見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

427 / 458
【第427話】不安定なアスタロト

 

 

「最後にアスタロトの気持ちを聞かせて欲しい。グラドの忘れ形見であり、トルバートの代替品でもある俺を殺せば、お前は本当に幸せになれるのか? 真の意味でディザールからアスタロトになれるのか?」

 

 俺が問いかけるとアスタロトは舌打ちをした後に大きな溜息を吐いた。そのまま暫く考え込むと少しくたびれた声で答えを返す。

 

「幸せになれるかだと? たとえ憎い相手を殺したとしても……正義の名のもとに敵を殺したとしても、幸せになる事は決してない。そんなことは私が1番分かっている……くだらない質問をするな! シルフィ、リーファ、そして女神として転生したリリスすらも死んだ今、お前達を殺すのは単なる区切りの1つに過ぎないのだ!」

 

 アスタロトは今『女神として転生したリリスも死んだ』と言っていた。仮面をしているせいで俺の横に立っているリリスの姿が見えていないようだ。

 

 もしかしたらリリスが生きている事実を知れば少しは説得に応じてくれるかもしれない。俺がアイコンタクトを送るとリリスが喋りはじめる。

 

「仮面を外して私を見てディザール……湖の洞窟でガラルドさんを庇った私は確かに生死の境を彷徨った……だけど、ちゃんと生きてるよ」

 

「なっ! この声はリーファ!」

 

 今まで聞いたことのない焦り声を発したアスタロトはすぐさま仮面を外し、リリスを視認する。するとクローズの方へ視線を移し、怒気をはらんだ声で問いかけた。

 

「おい、クローズ。どうしてお前はリーファが生きていた事を黙っていた? 昨日ドライアドに行ったお前はリーファにも接触しているはずだろう?」

 

 アスタロトが問いかけると、クローズは悪びれもせずに飄々と自分の考えを語る。

 

「どうせなら黙っておいて感動の再会にしてあげようと思ってね。素敵なサプライズだろう? アスタロトは贖罪(しょくざい)だとか、お堅い事を言って、いつも仮面を外さないからね。リリスが声を出さない限りは気付かないと踏んだのさ。彼らは集団でここへ来るから複数ある魔力からリリスの魔力を正確に検知するのは難しいだろうしね」

 

「お前は本当に神経を逆撫でするのが上手いな。今日でなければお前を殴り飛ばしているところだ。だが、まぁいい、生きているのなら話は別だ。リーファには言いたいことがあるからな」

 

 アスタロトはクローズに向けていた怒りの表情を一変させて穏やかな表情を浮かべると、リリスに手のひらを向けて話し始めた。

 

「ちゃんと会話をするのは本当に久しぶりだなリーファ。こんな再会になってしまったが今からでも遅くはない……僕と一緒に大陸の人類を滅ぼさないか? 魔人の僕と女神の君が手を組めば、きっと大陸をあるべき姿に変えられる」

 

 気が付けばアスタロトは自分の事を『私ではなく僕』と言ってしまうぐらいに素の部分を出し、穏やかな声色で誘いだしていた。しかし、リリスは首を横に振ると俺の手を握り、力強い声で答えを返す。

 

「私は絶対にディザールの仲間にならないよ、貴方の考えに賛同できないもの。それに私はリーファとしての生を終えて、今は女神リリスとして生きているから。愛を誓い合ったガラルドさん、そして大事な仲間達と共に生きていくと決めたの。だから、誘いには乗らないしディザールを必ず止めてみせる」

 

 この緊迫した状況でリリスは俺達が恋人同士になったことを暴露してしまった。突然のことに仲間達は驚いて目を見開いているが、それ以上に驚いていたのがアスタロトだった。

 

 少なくとも昔のアスタロトはリーファに対し、友達以上の気持ちを抱いていたはずだ。今のリリスの言葉を受けて複雑な気持ちなのかもしれない。だが、そんな事はお構いなしにリリスは言葉を続ける。

 

「むしろ私がディザール側につくのじゃなくて、今からでもディザールが考えを改めて降参してほしいと思ってるよ。魔人になってからのディザールはずっと間違った選択ばかりしてきたのだから。私達の考えや行動に触れて改心してほしい」

 

「改心……か、まるで自分達が全て正しいかのような言い草だな」

 

「私達が全て正しいなんて言わないよ。だけど少なくとも貴方は確実に間違ってる。そもそも圧倒的な力を持っていた魔人のクローズさんがディザールを脅して、魔人の力を注入したことが悲劇の始まりだから魔人化してしまった過去は仕方ないと思うよ。でも、その後いくらでも離れられる機会はあったでしょ? 強大な力を得られたとしても、それをどう扱うかは当人次第だもの」

