見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第386話】茜色の蝶

 

 

「クックック、甘い香りを感じたということは紫の煙を吸ってしまったようだな。この煙はかつて七恵(しちけい)の楽園と呼ばれる場所を滅ぼした猛毒だ。それを父アーサーが地下の奴隷労働施設で戦闘用に生産・改良した猛毒兵器だ。もう終わりなんだよ、ガラルド」

 

 バイオルが勝ち誇った顔で呟いた煙の正体は七恵(しちけい)の楽園と港町ドラウを丸ごと崩壊させたバジリスクの猛毒だった。そんな凶悪な毒を吸い込んでしまった俺の体は答え合わせをするかのように少しずつふらつき始るた。

 

 一方、バイオルが用意した口と鼻を覆う仮面は猛毒を吸い込まないようにする為のマスクだったようだ。こんな危険な毒を躊躇なく使うということは、自分に害が及ばないように扱える自信があるということだろう。

 

 俺はふらつく体をなんとか垂直に保ち、リリス達に指示を送る。

 

「聞いての通りだ、リリス達は絶対に俺の方へ近づくな! バイオルは俺の体が動くうちに1人で仕留めてみせる!」

 

 リリス達に指示を送り終えた俺は再びバイオルに攻撃を加えるべく両こぶしを構えた。震えながらも戦いの姿勢を見せる俺に対しバイオルは驚きの表情を浮かべながら拍手を贈る。

 

「ほほう、猛毒を吸っても動ける元気があるとはな。吸った毒の量が少なかったか? それともガラルドが頑丈なのか? まぁ、どっちでもいい。立っているだけで辛そうな貴様に何ができる? このまま追加で毒を喰らわせてトドメを刺してやろう!」

 

 勝ち誇った顔で叫んだバイオルは鎧の至る所から猛毒の霧を噴出し始めた。いくら鼻や口で呼吸していないとはいえ、あれだけの毒を散布したら皮膚から吸収してしまうのでは? とも考えたが、そんな勝ち方をさせてもらえるほど甘い敵ではなかった。

 

 なんとバイオルは周囲に風魔術を展開し、自由自在に毒の軌道を操り始めたのだ。これではバイオルに毒を付着させて勝つのは難しそうだ。それどころか猛毒を全方位から俺にぶつける事も可能だろう。バイオルは猛毒をまるで蜘蛛の巣のように広範囲へ拡散すると、それらを一斉に俺へ向かって飛ばす。

 

「さあ、ガラルドは猛毒の包囲網をどう避けるのかな? はっはっは!」

 

 バイオルは不快な笑い声をあげているが負けるつもりはない。依然として俺の体はふらついて力は入らないが、それでも回転砂を風魔術のように自由に動かす事ぐらいはできる。

 

 俺はすぐさま自分の周りへサンド・ストームを展開する。

 

「悪いがこれ以上猛毒を喰らうつもりはないぜ! 毒を吹き飛ばせ、サンド・ストーム!」

 

 俺の体にあと少しのところまで近づいていた猛毒がサンド・ストームによって吹き飛んだ。このままサンド・ストームを展開しつつバイオルに近づいて高火力技を決めてしまえば、毒を扱うバイオルを止める事が出来るはず。そう考えていた俺だったが、バイオルは不敵な笑みを浮かべながら呟く。

 

「クックック、そんな隙間だらけで動きも雑な砂嵐で私の毒包囲網を防ぎ切れるはずがないぞ。外に押し出そうとする砂嵐と中に入り込もうとする毒の風が入り乱れれば乱気流となり、少なからず中心にいるガラルドへ猛毒が到達するだろうな」

 

 バイオルの呟きと同時に俺は周囲を見渡した。バイオルの言う通り、砂嵐の細かい隙間を縫って毒の霧が中へ入ってきているのが見える。俺は慌てて息を止めたが、バイオルの魔量が尽きるまで息を止めていられる訳がないし、無呼吸のままバイオルに近づけるとも思えない。

