見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第412話】内に宿る技

 

 

「これじゃあ歴代の皇帝が気の毒だな。最後の皇帝ベランがここまで無能では長年の苦労も水の泡だ」

 

 俺が煽るとベランは瞼をピクピクさせながら言葉の真意を尋ねる。

 

「最後の皇帝? 無能? 随分と舐められたものですね。それは単なる負け惜しみですかな? それとも貴方なりの根拠でもありますかな?」

 

「負け惜しみのはずがないだろう、今からお前の無能さを教えてやるから、よく聞いとけ。歴代皇帝は帝国を存続させるべく1000年近い期間を真面目に厳しく働いてきたはずだ。それがアスタロトに下るなんて馬鹿な判断をするベランのせいで帝国が滅んじまうんだぜ? これじゃあバトンを繋ごうと命を賭けたモードレッドが気の毒だ。人間嫌いのアスタロトが帝国を支配下に置いてくれるわけがないのによ」

 

「黙れ! 為政者でもないハンター崩れが偉そうに政治を語るな! お前にアスタロトやクローズの何が分かると言うのだ!」

 

「少なくともベランよりはずっと分かっているつもりだ。見るのが辛くなるようなアスタロト達の過去も見てきたし、2回もコテンパンにやられちまってるからな。ベランが皇帝になるのは間違いだって断言できるぜ」

 

 俺が散々厳しい言葉を投げつけるとベランは俯いて黙ってしまった。何とも言えない無言の時間が流れている。心を折ってしまったのか? と心配になったが、ベランは突然上を向いて大笑いを始め、荒々しく狂気的な声で俺に問いかける。

 

「ハッハッハ! だとしたらクソったれなアスタロトが君臨する大陸をどう生き抜けばいいか教えてくださいよ! 味方にも敵にも優しい英雄ガラルド殿なら最高の答えが導き出せるのでしょうねェッ?」

 

「知らねぇよ、帝国の事は帝国が決めろよ。俺はベランの選択だけは有り得ないと言ってるだけだ。ちなみにバイオルもミニオスも大事な人質だから返すつもりはないぜ? きっとお前やバイオル達よりレックの方が100倍良い政治をするだろうしな。今からでも頭を下げて皇帝の座を渡したらどうだ?」

 

「黙れっ! 黙れっ! 私は歴代の皇帝像に名を刻む人間となるのだ! アスタロトのいる絶望の時代だとしても私の野望は叶えてみせる! 我が自慢の兵ラウ、サレよ、サクリファイスソードを解き放ち、ガラルドとレックを殺すのだ!」

 

 丁寧な口調も崩れ、ようやくベランの化けの皮が剥がれだした。ベランの両隣に立っていた全身鎧の兵士ラウとサレはベランの指示に従い、サクリファイスソードを掲げて魔力の吸収を開始する。

 

 ラウとサレは全身鎧のせいでどっちがどっちか分からない。彼らは過去にジークフリートの帝国兵が魔力砲経由で他兵士から魔力を吸っていた時と同じようにグングンと魔力を吸いこんでいる。

 

 あの2人が完全体になる前にサクリファイスソードを止めなければ。だが、今は帝国兵より素早く動けるのは俺しかいない……一息で2か所同時に攻撃するぐらいの速度でいかなければ。

 

 俺はひとまずベランの左側にいる兵士へレッド・ステップで近づき、鋭く手首を蹴りあげた。兵士は堪らず手を離し、サクリファイスソードは高く真上へと飛んでいく。

 

 1人の強化を封じる事は出来た……が今の反動で両足に溜めていたレッド・ステップのエネルギーが消えてしまった。すぐにもう1人のサクリファイスソードを吹き飛ばしたいところだが駆けても間に合いそうにない。

 

 このままではサクリファイスソードによる強化を完成させてしまう……一般帝国兵とはいえ吸収の霧による強化には相当苦しめられた経験がある。俺は危機的状況に焦っていた……だが、同時に何故か脳裏に『ある戦闘イメージ』が突然湧き上がった。

 

 コンマ1秒を急ぐ状況だというのに俺の頭は不思議と落ち着きはじめ、頭に浮かんだ『戦闘イメージ』通りに技を出せば、もう1人の帝国兵を止められると確信が持てる。俺は気が付けば訳の分からない不思議な感覚に動作を委ね、魔力を練り、出したことのない技名を叫んで解き放っていた。

 

「弾け! レッド・バレット!」

 

 俺は右腕を地面と水平に構え、矢を引くように肘を後ろへ動かすと、魔砂(マジックサンド)を纏った右腕を振り抜く。

 

 目の前に誰もいない訳だから当然拳は空振るのだから仲間達は何をしているんだ? と疑問に思った事だろう。だが、俺には小さく纏まった回転砂が肘から拳に移動し、振り抜く勢いで前方に飛んでいくと確信している。

 

 握りこぶしサイズに圧縮された熱砂の螺旋が拳から解き放たれた。凄まじい回転力とスピードで空気を切り裂き、もう1人の帝国兵が持つサクリファイスソードの柄に直撃する。

 

「ぬあっ!」

 

