見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第400話】一進一退

 

 

「待たせたなモードレッド。ここからは俺との戦いに付き合ってもらうぜ」

 

 シンに向かって放たれたモードレッドの刺撃をギリギリのところで防いだ俺は再戦の始まりを告げた。

 

 シンは俺の言葉に無言で頷き、少しでもモードレッドから距離を取る為にゆっくりとしたスピードで俺の後ろ方向へ移動し始めた。一方、モードレッドは尋常ではない汗を流し、肩で呼吸をしながらも活き活きとした笑顔で剣を構える。

 

「ハァハァ……旧友シンとの戦いは奴の撤退で終わった。私は今までの人生で何度かシンと戦ったことはあるが1度も負けた事は無い。そして、中断していたガラルドとの戦いも私の勝利で終わらせるつもりだ。ハァハァ……サクリファイスソードによる負荷で死ぬことは確定しているのだ、勝利という名の手土産をあの世に持っていかせてもらうぞ!」

 

 宣言したモードレッドはレックを彷彿とさせる風の刃を繰り出し、俺は双纏(そうてん)状態のサンド・ストームで相殺させた。レッド・モードではない防御技でも魔術をかき消すぐらいは出来ている……確実にモードレッドが弱っている証拠だ。

 

 ここからは互いに1%単位の魔量調整が鍵となってくるはずだ。俺はモードレッドが繰り出し続ける風の刃をひたすら魔砂(マジックサンド)で相殺し続けた。

 

 マジックパサーによって回復できたとはいえ俺の疲労は相当なものだ。レッド・モードを解放しないのではなく解放するのが厳しい状態にまで追い込まれている。

 

 だが、決め手を見いだせないモードレッドも相当苦しいはずだ、ここからは防御を壊そうとするモードレッドと防御を維持し続けようとする俺の意地の張り合いだ。

 

「ウィンド・カッター!」

 

「サンド・ストーム!」

 

 風の刃を20発ほど防いだだろうか。業を煮やしたモードレッドは風魔術を中断し、氷の魔術に切り替えてきた。

 

 モードレッドが再び放ってきたアイス・バレットは初見の時よりも格段に威力が落ちている。それでも風の刃と比べて質量のある氷塊だ、回転運動であるサンド・ストームで防ぎ続けるのは厳しい……。

 

 氷魔術に切り替えて勝機が見えてきたモードレッドは子供の様な無邪気な笑顔で勝ちを宣言する。

 

「ハァハァ……どうしたガラルド! このまま氷塊の連弾に潰されて終わりかァッ?」

 

 国と国の戦いであることを忘れているとしか思えない声色でモードレッドが追い詰めてきている。だが、奴の言う通りこのままではジリ貧だ。もはや双纏(そうてん)状態すら維持するのが厳しくなってきている以上、出力をあげて対抗する事はできない。

 

 だとしたら魔術の属性を切り替えて攻めてきたモードレッドの様に俺も工夫をこなさなければいけない……。俺はサンド・ストームの回転量を少しだけ弱める代わりに砂に高熱を込め始めた。

 

「だったら回転より熱量に比重をおいて氷塊を溶かしてやる……レッド・ストーム!」

 

 いつもより遥かに回転数が低く、高熱を纏った暴風が俺の周囲を旋回する。氷塊は1つ1つが小さいからサイズの割に熱に接する面が大きい。結果、暴風の中心にいる俺へ到達する少し前に蒸気となって消えていった。

 

 狙いを潰されたモードレッドは驚いた表情を見せたものの直ぐに切り替え、今度は接近戦を仕掛けにこちらへ走ってきた。

 

「ならば、剣を絡めた戦法で決めるしかあるまい!」

 

「ああ、かかって来いよ、モードレッド!」

 

 モードレッドは今まで使っていた剣を右手に持つと、今度は左手にサクリファイスソードを持ち、手数重視の二刀流で斬りかかってきた。慌てて棍でサクリファイスソードの振り下ろしをガードすると持ち手に重たい金属の衝撃が響き渡る。

 

 どうやらモードレッドの持つサクリファイスソードは仲間から魔力を吸うだけではなく物理的に武器としての機能も果たせるようだ。俺の棍による防御は間に合わなくなり、肩と脛にモードレッドの重たい攻撃を貰ってしまう。

 

「うぐっ!」

 

「どうしたガラルド! 砂でも拳でも何でも使って防御したらどうだ? 魔量が残っていればの話だがな!」

 

 モードレッドの言う通り回転砂を手足に纏い防御するべきだろうか? それともサンド・ステップで距離を取り続けるべきだろうか? どっちにしても魔力を使う事になるうえ、後者は逃げ切れる保証もない。

