かしら致命的に欠けているモノがあった』ってな」
「……その欠けていたモノっていうのは何だ?」
「アスタロト様は言った『ザキールには魔の心があるが力が足りない。フィルは力こそあるが魔の心が無い。そしてガラルドは力も無ければ魔の心もない最悪の失敗作だった』とな」
「相変わらず俺は散々な言われようだな……」
「その後アスタロト様はこう続けたんだ『そんな最悪の失敗作に負けたザキールは救いようのない愚息だ』ってな。その日から俺は空っぽになった気がするな……。こんな時に母親がいればどんな言葉をかけてくれるのだろうか? なんて虚しい妄想をしていたぜ。ガラルド達にリベンジする為の特訓すら行う気力も湧かなくなった俺は暇になっていてな。気が付けば母親の足跡を追っていたよ」
「それで幻影魔術を巧みに使いこなすようになった訳か。魔人族というポテンシャルを抜きにしても大した才能だな。1年もかけずにそこまで使いこなすなんて」
「チッ、敵であるガラルドに気を遣われているようじゃ俺様もお終いだな……」
砂の障壁の向こうでザキールはどんな顔をしているのだろうか? グラドを自爆させた元凶であり、悪のお手本みたいな生き方をしてきたのがザキールという男だ。だから奴に対して憎しみを抱くべきなのに、今の俺は同情に近い気持ちが湧いている。
俺がザキールを倒して拘束した後、ザキールの処遇をどうするかは皆で決める事だ。仮に死刑になったとしても俺には関係がないはずだ。なのに俺はザキールの心のモヤモヤがどうやったら晴れるのか……そればかり考えてしまっている。
こんな時、頭の良い人間なら気の利いた事を言えるのかもしれないが、あいにく馬鹿な俺に出来る事は1つしかない。俺は2人の間に展開していた
「聞け、ザキール。お前が戦争に勝ってアスタロト陣営に残ろうが、敗北して人類側に永久監禁されようが俺にとってはどうでもいい。ただ、ザキールは敵であると同時に少しだけ血の繋がりがある兄弟だ。俺は身内にも敵にも敬意を払いたい……だから、お前が納得のいかないまま心ここに有らずの状態で戦うのはごめんだ」
「フンッ……なら貴様は俺様に何をしてくれるんだ?」
自嘲気味に笑うザキールを前にして俺は
困惑するザキールが「どういうつもりだ、ガラルド?」と尋ねる。俺はストレートに自分の考えを伝えた。
「ザキールは何もかもが上手くいかず気持ちが曇っている。俺の事が堪らなく憎いだろ? だったら思いっ切り殴り合いの喧嘩をしようぜ、お前の気持ちを受け止めてやるからよ。そして、お前が勝ったらアジトから逃げて戦争の続きをするなり、アスタロトに文句言いに行くなり好きにすればいいさ。その代わり、喧嘩の後は暗い表情するんじゃねぇぞ」