見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第371話】熱の鼓動

 

 

 倒れている俺のところへザキールがゆっくりと近づいている。この短い時間で態勢を整えて必ずや勝利への光明を見つけてみせる。

 

 気が付けば俺はレッド・モードが生み出す熱の比重を心臓の方へと傾けていた。

 

 ザキールの左胸に灯る黒炎を見たからか、それとも心臓を激しく鼓動させれば身体能力が上がることを本能的に分かっていたからなのか――――どちらかは分からないが俺の心臓はかつてない速度で鼓動を刻む。

 

「これが……真レッド・モードだ!」

 

 俺は倒れている状態からうさぎ跳びのように地面を蹴り、ザキールに殴りかかった。自身の身体がかつてない速度で風を切っているのを耳で感じながら拳をザキールの腹に叩き込む。

 

「ごはぁっっ!」

 

 さっきとは真逆で今度はザキールが後ろへ吹き飛ぶ。何分どころか何秒持つかも分からない無茶苦茶なレッド・モードで後を追う。俺は拳のラッシュを繰り出し、ザキールも拳で応戦する。

 

 互いの拳が衝突し、空気が火薬のような破裂音を発する。いつしかノーガードの撃ち合いになっていた俺たちはその場で踏ん張りながら互いの肉体に拳を叩きこみ続ける。

 

 踏ん張っている地面は岩場のはずなのに、互いの足裏をつけている地面はバキバキと音を立てながら砂の様に盛り上がっている。もはや出力が別次元だ。

 

 打撃を受け過ぎて両瞼が腫れ、段々と視界が狭くなっていくが不思議とザキールの顔はクリアに見える。ジェロイに精神を支配されているはずのザキールが何故か笑っている様に見えた。

 

 憎しみの力でパワーアップしているとしてもザキールが喧嘩を楽しめているのなら構わない。時間にして1分も経っていないと思うが、最高に心が熱くなる打撃の応酬は早くも終わりを迎えようとしていた。

 

 俺が距離感を誤って正拳を外した隙をザキールが見逃さなかったのだ。前のめりになりバランスを崩した俺に対し、ザキールの右足が俺の左鎖骨を蹴り上げる。

 

「ぐああぁっ!」

 

 今日1番の痛みは確実に骨が折れた事を教えてくれた。勢いのある蹴り上げによって5メードほどの高さまで浮かされた俺はダメージが重すぎて、もう左手での攻撃は放てない。

 

 宙に浮かぶ僅かな間に次の戦い方を考えなければ…………焦る俺に対し、地に足をつけているザキールはニヒルな笑みを浮かべている。

 

 ザキールは次に何か強力な攻撃を繰り出してくるはずだ。俺は見え辛い目でザキールを注視すると奴の右手には超高密度の魔力と黒炎が溜まっていた。マズい……俺が空中で身動きが取れない間にザキールは勝負を決める気だ。

 

 ザキールはノータイムとは思えない程の強力な魔術を手の平から解き放つ。

 

「消えろッッ! 黒喰(こくそん)!」

 

 レッド・テンペストを真っ黒にしたような黒炎の竜巻が俺のいる斜め上へと放出される。俺はまだ動かす事が出来る右手で自身を堅守するべく回転砂を解き放つ。

 

「耐えてくれ! レッド・ストーム!」

 

 ザキールの黒炎がぶつかるスレスレで真紅の回転砂が衝撃を抑え込む。俺の体は黒喰(こくそん)とレッド・ストームごと上へ上へと押し出された。

 

 地下空間からアジトの天井を突き破り、黒炎が俺ごと地面を削り、地中を昇っていく。レッド・ストームが消えるのが先か黒喰(こくそん)が消えるのが先か……炎・砂・地中が抉れる音が爆音で俺の耳に突き刺さる。

 

 永遠とも思える数秒を耐え続け、俺の体は大砲の弾のように地上へと飛び出した。

 

 容易く岩場を穿つ黒喰(こくそん)に耐え続けるのも限界だ。俺は魔量が底を尽いてしまい、前に突き出していた右手をだらりと下げる。その瞬間レッド・ストームは消滅し、目の前には俺を葬ろうとする黒喰(こくそん)が浮かんでいた。

 

 あとは瞬きをする間に俺の体は黒喰(こくそん)によって焼かれてしまうだろう……。悔しさと満足感が同居する感情が湧き上がったその時、目の前の黒喰(こくそん)は風に吹かれたロウソクのようにフッと消え去った。

 

 すると黒喰(こくそん)が消えると同時にアジトをぐるりと囲んでいた広い岩場が光の粒となって消失し、眼下に広がる地面は一気に低くなり、マグマの滝と川が露出する。

 

 この現象が意味するのはザキールの意識が途絶えたということだ。1秒にも満たない時間差で俺達は力を使い果たしたのだ。黒喰(こくそん)に押し出されて空高く放り出された俺は着地する余裕もなく高所から地面へと落下する。

 

「ガラルドさーーん!」

 

 地面の上で横になり、ちょっと目を瞑ればすぐにでも意識を失いそうな俺の耳にグラッジの声が飛び込む。他にも沢山の足音が聞こえてくる。アジト周辺を覆っていた幻影魔術が消えて遮蔽物が無くなった今、皆はすぐに俺を見つけて駆け付ける事が出来たようだ。

 

 グラッジは俺の上半身を起こすと眉尻を下げた顔で尋ねる。

 

「体は大丈夫ですか、ガラルドさん? まさか、レッド・モードで無理やり心臓の動きを早めるなんて思いませんでしたよ。いくらザキールに1人で勝ちたいからって無茶ですよ……」

 

「……ああ、流石に今回はやり過ぎたと反省してるさ。リリスに見られていたら洒落にならないレベルで怒られていたかもな。ところでザキールはどうなった? まさかアジトの地下で死んでないだろうな」

 

「今、サーシャさんがサクでこちらへ運んでくれていますよ。ガラルドさんがザキールを戦闘不能にしてくれたおかげで幻影魔術も全て消失しましたから、サクでもここまで運んでこられると思いますよ」

 

「そうか、色々と世話をかけちまったな。とりあえずサーシャとザキールとソル兵士長が来てくれるまで待つとするか」

 

 それから待ち続けること5分、俺とグラッジの元へサーシャ達が駆け付けて俺の勝利を祝ってくれた。いや、正確に言うと祝いの言葉2割、説教8割と言ったところだろうか。ソル兵士長は笑ってくれていたがサーシャにはこってり絞られてしまった。

 

 サーシャの長い説教が終わった頃、サクの背中に乗ったまま気絶していたザキールが目を覚ますと、開口一番悔しい気持ちを呟く。

 

「あぁ、俺様は負けちまったか。これで死の山に張り巡らせていた幻影魔術は全て消えちまったな。悔しいが喧嘩は惜敗で戦争は大敗北だ。俺様の事は好きにしろよ」

 

 

 

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