見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第434話】毒とレストーレ

 

 

「やっと隠れるのをやめたか。やはり、お前らをおびき出すには仲間の命に刃を突き立てるに限るな。どうだ? 隠れている間に私を倒す算段はたてられたか?」

 

 アスタロトは勝ちを確信したような態度で尋ねてきた。俺達の作戦をさとられるわけにはいかない、ここはとりあえず誤魔化しておこう。

 

「まぁ、それなりってところだな」

 

「それなり……か。リーファが抜き身でレストーレを持っている様子を見る限り、私にレストーレを当てる狙いが透けて見えるが、まぁいい。私はレストーレを喰らわずにガラルドを殺し、リーファからレストーレを取りあげるだけだ。お前たちが手を抜けるほど甘い相手ではないと分かっている。リーファだけは殺さないが動けなくなるレベルのダメージは与えさせてもらうぞ」

 

「相変わらずリリスに甘くて、俺に厳しいな……。やれるもんならやってみろよ!」

 

 語気を強めて言葉を返した俺は2本の剣を構え、リリスと共にアスタロトに向かって走り出した。右手に持つ緑剣(りょくけん)を頭目掛けて振り下ろすとアスタロトは素早いバックステップで距離をとって魔術を練り、高速で石の矢を飛ばす。

 

 俺は石の矢を剣で弾き、リリスは氷魔術で防ぎながら前進する。何度もアスタロトに攻撃を当てようと試みたが、その度にアスタロトは様々な属性の魔術を放ち、懐へ入られぬよう中距離を維持し続けていた。

 

 さっきまでは俺を舐めていたから近距離で戦ってくれていたが、今は簡単に近づけさせてもらえそうにない。少しずつ押されはじめた俺達を見てアスタロトは笑みを浮かべている。

 

 やはりアスタロトは魔術のスペシャリストだ、これだけ疲れていても俺達2人を手玉に取るレベルの動きを維持している。

 

 距離を保たれて以降は全くダメージを与えられず若干不安な気持ちになるけれど、俺達の作戦に支障はない。俺はリリスとアイコンタクトを取ると両手に魔力を込めて解き放つ。

 

「距離をとるならこっちも遠距離技を撃たせてもらうぜ! 喰らえ、レッド・テンペスト!」

 

 俺の両手から放たれた熱砂の暴風は眩しい光を放ちながら敵を正面にとらえる。するとアスタロトは氷の壁でレッド・テンペストを受け止めると余裕の声色で呟く。

 

「焦って消耗の激しい技を使ったか? 馬鹿な奴め」

 

 単純なパワーや押し合いではアスタロトに負ける事ぐらい俺だって分かっている。この作戦はレッド・テンペストを当てる事が目的ではない。第1フェーズは近接戦を持ち掛けること、そして第2フェーズは俺が焦って大技を放ったと思わせるのが目的だ。

 

 俺とアスタロトの間で魔力がぶつかり合い、光で互いの姿が視認できなくなるように仕向けるのも第2フェーズの行程だ。

 

 次の第3フェーズでとる行動はリリスが横を向いてアスタロトから離れた位置にアイ・テレポートし、移動を終えたらまたすぐにアイ・テレポートをしてアスタロトの背後に立つことだ。これで俺達は挟み撃ちをする形をつくれるはずだ。早速リリスはアスタロトに聞かれないように小声でアイ・テレポートを発動する。

 

「アイ・テレポート」

 

 リリスは俺とアスタロトが押し合っているポイントから30メード離れた位置へ瞬間移動を完了させた。あそこはアスタロトから見て左斜め後ろの位置……死角になっている。

 

 未だにレッド・テンペストを氷壁が抑え続けている様子を見る限り、アスタロトはリリスが後ろ方向にいることに気付いていないようだ。リリスは1回目の瞬間移動を完了させた直後、アスタロトの後ろ1メードの地点を見つめて再度アイ・テレポートを発動する。

 

 約30メードの距離を瞬時に往復したリリスは続けてアスタロトの背後からレストーレで刺撃を繰り出すはずだ。

 

 それで俺達の第3フェーズが完成する。俺はレッド・テンペストで押し続けながら、その時を待ち続けた。しかし、次の瞬間俺の耳に飛び込んできたのはレストーレが弾かれた音だった。

 

 レストーレはレッド・テンペストと氷壁がぶつかり合って発光しているポイントから勢いよく真上へと飛んでいってしまった。恐らくアスタロトは氷壁での防御を維持したまま、リリスの放った突き攻撃を腕で弾いたのだろう。

