見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
レックとの会話を終えた俺は散歩を続けながら夜空を眺めていた。散歩を始めた時よりも夜の闇が深くなっている。そろそろベッドに戻って寝た方がいい時間なのは分かっている。だけど仲間達と会話をしたことで最後にリリスと話をしてから眠りたいと考えていた。
でも、リリスが外にいるとは限らないし、既に眠っていたら起こすのも申しわけないから最後に少しだけ探して部屋に戻る事にしよう。そう決めた俺は何となく川沿いを歩きたくなり、歩を進める。
すると、小川に架かる橋の上で座っているリリスの姿を見つける事ができた。見つけられたのが嬉しくてついつい小走りで駆け寄ってしまった俺を見てリリスは嬉しそうに笑う。
「こんばんは、もしかしてガラルドさんもお散歩ですか? 私はヘケトンケイルの川沿いでガラルドさんと話をしていたことを思い出してここへ来ちゃいました。町の中心を通るように東西に流れる川がヘカトンケイルと被っちゃいまして」
「懐かしいな、あの日あの場所でリリスに励まされ、追いかけられて俺達は正式なパーティーになったんだもんな。ヘカトンケイルはやっぱり色々と印象に残っているよ。リリスとの初めての会話なんて俺がハイオークに殺されそうになっているところをアイ・テレポートで助けられた局面だったしな。まぁ実は言うとギルドにいた時点でリリスの事は見かけていたけどな」
「実は私もガラルドさんの事を認知していましたよ? あの時のガラルドさんは暗く緊張した顔で酒を片手に人を待っていましたよね? いま思うとレックさん達を待っていたんですね」
まさか受付で少し話をして出ていっただけのリリスが俺の事を視認していたとは思わなかった。あの日、俺はギルド内で初めて見たリリスを綺麗な女性だと見惚れてしまっていたが、もしかしたら顔が緩んでいたのかもしれない。そう思うと少し恥ずかしくなってきた。
俺を認知していたという言葉に何も返せず困っているとリリスが夜空を眺めながら思い出を語り始める。
「本当に色々な事がありましたよね。最初の頃だけでもヘカトンケイル、神託の森、シンバード、ジークフリートなどなど、どの冒険も濃すぎるぐらいに濃かったです。大好きなガラルドさんと出会えて、サーシャちゃんという親友もできた最高の時間でした」
「その後もドライアド、帝国東領、リングウォルド別邸、コメットサークル領、船作り、グラッジとの出会い、イグノーラ、カリギュラ、死の山、そしてザキール率いる魔獣群との大戦争……グラッジがいなきゃ何回死んでたか分からないな。それにモードレッドとの出会いや強くなったレックとの再会も衝撃だった。つくづく凄い旅をしてきたなぁ、と実感するぜ」
「大陸南から戻った後も
「自分がまさか、ここまで因縁と争いの中心にいる人間だとは思わなかったよ。過去視をするまではずっと自分のことをディアトイルの捨て子だとしか思ってなかったからな」
「それを言ったら私なんて五英雄なんて大層な肩書を持つ人間でしたからね。ただでさえ今も見目麗しい慈愛の女神様なのに……素晴らし過ぎて参っちゃいますよ」
リリスは仰々しく髪をなびかせながら得意げな顔をしている。あれだけ記憶の復活に怯え、女神と前世という2つの人生について悩んでいたのが嘘みたいだ。自分で見目麗しいと言ってしまうところが鼻につくが、彼女が元気ならそれでオッケーだ。俺は何も言わずに彼女を見つめてた。
するとリリスは何もツッコんでもらえず恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら頬を掻き、思い出話を掘り下げた。
「私が特に印象に残っている思い出はジークフリートでガラルドさんに抱きしめてもらった事ですかね。あっ、カリギュラで私が強盗に絡まれた時に激怒してくれた時もキュンとしちゃいましたよ。天の糸を再び訪れた時なんてもうホントに……あぁ~、最高でした」
「相変わらずだなリリス、顔が緩み過ぎててちょっと気持ち悪いぞ」
俺が指摘したにもかかわらずリリスはお構いなしに体をクネクネと揺らし続けている。正直俺から恋愛感情が洩れだしていた場面を挙げられたり、嫉妬していた場面を思い出したりするからエピソードを掘り返すのは勘弁してほしい。
