見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「分かりました。僕らが大穴に落ちた後、何があったか全てをお話しします。レックさんの視界に入ってしまう前にひとまず向こうの岩陰に隠れましょう」
俺は戦いにきた者とは思えない忍び足で指定された岩陰に身を隠す。グラッジは背負ってもらっていた兵士の背中から降りて地べたに座り込むと、これまでにあったことを話し始めた。
「僕はガラルドさん達から距離を取ってレックさんと戦っていましたが、正直、攻撃を防ぐのが精一杯で力の差は歴然でした。それに加えて兵器を持った帝国兵達に囲まれて第4部隊の面々も守らなければいけなくなりましたからね。仕方なく僕は地面を崩落させて、逃げるように大穴に落ちる形でレックさんと帝国部隊を分断しました」
「分かってはいたが、やはりレックのパワーは相当なものだな。よく30分以上死なずにいられたもんだな」
「それは大穴に落ちて以降ずっと運がよかっただけなんです。というのも大穴に落ちてから暫くの間レックさんと1対1で戦っていた僕はある事に気付いたんです……それは変化の霧の力が時間経過と共に弱まっているというものでした。変化の霧はサクリファイスソード程ではないですが、肉体への負荷も強く、万能ではなかったみたいです。結局、人体という枠がある限り魔量や膂力にも天井がありますからね」
「モードレッドも最後には燃え尽きていったからな、納得できるな」
「だから僕は長期戦にさえ持ち込めば勝てると考えました。幸い大穴に隔離は出来ていますから暴走状態のまま時間さえ経過させればいいと考えた僕は第4部隊の人達と共に散り散りに逃げました。結果的にはレックさんは僕だけを追いかけてきて落下地点から大きく離れる事になりましたけどね」
ようやく落下地点から皆が離れていた理由が分かった。レックは刻一刻と変わる状況の中で防衛・隔離・持久戦と次々に策を練りながら戦っていたわけだ。仲間ながら感心させられるばかりだ。
だが、未だに分からないのが第4部隊の兵士達が無傷でいる理由だ。俺は「第4部隊の面々はどうして無傷のままレックを追い詰められているんだ?」と尋ねると、グラッジは悔しそうな顔で理由を語り出す。
「実はレックさんから逃げ続けていた僕は今いる場所で追いつかれてしまい、何度も攻撃されて殺されそうになったんです。その時に第4部隊の兵士の1人が僕を助ける為に背後からレックさんを斬りつけたんです。圧倒的な力の差がありますから当然レックさんにダメージは通らず、後ろを振り返ったレックさんが兵士を殺してしまうと誰もが思ったはずです。ですが、そうはなりませんでした」
「もしかしてレックは兵士を攻撃しなかったのか?」
「……その通りです。レックさんは激しい頭痛に襲われながらも兵士を攻撃しませんでした。それどころか自分から離れろと言わんばかりに兵士を投げ飛ばしたんです。それを見た兵士達は僕を運んでレックさんから遠ざけると全員でレックさんを囲みました。そこからは大人数で少しずつダメージを与えながら僕を守ろうとする兵士達と不殺を貫くレックさんの対立図になったわけです」
グラッジの説明を聞いた今なら異様な光景にも納得ができる。今の兵士達は剣でレックを斬ることよりも盾や大盾を使ってとにかく圧力をかけてグラッジを守る事に専念しているのが分かる。
きっと俺に情報を伝えてくれた兵士も最初は時間稼ぎに励んでいて途中から外に助けを求めに行こうとしたのだろう。
このまま俺とグラッジが身を隠し続け、兵士達が時間を稼いでくれればレックは戦う体力と魔量を失うだろう。動けなくなったところにレストーレを刺せば変化の霧を解除できる可能性は充分にある。
だが、僅かに残った記憶で何とか破壊衝動を抑えている今のレックでは数分後に兵士に攻撃を加える可能性も考えられる。
今のレックの攻撃を普通の兵士が受けてしまったら確実に死んでしまうだろう。ここは兵士達を守る意味でも休ませる意味でも俺が出ていった方が良さそうだ。
疲れているとはいえ今のレックと戦って無事でいられる自信は全くないし、そもそも俺だって怪我もしていて魔量も減っている……だが、それでもやるしかない! 俺は体に魔力を纏いつつ恐る恐る岩陰から顔を出してレックの様子を確認する事にした。
すると、レックはさっきよりも更に苦しそうな表情でもがいていた。兵士達を投げる動きも段々と荒々しくなっている気がする。
「ウグググゥゥ……ガアァァッッ!」
レックはもはや人間とは思えない叫びをあげている。その後もレックは腕と頭を何度も岩に打ちつけて涙を流していた。もう僅かに残った理性では破壊衝動に抗うのも限界がきているようだ。
仲間想いのレックがこれ以上苦しむのを見ていられない……俺は囲んでいる兵士を飛び越えるとレックの前に降り立つ。
「俺を見ろレック! イグノーラで一緒に戦ったガラルドだ! 俺もグラッジも兵士達もレックの敵じゃない……戦わなくていいんだ。思い出してくれ!」
「ううぅぅ……ぐるるぅぅ……」
俺を見るレックの目に宿っているのは殺意だけでは無さそうだ。自分の記憶と向き合って思い出そうとしているように見える。どうやら近くにいた時間が1番長い俺の方がグラッジや兵士達より抑止力があるようだ。
このまま大人しくなっているレックにレストーレを刺すのがよさそうだ。俺は笑顔で両手を広げ、無害だとアピールしながらゆっくりとレックへ近づいた。
レックは野生動物のように俺を警戒しながら敵か味方か探りを入れている様に見える。激しい頭痛が収まり、大人しくなっている今こそチャンスだ! 俺は射程範囲に入った瞬間に素早くレストーレを突き出した。
しかし、俺の刺撃はレックの体には刺さらなかった。まだ目の前にいる俺を信じ切れていないレックは目にも止まらぬ速さの蹴りを俺の手首に放ち、レストーレを遠くへ弾いてしまったのだ。
突然のことで反応が遅れた俺は続けてレックが手を伸ばしてきていることに気が付かず、反応が遅れてしまう。
結果、俺の首はレックの右手に掴まれてしまい、そのまま体ごと上へと持ち上げられてしまう。首を絞められている俺は両手を使ってレックの右手を引き剥がそうとしたが力が強すぎて全然ほどける気配がない。
首を絞められる痛みと息が出来ない苦しさで気が狂いそうになっているとレックは動物のように唸りながら、首を絞めている側とは思えない言葉を口にする。
「ううぅぅぐぅっ……に、逃げろ……ガラルド……」