 

「もういい……何も喋るな、リーファ……」

 

「ううん、絶対に黙らないよ、説教したいことが山ほどあるんだから! 魔人化した後のディザールは後ずっとグラドに執着し続けたけど、あんなに優しかったグラドを恨むなんておかしいよ! 嫉妬の感情を抱くのも分からなくはないけど度を越えてるよ……。それに魔獣寄せを持つグラドが災いになると理由をつけて攻撃していた時もあったけど、害になるのを防ぐだけならストレートに殺すものでしょ? グラドの精神を壊そうとしたり、家族を巻き込むのは狂ってるよ」

 

「……あの時の僕の苦しみは……理解してもらえるとは思ってない……だから……」

 

「確かに誰かの気持ちを100%理解する事なんてできないよ。だけど、辛い思いをしてきた貴方なら人の心の痛みが分かるはずなのに……どうして道を踏み外し続けるの? グラドの妻子や全く関係ない人間を自分の復讐に巻き込むなんて。そんなの貴方が嫌いなカッツさんやコルピ・カーランよりも下劣じゃない!」

 

「…………」

 

 とうとうアスタロトは何も喋らなくなってしまった。それでも言いたいことを溜め込んでいたリリスの言葉は止まらなかった。

 

「フィルさんやザキールさんの事もそうだよ。勝手に命のコピーを作り出して自分の駒にする為に生き方まで勝手に決めてグラドに復讐しようとするなんて……。それが上手くいかなかったら今度は人類を標的にして……復讐が(いびつ)すぎるよ! 本当は自分の手でグラドを殺すことすら出来ない弱虫だったんでしょ? そんな生き方をしていたからシルフィちゃんが……私の親友が死んじゃったんだよ! 返してよ……私のシルフィちゃんを返してよッッ!」

 

 今までリリスが喉を傷めそうなほどに怒りを叫ぶ姿は見た事がない。俺はただただ言葉を失っていた。一方、アスタロトは両手で激しく自身の頭を抑えると、頭痛で苦しんでいるかのように呻き声をあげながら、怒鳴り返す。

 

「うぅっ……黙れ……黙れッッ! 今の僕に人間としての……善の心が残っているはずがないだろう!」

 

 アスタロトは体から湯気のように魔力を放出し、右手で地面を殴りつけた次の瞬間、武舞台の中心から端まで大きな亀裂が入った。拳に魔力を集中していなかったことを考えると相当な膂力を持っていることが分かる。

 

 湖の洞窟で会った時にも思ったが、やはりアスタロトは精神面が脆いようだ。あれだけ過酷な人生を歩んできたのだから普通じゃなくなるのも仕方がないとは思うが……。

 

 このままではすぐにでもアスタロトが無差別に暴れ出してしまいそうだ。一旦、リリスを止めたほうがいいと俺が前に乗り出そうとしたその時、俺より少し早くクローズが出てきて、リリスとアスタロトの間に入り、両手を左右に広げて告げた。

 

「まぁまぁ落ち着きなよ、2人とも。特にアスタロトは落ち着いた方がいい。君が頭を抱えてしまうほどに苦しむのも理解できるよ。君にとってリーファは色々な意味で大事な存在だからね」

 

 余計に煽りになったのではないか? とヒヤヒヤしながら見つめていたがアスタロトはギラリとした目つきでクローズを睨みつつも少し落ち着きを取り戻した声で「リーファは恩人ではあるが、それだけの存在だ」と言葉を返す。

 

 アスタロトの言葉を受けたクローズは場違いなニコニコ顔でアスタロトの肩をポンと叩き、俺達の方へ向き直る。

 

「この通り私はアスタロトから強く嫌われている。シルフィさんを間接的に死なせてしまった過去もあるから尚更ね。それ以外にも転生を通して沢山の犠牲を積み上げてきた存在だ。だからこそ私は絶対にサラスヴァ計画と大陸支配……そして、その先の夢に向かって進み続けるしかないんだ。君達は必ず私とアスタロトが殺してみせる、早く戦いを始めようじゃないか」

 

 クローズとアスタロトが遂に魔力を整えて戦いの姿勢に入った。口喧嘩ともいえる時間を重ね、今から戦いが始まるのだ。俺は拳を構え、クローズ達に宣言する。

 

「今からお前らを倒し、拘束して牢にぶち込んでやる。そこで反省して生き方を改めるんだな。それが出来なきゃ俺が殺してやる」

 

 俺の宣言を聞いたクローズはクスクスと笑いながら煽りの言葉を返す。

 

