見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
天の声と言わんばかりのトーマスの叫びによって、大穴周辺にいる全ての帝国兵が動きを止めた。丘の上に立つトーマスは自身に視線が集中しているのを確認すると演説のように帝国兵達へ語り掛ける。
「一介の帝国兵であるお前達が強大な権力を持つベランを恐れ、命令に従いたくなる気持ちは分かる。命令違反をすることで自分や家族に危害が及ぶと考えるのは自然だ。だが、もう大丈夫だ。モードレッド様……いやモードレッドが散り、バイオルとミニオスが無力化された今、君達には選択権が与えられたのだ」
全ての帝国兵がトーマスの言葉に釘付けになっている。権限こそベランより下なのだろうが、尊敬の度合いは桁違いなのだろう。仰向けになっているベランもトーマスを睨みながら「チッ……厄介な奴が帰ってきたか」と呟いていた。
続いてトーマスはレックとベランを交互に指差しながら、これからの帝国について話し始める。
「今、モンストル大陸はシンバード陣営、帝国陣営、アスタロト陣営の三勢力によって揺れている。そして、帝国は権力者が次々といなくなりボロボロの状態だ。そんな今だからこそ反旗を翻すべきではないのか? お前達はベランの言う通りに動いて本当に未来があると思うか? 君達が戦うべき敵は人間か? 国か? 違うだろう! 君達が戦うべきなのはアスタロトの様な悪しき者……そして、悪しき帝国の歴史と因果ではないのか? 君達が慕っていたのはベランの様な輩ではない。レック様のような真に民を想う人間だろう!」
帝国兵達はトーマスの言葉に感銘を受けているようで、中には泣いている者もいる。この光景を見た瞬間に俺は思った……帝国にとって本当の救世主は俺やシンのような外の人間ではなく、トーマスやレックのような内部の人間なのだと。
最後にトーマスは剣を天に掲げて誓いの言葉を発する。
「ヴァルン・トーマスの名において命ずる! 真に誇り高きリングウォルドの戦士は剣を収め、シンバードと協力し、アスタロト討伐に励むのだ! 戦争を終え、帝国領の貴族と民から責められることがあれば、私の名を出して命令に従ったと言えばいい。その結果、越権行為と言われて、私が処刑されることになっても一向に構わない。国と民の為に命を捨てる覚悟はとうにできている!」
トーマスの気高い叫びに心が震える。これほどまでに覚悟とカリスマ性を見せられてはトーマスに反対する兵士はいないだろう。帝国兵達は雄叫びをあげる事こそなかったが、震える心を表現すると言わんばかりに剣や槍をぶつけて音を鳴らし、トーマスを称えている。
きっと大陸の模範足れと教育を受けている帝国兵達にとって叫びの代わりとなっているのが武器を鳴らす行為なのだろう。大人数かつ広範囲に鳴り響いた金属音は止まる気配のないまま拍手のように長々と続いた。
長く続いた帝国との戦いにようやく決着がついたようだ。最後にカッコよく決めてくれたのはトーマスであり、帝国兵達の剣を収めさせたのはレックの人徳によるところが大きい。シンバード対帝国の英雄はあの2人だと語り継がれていくことだろう。
まぁ、俺も一応死の山からトーマスを連れてきたから影の功労者ではあるはずだ。シンにはちょっぴり給料を弾んでもらうことにしよう。
剣を収めた帝国兵達は次にどう動けばいいのか指示を貰う為にレックの元へ集まってきているようだ。ここからはレックもトーマスも軍師として忙しくなりそうだ。俺もここを離れる前にベランの拘束を終わらせておこう。
俺は足元で倒れているベランを起こして両手を拘束した。ベランは虚ろな目をしながら呟く。
「私の地位が……権力が……全てが終わった……。アーサーにもモードレッドにもこき使われ続け、最後には末っ子の若造に皇帝の席を取られるとはな。もう私の人生には何の意味も無い」
空っぽになったベランが多少気の毒ではあるが、それも奴の自業自得だ。こんな奴は放っておけばいいのかもしれないが、気が付けば俺は声をかけていた。
「別にあんたは命を失う訳でもなければ能力を失う訳でもない。今はとりあえずシンバードで拘束させてもらうが戦争が終わってレック達が許してくれた時には帝国へ帰ればいいさ。その時にはこれまでの地位や肩書は無くなっているかもしれないが、あんたの知識や経験を活かして第2の人生を歩んでみるのもいいんじゃないか? 少なくとも全てが終わった訳じゃないさ」
「お前みたいなディアトイル生まれの蛮族に何が分かる……と言いたいところだが、ガラルドが動き出したことで大陸が変わり始めたのも事実だ。特別に今の言葉、頭の片隅ぐらいには置いておいてやる、お前の事は大嫌いだがな」
「俺もお前が大嫌いだ。けど、そう言ってもらえて嬉しいよ。それじゃあまたな」
「…………」
ベランは第4部隊の兵士に引っ張られてそのまま馬車の方へと連行されていった。ベランと話し終えた事だし、シン達と合流したらすぐにレックとトーマスのいる方へ行き、合流する事にしよう。
白鯨モーデックをゆっくりと下ろし、大穴付近の地面に降り立ったシンはリリス達がモーデックの背から飛び降りたのを確認するとすぐに地面に尻もちをついた。魔量的にかなり限界ギリギリだったことが伺える。シンのところまで歩いて近づいた俺は早速労う事にした。
