見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
アスタロトとの決戦当日の朝――――起きてから顔を洗って外に出ると、集会所前にシンとレックと大勢の兵士の姿があった。
2人はシンバードを包囲して攻めこむ地上軍の最終チェックをしているようだ。
シンもレックも軍人的な職務に励んでいるところをあまり見た事がないから新鮮な気分だ。シンバード兵と帝国兵の混合軍は統率のとれた陣形を組むと、レックの号令とともにシンバードへと進みだした。
地上軍を見送ったレックは一仕事終え、集会所内に戻るべく振り返った瞬間に俺の姿を発見し、朝の挨拶を交わす。
「おはよう、もう起きたのかガラルド。
レックが気を遣ってくれていることだし、お言葉に甘えてもう少し部屋で休もうかと考えているとシンが俺の元へ駆け寄り、険しい表情で話し始める。
「おはようガラルド君。いきなりだが悪い知らせだ。伝達兵の報告によると未だにゼロ君とフィル君の行方が分からないらしい。幸い、西に行ったトーマス殿は出来るだけ早く地上軍に合流してくれるようだけどね。そして、パープルズの怪我についてだが残念ながら戦いに参加するのは無理そうだ。あの怪我では歩く事はできても戦うのは厳しいからね」
「そうか、まぁモードレッドの魔術を受けたわけだしな。一生モノの怪我を負わなかっただけでも幸運だ。ゼロとフィルは心配だけど死んではいないだろう。これだけ広範囲に人も兵士も広がっていれば遺体があれば必ず見つかるはずだしな」
「う~ん、逆に言えばアスタロト陣営に攫われている可能性も考えられるけどね。固まって行動していた我々とは違ってゼロ君達は狙いやすかっただろうしね。それに気絶さえさせれば空を駆けられるクローズ達ならば簡単に
最悪の想像ばかりが浮かんできて俺とシンは黙り込んでしまっていた。そんな様子を見ていたレックは俺のところまで歩いてきて肩を軽く叩き、励ましの言葉をかける。
「人質になってるなら、まだ生きているってことだ。アスタロトを倒して取り返せばいい。むしろ都合がいいとポジティブに考えよう。もし、縄か何かで拘束されていたとしたら隙を見て解放させることが出来れば加勢してもらえる可能性だってある」
「……そうだな、ウダウダ考えたって俺らが取るべき行動は変わらないんだ、ポジティブになった方がいいよな。ありがとよ、レック」
「フッ、気にするな。あっ、話は変わるがガラルドに渡しておきたいものがある。実は兵士がモードレッド兄さんの遺体から持ってきてくれたものなのだが」
レックは鞄から1冊の本を取り出すと俺に渡してくれた。その本の表紙には古代文字が刻まれている。どうやら俺でも読めるぐらい基礎的な古代文字のようで表紙には『グリメンツの書』と書かれている。
「これがビエードやレックの部下に死の契約を結ばせた『グリメンツの書』か。こいつが人の命を奪ってきたかと思うと今すぐにでも燃やしてやりたくなるな……」
「気持ちは分かるが絶対に燃やしたり捨てたりしないでくれよ? ジャッジメントと同じで使いようによっては世の中の役に立てる事が出来るかもしれないからな」
「ちゃんと分かってるさ。だが、どうして俺に渡すんだ? 一応グリメンツの書は帝国の所有物だろ?」
「ガラルドの方が……いや、シンバードの方がきっと上手く使ってくれると思ってな。現にシンバードはジャッジメントを見事に政治へ活かしている。強大で凶悪になりえる力こそ、善の心を持つ者に扱ってもらわないとな」
「これから帝国の中心になるレックだって良い使い方をできると思うが……。まぁ、モードレッド亡き今、帝国は慌ただしくなるだろうしな。とりあえず俺達シンバード陣営が預かっておくことにするか」
俺はグリメンツの書を鞄にしまう前に少しだけページを捲ってみた。すると、何百ページにも渡って色々な筆跡で契約内容が書かれていた。
恐らく歴代の保持者が書いてきた契約文なのだろう。どれぐらい昔から使われてきたのかは分からないがあまりにも多くの契約が書かれていて正直ゾッとする。そして俺がびっくりした点はもう1つある、それは全ての文字に水平の一本線が引かれている点だ。
一本線の意味が気になった俺は早速レックに意味を尋ねる。
「なあ、レック。契約文に引かれているこの一本線は一体何なんだ?」
「それは『契約を課した者が亡くなった、もしくは契約者が亡くなり契約が無効になった証』だ。礼をあげればビエード大佐が契約を違反する前にモードレッド兄さんが亡くなっていればビエード大佐は黒い煙に殺されなかったことになる」
「なるほどな。だから実行された呪いも未実行の呪いも一本線が書かれることになると。使用者が全員亡くなっている今のグリメンツの書は全ての契約に一本線が引かれている訳か。恐ろしいアーティファクトだが万能ではないわけだな」
グリメンツの書のことが大体わかってきた。グリメンツの書は脅しに近い使い方をするのが基本なのかもしれないが、上手く使えば互いが互いを裏切れないような契約を結んで協力関係を作り出すことは出来るかもしれない。
具体的な方法はまだ思いつかないが、やり方次第ではザキールたち魔人と手を組んでアスタロト戦の戦力にできればいいのだが。だが、1歩間違えれば恐ろしいアーティファクトになる可能性もある。極力使わないようにしよう。
3人で少しだけ雑談を交わした後、俺はレックの言葉に甘えてちょっとだけ休んでくることにした。とは言っても最近は何故か体力・魔量回復が異様に早くて眠る必要はなさそうだから、集中力を高めるだけにとどめておこう。
※
1時間、2時間と時間は流れて昼過ぎになり、遂に俺達が
皆の拍手と期待を込めた目が俺達に闘志を与えてくれる。高まり過ぎたテンションを何とか抑えながら
リヴァイアサン以外の神獣と待ち合わせなんて初めてだ。何て言葉を掛ければいいか迷っているとラボレは大きな溜息を吐き、クールに呟く。
――――運命を分かつ決戦であろうとも私がかける言葉は何もない。さっさと背に乗れ――――
最初の一言を選んでいたのが馬鹿らしくなってきた。ラボレの言葉に従い、俺達は順番にラボレの背に乗り込んだ。
立ち上がれば10階建ての建物に匹敵するぐらい大きな
こんな強大な存在と戦い、技をぶつけていたのかと思うとゾッとする。
あと少し浮いたら俺達ごと洞窟の天井にぶつかってしまいそうでヒヤヒヤしたのも束の間、白い葉と樹の絡まった両翼を広げたラボレは大砲弾の如く洞窟から勢いよく飛び出した。
洞窟の周囲にいたであろう動物たちは一斉に散り散りになって逃げだし、遥か遠くの丘にある木々からも鳥が慌てて逃げ出しているのが見える。それだけ
高すぎて若干寒さを感じた俺は体を揺らして温める中、ラボレは得意げに呟く。
――――ここから高速で東の空へ駆ける。精々振り落とされぬよう、しっかりと掴まっておくのだな――――
ラボレは宣言通り、とんでもないスピードで東の空へと駆けだした。俺達6人は全員で体を支え合い、強烈な逆風を体に受けながら到着の時を待ち続けた。