 

 消耗の激しい回転砂を使う戦法では絶対に魔量が底を尽きてしまう……どうすればこの状況を切り抜けることができるのか。今までの戦いの記憶から導き出した答え――――それは俺自身まだ完璧には使いこなせていない技に頼る戦術だった。

 

 俺は触覚と聴覚に意識を割き、周囲に極小の魔砂(マジックサンド)をばら撒き、両方の拳を構えてモードレッドに聞こえないように呟く。

 

「フィル……お前との戦いを力に代えさせてもらう。魔砂(マジックサンド)……感知の型!」

 

 俺はフィルとの2回目の戦いのときにみせた『周囲に魔砂(マジックサンド)を浮かせて、敵の動き出しを素早く感知する技』を繰り出した。技の詳細を知らないモードレッドは周囲に漂う薄い魔力に違和感を覚えたらしく険しい声で俺に尋ねる。

 

「微弱な魔砂(マジックサンド)の包囲に拳戦(けんせん)の構えか。それに聞き取れないほど小さな声で何かを呟いていたな。何をするつもりだ、ガラルド?」

 

「さあな? 戦ってみれば分かるかもしれないぜ?」

 

「フッ、どのみち攻撃を仕掛けなければガラルドを殺す事はできないのだ、考えるだけ無駄だな。今は少しでも早くガラルドを倒し、シンを葬らねばならないからな。もっともシンの様子を見る限り、単独で逃げる気力は既に失っているようだがな」

 

 横目で語るモードレッドに釣られてシンの方を見てみると、もはや立つことも出来ず座り込んでいた。これはつまり俺が死んだ瞬間にシンの死も確定するということだ。

 

 もうとっくにシンは限界だったのだ……これで俺は益々負けられなくなった。絶対にレストーレを当てるか、モードレッドが動けなくなるまで時間を稼がなければ。

 

 双剣を構えるモードレッドと俺の間に数秒ながら永遠に感じる程の沈黙が流れている。お互いに体力が少なく一撃が大事になってくる状況だ。究極の集中力による間合いの探り合いが続き、最初に動いたのはモードレッドだった。

 

 モードレッドはシンプルながら最短距離で2本の剣による同時突きを繰り出した。だが、今の俺には張り巡らされた魔砂(マジックサンド)による最速感知がある。

 

 モードレッドの動き出しを読み、体を瞬時に半身へ構えた俺は2つの刺突を皮1枚の距離で躱し、モードレッドの鼻に正拳を撃ち込む。

 

「うごあぁっ!」

 

 モードレッドらしくない濁った呻き声が響き。奴の鼻と口からは血が流れている。姿勢を崩されながらもモードレッドは脇を締め、双剣を内側へ切り込んだが、その動きすら感知の型で読み切った俺は瞬時に屈むことで双剣は虚しく空を切る。

 

 双剣の刺突も斬撃も避けて大きく隙を作ったモードレッドに俺は連続で拳撃を繰り出した。顔、肩、胸、腹に打撃を貰い焦ったモードレッドは大きく後ろへ跳んで攻防のリセットを図った。

 

 反応速度でこれだけアドバンテージを取れているならレストーレを当てることも出来そうだ。俺が背負っているレストーレに意識を向けていると、モードレッドは地面に血の混じった唾を吐いてこちらを睨み、確信を持った言い方で問いかける。

 

「浮かせた砂で私の動き出しを読んだのだろう? ガラルドは戦いを終えるごとに強くなっていると噂で聞いたことがあるが、どうやら戦いの最中にも強くなっているみたいだな。全く底が知れん男だ」

 

「そんな俺を含むシンバード組を1人で相手にしているお前が言うと嫌味にしか聞こえないけどな。いや、今もサクリファイスソードの影響で着々と死に向かっているモードレッドが嫌味なんて言うはずがないか」

 

「ああ、心の底から褒めているぞ。ガラルドとは違った出会い方をしていればずっとお互いを高め合って……いや、話している時間すら惜しい。動きが読まれるなら読まれるなりの戦い方をさせてもらおう」

 

 少し寂しげに呟くとモードレッドは再び風属性の魔力を溜め始めた。さっきみたいに風の刃を飛ばしてきたところで今の俺なら避ける事は出来る。モードレッドなら意味が無いと分かっているはずだ。

 

 それでも風魔術を放つということは別の狙いがあるはずだ。出方を最大限警戒しているとモードレッドは両手を横に広げて俺達を囲むように竜巻を発生させる。

 

「ウィンド・プリズン!」

 

