見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第408話】守る者と抗う者

 

 

「戦いの途中で敵の心配をする奴がいるか! この戦いにおいて配慮は侮辱だと思え! 俺はガラルドに殺されるなら悔いはない……本気でこいガラルド!」

 

 声が割れんばかりに叫ぶレックの目には薄っすらと涙が溜まっていた。変化の霧に感情を揺さぶられている今のレックは命よりも決着を優先している。あいつの本気に応える事が、この戦いにおける最大の誠意なのかもしれない。俺は震える足を手で叩いて止め、両手足に力を込めて再び魔力を溜め始めた。

 

「ハァハァ……ここからは馬鹿正直に技をぶっ放す。スキルをかき消すバニッシュ・レイピア相手なら本当はレッド・モードはやめて、火属性無しの回転砂で牽制した方がいいんだろうな……だが、もう小細工を織り交ぜる体力も魔量も無いし、小細工したい気分でもない。お前もそうだろ?」

 

「ああ、よく分かっているじゃないか。ハァハァ……俺は放たれた攻撃をシンプルに消してガラルドに近づく。そして、この剣でお前を倒すだけだ……。さぁ、フィナーレを始めよう……行くぞ!」

 

 レックは最後の力を振り絞り、俺に向かって走り出す。駆け引きも何もあったもんじゃない意地の張り合いの始まりだ。俺は両手に溜めていたエネルギーを解き放つ。

 

「これで終わりだ……レッド・テンペストォッ!」

 

「レッド・テンペストごとお前を貫く……バニッシュ・ペネトレーション!」

 

 レックはイグノーラでヒュドラのブレスを突き破った技を解き放った。地面を削る威力のレッド・テンペストはレックの手前で蒸気のように消え去っている。渾身の技をかき消されるのは精神的にくるものがある。だが、レックは消失させることに手一杯で前進出来なくなっている、負けている訳ではない。

 

 絶対に近づきたいレックと絶対に近寄らせたくない俺の勝負は轟音をかき鳴らしながら続く。力み過ぎた俺の口からは血が滴り、食いしばった歯は今にも割れてしまいそうだ。

 

 レッド・テンペストの向こうで雄叫びをあげているレックも限界を超えているはずだ。結果、俺達の決着はスキルとスキルがぶつかりだしてから10秒もかからなかった。バニッシュ・ペネトレーションは少しずつエネルギーに押され始めたのだ。

 

 光の向こうで唸り声をあげたレックは「馬鹿な……どんなエネルギーでもかき消せるはずが……」と呟き、レッド・テンペストの奔流に飲み込まれ……。

 

「ぐあああぁぁっっ!」

 

 断末魔に等しいレックの叫び声が地下空間に響き渡る。レックの体はレッド・テンペストに押されながら遠くの岩壁にめり込むと亀裂の入った岩壁はすぐに崩壊し、大量の岩がレックの体へと降り注ぐ。あっという間にレックの姿が見えなくなってしまった。

 

「レックッ!」

 

 ついさっき『戦いの途中で敵の心配をする奴がいるか!』と怒られたばかりのだが今は叫んでも許されるだろう、何故なら手応えからして確実にレックを戦闘不能まで追い込んだからだ。だが、手ごたえがあるということは埋もれたレックが気を失っている可能性が高い。岩の下敷きになり、窒息してしまう可能性もある……嫌な想像ばかりが膨らんでいく。

 

 すぐに岩をどけて助けてやらねばと走り出したが、数メード進んだところで俺の体が眩暈に襲われて片膝をついてしまう。レックを気遣う余裕なんてないぐらい限界だったようだ。周りにいた兵士達は動けない俺の代わりに岩をどける作業を進めてくれた。

 

 待つこと1分――――作業を進めていた兵士の内の1人が岩の隙間を覗き込み「大丈夫ですガラルド殿、レック様は息をしております!」と報告をしてくれて、俺はほっと胸をなでおろす。

 

 俺は兵士に担いでもらいレックの埋もれている岩の近くまでいって座り込んだ。少しずつ除けられていく岩の中からようやくレックの全身が現れると俺達は互いの顔を見て小さく笑う。そして、横になっているレックが先に話しかけてきた。

 

「ガラルドの勝ち……だろうな。俺もガラルドも立つことすら出来ない状況だが、恐らくお前は俺よりも後に倒れたのだろう?」

 

