見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
モードレッドの死を見届けた俺とシンは戦闘不能になってしまったリリス、サーシャの元へと歩いていった。パープルズには申し訳ないがリリスとサーシャの方が重傷だから先に治療させてもらう事にした。
恐らくリリスもサーシャも1撃で骨を折られており、肋骨を折られたサーシャのダメージは内臓にまで達している可能性もある。
まずはサーシャの体の中が無事かどうかを正確に把握しておく必要がある。俺はアクアの毒を治療した時と同じ要領で極小の
自分なりの診断の結果、肋骨は折れているようだが内臓を大きく損傷する程のダメージではなさそうだ。1番ダメージが重いサーシャが無事ならリリスもパープルズも大丈夫だろう、シンに伝えておこう。
「聞いてくれシン、どうやらサーシャの怪我は問題なさそうだ。後はサーシャ達を安全な場所に運び終わり次第、俺とシンでグラッジの加勢に…………!?」
言葉を発している途中、何故か俺は声が出なくなってしまった。それどころか視界も聴覚も平衡感覚も急激に曖昧になってきて膝をついてしまった。目の前にいるであろうボヤけたシルエットのシンが何か叫んでいるが水の中にいるような籠った声で聞きとり辛い。
死の山でザキールと戦った後と同じ感覚だ。意識を失う確信を得た俺は暗くなる視界に為すすべくなく意識を失った。
※
「――――つまりグラッジ君とレックさんは陥没に飲み込まれたってこと?」
不思議な内容の会話が聞こえてくる……糊が付いているのかと思うぐらいに重たい瞼が視界を塞ぐ中、俺の耳にサーシャと思わしき声が聞こえてきた。少しずつクリアになっていく意識と視界が認知したのはシン、リリス、サーシャ、そしてドライアドの農作業着を着た老年の男性だった。
何故ドライアドの人間が俺達と一緒にいるのか分からない。困惑した俺は更に周りを見渡すと、自分の寝ている場所はベッド4台ほどのスペースしかなく、床は木製で壁と天井は布で覆われているようだ。高さも立ち上がれば頭をぶつけそうな程に低い。
「ここはどこだ?」と擦れた声で呟くと、目を一際大きく開いたリリスが涙目で俺の手を握る。
「よかった……ガラルドさん、目を覚ましたのですね。ここはドライアドの方に乗せてもらっている馬車の中で今は街道沿いを歩いています。ガラルドさんは30分ほど眠っていたのですよ?」
「そうだったのか、つまり満身創痍だった俺達をそこの人が拾ってくれたって事だな? ありがとうございました、ご老人」
俺が礼をすると老人は無言で笑顔を返してくれた。拾ってもらえた事は非常にありがたいが戦場真っ只中である街道沿いをただの老人が馬車で通れるものだろうか? 気になった俺はリリスに状況を尋ねることにした。
「しかし、よく馬車が帝国兵に襲われなかったものだな。一体、今はどういう状況になっているんだ、リリス?」
「実は私達の乗っている馬車と並走する形で他の馬車も走っているのです。別の馬車にはパープルズも乗っていまして皆ドライアドの人達に助けられたのです。ドライアドの馬車が襲われなかった理由ですが、帝国第4部隊の働きかけにより『ドライアドから出発する馬車を襲わない』ように指令が出ていたみたいです。もちろん戦争中なので馬車は出発前に人や物資を運びだそうとしていないか事前にチェックされていたようですが」
「なるほど、帝国に属する組織とはいえレックの息がかかっているから可能な範囲でシンバード側に協力してくれているんだな。だが、馬車が襲われない理由は分かったけど、モードレッドと戦って倒れていた俺達がよく第4部隊以外の帝国兵に襲われなかったものだな。一般兵でも俺達を殺せる最大のチャンスだったわけだろ?」