振り回されながら思い出話を続けていると、リリスは緩みきった笑顔を突然寂しげな笑顔に変え、俺に問いかけてきた。
「ガラルドさんは最終決戦の前夜にどんな事を考えてましたか?」
「急に真面目な雰囲気になったな。う~ん、そうだな、やっぱり仲間達の事を考えて感謝の念が湧いてくるな。大変な事が多い人生だったけど結局俺の人生は故郷ディアトイルが起点だ。兄弟分ルドルフと仲よくなったことから始まり、険悪だったレックとも友人となり、リリス達に囲まれて、ずっと人に恵まれてきた人生だったと思えるんだ。だから皆の顔が浮かぶんだ」
「……そうですか、皆の事ですか。そうですよね、ガラルドさんらしいですね」
「なんだ? 歯切れが悪いな。もしかしてリリスの事だけを考えていると言って欲しかったのか?」
「いえいえ、そこまで我儘じゃありませんから! もちろん私も皆の事を考えています。その中でガラルドさんの比重が大きいだけの話で……その……私達、恋人ですし……」
リリスは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。いつも子供のように激しく甘えてくるリリスが恥じらいを持って大人しくなるとこっちまで恥ずかしくなってくる。正直俺の頬も緩んでしまいそうになる。
俺はなんとかクールな表情を保とうと頑張っていた。一方、リリスは更に言葉を続ける。
「ただ、私は皆の事を考えると同時に少しだけホームシックになってしまいましてね。気持ちが少しだけ弱っちゃいました」
「デリカシーのない質問になってしまったらすまないが、ホームシックっていうのは人間だった頃の事を思い出したからか? それとも女神として生きてきたことを振り返ったからか?」
「後者ですね。リーファ時代のことはもう自分の中で整理がつきましたから。ただ、女神としてはやっぱり最終決戦の前にサキエル様に会いたかったです。女神として生まれてからは母親のような存在でしたし、相談したいこともありましたから」
「1度しか会った事はないけど、リリスの事をよく理解している素敵な女神長様だったもんな。で、相談したかったことって何だ? 俺で役に立てるなら聞くが」
「だ、だ、駄目です! 凄く乙女な相談事ですから。ガラルドさんには相談できません!」
リリスは両手をブンブンと振って激しく拒絶している。コミカルな動きを見て俺はつい笑ってしまったがリリスは真剣な顔で遠くを見つめていた。本当に大事な相談がしたかったのだろう。
リリスは自分の頬を軽く叩いて気合を入れると表情を再び明るくして立ち上がる。
「戦いを終えたらゆっくりしたいですし、やりたいこともありますから、明日は絶対に勝ちましょうね!」
「ああ、勿論だ! それじゃあ明日に備えてそろそろ寝るとするか、暖かくして寝るんだぞ?」
「あっ、最後にちょっとだけわがまま言ってもいいですか? あの……その……ガラルドさんにギュッとしてほしいです。そうすれば明日はもっと頑張れると思うので」
リリスは俺の袖を摘まんで軽く引っ張りながら物陰に誘導しようとしている。流石のリリスも人に見られるのは恥ずかしいのだろう。まだ俺達の関係性を仲間達に伝えていないのだから尚更だ。
とは言ってもざっと見た限り周りに人はいないようだが……念には念をといったところだろうか?
そんなリリスが愛おしく感じた俺は気が付けば彼女をその場で抱きしめていた。不意を突かれてびっくりしたのかリリスは上擦った声を漏らす。
「ガ、ガラルドさん! ここじゃ誰かに見られちゃうかもしれないですよ!」
「どうせ俺達の関係性は後々公言するんだ、見られたって構わないさ。今は少しでも早くリリスのわがままに応えたかったんだ」
「……そういうところズルいですよね、ガラルドさんって」
リリスは呆れ半分、喜び半分の声色で呟くと俺の背中に手を回し、ギュッと抱きしめ返してくれた。俺達はどれくらいの時間抱き合っていただろうか? 名残惜しかったから、きっとそれなりの時間抱き合っていたとは思うが、俺の感覚では短い時間だったように思う。
決戦前の夜は緊張と情愛が混ざり合いながら溶けていく。