見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
モードレッドに両腕を掴まれたことで俺は拳撃を封じられた。モードレッドが上から氷塊を降らす魔術で攻撃してくる一方、俺は腕が動かせない状況で放てる唯一の攻撃手段『頭突き』を繰り返していた。
10発、20発と交互に攻撃を繰り返し、視界すら血で染まりかけてきた頃、モードレッドは肩を掴んでいた両手を手前側に引き寄せて「殴り合いはガラルドの専売特許ではない!」と叫び、俺の横腹に膝蹴りを放ってきた。
「ぐあぁッ!」
初めて喰らうモードレッドの荒々しい膝蹴りで肋骨が折れて血を吐き出し、一瞬意識が飛びかけた。だが、膝蹴りが放てるぐらいに体を寄せたということは俺も蹴りが当たる距離にいるという事だ。
俺はお返しと言わんばかりにモードレッドの腹に膝蹴りを繰り出す。モードレッドは衝撃と痛みで大きく仰け反り、遂に俺の両肩から手を離す。
「グハッ! し、しまった……だが、諦めてなるものか!」
不屈の闘志を目に宿したモードレッドは俺がとっくの昔に感知の型を解除していたことに気が付いたのか、双剣を構えた。
モードレッドの残り体力と魔量がどのくらいかは分からないが、少なくともダメージだけは相当蓄積しているはずだ。俺自身、次に強力な攻撃を放てばもう動けなくなるのは分かっている……だから次の攻撃がモードレッドを倒す最後のチャンスだ。
モードレッドの構えに呼応するように俺は
間合いを探り合っている間にも俺の魔量は
「これで終わりだ! モードレッド!」
「来い! お前の渾身の一撃、我が剣術で受け止めてやる!」
モードレッドは双剣で1度、
俺はサンド・ステップで加速した体を勢いよく捩じり、
「喰らえ!
「弾け!
時間にして瞬きよりも短い時間ではあるが、俺はモードレッドの放った防御技・
結果、俺は剣を持つ両腕を真上に弾かれ、
きっとモードレッドは
いや、もはや攻撃と言うのも間違っているのかもしれない……何故なら次に俺が取る行動は胸元がガラ空きになったモードレッドにレストーレを振り下ろす事だからだ。
俺は遂に訪れたモードレッドの大きな隙を目掛けて、レストーレで刺撃を放つ。
「終わりだぁぁっ!」
レストーレの刀身がモードレッドの左肩を貫いた。ジャッジメント同様殺傷力こそないものの、刺された瞬間にモードレッドは膝を着き、体を激しく発光させながら呻き始める。
「ウガアアアァァァッッ!」
獣の様な叫び声をあげたモードレッドは肉体の制御を失い、のたうち回っている。吸収の霧による強化をいきなり失う事はそれだけ反動が大きいのだろうか? 変化の霧による強化をレストーレで解除した時にはここまでの状態になっていなかっただけに心配だ。
のたうち回っているモードレッドが心配で近寄ろうとすると誰かが俺の肩を掴んで制止させた。後ろへ振り向くとそこには首を横に振るシンの姿があった。シンは膝を震わせながら立っているのがやっとの状態で呟く。
「もうモードレッドは終わりだ。君がレストーレを刺しても長期戦に持ち込んでもサクリファイスソードで大量の魔力を吸いこんでしまえば奴の言う通り生きてはいられないはずだ。だから俺達に出来る事はもう何もないのだよ」
「だ、だけど、まだモードレッドは生きているんだ、やれるだけの事はやっ――――」
「や……や、やめろガラルド……お前はどこまで甘いんだ……私の体のことは私が1番……分かっている……」
俺の言葉を遮るようにモードレッドが体を震わせながら声を掛けてきた。
「レ、レストーレはサクリファイスソードによる強化を引き剥がしたに過ぎない……故に肉体への反動を消した訳ではない。興奮状態によって感じなくなっていた痛覚が蘇っただけなのだ。どうだガラルド? 憎い敵を止め、苦しむ姿を見られた気分は?」
「憎い相手でも苦しんでる姿を見るのは辛いさ……」
「ガラルドならそう言うと思っていたぞ。だがな、戦いとは罪悪感と屍を乗り越え、散っていった者達の魂を背負うものだ。だから、治そうだなんて甘い考えは捨て――――」
