見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「巨体で移動速度の速い形態のモーデックは頑丈だけど魔量消費が激しい。このまま一気に南の海岸まで駆け抜けるよ!」
シンは疲弊しながらも力強く呟いた。シンの言う通り白鯨モーデックのスピードはかなり速く、馬の3倍近く速そうだ。それでも、真下にいるアサシン達の方がスピードは速く、空を駆ける俺達の真下にピッタリとくっついて追いかけてきている。
だが、アサシン達には高く浮かぶ俺達を攻撃できる手段はなく、付いてくるのがやっとのようだ。このまま高度を下げずに海岸まで移動出来ればアサシン達に攻撃されずに済むはず……そう考えていたものの現実はそこまで甘くなかった。
長時間の逃走と戦闘で疲れていたシンは白鯨モーデックを高く浮かせ続けられるほど魔量が残っていなかったのだ。森の上空をあと少しで抜けられそうなところでモーデックの高度がみるみる下がっていく。
「ぐっ……すまない皆……思っていた以上に疲れていたみたいだ……このままでは……」
モーデックの浮上位置が30メード20メードと下がっていき、このままでは森の木々に墜落し、アサシン達に襲撃されてしまう……。墜落間近で目を瞑りかけたその時、俺達の真下から突然強い風が吹き上がり、モーデックの体が浮きはじめた。
一体何が起きたんだ? モーデックの背から下を確認すると、そこには風魔術でモーデックを浮かそうとしている兵士とアサシンを足止めしてくれている兵士がいた。彼らは俺達と一緒にシンを追いかけていて森の外で待機してもらっていた仲間達だ。
風を吹かしているのは主にソル兵士長の部下達、そして足止めを担当しているのはそれ以外の兵士達のようだ。見事な適材適所と言うべきか、まさか死の山だけでなくシンバード領でも彼らの風魔術に助けられるとは。
突然モーデックを浮かせやすくなった事に困惑するシンを尻目に兵士達は「ここは我々が抑えます! どうかシン様はお逃げください!」と俺達にも聞こえるように大きな声で叫んでくれた。
シンは膝の震えを止めて立ち上がると、疲弊した声で呟く。
「アサシンを止めてさえくれれば低い高度を飛んで魔量の消費を抑えられる……。彼らの心意気は無駄にしない……必ず逃げ切ってみせる!」
シンの体に少ないながらも力強い魔力が流れ始めた。モーデックは墜落を免れて低空飛行を維持すると、そのまま森の上を抜けて海岸へと飛んでいった。
兵士たちが送ってくれた風は彼らの姿が見えなくなるまで続き、彼ら共々完全にアサシンの姿は見えなくなって距離を離す事が出来た。兵士達の勇気と適切な判断で俺達は逃げ切る事が出来たのだ。
モーデックはそのまま平原を突っ切り、南の海の上空へ到達したところでゆっくりと着水する。グラッジは神笛カタストロフィでリヴァイアサンを呼び出した。これでようやく落ち着く事ができそうだ。
俺達はリヴァイアサンの泡で1度海中に潜り、ゆっくりとこれからの事を話し合う事にした。
本当はバイオル殿下とミニオス殿下をどうやって止めるべきか今すぐ話し合うべきなのだろう。だが、俺はどうしても気になる事があって先に別の質問をシンへ投げかける。
「戦争の話をする前に少しシンに聞きたいことがある。シンのスキルは一体どういう性質なんだ? 今までは根掘り葉掘り聞くのも悪いかと思って尋ねなかったが、大逃走が始まった今となっては護衛する為にも知っておいた方がいいと思うんだ」
「う~ん、ガラルド君の言う通りだね。本当はずっと前から教えてあげたかったのだけどね。万が一、誰かが敵に捕まって『自白を強制できるスキルやアーティファクト』を使われれば俺の情報が漏洩してしまうリスクがあると思ったからね。俺の能力にはクセがあるから、なおさら漏洩は避けたかったんだ」
「言われてみれば一理あるな。流石は国のトップ、よく考えているな」