 

 体のふらつきと酸素の届いていない頭で必死に打開策を考えるが何も思いつく気がしない。バイオルも砂嵐と毒の向こう側で「毒死と窒息死のどちらがお好みかな?」と笑い、風の勢いを強めている。

 

 このまま為すすべなくやられてしまうのかと悔しがっていると、俺の耳に予想外の言葉が届く。

 

「僕が猛毒を消し去って助ける! ガラルド君は今すぐ魔力を肉体防御に集中させ、伏せてくれ!」

 

 今、聞こえた声はフレイムだ! 俺はフレイムの指示通り体に魔力を強く纏って地面に伏せる。すると俺の周囲に茜色の蝶々が舞い、辺り一帯を高熱で包みはじめた。

 

「毒を消失させろ! 炎舞剣・改(えんぶけん・かい)!」

 

 なんとフレイムはコロシアムで見せた炎舞剣を遥かに超える広範囲で優雅に舞う火の蝶々を展開してみせた。すると辺りに飛び回っていた紫の霧は瞬く間に消え去った。以前より格好つけた技になっていて鼻につくけれど、その効果は本物だ。

 

「な、私の毒が……一体なぜ……」

 

 震え声で驚くバイオルを前にフレイムは毒が消えた理由を説明する。

 

「恥ずかしながら僧院で慈善活動をしていた時の経験が活きる事になったね。僕はガラルド君の慈悲によって僧院で暮らすようになって以降、毒沼の浄化作業をする機会が増えたんだ。その時に毒を浄化する方法には大きく分けて2つあることを学んでね。それが何か分かるかい、ガラルド君?」

 

「治癒術士や神官が得意とする浄化魔術……それと、今見せてくれた炎って事か?」

 

「正解だよ。より正確に言えば高熱が正しいかな。菌、ウイルス、毒などの物質は高熱で死滅するものが多くてね。人間の体内だって熱によって死滅しているものは多いのさ。浄化魔術に比べれば危険で効率も悪いけれど火属性魔術による滅菌も選択の1つになる訳さ」

 

「なるほどな、知恵の無い俺には思いつかない技だぜ。それに猛毒で体力と魔量が削られていたからレッド・モードも使わないようにしていたのも裏目に出たな。だが、フレイムのおかげで次に取るべき行動が分かったぜ。レッド・モードで一気にバイオルを倒した方がいいって事がな」

 

「そうだね。だから、サクッと勝負を決めてきちゃってよ、リーダー。君の周りには炎の蝶を旋回させて毒を消しておくからさ」

 

 もうパープルズに救われるのは何度目だろうか。改めて彼らの命を救って本当に良かったと思う。俺は手足にありったけの魔力を込めて真っすぐにバイオルを睨みつける。

 

「という訳だ、バイオル。悪いがお前の毒はもう効かない。思いっきり殴らせてもらうぜ」

 

「や、や、やめろ! 近づくな!」

 

 情けない声をあげて後ずさるバイオルに対し、俺は容赦なくレッド・ステップで近づいた。バイオルはやけくそになって毒を撒いているが、俺が吸い込むよりも前にフレイムの技によってかき消される。

 

 俺はバイオルの懐へ侵入し、ありったけの連撃を叩きこむ。

 

「これで終わりだ! レッド・ラッシュ!」

 

 自分でも驚くぐらい速くなった拳速は一瞬で俺の拳に20発を超える衝撃が響き渡る。バイオルの鎧は朽ちた煉瓦の如くバラバラに砕け散った。

 

「うげぇぇっ!」

 

 うめき声をあげながら吹き飛んだバイオルは吐血し、うつ伏せになって倒れる。俺達の勝ちだ!

 

 短時間とはいえ、危険な戦いだった――――俺は無理して動かした体を休ませる為に勢いよく地べたへ座りこむ。

 

 

 

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