見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「モードレッド、お前に負けられない理由ができた。俺は絶対にお前を倒す、そしてレックへ謝らせてやる」
俺が宣言するとモードレッドは小馬鹿にしたような笑いで言葉を返す。
「フッ、レックへ謝らせる……か。帝国が負けて私が拘束される時がきたら望み通り謝ってやろう。だが、ミストルティンの使い手であるバイオルとミニオスを封じたところで戦力はまだ我々が上だ、負けるつもりは無い。いや、仮に帝国が負けて、私が謝ったところで果たして今のレックに言葉が通じるか怪しいところだがな」
「……レックに言葉が通じない? どういう意味だ?」
モードレッドの言葉を受けて俺の頭に嫌な想像ばかりが巡っている。レックが何か大変な状態になっているのではないかと不安が心を支配する。早く答えが欲しい気持ちと返答を聞きたくない気持ちが俺の中で混濁している。
そんな俺の心境を弄ぶようにモードレッドは昔話を始める。
「レックは父アーサーが歳をとってから生まれた子でな。私とも歳が離れていることもあり、他の兄弟と比べて良くも悪くも親族から放任気味に育てられた。そのせいか学問も武術も劣等生で性格面も難しいところがあった。典型的な世間知らずの坊ちゃんといった感じだな。自国民を大切にする精神こそあったが、他国では身分が低い者を馬鹿にする癖……偏った思考もあった」
「俺もレックからキツく当たられていた時期があったから言っていることは分かる。だが、今のあいつは真人間だろ? モードレッドが異常に厳しい教育をしてきたことも聞いているぞ。だからレックが真人間になれたのはアンタの熱心な成果でもあるんじゃないか? 認めたくはないが」
「いや、レックが変わったのは間違いなくガラルドの影響だ。レックは私に対して怯えの感情しかなかったはずだ。だから私はガラルドに対し、それなりに敬意を払っているつもりだ。今のレックは私にとって大事な弟だからな」
「今のレックは……か。それは戦力とか政治とかの面で役に立つ存在になったからってだけだろ? アンタからは兄弟愛なんて感じないな」
「兄弟愛? 帝国を治める者に愛や情など必要ない。私は只々帝国を盤石にする人材を育てたかっただけだからな。だからこそレックがガラルドと出会って覚醒し、みるみる成長していくのが嬉しかった。仮に私が死ぬことがあれば最高指揮権は血縁の近い者や優秀な者に移権する決まりがあるからレックこそ後釜に相応しい……そう思っていた」
モードレッドは話の途中で言葉を詰まらせ、寂しそうな表情で遠くを見つめていた。後釜に相応しいと『思っていた』という言い方が気になる……。戦争が始まってから俺たちはレックの姿を見ていない。今回の戦争では表立った役割を担当していないのだろうか?
レックは義の無い戦争に参加する訳にはいかないと抵抗したのではないか? と俺は予想しているが、もし抵抗したのなら次にモードレッドがどんな行動に出るのだろうか? 悪い意味で全く想像が出来ない。
俺がレックの安否を気にかけているとモードレッドは寂しそうな表情を浮かべたままレックの話を続ける。
「落ちこぼれだったレックは考え方を改めて必死に努力を重ねた。結果バイオルとミニオスを追い越す強さと知性を身に付けた。ミストルティンこそ発現しなかったものの、それでも帝国のナンバー2になれる素養があった。だが、レックには致命的な欠点があったのだ」
「何だよ、その致命的な欠点って?」
「歴代の皇族が持ち合わせてきた『如何なる犠牲を払おうとも帝国の繁栄を第一に動く』という精神だ。レックは帝国の『兵器や霧の力』、そして『非人道的な政策・軍略』これらの詳細を私が教えると顔色を青くし、たちまち心身を衰弱させたのだ。レックは覇道を進むにはあまりにも優し過ぎたのだ」
レックは自分の部下や俺を身を挺して守ってくれるような奴だ、覇道なんて進める訳がない。それこそがレックの良さであり、そっちの方がよっぽど人間らしいはずだ。
帝国を導く素養が無いとモードレッドは嘆いているが、覇道がどうだとか語る前に弟の優しさを誇れと言ってやりたい。だが、奴に俺の言葉は届かないだろう。だから俺はモードレッドに1つ提案することにした。
「レックに素質が無いのなら諦めて普通の帝国人として暮らさせてやれよ。望んで皇帝の血筋として生まれた訳じゃないんだ。他にも帝国基準で優秀な人間はいるんだろ? もうレックを解放してやれよ」
「1度皇帝の子として生まれた人間が今更普通の暮らしを出来るはずがないだろう。レックにも功績を残したい気持ちがあるはずだ。それにガラルドから見たら私は無機質な人間に感じるかもしれないが、少なくとも兄弟に対しては愛情があるのだ。だから私はレックが活躍できる舞台を整えてやる事にした」
ちゃんとレックと対話しろ! と俺は怒鳴りつけてやろうと思っていた。だが、目の前に広がる光景を前にして喉まで出かかっていた言葉を飲み込んでしまった。
俺が言葉を失った理由――――それはモードレッドの斜め後ろで待機していた馬車の中からレックが現れたからだ。レックはイグノーラであった時よりも少しやつれていて、目に光が宿っておらず放心している。それに加えて目の前にいる俺達を認識できていないようだ。
レックの状態は明らかに異常だ。俺が「レックに何をした!」と叫ぶと、モードレッドはレックの肩に手を置き、現状を語る。
「人間の心を持っていては大国を……いや、大陸を背負う者にはなれないからな。だからレックを為政者として使うことは諦めた。だが、レックは私にとってかわいい弟だ。故に違う方法で帝国の為に働かせることにした。さあ、レック、お前の力を見せてやりなさい」
モードレッドに命じられたレックは呻き声をあげながら体に凄まじく強い魔力を纏い始めると、顔と手に波形の光る紋章が浮かび上がった。光る紋章は少しずつ光度を強めると、しまいには鎧に覆われている部分までも光り始める。
「レ、レック……お前……」
あまりにも驚きすぎた俺は言葉を続ける事が出来なかった。全身に光る紋章を宿す生き物なんて魔獣ですら聞いたことが無い。完全に人間の枠を外れたレックを前に嫌な汗が噴き出る中、モードレッドが得意気に今のレックについて語り始める。
「どうだ? 素晴らしい魔力だろうガラルド。今のレックは帝国の技術をふんだんに詰め込んである。つまり『変化の霧』を取り込んだ究極の人間兵器だ。シンバードと戦う覚悟が持てない優しい弟は自我を奪い、私が使ってやらなければならないからな」