見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第419話】取引

 

 

「単刀直入に言います。樹白竜(じゅはくりゅう) ラボレさん、僕達に力を貸してください。貴方の背に僕達を乗せて、空からシンバードの中央へと飛び込んで欲しいのです!」

 

 僕が頭を下げて力強い声でお願いすると、ラボレさんは少し沈黙した後に理由を尋ねてきた。

 

 

――――私は外にいる我が子や魔獣から少し話を聞いている。ここ数年、大量の魔獣を動かす危険な輩が存在し、世が乱れているとな。もしやお前達は魔獣を使役する者達と戦っているのか? ――――

 

 

 ラボレさんから問いかけられた僕は今の同盟陣営、帝国、アスタロト陣営の関係性を1から説明する事にした。ラボレさんは魔人やミストルティンの存在に困惑しつつも、強大な力の詳細を知る事が出来て合点がいったようだ。

 

 しかし、ラボレさんは再びレックさんの方へ視線を向けると低く威圧的な声で自身の考えを語る。

 

 

――――私にとって魔獣を操る人間や魔人は邪魔な存在だ。奴らがいればやがては神獣である私や我が子達にも危害が及ぶやもしれぬからな。故にお前達に手を貸すことは利に繋がるかもしれない。そこのガラルドが結果的にレックを止め、私の家族にこれ以上被害が出ないようにしてくれたことも言葉が通じなかった頃から何となく分かっていた。それにグラドのおかげで危険な場所から比較的安全な洞窟に居を構える事ができた点も感謝もしている。だが、私はお前達に手を貸すつもりはない――――

 

 

 ラボレは部分的に褒めてくれたり、義理堅い面を見せてくれつつ冷静に喋っているが、それでも僕の願いを断ってしまった。ここまで言って断られては厳しい状況かもしれないが引き下がる訳にはいかない。僕は断った理由について深掘りする。

 

「どうしてですか! そこまで言ってくれているのに……やはり我が子を殺された件が引っ掛かっていますか?」

 

 

――――当たり前だ、私が仇に力を貸すような優しい神獣だとでも思ったか? 弱肉強食の世界故に狩る者と狩られる者がいることも分かっている。それでも子を殺されることに納得できるはずがない。レックを止めたガラルド、そしてグラドへの恩に免じて今ここでお前らを殺す事だけはやめておく。さっさと洞窟から出ていくのだな――――

 

 

 分かってはいたけれどやっぱり樹白竜(じゅはくりゅう)の憎しみは相当なものだ。もう打つ手がないのかと諦めかけたその時、レックさんが前に出て樹白竜(じゅはくりゅう)に話しかけた。

 

「ここからは俺に説得させてくれ、元々俺が撒いた種だしな。教えてくれラボレ、お前はガラルドに手を貸すことが大事だと分かっていて、それでも俺への憎しみが上回っているから手を貸さないんだよな?」

 

 

――――その通りだ。子を失う辛さは多少の恩義など吹き飛ばすものだ。お前達に交渉の余地はない。今もお前を殺したくて仕方がないのだ。早く目の前から消えてくれ――――

 

 

「そりゃそうだよな……子を殺された憎しみなんて消える訳がない。本当に……本当にすまなかった、遅くなったが謝らせて欲しい。だが、それでも尚、俺は交渉させてもらう。樹白竜(じゅはくりゅう) ラボレよ。俺はアスタロトとの戦いに決着をつけた後、お前に命を差し出すと約束する。それが俺なりの誠意と謝罪だ」

 

 レックさんはとんでもない提案を持ち掛けた。あまりの展開にラボレさんも他の皆も目を点にして驚いている。怒ったガラルドさんがすぐにレックさんの胸倉を掴んで止めさせようとしたけれど、レックさんはガラルドさんの手を払いのけて言葉を続ける。

 

「ラボレ、お前が手を貸してくれれば、お前の子供達を……未来を守れる確率が上がるんだ。明日だけでいいから憎んでいる俺と手を組んでくれ、頼む……」

 

 曇り無き眼で真っすぐと見つめるレックさん。ラボレさんは言葉を失っていた。

 

 一方でガラルドさんは鼻息を荒くして思いを伝える。

 