 

 レストーレが弾かれたことで発せられた金属音が廃王園(はいおうえん)の閉じた空間に虚しく響き渡る。レッド・テンペストを解除したことで発光が消え、アスタロトが背中を俺の方に向けたままリリスを見下し、高笑いしている姿が目に入る。

 

「フッハッハッハ! 力押しの目くらましと連続アイ・テレポートで背後に回るとはな。中々いい作戦だったが、リーファのスキルを知っている私が相手では分が悪かっ――――うぐっ!」

 

 アスタロトは突然手で胸を抑えて苦しめ始める。困惑したアスタロトは追撃を避けるために慌てて羽を広げて空中へと飛び上がった。アスタロトは「お前等……何をした!」と叫び、血走った眼でこちらを見つめている。

 

 当然、俺もリリスも何故アスタロトが急に苦しみ始めたのかを知っている。俺が順を追って説明してやる事にしよう。

 

「簡単な話だ、レストーレを持ったリリスこそが囮だったんだよ。勘が良くて魔術に長けたアスタロトなら前方のレッド・テンペストを防御しつつ、アイ・テレポートによる後ろからの攻撃を警戒すると踏んだんだ。レストーレを当てられればベストだが、当たらなかった場合に備えて俺達は次の攻撃を忍ばせていた。それが七恵(しちけい)の楽園で得た植物の毒だ」

 

「なに? 植物の毒だと?」

 

「魔力制御を狂わせる花『コンフ』 纏っている魔力を離散させる花『ヴァリアン』……それらを改良して液状化させた毒を俺達は持っている。博識なお前なら名前ぐらいは聞いたことがあるかもな。リリスからの攻撃を防いでいる間、俺がお前の体に毒を喰らわしたんだ」

 

「馬鹿を言うな! そんな攻撃を喰らえば気が付かないはずが――――ん? なんだ、この甘い匂いは……まずい!」

 

 慌てだしたアスタロトは自分の周囲に風を起こすと、今度は顔に手を当てて光属性の魔術を発動し始めた。恐らく、甘い匂いによって俺が仕掛けた毒の存在に確信を持ち、浄化魔術で解毒に取り掛かったのだろう。

 

 だが、そんな場当たり的な浄化魔術で元の状態に戻れるほど優しい毒ではないと戦争前の研究で分かっている。だから俺達が慌てることはなかった。

 

 ようやく事態を飲み込めたアスタロトは肩を震わせながら俺に詳細を尋ねる。

 

「やっと理解できたぞ……つまりレッド・テンペストとリーファに意識を集中させているうちに、極小の魔砂(マジックサンド)に毒を付着させて動かして私の目、鼻、口、傷口から染み込ませ……いや、循環させたのだな? 人間も魔人も何かに集中していれば嗅覚などの他の感覚が鈍る性質がある……そこを突かれたわけか……」

 

「ああ、その通りだ。正直、毒を吸わせるバイオルやミニオスみたいな戦術はとりたくなかったさ。そもそも魔砂(マジックサンド)は誰かを守ったり治療したいと願うシルフィ母さんが使っていたスキルだからな。提案してくれたリリスも心が痛かったはずだ。最近になってようやく魔砂(マジックサンド)の体内循環を覚えた俺に毒を使わせることになっちまったわけだからな」

 

「そうか……才能値(さいのうち)の低かったお前が、そこまでシルフィに近づいていたか。グラドやシルフィの面影が見えるガラルドは不愉快極まりないが、少しは認めなければいけないな」

 

「そうかい、ありがとよ。それじゃあついでに降参してくれねぇか? レストーレ程じゃないにしても毒状態で戦うのはきついだろう?」

 

「馬鹿を言うな。人数と毒のハンデを背負っても私が負ける事は無い。多少魔力の制御が難しくなろうとも、お前達とは強さの土台が違う。それを今から証明してや――――」

 

 アスタロトが話していると突然俺達の立っている宮殿のバルコニーが大きく揺れ、建物の裏側から爆発音が聞こえてきた。近くでグラッジ達とクローズ達がやり合っているのかと思い、バルコニーから下を覗くと、ちょうどクローズが下の地面から跳び上がりバルコニーに着地した。

 

 続けて追いかけるようにグラッジ達もバルコニーまで上がってくると、クローズがクスクスと笑いながらアスタロトに声をかける。

 

「ハハッ、どうやらアスタロトも随分と苦戦しているようだね」

 

 

 

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