 牢獄という名に相応しい直径10メード程の竜巻が俺達を囲むと、竜巻は少しずつ直径を狭め始めた。奴の狙いは恐らく逃げ場のない空間を作りだし、確実に俺へ攻撃を当てるつもりなのだろう。サンド・ストームの檻を作った俺と同じような戦術を使ってくるとは思わなかった。

 

 だが、例え前後左右への移動が制限されたとしても、その場でモードレッドの攻撃を防御・回避するぐらいはできるだろう、だから決め手には欠けているように思えるが……ここにきてモードレッドが下手を打つとは思えない、警戒を高めておこう。

 

 モードレッドは消耗の激しい魔術で一層息を切らしながら「これで……準備は整った……」と呟き薄く笑みを浮かべると俺に向かって双剣を振り下ろしてきた。俺は右斜め上と左斜め上から降りてくる剣を防ぐため、感知の型による素早い反射でモードレッドの両手首を殴った。

 

 俺の狙い通りモードレッドは手首への衝撃で両方の剣を手放した……だが、それこそがモードレッドの狙いだった。モードレッドは剣を手放した両手をそのまま強引に前に突き出し、俺の両肩を掴んできたのだ。

 

 死に掛けの人間とは思えない強力な握力は振り払っても離してくれそうにない。俺の肩を左右から締め付けるように抑え込むモードレッドの両腕は結果的に自身の両手を使えなくする代わりに俺の物理攻撃と移動を封じたのだ。これでは感知の型によるカウンターや回避も成立しない。

 

 俺が危機的状況に唇を噛みしめているとモードレッドはニヤリと笑って勝利を宣言する。

 

「ちょこまかと動く獲物は1度掴んで動きを封じてやればいいのだよ……これで終わりだなガラルド!」

 

「ぐっ……だが、両手を封じられて動けないのはお前も一緒だろ、モードレッド!」

 

「両手は確かに使えないな。だが、ガラルドの方が不利だろう? 回転砂は拳や棍撃に纏うか、回転を活かす為にある程度距離が無いと意味がないだろう? それにお前は魔術がほとんど使えないはずだ。それに対し私は手を封じられていても魔術を発動する事は出来る。この状況は私だけに都合がよいのだよ!」

 

 そう呟くとモードレッドは竜巻を解除し、代わりに背後から氷塊を複数作り出した。そして、氷塊を俺の頭上まで移動させると狙いを定めて俺に撃ち込む。

 

「うぐぁぁっ!」

 

 身動きの取れない俺に氷塊の雨が容赦なく降り注ぐ。腕を掴みながら魔術を放つというシンプルな戦法がまさかここまで驚異的だとは思わなかった。それにモードレッドがここまで泥臭い戦い方をしてくるとも思わなかった。

 

 今のモードレッドからは初めて会った時の高貴さと貫禄は微塵も感じられない。只々がむしゃらに獣の如く貪欲に敵を倒そうとする姿があった。

 

 今のモードレッドは一戦士である俺とほとんど相違はない……だったら俺も泥臭い喧嘩を見せてやる。

 

 俺は氷塊の雨によって血だらけになった顔に笑みを浮かべ、勝ちを確信したモードレッドに逆転を宣言する。

 

「なぁ、モードレッド。剣、魔術、拳、スキルを使わせなければ勝てると思ってないか? だとしたらお前は喧嘩を分かってねぇ、絶対に俺が勝つぜ?」

 

「何を今さら負け惜しみを……ガラルドの死は確定だ! そして、お前を殺し、すぐにシンも葬る! でたらめを言うな!」

 

「だったら見せてやるよ、俺の足掻きをなッ!」

 

 俺はモードレッドに両肩を掴まれたまま、首を大きく後ろに反って頭を後ろに動かした。そのまま首を反って出来た反動を利用し、モードレッドの顔面目掛けて思いっ切り頭突きをかます。

 

「ガハァッ!」

 

 俺の額に激痛が走ると共にモードレッドの返り血が付着する。だが、モードレッドは呻き声をあげ、鼻と口から血を流しながらも両手を離さなかった。

 

「ぐふっ……この野生児め……だが、先にくたばるのは氷塊を受けるお前の方だ! 絶対にこの手は離さんぞ!」

 

「上等だ! 何発でも耐えて、何発でも頭突きを喰らわしてやるぜ!」

 

 そこからはもう見るに堪えない子供の喧嘩以下の戦いになっていた。石頭の俺がひたすら頭突きを繰り返し、モードレッドは氷塊を降らし続けて俺の上半身を執拗に攻撃し続ける。俺達の足元には血だまりができ、お互いの動きは段々と単調になりキレも無くなっていた。

 

 

 

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