「ああ、そうだな、俺の方が数秒長く立っていた。今回も俺の場外勝ちってことで終わりにしようぜ。もう疲れて1歩も動きたくねぇよ」

 

「フッ、今回も……か。ドライアドでやった模擬試合の事を言っているんだな? 今回の戦いも最後は押し出された形だ、あながち間違いではないかもな。はぁ……まさか、どんなエネルギーでもかき消せるはずのバニッシュをパワーで飲み込んでしまうとはな。やっぱりガラルドには敵わないな」

 

「この戦いはお互いに消耗した状態から始まっていたからフェアじゃないけどな。だが、充分気が済んだだろ? リベンジがしたければ戦争が終わってから個人的に再戦しようぜ。もちろん体力全快で、変化の霧に侵されてない状態でな」

 

 俺が約束を持ちかけると何故かレックは首を横に振っていた。レックは完全に納得がいったから首を横に振ったのかと思ったが、それは思い違いだった。何とレックは突然口から大量の血を吐き出し、胸を抑えて苦しみ始めたのだ。

 

「ぐふっ! す、すまない、ガラルド……約束は……出来ない……」

 

「レック! おい、しっかりしろレック!」

 

 レックは涙を浮かべながらも薄っすらと笑っている。まるで死を受け入れているかのような爽やかな表情に反比例して俺の心臓はドクドクと嫌な鼓動を打っている。

 

 すぐに駆け寄ってきたグラッジと兵士達はレックを仰向けに寝させて、回復魔術が使える兵士が治療を施し始めた。それでもレックの顔色は悪くなる一方だった。俺はレックの手を握りしめると、弱弱しく握り返したレックは自身の肉体について語り始める。

 

「ハァハァ……自分の体が自分のものではなくなるような感覚になって確信した。俺の体はもうすぐ朽ち果てる。俺が言葉もまともに喋れない程に暴走していた時、ガラルドは『モードレッド兄さんが死んだ』と言っていたな? ハァハァ……恐らく兄さんも変化の霧か吸収の霧の作用で死んだのではないか? あの人は帝国の為なら平気で命を捨てる人だ」

 

「あの時の言葉を覚えていたのか! いや、今はそんな話はいい! 死なない為に何ができるか探らないと……絶対に死なせないぞ!」

 

「もういいんだ、ガラルド。自分の肉体が取り返しのつかない状態になっていることぐらい分かっている。変化の霧だろうが吸収の霧だろうが取り込み過ぎれば一時的な強化を代償に滅びの坂を下るのみだ。長年差別的な人間として生き続け、兄の顔色を伺いながら怯えて生きてきたクズらしい最期だ、俺は受け入れているよ」

 

「何がクズだよ……何が滅びの坂だよ……ふざけるな! 何が何でも回復させてやるからな!」

 

「無駄だ、アスタロト達が生み出した霧の力はリスクまみれなんだ。ただ、変化の霧の方が少しだけ負荷が弱く、長期戦に向いているだけのこと。だから出来の悪い俺に使われて戦争の駒にされたのさ。ハァハァ……かつての皇帝ヨハネスが変化の霧を私兵に使った際も大半の人間が数日から十数日で死んでいたらしいからな」

 

「……数日から十数日? 変化の霧の方が負荷が弱い? って事はもしかしたらレックならレストーレで……グラッジ!」

 

 俺が呟くと横にいたグラッジが考えを察し、さっき遠くに飛んでいってしまったレストーレをボロボロの体で取りに行ってくれた。グラッジの背中を見つめるレックは口から血を垂らしながら首を傾げ、俺に尋ねる。

 

「……グラッジ殿は一体……ハァハァ……何をするつもりなんだ?」

 

「今からグラッジがレストーレをレックの体に刺して変化の霧を打ち消すんだよ。サクリファイスソードで強化状態になっていたモードレッドにレストーレを当てた時は惜しくも救う事は出来なかった。だが、お前の言う通り『変化の霧の方が低負荷』なら何とかなるかもしれない」

 

「ハァハァ……アーティファクト『レストーレ』の事は俺も知っている……かつて戦争で変化の霧により強化された兵士達に対し、叔父シリウスがレストーレを刺したことがあった。だが、ほとんど助からなかったと聞いているぞ。ハァハァハァ……助かった者も単に変化の霧を少量しか使っていなかったから助かったに過ぎないとも聞いている……だから、ここまで侵食された俺の体では……ゴホゴホッ!」

