見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第407話】懐かしい技

 

 

「肉体と魔力の暴走はだけは程度抑えることが出来た。だが変化の霧は心の奥底に閉じ込めていた感情をこじ開けてきた……それはガラルドに対するライバル心……いや、嫉妬の心だ」

 

 獣の様な挙動こそ収まったものの、俺への敵意を抱き続けているレックが内に秘めていた感情を吐露した。レックはあれだけ暴走していても第4部隊の面々には傷1つつけていない。状況から察するに変化の霧は深層心理に作用する性質があるのではないだろうか?

 

 レックが暴走を抑えて、まともに言葉を喋れるようになってからも俺に刃を向け続けている事実が辛い……。ライバル心や嫉妬心とは言っているものの本当は今でも俺の事が嫌いなのでは? と不安になってくる。俺は正直な気持ちを答えて欲しいとレックへ伝える。

 

「変化の霧が心の奥底にある感情をトリガーにしている事は分かった。レックが第4部隊の部下達を心から大切にしていることがな。同時に心底モードレッドに怯えているからこそあっけなくミストルティンの命令に操られたっていう因果関係も分かった。今のレックならきっと正直に答えてくれると思うから教えて欲しい。今もレックは俺の事が憎いか?」

 

「……俺が偏った教育を受けてきたことは知っているな? 家柄や生まれの地で人間を判断し、差別してきたクズ野郎だ。だから昔はガラルドの事を見下していた。だが、憎いと思ったことは1度もない! むしろ、ガラルドが有名になるにつれて尊敬の念を抱き始めた……だが、それと同時に醜い嫉妬心も湧き始めた……」

 

「俺だって誰かに嫉妬することぐらいはあるさ。レックに対しての恨みだって100%消せたわけでもなく今もネチネチと思い出してしまうことがある。人間なんてそんなもんだ。だから俺と白黒つけたいなら戦争が終わった後にいくらでも相手になる、今だけは俺に向けている刃をしまってくれ」

 

「変化の霧に浸食されていなければ刃を降ろせていたかもしれないな……いや、それも俺が変化の霧を言い訳にしているだけか……。もう俺はガラルドを倒す事しか考えられなくなっている。だから……だから……死にたくなければ俺を殺してくれ!」

 

 レックは目をカッと見開くと無詠唱で風の刃を飛ばしてきた。風の刃は無詠唱とは思えない程の威力をほこり、辛うじて避けられたものの後ろにある大岩がナイフでゼリーを切るかのように軽々と分断してみせた。

 

 あんなものを直接喰らったら堪ったもんじゃない。だが、風の刃は質量自体は0に近いから回転砂を受け流すように展開すれば大丈夫なはずだ。俺は前後に長い楕円型のサンド・ストームを発動して風の刃を受け流した。

 

 回転砂による防御を見たレックは薄っすら笑みを浮かべると斜め上を見つめて楽しそうに呟く。

 

「今、ガラルドが発動した楕円型のサンド・ストームに見覚えがあるな。確かヘカトンケイル領の神託の森でハイオークの攻撃を受け流した技だったよな? 記憶が曖昧なのは、あの時の俺が意識をまともに保てていなかったからかもしれないな」

 

「そうか、あの時のお前は辛うじて意識があったんだな。随分と懐かしい話をするじゃないか、レックの放った風の刃もヘカトンケイルの街でオーガに撃ったウインドカッターだろ? 奇しくも懐かしい技の撃ち合いになったわけだ」

 

「ガラルドもよく覚えているじゃないか。それならこの技は覚えているか? 覚えていたら過去との練度の違いに驚くことだろう。いくぞ……バック・ガスト!」

 

 レックは技を叫ぶと自身の背後から爆風を発生させ、氷剣を構えたまま凄まじいスピードで突きを放つ。バック・ガストはドライアドで模擬試合をした時に使った技だ。

 

 直線的な軌道だから横に避けるのがベストだと思う。だが、危機的状況だというのに正面から立ち向かいたくなってしまった俺は気が付けば棍で突撃を受け止めていた。そのままレッド・モードのパワーで押し返すべく手足へ力を入れる。

 

 氷剣と棍の衝突は鼓膜が破れそうな程の衝撃音を発生させた……が、俺もレックもその場から1歩も動かず、均等の力で押し合いが続く。

 

 魔量が全快ではない俺と互角の力で押し合っていることからもレックが相当疲労していることが分かる。そうじゃないととてもじゃないが変化の霧を内包したレックと押し合えるはずがない。

 

 俺達は歯を食いしばりながら棍と氷剣を押し続けた。膠着状態が30秒以上続いたところでレックは再び心情を語り始める。

 

「くっ……やはりガラルドは強いな。気を抜いたら氷剣を弾かれてしまいそうだ。努力と気持ちだけでどんどんと強くなるガラルドを見ているうちに俺は“越えたい”という気持ちが抑えきれなくなった。それにガラルドが強さは腕っぷしだけじゃなかった。英雄と称されるまでの義侠心(ぎきょうしん)は俺にとってあまりにも眩しかった」

 

「レックだって死を覚悟して俺達を……イグノーラを助けようとしてくれたじゃないか。お前と俺に大した違いなんてねぇよ!」

 

