見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「俺は2人の意思を継ぎ、二刀の型でお前を斬る。覚悟するんだな、アスタロト」
俺が感知の型を展開し、
「フッハッハッハッ! 強度の高い剣を2つ持ったところで何ができる? お前達のパーティーは戦える者がガラルド1人だけになり、肩で息をするほどに疲れている。おまけに扱うのは不慣れな双剣だ。無駄な足掻きを笑わずにはいられないな」
「御託はいいからさっさとやり合おうぜ、クソ親父」
俺が煽り返すとアスタロトは眉をピクピクと痙攣させて怒りの表情を見せた。そのせいかアスタロトは両腕を魔術で作り出した鉱石で覆ってから構えて、わざわざ得意ではない拳の近接戦を挑んできた。
俺とアスタロトは互いに右手の剣と右拳を突き出して衝突させた。すると踏ん張っている足裏が3メードほど後ろへ地面を削る。多少パワー負けてしているがやりようはある。それに戦えるのが俺1人になったから、アスタロトは完全に侮ってくれている。
今こそアスタロトへダメージを与えるチャンスだ。俺はわざと少しだけ隙のある斬撃を繰り出し、アスタロトが懐に入ってくるよう誘い込むことにした。
剣と腕が一撃、二撃、三撃と衝突する。俺の持つ
「これで終わりだ!」
クリーンヒットを確信したアスタロトが俺の脇腹を目掛けて、曲線軌道の拳撃を繰り出す。今こそ俺流の剣技を見せる時だ! 足裏に忍ばせていた高密度魔力の
「なんだと!」
いきなり動きのキレと剣裁きが変化した俺にアスタロトは驚きの声をあげる。だが、俺は受け流しだけで終わらせるつもりはない。体のスピンによって生み出された勢いを活かすべく、さっき上方向に弾かれた
「喰らえ!」
俺の振り下ろした
「うがああぁっ!」
肩に斬撃を受けてアスタロトは怯んだが、ここで攻撃の手を止めるつもりはない。ヤケになってガムシャラに振り回すアスタロトの拳を感知と回転砂による体の捻りで躱し続け、連続でアスタロトの体に斬撃を刻み続ける。
俺がわざと隙を作り出して、カウンターから猛追撃を繰り出す作戦に気付いたアスタロトは堪らず、風魔術で後ろに飛んで距離を取った。
体に幾つもの傷を刻み、肩で息をするアスタロトはこちらを睨む。
「何なんだ、お前の剣技は……。まるで昔から双剣使いだったかのような……。それに最初の挙動……わざと隙を作り、この私を騙したな!」
「そんなに怒るなよ、戦いなんて騙し合いの連続だぜ? それに元々俺は剣士だった。向こうで倒れているレックと同じパーティーで先頭に立って攻撃を受ける盾役をしていたからな。だが、回転砂主体で戦うようになった最近は武器に魔力を割くのが難しくなった。だから拳で戦ったり、砂を回転させやすい円柱状の棍を扱っていただけの話さ」
「なるほど……元々魔力を込めてある2つの剣を託されたこと自体都合が良かった訳か。お前はとことん私を不快にさせるな……。さっきの剣技もグラドの面影を感じて、虫唾が走ったぞ」
「そうかい、そりゃよかったぜ。やっぱり親子だから似たような動きになるのかもな。それじゃあ、お前はグラドの血と技が宿ったガラクタ息子にやられちまう訳だな。最高に気分がいいぜ!」
「黙れッッ! 黙れッッ! 私が……ハァハァ……貴様なんぞに負けるわけが……ハァハァ……ないだろう!」
「どうした? 随分と息切れしているじゃないか?
「クソッ! お前は……お前達は一体なんなんだ! 私は……僕は……ここで何をしている? 何十年もずっと頭に闇がかかっているような感覚が拭えない……僕の心はどうすれば晴れるんだ!」
アスタロトは疲弊しているにも関わらず地面を殴って怒りをぶつけている。自分自身のことも『私ではなく僕』と言ってしまっている。ディザールの精神に戻っているような言動だ。
アスタロトの言動が普通ではなくなっていることに驚かされたが、それよりも驚いていることがある。それは俺自身いつも以上に敵を挑発してしまっている点だ。
俺にだって多少の負けん気はあるし、煽った方が敵のミスを誘えることは分かっている。だから戦略的に煽る時もあるが、今の自分が挑発した理由はどちらでもない気がする。
アスタロトが赤子の俺を拉致したことによって全てが狂い始めた……だからこそ俺は心の底で強い憎しみを抱いているのかもしれない……。だが、捉えようによっては拉致されてナフシ液に浸けられて、長い時をすっ飛ばしてディアトイルで拾われた過去があるからこそ今の俺の立場や人間関係があるともいえる。
だから憎しみが無いわけではないけど憎しみが1番の理由ではないはずだ。今は目の前のアスタロトがいつ攻撃してきてもおかしくない状況だというのに俺は自分の心の事ばかり考えてしまっていた。
僅か数秒の間で色々な考えが脳内を飛び交っている。頭が混乱しそうになったその時、俺は不意にアスタロトの本質に気づくことができた。
きっとクローズと出会って以降のアスタロトはずっと『全力の怒りと悲しみとパワー』をぶつける相手がいなかったはずだ。五英雄の中には魔人であることを明かせずに先立ってしまった者もいるし、悩みを話せる相手なんてシルフィぐらいしかいなかったはずだ。
そのシルフィだって亡くなってしまい、リーファとも長い間離れ離れになっている。シリウスとは直接戦ってはいないものの敵対関係だ。
