見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「さあ、どうする英雄ガラルド御一行? 消耗覚悟でラボレを守りにいくかい? それともアスタロト討伐の為にラボレを見捨てて
クローズの煽りに対し俺は何も言葉を返せなかった。大陸の平和を考えれば今はラボレを見捨てて
どちらにしてもここは俺が決断しなければいけない時だ…。頭が爆発しそうな程に思考し、自分の出した決断を口から発しようとした次の瞬間、予想だにしない展開が訪れる。なんとラボレの周囲に突如、人1人分ぐらいのサイズがある水球が数えきれないほどに飛来したのだ。
訳の分からない状況に困惑していると水球は1つ1つが強力な魔力を纏い、全てに意思があるかのように高速で動き出し、飛行型魔獣に次々とぶつかって撃破してみせた。
水球1つで魔獣を1匹ずつ倒してしまう高密度の魔力も驚かされるが、それ以上に全水球に正確な追尾能力を持たせ、それらを同時に動かす異次元の魔術テクニックに声も出ない。もはやアスタロトすら超えているかもしれない。こんな芸当が可能な奴は1人……いや、1匹しか思い当たらない、海神龍リヴァイアサンだ。
思えば女神ウンディーネがアスタロトと遭遇した時もリヴァイアサンの放つ水ブレスのおかげでアスタロトを足止めできた過去がある。まだリヴァイアサンと確定した訳ではないけれど俺達はとんでもない奴を仲間にしたんだなと実感が湧いてくる。
あまりの凄さに放心状態なってしまった俺は落ち着きを取り戻した後に水球が飛んでくる方向を見つめた。どうやら水球は南側から飛んできているようだ。
俺達以外の人間の前には絶対に姿を現わさないリヴァイアサンがまさか、こんな行動に出るなんて……。しかも、陸地を移動できないリヴァイアサンなりに最高の援護をしてくれていて、タイミングも完璧だ。
あまりの幸運に驚く中、グラッジはハッとした表情を見せてリヴァイアサンについて語り出す。
「そうか! 僕が昨日の夜、リヴァイアサンに突入作戦の事を伝えたから加勢してくれたんだ。僕は戦いに参加してくれなんて頼んでいないのに……。それどころか戦争に負けて僕が迎えに行けなくなったら自由にしてくれていいと言っておいたのに。それでもリヴァイアサンは……」
グラッジは喜びと申し訳なさが混ざった複雑な表情で呟いている。そんなグラッジを見たサーシャはグラッジの手を握り、暖かい言葉をかける。
「グラッジ君は決戦前夜に敗戦後の事まで考えて言葉を残していたんだね。そんな優しいグラッジ君だから起こせた奇跡だよ。リヴァイアサンが心からグラッジ君を慕っているからこそ人類に存在がバレるリスクを承知の上で助けてくれて、ラボレさんを守る事もできたんだよ? 胸を張って彼らの心意気に応えようよ」
「…………そうですね、ラボレもリヴァイアサンもこれだけ僕らを支えてくれたんだ。絶対にアスタロトを倒しましょう」
グラッジの言葉に全員が頷きを返す。一層決意が漲った俺達は再度クローズの方へ向き直った。クローズはつまらなさそうな顔で溜息を吐き、バルコニーから中へ入る扉に手をかける。
「種族を超えた絆を見ていると目が腐ってしまいそうだ。さっさと
俺達はクローズの後をついていき廊下を歩き続けた。クローズは一直線に中庭の方へ進んでいるみたいだが、進む方向に違和感をもったシンがクローズに声を掛ける。
「ちょっと待ってくれ。
「まぁ、慌てないでおくれよ国王様。私も書庫から
自慢の魔力で穴を作る……不思議な事を言うクローズに困惑しながら中庭に到着した直後、俺は言葉の意味を理解する。なんと中庭の地面に直系10メード程の穴が空いていて底が見えない程に深いのだ。
穴の断面を見るかぎり俺のサンド・テンペストで削った様な荒々しさがある。強大過ぎる魔力の放出によって1発で長い穴をあけたことが伺える。
イグノーラの牢屋からザキールを救い出した時もそうだが、やはり奴の魔力は桁違いだ。こんな化け物にレストーレを当てて勝つことが本当に出来るのだろうか? と不安になってくる……。
俺は恐る恐る穴を覗き込んだ。どうやら暗い穴は少しだけ斜めになっているようだが、ここをそのまま滑っていけばそのままアスタロトのところへ着くのだろうか?
