見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
シンとリリスに合流し、死の山から帰ってきた理由を説明することができて一安心だ。だが、情報交換を終えた後も同盟陣営のピンチを脱する策が思いつかず、俺達の間に沈黙が流れている。
今はシンを東側の同盟国に預けることだけを考えた方がいいのだろうか? だが、東に逃げたところで魔獣群や他のアサシンも東へ追ってくるだろうから根本的な解決にはならないだろう。
やはり南の海に逃げてリヴァイアサンに乗り込む案が良いのではないだろうか? シンに提案してみよう。
「シン、俺に考えがあるんだ。俺達は敢えて東の国へは行かずに南の海岸へ行ってリヴァイアサンに乗りこもう。そうすれば少なくともシンは逃げ切れる。シンバードは民衆がバラバラに逃げることで街自体は帝国に占領されるかもしれないが、命さえあればリベンジは出来る。時間はかかっても取り返しさえすれば復興させることは出来るだろ?」
「ガラルド君の言う通りかもしれないな。連中は同盟陣営の戦力を削ぐよりも俺の命を一直線に狙っているからね。よし、リヴァイアサンに乗り込むことにしよう」
俺達の次の目標が定まった。南の海まではそこまで遠くないから全力で走れば30分程度で到着できるはずだ。リリスもグラッジも賛成の頷きを返し、移動の準備を進めてくれているが、サーシャだけは浮かない顔をしていた。
理由が気になった俺は「何か不安な事があるのか?」と尋ねると、サーシャは首を横に振りつつ今後の事を語る。
「ううん、リヴァイアサンに乗り込むこと自体は賛成だよ。でも、シンさんを逃がした後も同盟陣営はきっと防戦一方になるよね? 死の山に集まった各国の戦力に応援してもらおうにもほとんどの国や町は距離が遠いから帝国陣営との戦いにおいて期待は出来ないだろうし。それにシンバードの街がやられるだけならまだしも周辺の同盟国までやられちゃったら、もう人類側の逆転は……」
ここまで言ってサーシャは口を閉じた。サーシャの言う通り、死の山の魔獣を得た帝国軍ならばシンバードと周辺国を丸ごと潰す事が出来るかもしれない。
もし帝国・アスタロト陣営と同盟陣営の全勢力が一か所で一斉に戦っていたならばまだ勝機はあったかもしれない。だが同盟陣営戦力の多くを死の山に分離された現状では帝国・アスタロト陣営とは戦力差が開きすぎている。
戦争では大きな力で小さな力を潰す『各個撃破』の方がコストが少なく、戦意を奪うのにも優れている。シンバード周辺を完全に潰した帝国・アスタロト陣営が勢力を維持したまま死の山に移動している同盟陣営と戦ったなら帝国・アスタロト陣営が大陸の支配者となる可能性は高いだろう。
もう俺達同盟陣営に為すすべはないのだろうか? このまま帝国が魔獣群をコントロール出来ている仕組みすら分からないまま敗北するしかないのだろうか?
何かシンバード陣営が勝つ為の策はないものか……必死になって考えていると俺の頭に1つの言葉がよぎる。
それは命懸けでレックの手紙を届けてくれた帝国兵が残した言葉『シンバード陣営が勝つ為の策』の事だ。彼は確か『モードレッドの弟であるバイオル殿下とミニオス殿下を一直線に狙ってくれ』と言っていた。
死の山での戦争と同時に帝国がシンバードに攻め込むことを彼が予想していたどうかは分からない。だから彼の残した策が今回の戦争で通じるかどうかは分からない。そもそもバイオルとミニオスを最優先に倒す事が何故勝利につながるのかも見当がつかない。
それでも、今は打てる手が少ない。レックの部下の言葉に頼るのが良さそうだ。俺は早速自分の考えをシンへと伝えた。するとシンは片方の口角を上げ、拳を強く握って呟く。
「そうか! それこそが今の我々がやるべきことだったのだ! ようやく点と点が繋がったと言うべきか。帝国が魔獣群を操れている理由がやっと分かったよ。リリス君が走れるようになったらすぐに海岸へ向かおう」
何だかシンが1人で閃き、喜んでいるが俺にはサッパリ分からない。俺が「何が分かったんだ?」と尋ねると、シンは驚きの仮説を語り始める。
「多くの魔獣を操っている存在と方法が分かったのさ。まだ仮説の段階だが可能性は高いと思う。恐らく魔獣群を操っているのはバイオル殿下とミニオス殿下だ。モードレッド達4兄弟はレック君を除き、スキル『ミストルティン』を使えるだろう? あの技は広範囲に向けて恐怖や精神的圧力を与える事が出来る。それは魔獣とて例外ではない。恐らくミストルティンによって押し出す形で魔獣群を移動させているのだろうね」
「な……そんな馬鹿な! いや、でも実際にミストルティンを受けた事がある俺としては納得できなくもないな。もしシンの予想通りなら魔獣の体に
「そうだろう? だからシンバードに攻めてきた魔獣群の中に帝国兵がほとんどいなかったのだと思うよ。普通の人間が魔獣群に混じってミストルティンの圧力を掛け続けられたら先に心が壊れちゃうだろうからね。一方、アサシン達が魔獣群に混ざって戦えている理由は……悪い言い方をすると『過剰に投与された変化の霧』で精神を半壊状態にされているのだと思う」
もし、シンの予想が全て当たっていたとしたらモードレッド達は魔獣・魔人・人間を遥かに超えた悪魔だ。これ以上犠牲を出さない為にも早くバイオルとミニオスを撃破しなければ。
より戦う理由が強くなった俺達はリリスを回復させ、森を後にしようと足先を南に向けた。すると、周囲の茂みがガサガサと音をたて、そこから新しいアサシンが15人ほど現れてしまった。
「ちくしょう……逆転の為に動き出すぞって時に……」
俺が厳しい状況を憂いて愚痴を吐き出すと、シンが「今すぐ全員俺の近くに寄るんだ!」と慌ただしく呼びかけ、手に魔力を溜め始めた。
一体何をするつもりなのだろうか? シンを見つめていると、驚くことに突然俺達の立っている地面が青白く光り出し、全身20メード程の白鯨モーデックが地面を突き破るように飛び出してきた。
モーデックは俺達を背に乗せたまま空高く浮上し、森の木々よりも高い位置に移動すると真下にいるアサシン達を置き去りにするスピードで南方の空へと駆けていった。
モーデックの上で息切れをしているシンは南の海岸を指差しながら呟く。
「巨体で移動速度の速い形態のモーデックは頑丈だけど魔量消費が激しい。このまま一気に南の海岸まで駆け抜けるよ!」