「モードレッドの近くにいた兵士達はサクリファイスソードによる魔力吸収で命を落としましたからね。それに魔力吸収されなかった兵士達も高次元の戦いによる巻き添えを避けるためにモードレッドが事前に離れさせていましたからね。モードレッド亡き後、彼の出していた指示は色々と不利に働いたようですね」
「俺達はつくづく運が良かったようだな。それじゃあ、もう1つ質問させてくれ。俺が目を覚ました瞬間にレックとグラッジが『陥没に飲み込まれた』とか言っていたが一体どういうことだ?」
俺が尋ねると今度はサーシャが手を挙げて説明を始める。
「……落ち着いて聞いてね。実はサーシャ達がモードレッドさんと戦っている間にグラッジ君とレックさんはかなり離れた場所で戦っていたの。正確な場所を言えば2キード以上離れた真北の丘の向こう側でね。だからサーシャ達は向こう側の状況が分からなかったけど相当激しい戦闘があったみたいで、その衝撃で緩んでいた地盤が崩落しちゃったらしいの」
「ここら辺は
「それはサーシャにも分からないの。だからサーシャ達は馬車に拾ってもらって治癒魔術をかけてもらった後、グラッジ君達の元へ向かっているの。1度離れちゃったうえに人を沢山乗せた馬車による移動だから到着までに時間が掛かっちゃったけど、後1、2分で崩落したポイントに着くはずだよ」
「そうか、じゃあ馬車から顔を出して崩落したポイントを見てみるか」
俺は仰向けの姿勢から中腰で立ち上がり、布を捲って御者の後ろから顔を出した。すると数百メード先の地面に大きな穴が空いていた。
直径にして50メードほどだから規模的にそこまで高い落下じゃないとは思うが心配だ。大事な友が戦いの果てに2人とも落下死……なんて結末は御免だ。
モードレッドとの戦いが始まったタイミングでグラッジとレックの戦いも始まった訳だから、もう決着がついていてもおかしくない。同様に今も崩落した穴の中にいる保証もない……だが、万が一、戦いになってもいいように俺も準備を整えておくことにしよう。
とはいえモードレッドとあれだけの死闘を繰り広げた俺に加勢できるだけの力が残っているだろうか? 俺は自分の残り体力と魔量に意識を集中させた。すると、俺は自分の体の変化に驚かされた。
俺の体の傷が半分近く治っているうえに魔量も30%程度回復しているのだ。半時間ほど寝ただけでこれだけ回復するとは思えない。だが、今思い返すと仰向けから起き上がる瞬間もかなり楽だった記憶がある。
俺はもしやと思い後ろを振り返ると馬車の中のリリスとサーシャは相当疲弊した表情を浮かべていた。さっきは馬車の中が暗くて分からなかったが、俺が外を見ようと馬車の布を捲り、光が差し込んだことによって2人の表情が詳細に分かったのだ。
「もしかしてリリスとサーシャは俺が寝ている間ずっと傷の回復とアクセラを施してくれていたのか?」
俺が問いかけると2人は疲労と達成感が混ざった満足気な笑顔を浮かべて頷く。それからリリスが俺の手を握り、感情のこもった声で想いを託す。
「魔人を超えるレベルで戦うガラルドさん、グラッジさん、レックさんはパワーとスピードが別次元です。ですから私やサーシャちゃんでは横に並んで戦えません。だから私とサーシャちゃんはやれることを精一杯やらせてもらいました。今もモードレッドさんにやられた傷は痛みますけど、泣き言は言っていられません。私達が与えたバトンで必ずグラッジさんとレックさんを救ってください」
俺に言葉を伝えると、全てを出し切ったと言わんばかりにリリスとサーシャは座った姿勢からうつ伏せに倒れてしまった。
リリスもサーシャもパープルズも生命力と気持ちを俺に託してくれている、だから俺も精一杯踏ん張らねば……レックを止めた先に帝国への完全勝利が待っているのだから。