「それすらも100%の善意で動いたとは言えない。あの頃の俺は帝国の牢屋からヒノミさんとレナさんを逃がした罪を背負い、逃げるように大陸南へ来ていたからな。帝国でのマイナスを帳消しにできる武功が欲しかったのでは? と言われれば否定はできない」

 

「人間なんて、みんな何かしらの打算があるものだろ! もう、それ以上自分を責めるな! 何度だって言うぞ……俺とレックに上下も優劣も無い!」

 

「……ガラルドが嫌な奴だったら俺は尖ったままでいられたのだろうな。お前は最低な俺にすらずっと優しかった。それがどれだけ眩しく、尊敬できて、悔しかったか……。だから俺は元仲間であり第4皇子でもあることを矜持に血の滲むような研鑽を重ねた。だが、心身を鍛え直してイグノーラで再会したガラルドは俺の更に上をいっていた……」

 

 レックは一旦バックステップで距離をとると寂しげな表情を浮かべながらも両手に強烈な魔力を溜め始めた。エネルギーは右手に氷属性、左手に風属性が溜まっている。レックはゆっくりと両手を重ねてエネルギーを合体させると両掌をこちらへ向ける。

 

「この氷と風の合成魔術に見覚えはあるか? これはドライアドでの戦闘訓練中にモードレッド兄さんが放った『絶氷閃(ぜっひょうせん)』だ。氷のエネルギーを直線状に飛ばすシンプルな技ではあるが、洗練された兄の魔術は美しくて、ずっと憧れていて練習を重ねた魔術だ。皇族として……そしてガラルドとの決別を飾るに相応しい技だろう? こいつでお前を越えさせてもらう!」

 

 大きく深呼吸をしたレックは迷いの無くなった眼でこちらを睨み、魔術を解き放つ。

 

「全てを終わらせる……絶氷閃(ぜっひょうせん)!」

 

 あの日、モードレッドが放った絶氷閃(ぜっひょうせん)よりも遥かに強いエネルギーが地面を削りながらこちらへ向かっている。もうレックの殺意に向き合うしかないのだ……俺は押し返すようにレッド・テンペストを放つ。

 

 熱砂の竜巻と美しく青白い光を放つエネルギーが正面からぶつかり合った。双蒸撃(そうじょうげき)を思わせる陰と陽の衝突は温度差により爆風を生み出し、離れた位置で見ている兵士を転倒させるほどに広範囲へ広がった。

 

 衝突地点近くにいる俺とレックは兵士達とは比較にならない風を受けており、気を抜いたらすぐにでも地面から足が離れて飛んでいってしまいそうだ。

 

 だが、踏ん張りが効かなくなってレッド・テンペストを放てなくなった瞬間に絶氷閃(ぜっひょうせん)は俺の体を飲み込んでしまう……意地でも押し負ける訳にはいかない。

 

 俺は両手足に血管を浮かべ、体の奥底から根性で魔力を捻り出す。レッド・テンペストの威力を更に上昇させた。

 

「うおおおぉぉっっ! 押し返せぇっ!」

 

 そんな俺に呼応するようにレックも絶氷閃(ぜっひょうせん)のパワーを押し上げる。

 

「ぐっっ! まだまだ……飲み込んでしまえ……絶氷閃(ぜっひょうせん)ッッ!」

 

 レッド・テンペストと絶氷閃(ぜっひょうせん)がぶつかり合う光でレックの表情は把握できないはずなのに不思議とレックが笑っていると確信できる。

 

 相手から受ける魔力で感情を量ることなんかできるはずはないのに確信が持てるなんて……これはきっとレックを心から仲間だと想っているからに違いない。

 

 そんな仲間を邪悪な霧なんかに飲み込ませるわけにはいかない。極限まで集中力が高まった俺はレッド・テンペストの幅を小さくし、一層エネルギー密度を上げて押し返した。すると、とうとう絶氷閃(ぜっひょうせん)に限界がきたのか、レッド・テンペストと接触していた氷と風のエネルギーは湯気の様にあっけなく消滅する。

 

 ずっとレッド・テンペストを抑えていた絶氷閃(ぜっひょうせん)が消えた今、残ったレッド・テンペストは威力の減衰もなく真っすぐにレックへ向かって飛んでいく。我ながら凄まじい熱砂のエネルギーはレックに到達すると大砲と雷鳴が混ざった様な爆音と共に真っ白な煙をあげる。

 

「レ、レック!」

 

 レックが絶氷閃(ぜっひょうせん)に魔力を集中させていたならば肉体の守りは薄くなっているはずだ。下手したら死んでいるかもしれない……。中々消えない白煙に不安を抱いた俺は震え声でレックの名を呼んで走り出したが直ぐに足を止めた。

 

 それはレックがスキル『バニッシュ・レイピア』でレッド・テンペストをかき消していたからだ。咄嗟に絶氷閃(ぜっひょうせん)からスキルに切り替えるなんてとんでもない俊敏さだ。

 

 だが、それ以上に俺が驚いたのはレックの態度だった。レックはホッとした表情でもなければ、肝を冷やした様子でもなく怒りに満ちた目で俺を睨んでいたのだ。レックは肩で息をしながらレイピアをこちらへ向けると今までに聞いたことが無い怒号を放つ。

 

「戦いの途中で敵の心配をする奴がいるか! この戦いにおいて配慮は侮辱だと思え! 俺はガラルドに殺されるなら悔いはない……本気でこいガラルド!」

 

 

 

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