見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第394話】評価の撤回

 

 

「先程の攻防はガラルドの強さと粘りもさることながら、サーシャのスキルと機転が見事だった。流石はドライアドの聖女と言ったところか。まずはサーシャから潰させてもらうことにしよう」

 

 モードレッドは変化の霧を追加して興奮状態になっているはずだ。それでも冷静に戦況を分析して呟いている。まずい……このままでは物理戦に弱いサーシャが狙われてしまう。俺はレッド・ステップですぐさまサーシャの元へ行き、守りの態勢を整えた。

 

 それでもモードレッドは涼しい表情を浮かべて一直線にこちらへ向かってきていた。変化の霧の影響で更に速くなったモードレッドの突進は攻撃の矢印を俺ではなくサーシャへ向けている。

 

 俺はレッド・モードを出力全開にして何とかモードレッドの突進を防いでみせた。一撃防いだだけで両腕が折れたかと思う程の威力を感じる。

 

 ここまで強くなった相手から更にサーシャを守りつつ戦うのは厳し過ぎる……だから、どうにかレストーレを刺して変化の霧による強化状態を解除させたいところだ。だが、パワーとスピードを極限まで高めたモードレッドには一分の隙も見当たらない。

 

 サーシャに向けられた攻撃を俺が防御に専念する事でどうにかサーシャをノーダメージで守り続けているが、防御を打ち破られるのも時間の問題だ。

 

 サーシャは悲鳴をあげるかのように「サーシャの事は見捨てていいから! このままじゃガラルド君が!」と叫んでいる。だが、そんな訳にもいかない。サーシャを守りつつ、モードレッドを倒さなければ真の勝利とはいえない。

 

 モードレッドの力は凄まじいが瞬殺されるほど力の差が開いている訳ではない。敵には弱点があり、こちらには色々な攻撃手段があるのだからきっと活路は開けるはずだ。

 

 俺は体を痛めながらも必死に頭を回転させていた。すると、モードレッドは突然攻撃の手を止め、後ろへ下がり距離を取った。

 

 何か強力な魔術でも放ってくるのかと思ったがモードレッドはサーシャに目線をやると何故か鼻で笑いはじめる。

 

「フッ、私は先程そこの小娘を褒めたが撤回した方が良さそうだな。猛者が集う戦場の中で貧弱な小娘に出来る事など何もない。そうやって悲鳴をあげて守ってもらうだけの足手まといでしかないのだよ、貴様は」

 

 モードレッドが侮辱の言葉でサーシャの心を折りにきている。そうすることでサーシャの抗う意思を奪おうとしているのだろうか? どっちにしても今の言葉は聞き捨てならない、俺の心はモードレッドに対する怒りに燃えていた。

 

「汚い口を閉じろよ、モードレッド」

 

「なんだ、怒ったのか? ただ、私は事実を言っているだけだろう?」

 

「お前は何も分かってない。サーシャは俺達にとって自慢の仲間なんだよッ!」

 

 俺は拳を振りかぶりながら走り出し、モードレッドを殴ろうとした。しかし、モードレッドは口角を片方だけ上げて笑うと「冷静さを欠いたな、ガラルド!」と呟き、がら空きになっていた俺の腹部へ真っすぐ蹴りを放ってきた。

 

 モードレッドの素早い蹴りは俺の腹のど真ん中に命中する。しかし、俺の体が吹き飛ばされることはなく、大ダメージにはなっていない。それどころかモードレッドの伸びた右脚を腹で受け止めた後、左手でモードレッドの脚を掴んでいた。

 

 モードレッドは予想を裏切る展開を前に目を点にして驚愕の声をあげる。

 

「まさか、腹に魔力を?」

 

 モードレッドの言う通り、俺は攻撃と移動に使う手と足ではなく、腹部に魔力を集中させていたのだ。モードレッドの言葉に怒ってはいたが冷静さを失っていた訳ではない。

 

 むしろ怒りで冷静さを失っているフリをして大振りの攻撃を繰り出せばモードレッドは必ずガラ空きの腹を攻撃してくると踏んだのだ。

 

 俺の狙いは見事的中し、モードレッドの右脚は伸びきって態勢が固定されている。俺は左手で掴んだモードレッドの右脚を抱え込むようにして体を地面へと叩きつけた。

 

「ぐあっっ!」

 

 叩きつけられたモードレッドは衝撃の強さに呻き声をあげている、効いている証拠だ。ダメージを受け、モードレッドの態勢が整っていない今こそレストーレを当てるチャンスだ。俺は脚を掴んでいない右手を使い、鞘からレストーレを抜き、振り下ろす。

 

「こいつを喰らえ!」

 

「させるか!」

 

 俺が右手でレストーレを振り下ろすとモードレッドは掴まれていない左脚を動かし、俺の右手首を蹴り上げた。まさかの反撃と手首に走る鈍痛で堪らず俺はレストーレを手放してしまう。

 

