見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第372話】戦争の後

 

 

 ザキールは悔しがりつつも晴れやかな表情を浮かべている。捨て駒扱いされていた事実、そして兄弟で比べられていた過去も喧嘩によって少しは忘れられたのかもしれない。

 

 ザキールはもう、いつ死んでもいいと言わんばかりの顔をしているが、当然俺は殺すつもりなんてない。まずはこれからの行動について話をしておこう。

 

「さっきも言ったが俺はお前を殺すつもりはない。まぁ、ブロネイル同様厳しく拘束するし、人質として対アスタロトの取引材料にするかもしれないがな」

 

「アスタロト様は例えクローズが人質に取られようとも取引には応じねぇよ。だから俺様は絶対に交渉のカードにはなり得ないぜ。だから、一思いにここで殺してくれよ。人類側が勝とうがアスタロト様が勝とうが俺様は無様に生き残りたくない。戦争中に死んだほうが恰好がつくだろ」

 

「勝利と活躍がなければザキールの生に意味はないのか? お前にとってアスタロトからの評価が全てなのか? 俺はアスタロトが親としても人としても魔人としても腐っていると断言できる。だから、あんな奴に振り回されるな! お前はお前の意志で自分の人生を歩めよ!」

 

「心が腐っているというのなら俺様もアスタロト様と同類だ。そして腐りきった悪にだって序列とカリスマがある。大陸を統べる絶対的な力と悪しき心を持つアスタロト様こそ俺様にとって全てなんだ」

 

 悪にも序列とカリスマがある――――この言葉に何だか重みを感じる。ザキールにとっては閉鎖された魔獣と魔人の世界、そして戦闘のみが人生を構成している要素なのかもしれない。

 

 多くの人と出会い、自分の意思で学びたいことを学び、尊敬する人を決められる人類とは違い、ザキールの目に移る狭い世界にはアスタロトしかいないのだろう。

 

 だとしたら視野の狭くなっているザキールに掛ける言葉は自ずと決まってくる。俺は人類側の勝利と敗北両方の未来を想像しながらザキールに告げる。

 

「アスタロトが勝ったらザキールの好きにすればいいさ。だが、人類側が勝ったなら俺はザキールの自害を認めないぞ」

 

「自ら命を絶つことはいけないと、綺麗ごとを並べるつもりか?」

 

「いいや、そんなつもりはない。俺はずっとお前と戦っていたいから死なれたら困る、それだけの話だ」

 

「ずっと戦っていたい? 死なれたら困る? 貴様は何を言ってるんだ?」

 

「今回の戦いにおいて先に意識を失ったのはザキールだ。だが最初からジェロイを使っていたら俺が負けていたかもしれねぇ。それに今回の戦いを俺の勝ちにしたところでイグノーラの戦いでは1対1では到底勝てなかっただろうな。まぁこんな感じでスッキリしないことが多いんだよ」

 

「……だから落ち着いたらもう1度戦って真の決着をつけさせろと言いたいんだな?」

 

「もう1回だけ……なんて言わないさ。ザキールはずっと牢屋で罪を償いつつ、時々外に出て定期的に俺と戦うんだ。お互いが追い越し追い越されて高め合っていけば今よりずっと強くなれるだろ? 今回の戦いは一世一代の大戦争なんだ、人類側が勝ったらそれぐらいのお願い聞いてくれてもいいだろ?」

 

「……き、貴様は馬鹿なのか? 言ってることがめちゃくちゃだぞ?」

 

 ザキールは声を裏返しながら信じられないといった表情で俺を見ている。だけど俺の言葉は本心だ。もちろんザキールの処遇を決めるのはイグノーラを中心とした多くの人間と国だと分かっている。俺の意見なんてほとんど影響しないだろう。

 

 それでも俺は望みを伝えておきたかった。だから人類側が勝っても負けてもザキールの未来には色々な可能性があるのだと釘をさしておこう。

 

「俺がイグノーラという国に意見を述べても民衆がザキールを許さないと声をあげればお前は殺されるかもしれない。アスタロト側が勝ってもザキールにとって退屈な未来が待っている可能性もある。ゆえに断言できる事なんて1つもない。だから俺の望みだけでも伝えておきたかったんだ。結局はザキール次第ってことだな」

 

「ガラルドの望み……そして、俺様次第……か」

 

