見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
シンバードの上空で魔人ソニアと戦い、白鯨モーデックに乗ってリヴァイアサンと共に南側の海の中へと潜った俺達はソニアが起きるのを待ち続けた。
ソニアの手足を拘束し、30分ほど待ったところでようやくソニアがゆっくりと瞼を開いて呟く。
「痛っ……確かアタシはガラルド達に……えっ? ここは何処なの? まるで海中にいるみたいだわ……」
ソニアは拘束された体をバタバタと動かしながら周りを見渡して動揺している。まずは俺が状況を説明してやることにしよう。
「お目覚めか魔人ソニア。お前は俺とグラッジの攻撃を喰らって意識を失ったんだ。今はアスタロトにも見つける事ができない海中にソニアを連れてきている。今から何が始まるか分かるよな?」
「まさか……アタシにイヤらしい事をするつもり? それとも尋問かしら?」
「……もちろん後者だ。お前に聞きたいのは『シンを見失った後に帝国陣営とアスタロト陣営がどう動くか』についてだ。こっちには嘘を見破るアーティファクトがあるから誤魔化そうとしても無駄だ、答えてもらうぞ」
「アタシは別に帝国への義理もなければアスタロト様への忠誠心もないから答えてあげるわよ。だけど、答える代わりにアタシの身の安全を保障しなさい」
「分かった分かった、保証するよ。だから答えてくれ」
「アスタロト様とクローズがどう動くかは分からないけど、帝国陣営はシン国王を見失った以上、1度ドライアドの周辺に集まるでしょうね。魔獣を従えた帝国は東西の平原を移動する画一的な動きの方がやりやすいはずだし、場所的にも都合がいいわ」
ミストルティンを使って魔獣を動かしているのなら画一的な動きしか出来ないのは納得できる……だが、場所的に都合がいいとはどういう事だろうか?
今、ソニアが言った話に嘘は無いかジャッジメントを刺して確かめてみたけれど、刀身は真実を示す青い光を放っている。俺はもう少し情報を掘り下げてみることにした。
「そもそも魔獣を動かしているのはミストルティンを使えるバイオルとミニオスで間違いないんだよな?」
「ええ、その通りよ。
「ソニアの感想はどうでもいいが、これでバイオル達がミストルティンで魔獣を動かしていると確証が取れたな。次は移動先についての質問だ。バイオル達がドライアド周辺に行くと言っていたが、ドライアドはシンバード領の町だぞ? そんな場所でわざわざバイオルとミニオスが合流するのか?」
「貴方バカね、そもそもドライアドは帝国第4部隊と半々で統治していたのでしょ? だったら帝国の息もかかっているのだから待機場所・合流場所にもってこいじゃない。シンバードからも比較的近いわけだし」
「だが、第4部隊はレックの管轄だろ? モードレッドと対立していたレックの管轄地にいる兵士達が易々とバイオル・ミニオス率いる魔獣混合軍を受け入れるのか?」
「レックって第四皇子でしょ? 彼がどれくらい優秀で権限を持っているかは分からないけれど、兵士達にとってモードレッドの意見が最優先なのは間違いないわ。だから必ずドライアドに集まるはずだわ。アタシの言葉が信じられないならシンバードから陸地伝いに列を辿ってドライアドに行けばいいじゃない。妨害されてかなり時間をロスするとは思うけどね、ウフフ」
腹の立つ言い回しだが、ソニアの言っている事はもっともだ。ジャッジメントもソニアが嘘を言っていないと示している。海路で限界までドライアドに近づく移動パターンを選んだ方が良さそうだ。
レックや帝国第4部隊の事も気になるし、シンバードから西方面の防備を担当しているはずのフィルやゼロがどうなっているかも気になるところだ。とはいえ俺達が次に行くべき場所がピンポイントで定まったのはありがたい。
一通りソニアから情報を引き出す事が出来たから後はリヴァイアサンで移動するだけだ。グラッジがリヴァイアサンに行き先を伝えると、ソニアは自分の座っている場所が神獣の上だということに驚いていた。
「まさか、人間が神獣を操れるなんてね。アタシだけじゃなくアスタロト様やクローズ様も知らないでしょうね。今、語り掛けていたのはグラッジちゃんよね? 魔獣寄せのスキルが発展して神獣を操れるようになったのかしら? 神獣は魔人の進化した姿とも言われているから少し複雑な気分ね」
そういえば海底集落でもウンディーネさんが『魔人は神獣・精霊などに進化する可能性があるとアスタロトから聞いた』と言っていた記憶がある。アスタロトに接触できればより詳しい事を聞けるかもしれない。
グラッジは『誰が神獣を操っているのか?』というソニアの問いに対し、眉をひそめながら言葉を返す。
「魔獣寄せスキルの延長線ではあるけれど『神獣を操るスキル』なんかじゃないぞ。この能力はあくまで神獣と会話して仲良くなるためのものだ。だから僕とリヴァイアサンは友達だ」
「ふ~ん、まぁアタシにとってはどっちでもいいわ。どうせ友情なんてものは自分を正当化して利益を享受する為の便利な言葉でしかないのだから。その点、アタシたち魔人の方がドライでありつつも真っ当な関係よ。アタシたちは最初から互いが互いを蹴落とし合うライバルと認識しているのだから」
「……そうか、ソニアは僕達と違って本当の愛や思いやりを知らないんだな、気の毒になってきたよ」
「黙りなさい人間風情が! まったく……美しいアタシがなんでこんな散々な目に……。暴力バカのザキールや忠義バカのダンザルグよりもずっと優秀なアタシがどうして……」
ブツブツとボヤいているソニアを見下ろしていたグラッジは大きな溜息を吐くと呆れ顔で呟く。
「ソニア、お前は今まで会ってきた魔人の中で1番弱く、1番空っぽで、1番醜い奴だったよ。まだザキール達の方が尊敬できるところがある。だからアスタロトも飛行して情報を運ぶだけの簡単な仕事をソニアに任せたんだろうね。君の言葉は僕らが戦ってきたライバルたちを侮辱する耳障りなノイズだ、もう黙っててくれ」
「な、なによ! 勝ったからって調子に乗っちゃって! デタラメ言うんじゃないわよ! そんな評価を下すのはアンタだけなん……えっ?」
ソニアは周りを見渡して言葉を失っていた。それは恐らく全員がグラッジと同じように憐れみを含んだ目でソニアを見つめていたからだろう。自分こそ最上だと思い込んでいるソニアは全否定されたショックでガックリとうなだれて泣き始めてしまう。
「ううぅぅ……アタシこそが……1番……なのに……なんで……ううぅぅ」
ソニアは大粒の涙を落とし続けている、ちょっとキツい言葉だったが奴には良い薬になった事だろう。静かになったことだし、後は人質として働いてもらう事としよう……と考えていると、リリスがいきなりグラッジを指差して子供みたいな声をあげる。
「あ~あ、女の子を泣かしちゃ駄目じゃないですかグラッジさん。腹が立つ気持ちは分かりますが、心は熱く、頭と行動は冷静に、ですよ!」
「ち、違いますよ、僕は泣かせたかった訳じゃ……ぼ、僕は紳士ですから!」
何だか急にアホらしい会話が始まってしまったが、きっとリリスなりに熱くなり過ぎないように釘をさしているのだろう。グラッジは横目でチラチラとサーシャの顔色を伺いつつ弁解している。評価が下がらないように必死なところが面白い。
何はともあれ俺達が行くべきポイントは決まった訳だ。これで到着まで心置きなくゆっくりする事が出来る。とはいえ最後までソニアの性別が分からなかった事だけはモヤモヤしているのだけれど。