「ふふ、ありがとう。だけど、今はもう最終決戦だ。俺自身も戦わなければいけないぐらい厳しい状況になってきている。教えておくことにするよ。俺のスキル『白鯨モーデック』の特性は――――」
そこからシンは後天スキル『白鯨モーデック』の強みと弱みを教えてくれた。
シンの後天スキルには主に『召喚』と『合体強化』の2つがあるらしい。俺達をモーデックの背に乗せて運んだり、モーデックを盾代わりに出現させたりするのが『召喚』に該当するらしい。
モーデックはサイズ、パワー、耐久力、スピード、高度が上がるほど魔量の消費が激しくなるらしく、さっきの逃走時は各種能力を上げていたから相当消耗が激しかったようだ。
一方、もう1つ能力『合体強化』はシンの肉体にモーデックを宿し、シン自身の基礎能力を高めたり、モーデックが使える技をシンも使えるようにするものだそうだ。発動する為の溜め時間が長く、消耗も激しいのが弱点らしい。
だからサンド・ストームで俺に時間を稼がせたのだろう。実際あの時のシンはとんでもない強さだったからメリットと発動条件の厳しさにも納得だ。
今更だけどシンの事を色々知れて嬉しくなってきた。それと同時に1つ疑問が湧いてくる。それはシンが後天スキル『白鯨モーデック』を使用していない状態でも凄まじい強さを持っている点だ。
沢山訓練を積んできたとか才能があるとか、そんな言葉で片づけてしまえば簡単だが、それでも少し前のグラッジをスキル無しで手玉に取るほどの強さを普通の人間が持てるとは思えない。
俺はシンに「他にも強さの秘密があるんじゃないか?」と尋ねると、シンは恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。
「実は言うと俺にはもう1つスキルがあってね。それは先天スキル『
シンが妙な事を言い始めた。スキルについて話すのが何故グラッジへの謝罪に繋がるのか全く見当がつかない。俺以上に気になっているグラッジが「どういうことですか?」と尋ねると、シンは重くなっていた口を開く。
「
ある意味シンらしいスキルかもしれないと妙に納得してしまった。思えば大陸会議の為にシンと一緒に帝国へ行った時は白鯨モーデックを使っていなかった。
それに大陸会議からの帰り道で、もし
もしかしたら他にも
「教えてくれ、シン。
「色々とあるよ。限定的な強さとはいえ、自領を守るのには適した能力だからね。多くの魔獣を自らの手で蹴散らすことができた。幼少期にフェアスケールにいた頃はフェアスケール周辺こそが自分の居場所だと思っていたから
「言われてみればシンの子供の頃はシンバードが無いわけだしな。先天スキルが発現していたらフェアスケールが対象になるだろうな」
「うん、逆に言えば故郷を捨てたと言ってもいい現在ではフェアスケールで
「もしかして俺達にドライアド復興計画を頼んできたのも……」
「いや、それと
「目的?」
「自分にとって大切な人達が笑顔で働ける場所を増やしていきたいと思い始めてね。いつの頃からか四聖のような頼りがいのある人間が育ち、勝手にシンバードの噂が広がって移住したい者が増えていた。その結果、1つの街だけではキャパがオーバーするようになってきたんだ。だから俺はいつしか国王を名乗り、街や領地を広げることに注力するようになっていったんだ」
人生なんてものはいつの間にか目的や優先順位が変わってしまうものだ。シンという人柄に惹かれて集まってきた人達が、いつの間にかシンの心や夢すらも変えてしまったのだろう。
きっとシンが魅力的な人間であり、仲間想いだからこそ紡がれてきた歴史なのだろう。
シンは一通り話し終えて咳払いをすると、より真剣な表情を浮かべて言った。
「まぁ色々と俺の強さの秘密を話したけれど、それでも修行を積んできたガラルド君とグラッジ君は今の俺より強い。だからしっかりと守っておくれよ? じゃあスキルの話も終わった事だし、今度はバイオルとミニオスを止める作戦を話し合おうか」