 ザキールは遠い目をしながら何やら考え込んでいるようだ。それは人類側が勝った未来なのか、アスタロト陣営が勝った未来なのか……それとも別の事なのか、答えは奴にしか分からない。

 

 それでもザキールは戦闘直後よりも更にスッキリとした表情を浮かべている。何かザキールの心の中で動きがあったのだろうか? ザキールは黒猫サクの背中から降りてボロボロの体を引きずりながらゆっくりとソル兵士長の方へ歩いていくと、両腕の手首をくっつけて前に差し出す。

 

「未来の事は分からねぇが、とりあえず今だけは貴様らに拘束されてやる、一応俺様の負けだからな。またアスタロト様に奪い返されないように精々用心するんだな」

 

 ザキールはいつもの調子で憎まれ口を叩いている。もう心配しなくても良さそうだ。

 

 かなり肉体的に苦しい戦いだったが、俺が消耗するだけで敵軍の要を1人封じる事ができた。結果だけを見れば上出来だろう。

 

 とはいえアスタロトやモードレッドの事が気になる。すぐに各軍に情報伝達をしつつ、一部の精鋭を集めてリヴァイアサンへ乗り込む準備を整えなければ。

 

 俺は一旦ここにいる人達だけで意見を纏めておくべきだと考え、俺が座っている位置へサーシャ達を手招きした。俺が動かない理由は戦闘での疲れが半端ないからだ。

 

 俺は早速これからの動きを提案することにした。

 

「みんな聞いてくれ。俺達が最優先でしなければいけないことはシンバードに帰る事だ。だが、幻影魔術を解除させたとはいえ戦争はまだまだ続くはずだ。だから、ひとまず信号弾を放ちながら俺達のいる場所を示しつつ、北軍のトーマスと合流して今後について話し合おう。それでいいか、サーシャ?」

 

「うん、それがベストだと思う。幻影魔術解除後の敵軍・自軍の様子も聞いておきたいしね。じゃあ、今からサーシャ達は――――って、えっ? ガラルド君? どうしたの? しっかりして!」

 

 何故、サーシャはいきなり大声をあげて俺を心配しているんだ? と思った矢先に視界が急に歪んできた。それどころか地面に座り続けるのすら辛くなってきたぞ? 上半身を垂直にすることが出来なくなった俺は後ろへ倒れ込んでしまう。

 

 俺の体は自分が思う以上に疲れていたのだろうか? 懸命に瞼を開けようとしても徐々に閉じていってしまう……。手と頬に地面の感触が伝わる中、俺の意識はゆっくりと消えていく。

 

 

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 

 

「ガラルドさんは大丈夫ですかね? 寝顔を見る限りだと普通に寝ているようですが……」

 

 ぼんやりとした頭の中にグラッジの声が聞こえてくる。確か俺はザキールと戦った後にこれからの行動について話し合っている途中に突然、気を失ってしまったはずだ。今は何処にいるのだろうか?

 

 何故か自分の寝ている場所が一定のリズムで揺れている気がする……。俺はいつもの寝起きより何倍も重たい瞼を広げると、視界には死の山のかなり高い位置にいると思われる景色が広がっていて夕陽も昇っていた。

 

 さらに自分の見ている景色がゆっくりと動いている様に感じる。うつ伏せになっている俺は視線を下の方に向けて、ようやく自分が黒猫サクの上で寝ている事が分かった。

 

 どうやら俺はかなり長い時間意識を失っていて、サーシャのスキルで運んでもらっていたようだ。まだ体を動かすのは辛いが声を出す事はできる。皆にお礼を言っておこう。

 

「みんな、ありがとう。俺は今起きたぞ。どうやらサーシャとサクにはかなり長い距離を運んでもらったようだから特に礼を言わないとな」

 

「あっ! ガラルド君、目が覚めたんだね。いきなり倒れるからビックリしちゃったよ。体に異常はない? 大丈夫?」

 

「ああ、体を動かすのはまだ厳しいが、疲れているだけだから問題ないぜ。それより随分と長い時間眠っていたみたいだが何か変わった事はあったか?」

 

「実はガラルド君が眠っている間に戦況は人類側が一層有利になっていったの。その話をするうえでガラルド君に見てもらいものがあるし、会ってほしい人もいるの。あと少しだけサクの背中に乗っててね」

 

 

 

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