「うるさい! 黙ってろ! 俺が絶対に元に戻してやる!」
モードレッドの言葉を遮った俺は再びレストーレを握り、刀身に付けていた薬草を拭き取って何度も何度もモードレッドの体を刺した。もしかしたら重ねて刺すことで肉体を蝕んでいる反動とやらを消せるかもしれないと考えたからだ。
しかし、俺の浅はかな考えはモードレッドの吐血によって否定される結果となってしまう。モードレッドは青白い顔に似つかわしくない満足気な表情で空を眺めながら自身の想いを語り始める。
「私は絶対に勝つつもりで戦争に赴いていた。だが万が一にでも負けるならシンやガラルドと戦って負けたかった。それが帝国の為だけに働いてきた私の数少ない我儘だ。無念を抱えて死ぬのではなく、どこか晴れやかな気持ちであの世へいけそうだ」
モードレッドの呟きを聞いたシンは憎き敵の死を見つめる表情はしておらず、かといって友の死を見つめる表情もしていない。どこか複雑で形容しがたい表情を浮かべている。悲しそうにも寂しそうにも見えるし、覚悟を決めた表情にも見える……。2人の間に流れる空気が稀有な関係性を感じさせる。
気が付けばシンはモードレッドの手を握っていて優しい声色で尋ねていた。
「モードレッド、残された者に伝えたい言葉があれば俺が伝えておくぞ? お前の事は嫌いだが腐れ縁だからな、それぐらいはサービスしてやる」
「……フンッ、そんなものはない。言葉を残さなければいけないほど頼りない者は我が帝国に1人もいないからな。私が死んでもレックがシンバードを滅ぼし、次の皇帝が帝国の世を作るだろう」
「……そうか」
「……だが、私が帝国人ではなく帝国そのものに伝えたい言葉ならある」
「帝国そのものに伝えたい言葉? なんだそれは?」
「私は1000年の歴史を持つリングウォルド家の継承者として最後まで責務を全うしつづけた。非情と罵られようとも親族から恨まれようとも皇帝モードレッドの生き様を貫いたのだ……私は帝国の戦士であり続けた……だから皇帝モードレッドの歩みに微塵の後悔も無い。もう祖国へ帰ることはできないからな。この言葉を私が散ってゆく、シンバードの大地へ置いていく」
「置いていく……か。お堅いモードレッドらしい言葉だな。だが、俺は今聞いた言葉を自分の胸の中だけにとどめておくつもりはない、お前の大切な仲間達に伝えさせてもらう。それが腐れ縁のよしみ……いや、大陸の頂きを争った好敵手としての敬意だ」
「余計な事を……いや、もう肩肘を張るのはやめて素直に礼を言わせてもらおう。ありがとう……シン。言いたい事を言えたから……これでもう……眠る事ができる……もし、魂の……輪廻があるならば……またお前の好敵手となり……あいつらの兄として生まれ……今度は平凡な……」
モードレッドは言葉を最後まで言い切ることなく瞼を閉じた。シンが握っていたモードレッドの手は握り返す力を失い、稲穂のようにゆっくりと垂れて地面に触れる。今、この瞬間にモードレッドの魂は旅立ったのだ。
モードレッド自身が『後悔はない』と言っていたのだからきっと本心だと思う。だが、それでも奴は最後の最後に『来世と兄弟』について言及していた。きっと責務を抜きにした普通の人間として生きたい願望もあったのだと思う。
モードレッドの最後を見届けたシンは気持ちを切り替える為に自分で自分の頬を叩いた。無理やり作った笑顔をこちらに向けて声を掛けてきた。
「さあ、これで帝国の要とも言える4兄弟を3人も止める事ができたわけだ。後は倒れているリリス君達を安全な場所まで運んで体力を回復しよう。そして回復次第、今も離れた場所で戦っているグラッジ君とレック君の元へ加勢に向かうとしよう」
モードレッドと旧知の仲であるシンが毅然とした態度を貫いているのだから俺だってしっかりしなければ。俺は戦いで疲れ切った両足を引きずるように前へと動かし、シンと共に倒れているリリス達の元へと向かう。