「ふざけるなよ! 俺はレックを交渉の道具にしたくて救った訳じゃないぞ! 未来の帝国……いや、俺がずっと一緒にいたいから死を覚悟でお前を助け出したんだ! 命を交渉の道具にするんじゃねぇッ!」

 

「……ガラルドなら怒ってくれると思ってたよ。だが、今はやれることを全てやって少しでも勝率を上げようじゃないか。ガラルドが俺を大事に思ってくれているように俺だって帝国が……大陸中の人間が大事なんだ、自分の命よりもな」

 

「…………クソッ!」

 

 ガラルドさんは怒りに任せて地面を殴っている。レックさんの本気が痛々しいほどに伝わってきてただただ辛い……。そんな僕達のやり取りを見ていたラボレさんは表情から少しだけ怒りの感情を減らし、僕に質問を投げかけてきた。

 

 

――――グラッジよ、今のお前達のパーティーにおいてレックの戦力は如何ほどだ? ――――

 

 

「力でも心でも、大陸で指折りの戦士です。僕は心から尊敬しています。勝利に欠かせない存在です」

 

 僕は具体的な強さの性質を言うのではなく、心に浮かんだ言葉をそのまま伝えた。ラボレさんは大きく溜息を吐いた後、少し柔和になった表情で言葉を発する。

 

 

――――私は我が子を殺したレックが心底憎い。だが、お前らの言う通り、今は少しでも合理的な判断をする時だ。特別にお前らを乗せて空を駆けてやる。ただし戦いが終わったその時は私がレックを殺しにいくかもしれない。そうなれば精々抵抗するのだな――――

 

 

 ラボレさんの言葉を受けてレックさんは「ありがとう! 必ずアスタロトを止めてみせるぞ! 約束する!」と強く言い切った。

 

 ラボレさんの言葉を聞いた瞬間、僕は戦争が終わってもきっとラボレさんがレックさんを殺す事はないのだろうなと確信が持てた。

 

 何故ならあれだけ憎い憎いと言っていたラボレさんが『レックを殺しにいくかもしれない』と曖昧な言い方をしたからだ。加えて『そうなったら精々抵抗するのだな』と守りを促すような言葉すら発している。

 

 そのことはガラルドさん達も何となく分かっているようで約束の後は誰にも追求することはなかった。僕達はラボレさんに『明日の昼に洞窟へ迎えに行く』ことを伝えて、解散する流れとなった。

 

 僕は帰るために足先を入口の方へ向けて歩き出すと何故かラボレさんが僕とガラルドさんだけを呼び止めて他の人達は先に帰るように指示を出してきた。僕が「どうかしましたかラボレさん?」と尋ねるとラボレさんはガラルドさんの方を向いて質問を投げかける。

 

 

――――私は人間の心を見抜ける眼を持っている訳ではないが、それでもレックはまるで別人のように見えるな。以前洞窟に来た時から1年も経っていないはずだ。あの男に何があったのだ、ガラルド? ――――

 

 

「家族・部下・国民・ライバル……色んな奴に色んな感情を抱きながらレックは戦ってきたんだ。立場とか経験とかコンプレックスが人を成長させるものだからな。あいつは短期間で人一倍濃い時間を過ごしてきた。だから別人みたいに強くなれたんだよ。グラッジもそう思うだろ?」

 

「そうですね、僕は仲間になるのが遅かったのでかっこいいレックさんしか知りませんが、きっと逞しくて優しくて責任感の強いところがレックさんの本質なんだと思います。納得してもらえましたか、ラボレさん?」

 

 

――――うむ、まだ完全に理解できたわけではないが、お前達が本心から褒めている事だけは分かる。憎きレックが変わったのだ、私も閉鎖的で保守的な生き方を改めなければいけないのかもしれないな。話を聞かせてくれて助かったぞ、ガラルド、グラッジ――――

 

 

 ラボレさんは礼を言うと、自身の寝床へと帰っていった。この戦争は人も魔人も神獣も全ての心を刺激して大きな変化を遂げさせる戦いになりそうだ。

 

 明日になったら全ての決着が着くんだな……と改めて実感が湧き、手が震えてきた。協力してくれるラボレさんの為にも絶対に勝たなければ。僕は自分の頬を叩いて気合を入れるとガラルドさんと共に他の人達と合流し、ドライアドへ帰っていった。

 

 

 

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