 サクリファイスソ―ドを持っていた帝国兵は堪らず呻き声をあげて剣を手放した。サクリファイスソードはグリップにヒビを入れたまま遠くへ飛んでいき、レッド・バレットは手に当たっていないにもかかわらず帝国兵は手を痺れさせていた。

 

 何故こんな技を瞬時に閃き、発動を成功させられたのかは分からないが理由はあとで考えよう。それよりも折角訪れたベランへの接近チャンスを確実にものにしなければ。俺は再び足裏に魔力を溜めてレッド・ステップの準備を始める。

 

 すると、ベランは「この役立たずどもめ! 皆の者、私を守らぬか!」と怒鳴り散らし、懐から剣を取り出して構えた。剣を両手で前に持ち、腰より少し高い位置に持ち手を浮かせるオーソドックスな構えだ、中々隙が無さそうだ。

 

 ベランは片方だけ口角を上げると少し怒気を鎮め、勝ち誇った顔で宣言する。

 

「ラウとサレを止めたからといって良い気にならないことだな! ここには他にも魔力砲や変化の霧を投与された兵士が50人以上いる。加えて兵器や霧を使えぬ兵士達も粒ぞろいだ。この包囲網の中で絶対に殺してやるからな!」

 

 ベランが宣言すると同時に周囲の兵士達が一斉に俺達の方へ襲い掛かってきた。広範囲に散らばっている兵士達が一点に固まり切ってしまう前にベランを倒して人質にとり、帝国兵全体の攻撃を止めさせなければ。

 

 もしベランを人質にして帝国兵の攻撃を停止させることが出来ればシン達をゆっくりと下降させて合流できる。危なげなく包囲網を抜ける事ができるはずだ。

 

 大嫌いなベランにはせめて人質として役に立ってもらわなければ……俺は真っすぐにベランを見つめ、足裏に魔力を練った。

 

「一瞬で終わらせてやるよ、ベラン!」

 

「帝国を……私をなめるなよ! 若い頃、モードレッドに帝国流の剣術を叩きこんだのは私だ! 近づいても斬り伏せてやるわ!」

 

 少しずつ集まってくる帝国兵を前にベランは余裕の表情を見せているが、すぐに青ざめさせてやる……俺は俊足の魔力を解き放つ。

 

「レッド・ステップ!」

 

 一筋の赤い光が走り、一瞬で俺はベランの懐へ侵入する。目を見開き、驚きの声すらあげることができないベランの頭を右手で掴んだ俺はそのまま勢いよく地面に叩きつけた。

 

「ぐえっっ!」

 

 衝撃によって潰されたカエルの様な声をあげたベランは黒目を揺らしながらも諦めてはいなかった。ベランは仰向けの姿勢で焦点が定まらないまま剣を振ってきたが、腰の入っていない腕だけで振った剣なんて全く脅威ではない。俺はベランの剣を難なく躱す。

 

 完全に力の差を痛感したベランは怯えながら剣の両端を持ち、倒れた姿勢のまま横一文字に防御の構えをとった。だが、防御などお構いなしに俺は拳を振り下ろし、剣を粉砕する。拳は地面に突き刺さり、剣の破片がベランの顔に降り注ぐ。

 

「ヒエエェェ!」

 

 悲鳴をあげるベランに戦士としての誇りが一切感じられない。苛立ちを覚えた俺は「それがお前の最後の言葉か? もう少し抵抗してみろよ」と反撃を促す。しかし、ベランは攻撃を繰り出してくることはなく、自嘲地味に笑いながら下らない言葉を叫ぶ。

 

「何を勝ち誇っているんだ、どうせ甘っちょろいガラルドでは私を殺す事は出来ないのだろう? 死にさえしなければどうとでもなる、いや、例え私が殺されてもガラルドとレックは必ず殺してやる。このまま中央に集まってくる帝国兵の圧力に潰されるといい。我が(しもべ)たちよ! 最優先命令だ、何があってもガラルドを殺すのだ!」

 

 こいつは最後の最後まで碌な事を言わなかった。心から不愉快な奴だ。帝国兵達も同じ思いなのだろう、ベランが叩きつけられてから叫ぶまでの間は動きが鈍く、躊躇しているようだった。

 

 しかし、いくらベランといえど最高指揮権を持つ男の命令だ、帝国兵達は戸惑いながらも剣を握り直し、俺らを潰すべく走り出す。悔しいがベランの思惑通りだ……ここで仮にベランを殺したとしても既に動き出した帝国兵達は止められないだろう。

 

 この窮地を切り抜けるには全ての帝国兵を退けて、シン達が安全に降りられる状況を作り出すしかないのだろうか? だが、地上にいる人間で現状まともに戦えるのは俺と第4部隊の面々だけだ。俺が死ぬ気で頑張ったとしても最後まで持つ保証はない。

 

 厳しい状況を前に覚悟を決めるしかないかと拳を握りしめたその時、俺達の元に意外な形で救いの声が飛び込んだ。

 

 

――――我が帝国の戦士達よ、今すぐ剣を収めるのだ!――――

 

 

 戦場に響き渡る大声は東側の丘から聞こえてきた。俺は視線をそちらへ向けると丘の上に立っていたのはシンバードで一旦別れたトーマスだった。戦場にいる全ての帝国兵達はベランに向ける目とは違う敬畏の目でトーマスを見つめていた。

 

 

 

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