見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「実はガラルド君が眠っている間に戦況は人類側が一層有利になっていったの。その話をするうえでガラルド君に見てもらいものがあるし、会ってほしい人もいるの。あと少しだけサクの背中に乗っててね」
サーシャは嬉しそうに今の状況を教えてくれた。夕陽が眩しくて進んでいる先が見辛いが、それでも標高の高い場所へ移動していることぐらいは分かる。
目覚めたばかりで魔量も枯渇し、未だにぼんやりとしている視界のままサクに運んでもらうこと5分、俺達は帝国の印が刻まれている大きなテントの前に到着する。
サーシャはテントの前にいる帝国兵に話を通すと、そのままサクに乗った俺を含めた全員でテントの中へと入った。すると、テントの奥には体のいたる所に包帯を巻いたトーマスが椅子に座っており、こちらへ笑顔を向ける。
サーシャはトーマスにお辞儀をすると事態を飲み込めない俺に早速説明を始める。
「今からガラルド君が眠っていた時の話をするね。時間にして数時間程度だけど、その間にサーシャ達は北上し、トーマスさん達は南下していた兼ね合いで合流する事が出来たの。サーシャ達は早速幻影魔術を解除できたこと、そしてモードレッドとアスタロトが組んでいたという事実を伝えることにしたの。トーマスさんは信用できるとガラルド君から事前に聞いていたからね」
「なるほどな、それで今は一緒に行動している訳か」
「うん、戦闘が激しくなっていく死の山をガラルド君とザキールを運びながら脱出してリヴァイアサンへ乗り込むには多くの助けが必要だからね。だからトーマスさん達の力を借りて魔獣を蹴散らせながらゆっくりと北上していたのだけど、移動中にダンザルグという新しい魔人に出会ったの。一応倒す事は出来たんだけどトーマスさんはその時に怪我をしちゃって……」
俺はトーマスが包帯だらけになっている理由に心底びっくりさせられた。ダンザルグという魔人が他の魔人と比べてどの程度の強さなのかは分からないが、それでも間違いなく強い魔人族をよく倒してくれたものだ。
俺は仲間の健闘を称えつつ、トーマスの怪我の具合を尋ねる。
「まさか2日で3人もの魔人を倒してしまうとはな。グラッジ、サーシャ、ソル兵士長、トーマスさん、そして兵士の皆、強敵相手によく頑張ってくれたな。ところで本当に怪我は大丈夫なのかトーマスさん? 随分と痛々しく包帯を巻いているようだが……」
「ええ、見た目ほど大した怪我ではないので安心してください。一緒に戦ってくれたグラッジ殿とソル殿とサーシャ殿が見事な戦いっぷりで支えてくれましたので、この通り五体満足で生き残れました。無事ダンザルグも拘束できましたので、この戦争はもはや九割九分勝利と言っていいでしょう」
「そうか、とにかく大きな怪我がなくて良かった。で、拘束したダンザルグから何か情報は聞き出せたのか?」
「いいえ、残念ながら何も。どうやら他の魔人と違って口が堅いようで。そういえば口が堅いで思い出したことがあります。ダンザルグと戦っている時にザキールへ弱点を教えるように詰め寄ったのですが、奴は終始無言で何も教えてはくれませんでした。アスタロトの事を色々教えてくれたと聞いていましたので味方してくれるかと期待したのですが」
俺はソル兵士長の横で縛られているザキールに視線を向けると、奴は舌打ちをして視線を逸らした。
さっきの喧嘩はあくまで兄弟喧嘩だから、どっちの味方だというわけではない。傍観者の立ち位置でいるつもりなのかもしれない。まぁ大人しくしてくれているだけで儲けものだろう。