 手放したレストーレは運悪くモードレッドの後方5メード程の位置へ弧を描きながら飛んでいてしまった。続いてモードレッドは体を捻って右脚の拘束を振りほどくと落ちているレストーレに向かって一直線に走り出す。

 

 マズい……霧の力に対抗する唯一の武器がモードレッドに奪われてしまう……。モードレッドの後を追うように走り出したものの間に合いそうにない。

 

 奪われてしまう――――最悪な状況に目を瞑りそうになったその時、突然小さくて黒い何かが現れ、高速移動でモードレッドとすれ違った。

 

「何奴ッ!」

 

 突然の事で反応が遅れたモードレッドは驚きの声をあげている。高速で駆けた黒い何かの正体は黒猫サクだった。俺たちの思考が纏まるよりも早く瞬時にレストーレを口に咥えたサクはそのまま俺の元まで駆けてレストーレを渡してくれた。

 

 少し離れた位置にいたサーシャは「ふぅ……間一髪だね」と汗を拭っている。俺の失敗を見事にカバーしてくれたサーシャに頭が上がらない。

 

 サーシャから2回も虚を突かれて呆然としているモードレッドを尻目に俺は再びサーシャを守るべく近くへ移動する。俺は背中を向けたままのモードレッドを煽る。

 

「サーシャから2回も出し抜かれてどんな気分だ? これで認識を改めなくちゃいけなくなったな」

 

「……そうだな、悔しいがガラルドの言う通りだ。サーシャの事を意識から離していたからこそガラルドの剣を奪う事が出来なかったのだからな。ガラルドが斬りつけようとしていた剣は恐らくレストーレだろう? あの危険なアーティファクトを奪い取れなかった失敗は大きい」

 

「なっ……モードレッドはあれがレストーレだと分かっていたのか? だから慌てて俺の手首を蹴り飛ばしたわけか」

 

「私が生まれるより前に叔父であるシリウスが当時の皇帝であるヨハネス軍をレストーレによって打ち破った過去は皇族なら誰でも知っているからな。当然レストーレがどのような見た目なのかも知っている。変化の霧による強化を解除されては勝率が下がってしまう。意地でもレストーレは避けさせてもらう」

 

 そう呟くとモードレッドは今いる位置から少し遠ざかって魔術を練り始めた。中距離・遠距離で戦いたいモードレッドとは逆に俺は少しでも距離を詰めて今度こそレストーレを当てなければいけないが、レストーレを奪われる事態も避けなければいけない。

 

 近づきたい気持ちと近づくのが恐い気持ちで板挟みになっていると後ろにいるサーシャが小声で話しかけてきた。

 

「聞いてガラルド君、相談したいことがあるの。実は2人が接近して戦っている間にサーシャはこっそり全知のモノクルをモードレッドに当ててみたの。そしたら不思議な情報を得ちゃって」

 

「流石はサーシャだ、抜け目がないな。で、どんな情報を得られたんだ?」

 

「それが魔力も魔量も数値がデタラメに乱高下していて正確な値が分からないの。それにスキル説明も解読したけど先天スキルのミストルティンがあるだけで能力詳細も『相手に恐怖・圧力を与え、服従させたり能力を低下させるスキル』とだけ書かれていて目新しい情報は得られなかったの」

 

 イグノーラの戦争でグラッジがザキールに全知のモノクルを当てた時も正確な数値が出ないことがあったらしいが、どういう理由だろうか? 魔人が数値を測り辛い種族なのかと考えたこともあるがモードレッドは人間だ。数値が安定しない別の理由がありそうだ。

 

 強いて共通点をあげるなら2人とも『霧の力』に触れている点ぐらいだ。だが、霧の力が測定を阻んでいるなら幼少期に合成の霧を使われていた俺の数値も正確ではなくなるはずだ。

 

 結局数値的な事は分からなかったが、不鮮明だという事が分かっただけでも収穫だ。隙を見てモノクルの光を当ててくれたサーシャに礼を言っておこう。

 

「そうか、教えてくれてありがとな。それじゃあ依然として厳しい状況って訳だな?」

 

「ううん、そんな事はないよ。むしろモードレッド自身の戦い方がシンプルだから、その点を突く打開策を思いついたの。この作戦があれば今度こそ確実にレストーレを当てられるはずだよ。その作戦はモードレッドの推察力を逆手に取った作戦でね。ガラルド君には時間を稼いで欲しいの。具体的にはサーシャにレストーレを預けてもらってガラルド君は――――」

 

 サーシャは迅速かつ分かりやすい説明で作戦の内容を伝えてくれた。俺の頭では突破口が見えなかったというのにサーシャは一瞬で活路を見出している、彼女が味方で本当によかった。

 

 俺は「やっぱりサーシャが1番賢いな、その作戦で行こう」と言葉を返した。作戦を実行するべくモードレッドの視界に映らないようにレストーレをサーシャへと渡した。

 

 そして両手に魔力を溜めて拳撃の構えた俺はモードレッドに向かって走り出す。

 

「今度こそレストーレを当てさせてもらうぜ、モードレッド!」

 

 

 

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