そして自分の全魔力をぶつけられるような存在はクローズが人間へ転生……弱体化したことで存在しなくなった。つまり暴れても止めてくれる者がいなくなったわけだ。
人間は大切な存在が死んだ時、弔いの場で改めて別れを告げて涙を流し、気持ちを爆発させることで死を認識して受け入れていく。だが、アスタロトは墓前に立つことはあっても、しっかりとした別れは出来なかったはずだ。
アスタロトの気持ちと自分の心を改めて見つめ直した俺はさっきまでとは違う心持ちで剣を構え、アスタロトの目を真っすぐ見つめて呟く。
「心に掛かった暗闇を晴らしたかったら本能のまま俺にぶつかってこい。長い時をかけて壊れたアスタロトの心を俺が受け止めてやる」
「クソッ! グラドみたいな台詞を吐きやがって! お望みなら僕の全力をみせてやる! もう、ガラルドを侮って近接戦なぞ持ち掛けはしない! 僕の得意な魔術で殺してやる!」
自分の事を『私』と言っていた冷静なアスタロトは完全に消え去り、過去視で見た若かりし頃のディザールと完全に同じ口調になっている。アスタロトは俺から距離を取ると周囲に魔力で作り出した帯状の青い文字列を浮かべた。
文字を浮かべる魔術なんて見た事もなければ聞いたこともない。迸る魔力と不気味さに鳥肌が立った俺は後ろへ跳んで更に距離を離すことにした。しかし、アスタロトは一定の距離を維持する為にこちらへ近づいてきている。
そのまま詠唱を完了させたアスタロトは浮かべていた帯状の青い文字列を破裂させて、魔術を唱える。
「水の包囲網よ、ガラルドを潰せ、ブルー・シージ!」
アスタロトが叫ぶと同時に俺の周囲が直系50メードはある半球状の水の網に覆われた。この空間を作り出した水の網自体は叩けばすぐに壊れそうだし網目の幅も通り抜けられるぐらいに広いが、そんな隙をアスタロトは与えてくれなかった。
なんと俺を覆った水色の網からとんでもない数の水の矢が飛んできたのだ。俺は慌てて最初の1本を躱すことができたものの地面に刺さった水の矢は体に刺されば貫通しそうな程の威力だ。
勢いのある水は鉄すら破壊すると聞いたことはあるが、ブルー・シージは1本1本がそれ以上の破壊力だ。こんな矢を全方位から喰らったらひとたまりもない……。俺は水の矢を受け流すべくサンド・ストームを展開する。
「矢を受け流せ! サンド・ストーム!」
俺が展開したサンド・ストームは狙い通り矢を次々と受け流す。だが、この選択は間違いだったとすぐに気付かされることとなる。
サンド・ストームで無数に飛んでくる水の矢を受けたことで徐々に砂が水を吸ってしまったのだ。段々と重くなり回転力がなくなる様子を見たアスタロトは冷静さを取り戻して笑っている。
「クックック、私が何の計算も無く、大技を展開すると思うか?
だが、今は後悔よりも打開策を練るのが先決だ。
結果、俺が取った選択は後者となった。俺は燃費が悪くなるのを覚悟で
「水なんか蒸発させちまえ! レッド・ストーム!」
俺がレッド・ストームを展開すると熱砂は水の矢を次々と蒸発させる。砂が纏っていた水分も全て蒸発させる事ができた。
だが消耗している今、レッド・ストームを長時間発動しつづける余力はない。とにかく展開されているブルー・シージの空間を脱出してレッド・ストームを解除しなければ。俺はレッド・ストームを展開したまま移動できるように歩きながら半球の外周へと向かう。
このまま歩けば15秒もかからずにブルー・シージを抜けられる……そう考えていた俺はすぐに打ちのめされる事となった。なんとアスタロトがブルー・シージを俺の歩行に合わせて動かしているのだ。
アスタロトは邪悪な笑みを浮かべながら勝利を宣言する。
「残念だったな、ガラルド。まさかブルー・シージをまるごと動かせるとは思わなかっただろう? 私の魔術センスを以てすれば、空間魔術すら動かすことが出来るのだ。さあ、魔量を使い切り、穴だらけになったお前の死体を見せてくれ!」
状況はかつてない程に最悪だ……このままレッド・ステップで無理やり水の矢の雨を突っ切ったら、それこそ身体中が穴だらけになるだろう。感知の型で矢の動きを読みながら移動する事も考えたが横も縦も全方位に水の矢が飛んできている現状、極小の
打てる手も魔量も時間も無い……これまで何度も死闘をくぐり抜けてきた俺でも流石に今回は厳しそうだ。せめて、残ったグラッジ達がアスタロトと戦う際に少しでも楽が出来るようにしなければ。俺が長時間ブルー・シージを使わせてアスタロトの魔量を削ってやる……それが、俺に出来る最後の仕事だ。
覚悟を決めた俺はレッド・ストームの維持に神経を集中させる。すると次の瞬間、俺の耳に叫び声が飛び込んできた。
――――レッド・ストームを解除してください、ガラルドさん! ――――
突然の声に驚く俺。だが不思議と迷いはなく、即座にレッド・ストームを解除していた。何故なら俺の耳に届いた声はリリスの声だったからだ。
レッド・ストームを解除すると同時に俺の懐へ瞬間移動するリリス。すぐに俺の手を握ると続けてブルー・シージの外を見つめて叫ぶ。
「アイ・テレポート!」
ブルー・シージから200メード以上離れた位置に瞬間移動したリリスは激しく息切れしながら俺に笑顔を向ける。
「ハァハァ……気を失ってしまい、ごめんなさいガラルドさん。ハァハァ……ようやく助けに来られました」