「フフフッ、ガラルド君がどれほど甘い男なのかは過去を調べて知っているんだよ? 無理して『殺す』なんて言わない方がいいんじゃないかな?」

 

「背負っているのは俺1人の気持ちや責任だけじゃないからな、だから気を抜かない方がいいぜ? また不意の一撃を貰っちまうかもしれない……ぜっ!」

 

 俺はドライアドの時と同じように戦いの始まりを告げるよりも早くレッド・バレットを放つ。今回のクローズは不意打ちを警戒していたらしく、すぐさま両腕を前方に並べて防御姿勢をとった。

 

 だが、俺の怒りが乗ったレッド・バレットは小さくも強烈な螺旋を両腕の間に滑り込ませ、両腕を弾きながらクローズの顔面に直撃する。

 

 再び鼻から血を流したクローズは「昨日よりも更に技のキレが増しているのか?」と困惑しながら血を拭いている。驚くクローズに追い打ちをかけるように俺は勝利を宣言する。

 

「クローズ、お前から全ての悲劇が始まった。永遠に等しい時を生きるお前が死ねば、邪悪の種を蒔く者がいなくなり、悲劇の連鎖は終わる。今の俺は甘さを捨てる覚悟と理由ができた。精々気合を入れて抵抗するといい。人間になった今のクローズは大きく弱体化しているんだろ?」

 

「クックック、いいね、着々と戦士の顔になっているよガラルド君。確かに今の私は過去の私より弱い。殺すには絶好のチャンスだろうね。だけど、甘く見ない方がいい、人間に転生した私でもモードレッド以上の強さを持っているのだからね」

 

 忠告したクローズはアスタロトやリリス達をそっちのけで直接俺に殴りかかってきた。俺は瞬時にレッド・モードを発動し、打撃戦で迎えることにした。

 

 戦いが始まってすぐ、クローズの拳が俺の腕と肩に直撃し、後ろへ大きく仰け反った。分かってはいたが、やはりクローズの基礎能力値は相当高い。モードレッドよりも強いと言い切るだけのことはある。

 

 だが、戦えないレベルではない。アスタロトが何故か傍観を決め込んでいる今、邪魔が入る前にクローズに致命傷を負わせることで敵戦力を1人でも多く削るべきだ。

 

 俺は対アスタロト用のスタミナを考えず、一気にクローズを倒す事に決め、全力のレッド・ラッシュを叩きこむ。

 

「早めに倒させてもらう! 喰らえ、レッド・ラッシュ!」

 

 燃費を度外視した火力と手数特化の拳の雨がクローズの体に炸裂する。

 

「ぐぁっ! ぐああぁっ!」

 

 俺の拳がヒットした箇所全てにダメージを与えている手ごたえを感じる。呻き声をあげながら被弾と共に後ろへ下がっていくクローズ。全身を痣と血で染め、反撃すらできないようだ。

 

 一瞬、手を抜かれているのかとも考えたが打撃を受けて怪我をしている以上、クローズも必死なはずだ。演技ではないだろう。

 

 過去視で見た時のクローズは魔人の体だから圧倒的な力を持っていただけなのだろうか? だが、基礎能力が高いのはさっきのやりとりで分かっているし、基礎能力が高くなければ魔人化しても強くはなれないはずだ。

 

 手応えと不気味さを感じながらラッシュを繰り出し続けた俺は最後にクローズの顎を下から拳で打ち上げて体を浮かせる。続けて最小限の動作で両手に魔力を溜めて構え、思いっきり解き放つ。

 

「吹き飛べ! レッド・テンペスト!」

 

 両手から放たれた熱砂の螺旋。音と砂の感触を通してクローズにダメージを与えているのが伝わってくる。砂粒1つ1つが自分の指みたいに繊細になっている感覚だ。そのおかげでレッド・テンペストによって向こう側が見えなくてもクローズが血を吐き、胸と両腕に傷を負わせているのが分かる。

 

 俺は自身の破壊力とコントロールの成長に驚きながらレッド・テンペストで押し続けた。熱砂の螺旋を受け続けたクローズは呻き声をあげながら何とか堪えていたが、とうとう足の踏ん張りが効かなくなり、武舞台から放り出されて場外の地面へと落ちたようだ。

 

 レッド・テンペストを止めて、クローズが倒れている場所へと駆け寄った。するとクローズは倒れたままの姿勢で口から血を垂らしながら大声で笑いだす。

 

「ハッハッハ! ガラルド君の成長は予想以上だ。右腕なんて折れてしまっているよ。やっぱり君の『もう1つの力』が作用しているようだね。これほどの力を見せられたら私も出し惜しみするわけにはいかない。2つ目のスキルを使わせてもらおう」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。