これでサーシャの言っていた『会ってほしい人』がトーマスだと知る事が出来た。明日以降どうすべきか話し合ったり、やらなければならない事は色々ある。とはいえ、まだサーシャの言っていた『見てもらいたいもの』について教えてもらっていない、尋ねてみよう。
「俺が寝ている間に何があったかは分かった。それじゃあ次はサーシャの言っていた『見てもらいたいもの』について教えてもらってもいいか?」
「そうだね、じゃあひとまず外に行こっか。もう夜になっちゃうし早く見てもらわないとね。ガラルド君は引き続きサクの背中の上で休んでてね」
そう告げるとサーシャは俺を再びサクの上に乗せて勢いよく走り始めた。どうやら向かう先はテントのあった位置よりも更に標高が高い場所のようだ。俺達は5分ほど坂道を登り続け、付近で1番高いポイントへとたどり着く。
「到着したよ、ガラルド君。あと10メード程登った先には死の山を広く見渡せる景色が広がっているから見てみてほしいの」
サーシャに促され、俺は体の痛みを堪えながらサクの背を降り、自分の足で歩く。すると、目の前には禍々しく広大な死の山の景色が広がっているが、それだけではなく死の山の各地で勝利を喜ぶ人達の姿があった。
幻影魔術による魔獣優勢の地形もなくなり、隠れ場所が露呈した魔獣達はなすすべが無かったのだろう、塊になって為すすべなく人々に倒されている。それに大穴の魔獣集落にいたであろう魔獣達も人々の団結を前に相当な数が潰されているようだ。
そして、人々の中には以前に戦争の協力を仰いだ際、協力を得られなかった国の者たちもいるみたいだ。この事実が意味するのは説得失敗の後に俺達の活躍が伝わって参戦してくれたのか、もしくは俺達が説得を失敗した後に他の国が改めて説得してくれた可能性のどちらかが考えられる。
予想以上に増えた仲間、そして視覚的に勝利を確信できた喜びで手が震える。そんな俺を見たサーシャは一層笑顔を輝かせると、南西に陣取っている人達を指差す。
「ねぇ、あそこの人達を見てガラルド君。あの人達はレグの村の人なんだよ」
「なんだって!? レグの村は兵士どころか自警団すらいないんだぞ? 一体どうして……」
「エリーゼさんが声を掛けて人と武器を集めてくれたらしいよ。姉の息子グラハム、孫のグラッジ君が頑張っているのに私がじっとしている訳にはいかないってね」
「もう高齢で体も丈夫じゃないっていうのに……先輩達には頭があがらないな……」
「ふふ、ホントだね。大陸北、大陸南、帝国陣営、同盟陣営、地域も所属も関係なく皆が一丸となって戦って勝利を喜び合っている姿をガラルド君に見てもらいたかったの。きっとこの先も厳しい戦いが続くと思うからね。その時に心の支えになるのが今まで頑張ってきた『軌跡』だと思うから」
「そうか、いいものを見せてくれてありがとな。今日はサクで運んでもらったり、ここへ連れてきてもらったり、俺の代わりにトーマス達とやり取りしてもらったり色々世話になったな。早く体を全回復して恩返し出来るように頑張るよ」
「うん、期待して待ってるね」
俺とサーシャは暫く眼下に広がる勝利の景色を眺めた後、帝国のテントがある野営地へと戻ることにした。
帝国の野営地では拘束されたダンザルグと少し話をするつもりだったが、グラッジやソル兵士長がどれだけ圧力をかけても黙秘を貫いていたらしい。会っても無駄だとサーシャに説明されて、結局顔を合わせる事はなかった。本音を言えば顔ぐらいは見ておきたかったが、明日のお楽しみにしておこう。
ダンザルグが何も喋らないのは残念だが俺達はザキールから色々と情報を引き出す事が出来ているわけだし大丈夫だろう。そう心に言い聞かせた俺達は帝国のテントにお邪魔して早めに眠りにつく事にした。
明日は順調に移動出来ればリヴァイアサンへ乗り込み、シンバードへ出発する日だ、しっかりと体を休めておこう。