「お疲れ様だな、シン。大穴の上に浮かんで仲間を守り続けるのは大変だっただろ? 助けが来る保証もないからゴールが見えず辛かっただろ?」
「いいや、ガラルド君が必ずレック君を止めて、助けに来てくれると信じていたから心配はしていなかったよ。俺を心配するよりも顔が真っ青になっていた女神様を先に労ってやっておくれよ」
シンは親指の先を後ろに向けるとそこには目に薄っすらと涙を溜めたリリスが立っていた。リリスは俺と目線を合わせると短い距離を全力で走って俺に飛びつく。
「うわああぁぁぁん! ずっと不安でしたよガラルドさああぁぁん! シンバードに帰ってきてからずっと動き続けて、ずっと戦ってて、死んじゃうんじゃないかって……ずっと……ずっと……心配で……」
「ごめんな、リリス。また心配かけちまって。でも、俺はこの通り大丈夫だから早く泣き止んでくれ。もう残る戦いも僅かだ、リリスの気苦労も終わりが見えてきたぞ」
思えばシンを追いかけてシンバードを出発し、底なし沼の森でアサシン達と戦い、魔人ソニア、バイオル、モードレッド、レック、ベランと連続で戦闘をしてきている。間に少し睡眠を挟むことはできたものの、普段の俺なら絶対に耐えられない運動量と魔量消費だ。
この異常な回復力は何なのだろうか? 俺の体の中で何か大きな変化が起きている気がする。いよいよアスタロトとの直接対決も近いという段階で不確定要素が入るのは恐くもあるが考えたって答えは出ない。今はやれることをやろう。
俺はシンを支えてくれたサーシャやパープルズにもお礼を言い、皆でレックとトーマスのいる場所へと向かう。2人は兵士達に細かく指示を出しつつ、遠くから歩いてくる俺達を笑顔で迎えてくれて、こちらより先にトーマスが話しかけてきた。
「ガラルド殿! この度はベランを止めて頂いただけでなく、レック様まで救って頂き、なんと礼を言えばいいのか。この御恩は一生忘れません!」
「死の山では俺もトーマス殿に世話になったんだからおあいこさ。それに国は違っても今は共にアスタロトを倒す仲間なんだから御恩なんて大層な言葉はいらないぜ。ところで話は変わるがトーマス殿はどうしてこんなにも早く俺達のいる大穴入口まで来られたんだ?」
「実はシンバードでガラルド殿と別れた後、すぐに私の元へ連絡が入りましてな。その連絡とはドライアドからずっと西の領土でフィル殿、ゼロ殿が率いる別動隊と帝国軍が戦っており、帝国側に押されているという情報でした。ですので私はすぐに馬を西へ走らせました。その時にドライアド周辺でガラルド殿やレック様の話を聞いたのです」
「事情は分かったがフィル達は大丈夫なのか? ドライアドから離れたところにいる帝国兵にはまだモードレッドが亡くなった連絡は入っていないだろ? 今も戦っているはずだよな?」
「大穴周辺の帝国兵全員が剣を収めたのを確認した時点で私が伝達兵を送りました。なので夜までには彼らが情報を届けて、別動隊と帝国兵を止めてくれるはずです。一応この後、私が自らの足で西に向かい、ちゃんと情報が伝わっているか確かめてくるつもりですが」
「分かった。移動ばかりさせて申し訳ないが、よろしく頼むトーマス殿」
俺が言葉をかけるとトーマスは皆に一礼し、早速西の方へと走っていった。熱い言葉で大勢の帝国兵に剣を収めさせた男とは思えない程の多忙さだ。
トーマスの背中を見送ったレックは少し寂しげな溜息を吐くと俺の方を向いて笑顔を浮かべ、再び握手を求めてきた。
「もう何度目か分からないが、またガラルドに助けられたな。お前がベランと側近の兵を止めることでトーマスが来る時間を稼いでくれなければ死人が出ていたかもしれない。本当にありがとう」
「俺の方こそ礼を言わせてくれ。レックの信用とトーマスの叫びが無ければジリ貧で死んでいた可能性が高い。ありがとな、レック」
俺は差し出されたレックの右手を握った。すると、手が触れた瞬間レックは何故か眉を上げ「えっ?」と呟き、驚いていた。何故驚いたのかが分からず俺が首を傾げているとレックは「いや、何でもない、忘れてくれ」と言い、握っていた手を離す。
レックの反応が気になるところだが『忘れてくれ』と言っているのだから無理に追及するのもよくないだろう、ここは従う事にしよう。
色々な事があったけれど何とか帝国を止める事が出来た俺達は一旦ドライアドに行って体を休める事にして帝国の馬車に乗ってドライアドへ向かった。
まさか久々に訪れるドライアドが第4部隊以外の帝国兵達と一緒になるとは思わなかった。まだアスタロトとの戦いが残っているけれど、ようやく大陸の国々と人類が1つになれた気がする。
正確に言えば大陸南端の方には行ったことがないから全ての国と人間が1つになれた訳ではないけれど、帝国を止められたということはゴールに大きく近づいたといえるだろう。
あとは大陸人類全ての敵、モードレッドとクローズを止めるだけだ。奴らが今、どこに身を隠していて、いつ戦いになるかは分からないうえに俺達は既に満身創痍だ。だが、体を回復させて必ず奴らを止めてみせる。
その為にも今は少しでも多く休んでおこう。俺は心地よく揺れる馬車の中で瞼を閉じた。