 

「もう喋るな、ゆっくり息を整えることだけに集中しろ」

 

 レックの息切れと吐血からみて限界はすぐそこまできている。霧の種類は違えどレックもモードレッド同様、体が消耗しきっている状態でのレストーレだ、厳しい賭けなのは目に見えている。

 

 それでも俺は絶対にレックを救いたい……人の死を見届けるのはモードレッドで終わりにしたい。レストーレを持って戻ってきたグラッジと目線を合わせた俺は刺してくれとお願いする。

 

「時間が無い、早速刺してやってくれグラッジ」

 

「分かりました。ではいきます。反動で痛く苦しい思いをするかもしれませんが頑張ってくださいレックさん! そして絶対に生きてください。僕にとってもレックさんは大事な戦友ですから!」

 

 そう呟くとグラッジはレックの腹にレストーレを刺した。ここから俺に出来る事は祈る事だけだ。力の入らなくなった両手を組み、眉間に深い皺を刻みながら俺は強く祈り続けた。

 

 すると、レックは半開きだった目を突然カッと開き、体から虹色の湯気のようなものを放出し始めた。そして、もがき苦しみながら地面を何度も何度も殴り始めた。

 

 身体中を支配していた変化の霧が消える反動は相当な痛みを伴うようだ。目を背けたくなるような痛がりようだが、周りにいる俺達には抗う姿を見届ける義務がある。全員が目を逸らさずレックを応援し続けた。

 

「頑張ってくださいレック様!」

 

「負けないでくださいレック様!」

 

「痛みを乗り越えて必ずやドライアドと帝国に帰り、我々第4部隊に笑顔を見せてくださいレック様!」

 

 兵士達は泣きながら叫んで応援している。そんな時間が1分ほど続いたところでレックは大量の血を吐き出す。続けて体に魔力を纏ったかと思うと突然、体から爆発にも似た爆風を起こした。

 

 爆発は1発だけだったものの目を開けていられない程の風圧で、ようやく目を開けられるようになった時にはレックが片膝をついており、体からは光る紋章が消えていた。

 

 紋章が消えたということは変化の霧が体から抜けきったと思いたいが、最後の爆発が何か嫌な想像を掻き立てる。恐る恐る近づき様子を確認するとレックは薄っすらと笑みを浮かべて呟く。

 

「死を選びたくなるほどの激痛の中で兵士達の声が聞こえた。その時、俺が死ぬということは兵士達に後味の悪い悲しい未来を与えてしまうと思えた。だから意地でも生きねばと気力を保つことが出来た。ガラルドとの戦いには負けたが、諦めそうになる自分に勝つことは出来た。そう思っていいよな、ガラルド?」

 

 レックは問いかけると同時にフラフラと俺の方へ倒れてきた。レックが地面に倒れないよう何とか抱き止めた俺は自分なりの言葉でレックを称える。

 

「その通りだ、レックは勝ったんだ。いや、そもそも俺とレックの戦いですらなかったんだ。ここにいる全員が勝者だ」

 

「全員が……勝者?」

 

「ああ、この戦いはレックを救おうとする者達、そして暴走に抗うレックが変化の霧に勝つ為の戦いだったんだよ。俺もグラッジも兵士も皆が頑張った、勿論レックもな」

 

「フッ……相変わらず臭い台詞が上手だな。まるで親みたいな褒め方じゃないか、いや、俺にはそんな言葉を掛けてくれる家族なんていなかったけどな。もし、暖かい言葉を掛けてくれる存在がいつも近くにいてくれていたなら俺は――――」

 

 レックは言葉を言い切る前に眠ってしまった。あまりにも緩やかに眠ったから一瞬死んでしまったのかと焦ったが、抱き止めている体からはちゃんと鼓動と呼吸が感じ取れる。

 

 穏やかな寝顔を見ていると本当にレックを救う事が出来たんだ、と遅れて実感が湧いてくる。俺は涙が止まらなかった。

 

 レックに泣き顔を見られるのは恥ずかしいから起きる前に泣き止まねば――――だからレックが寝ている内に涙を出し切っておくことにしよう。

 

 

 

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