暗い穴の中で敵に襲われても困る……俺は「クローズから先に下りてくれ」と伝えるとクローズは肩をすくめて、真っ暗な穴を灯りもつけずに下りていった。
俺は皆の先頭を行ったほうがいいと思い、松明を片手に斜めの穴を滑っていった。常時警戒していたものの特別何かが起きることもなく、淡々と滑るだけの時間が続く。
視界の先にある暗闇がいつになったら明るくなるのだろう? と滑り続けること3分――――ようやく先の方が明るくなりはじめ、急傾斜の勢いを乗せた俺達は洞窟のような穴から飛び出した。すると俺達は夕方程度の明るさはある広めの空間へと勢いよく放り出される。
ずっと暗いところを進んでいたのに加えて、ソリ滑りのように勢いがついている状態から転がったこともあって目を瞑った俺は転んでしまった。軽く打ちつけた腕を抑えた俺はゆっくりと瞼を開く。
どうやら俺達は小高い丘のような場所に立っているらしく眼下にはシンバードに似ている風化した街が広がっていた。
白を基調とした石造りの建物が多く、家や屋根の形も四角に統一されていて、斜めのところなどほとんどない。目に映る特徴はどれもシンバードにそっくりだ。
街の更に奥にある宮殿のような場所も薄い青色で丸っこい造りをしていて、周囲に比べて少し異質で荘厳さを感じるところもシンバードの王宮殿とよく似ている。
だが、当然街の跡に人は住んでおらず、既視感と不気味さが混ざった経験の無い状況に胸のざわつきを覚える。皆が不思議な光景に言葉を失っているとクローズはクスクスと笑い、両手を広げて告げる。
「ようこそ、
「…………」
クローズの皮肉を受けたシンは黙りこんでしまった。きっとシンなりに思うところがあって
俺がシンに代わってクローズに言い返してやろうかと思ったけれど、シンが聞き流そうとしている以上、掘り返すのもよくない。俺は何も言わない事にした。
皮肉を言い終えたクローズは50メードほど東にある階段から丘を下りていく。仕方なく後をついていき大通り跡に到着した俺達は上から見下ろした時には分からなかった街の異様さに気が付いた。
周囲にある家、公園、庭具、扉など、全ての物体が普通より2倍程サイズが大きいのだ。上から見た時は街全体を見下ろしていて、他に比較できるものが周りになかったから遠近感が狂って分からなかった。まるでハイオークやドラゴンニュートが生活していたのかと思うぐらいに全てが大きい街だ。
驚いている俺達を見たクローズは近くにある家を指差し、
「ここにはかつてトルロ族という種族が住んでいてね。君達人間をそのまま2倍ほど大きくして筋骨隆々とした感じの見た目と言えばいいかな。そんなトルロ族は戦いに長けた部族でね、狩りを主軸に国を大きくしていった。やがてトルロ族は2つの派閥に別れ、ここの統治権を巡り、長い間、戦う事になった」
流石にハイオークみたいな魔獣が暮らしていた訳ではないようだ。まさか、人間を大きくしたような種族が文明を築いていたとは。
一応、巨人に関する逸話や伝説などは色々な国で聞いたことがある。俺とリリスが出会った町ヘカトンケイルも巨人の英雄を模した石像を立てるぐらい巨人に関する話は有名ではある。だけど、シンバード級に文明を築いた話はフィクションですら聞いたことがない。
クローズの事は嫌いだけど、奴の話には非常に興味がある。掘り下げてみることにしよう。
「その争いとやらはどうなったんだ? 見た限り
「全く武力衝突が無かったわけじゃないけど、戦闘跡が残る規模の争いはなかったようだね。と言っても争いがおきる前に地殻変動に飲み込まれ、地下空間から出られなくなったトルロ族はそのまま飢餓で死んでいった過去があるからね。地殻変動が無ければ身内で醜く殺し合い、立派な戦場跡が出来ていたかもね、フフフッ」
「何がそんなに面白いんだ? 人の死や争いがそんなに好きか?」
「別に死や争いを好んでいる訳ではないよ。ただ、愚かな種族に相応しい末路だと思ってね。トルロ族が同種族で争わなければここ以外にもっと領地を広げていたはずだ。結果的に種族そのものが滅びる事はなかったかもしれないだろう? そういった意味では人間なんてもっと愚かだよね? 大陸各所で大小様々な争いを繰り広げてきたのだから」
「だが、俺達シンバード陣営と帝国は最終的に手を取り合う事ができた。全ての行動が最善だったとは言い切れないが、それでも皆で必死に考えて、汗を掻きながらここまでこられた。その過程には先人の失敗や反省の土台があり、今の俺達がいる。笑っているお前の方が滑稽だよ」
「手を取り合った……か。そんなのは一時的な平和に過ぎないと思うけどね。現に人類はずっと休戦と戦争を繰り返してきたからね。人類はいつも戦争・殺人・勝利を後付けで美談にしたがる愚か者だ、君達のようにね」
「なんとでも言えよ、人類が平和を目指して100回失敗してきたのなら俺達は101回目に挑戦するだけだ。例え上手くいかなくても必ず未来の誰かの土台になってみせる。それが冒険や過去視を通して得た俺の決意だ。お前達は俺達にやられた後、牢屋の中で世界が変わっていくのを眺めているといい」
俺の言葉を受けたクローズは嘲笑うわけでも腹を立てるわけでもなく、珍しく真剣な表情で考え込んでいる。俺の言葉が少しは届いたのかと期待したけれど、クローズは背中を向けて宮殿のある方向へ歩き出し、ポツリと呟く。
「それが君達なりの『答え』か。それもまた1つの手段か」
意味深な言葉を呟いたクローズはそれ以降何も喋らなかった。言葉の意味を聞き出そうとも考えたが、クローズらしからぬ真剣な雰囲気は別人のように話しかけ辛く、俺は声を掛けられなかった。
宮殿へ近づくにつれて建物が一層大きく豪華になっていくのを感じながら俺達は緊張感を高めていた。1歩進むごとに息苦しさが増していき、殺気を向けられているようでもあり、死に向かって歩いているようにも思える感覚が俺達を襲う。
あの仮面を俺達は知っている……初めて死の山を訪れた時にアスタロトが付けていた仮面だ。
アスタロトは声を押し殺すように笑うと、わざとらしく両手を広げて口を開く。
「やっと来たかガラルド、いや、シンバードの戦士達よ。私はこの時を待っていたぞ」