見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「私が立てた仮説……いや、理論と言った方がいいかな。今からヒュドラ理論と名乗る事にしよう。ガラルド君の体にはそのヒュドラ理論が適応されているのさ!」
クローズが楽しそうに訳の分からない事を言いだした。ヒュドラと言えば俺達がイグノーラで戦った九つの頭を持つドラゴンの事だが、奴の言っている事に一々驚いていたら疲れてしまう、ここは何も言わないでおこう。
クローズは俺達が反応を返さないでいると少し寂しそうな表情を浮かべ、ヒュドラ理論について語り始める。
「ヒュドラは君達も知っての通り、九つの頭と首を持つドラゴンだ。あの魔獣は脳みそも九つあって全てが意思をもって動いている。そして、君達は知らないかもしれないがヒュドラは魔力・臓器・食した物を共有し合う性質がある。だから、別の頭が吐いているブレスもある程度は真似する事ができるんだ。とは言っても頭ごとに得意なブレスがあるから、全部の頭が火を吐いたりすることはないのだけどね」
「お前達が抱えていた魔獣なだけあって詳しいな。そのヒュドラと俺が同じだって言いたいのか?」
「正確に言えばヒュドラの下位互換かな。ここからは時系列に沿って話そう。まずガラルド君は赤子の頃に多くの細胞を取り込んだよね。結果、普通の人間とは比べ物にならないほどに外部からの細胞を取り入れやすい体質になった。各種細胞が内包している『記憶・情報』をある程度取り込むことが出来るようになったわけだ。それが今の
「ああ、下位互換って言い方は腹立つが理解はできた」
「私が下位互換と言ったのには幾つか理由がある。1つは脳と体の問題だ。ヒュドラみたいに多くの頭と大きな体による魔力貯蔵庫があれば、それぞれの頭で得意な技を分担したり、体内で余裕をもった魔力錬成が出来る。だが、ただの人間であるガラルド君が複数の魔力や情報を一個体の中で制御するのはかなり難しいはずだ。実際、昔のガラルド君は肉体自体は強くても魔術は下手だったんじゃないかな? 思い返してごらん」
言われてみれば確かに俺は魔術が下手だった。周りの同年代が指先から小さな火を起こす程度の魔術を扱えているのに、俺は2,3年遅れでようやく修得した記憶がある。
周りの大人が魔力コントロールを穏やかな清流に例えながら懇切丁寧に説明してくれたけれど、俺の体の中ではずっと濁流のように荒々しく魔力が流れていた気がする。魔力の色……もとい性質も妙に濁っている感覚があった。
結局、苦手な魔術を人の何倍も努力する事で平均的な人間よりも少し劣る程度まで鍛え上げ、苦手な魔術を補う為に血の滲むような肉体の鍛錬をしてきた。
当然、体を沢山動かせば人並み以上に飯が欲しくなった。腹を空かせていた俺は辺鄙な村で食料が限られていた事もあり、他の人は絶対に食べない死ぬほど不味い魔獣の肉を頑張って食べていた過去がある。
ディアトイルを出た後も少しでも強くならなければいけないと思い、出来るだけ沢山の種類の魔獣と戦い、知識と経験を積み重ねながらハンターとして旅を続けた。
その旅の途中でスキル鑑定を行い、先天スキルを持っていることに気が付いたけれど、石版の古代文字を上手く読めなかった俺は
結果、スキルを使いこなせないままレックのパーティーに入り、盾役としてしか使えないハンターと馬鹿にされ、お荷物扱いされてきた。
俺はリリスに出会う前までの過去をクローズに全て伝えた。すると、クローズは小刻みに頷きながら自身の見解を述べる。
「やっぱりガラルド君は合成の霧、魔獣肉の摂取、多くの戦いなどを通して自身に宿る魔力を複数混合……つまり複雑化させていったようだね。そりゃ中々芽が出ないハンターになるだろうさ。無意識とはいえ何種類もの魔力を操っているようなものだからね。そんな複雑な魔力操作が当たり前の感覚になってきた頃に回転砂の性質を理解し、第2のメイン魔力である緋色の魔力を覚醒させたわけだね」
「そうか、クローズが『ヒュドラの下位互換』と言った理由が分かったよ。まずメインとなる2つの魔力は俺自身の魔力とシルフィ母さんの緋色の魔力だ。そして触れたり摂取してきたことで少しずつ得る事ができた無数の魔力……それらが俺を不思議な人間に仕立て上げたんだな。これじゃあ俺が
「アッハッハ!
クローズは狂気的な笑みで俺を見ている。解剖されるのは御免だが、俺自身まだ気になっている点が2つある。1つは咄嗟に発動したレッド・バレットが異様に体に馴染んでいたことだ。
魔力を銃のように水平に押し出す技……そんな性質の技を過去に受けた覚えがあるか思い返してみると、モードレッドの放ったアイス・バレットが少し近い性質かもしれない。思えば感知の型もフィルから着想を得て瞬時に自分の技にすることが出来た技だ。
そして、気になる点のもう1つは俺の後天スキルだ。後天スキルを持っていること自体は海底集落アケノスで行ったスキル鑑定で判明したものの未だに古代文字が解読できず、部分的にしか性質が分かっていない。
最後の戦いだというのに自分自身の事をあまり理解できていなかったことを痛感させられるばかりだ。この戦いの間に後天スキルの事が分かればベストだが、分からなかった時はゆっくり見つけ出す事にしよう……アスタロト達を止めて、平和になったモンストル大陸を仲間と共に歩みながら。
「自分の事を少し理解する事ができた、その点だけは礼を言わせてもらう」
俺は礼を伝え、アスタロトの方へ向き直って拳を構えた。クローズも言いたいこと言えて満足気にしており、アスタロトも腑に落ちた表情をしているように見える。
クローズは改まって咳払いをすると、今日1番の嬉しそうな笑顔を浮かべて拳を構える。
「さあ、過去と因縁に決着をつけようじゃないかアスタロト。君と一緒なら、どんな敵にも勝てるはずだ。そして、勝利を掴んだ後は計画を進めようじゃないか」
クローズの言葉を受けたアスタロトもまた、嬉しそうな顔で拳を構えて言葉を返す。
「過去と因縁か……言い得て妙だな。ガラルドの強さについて話を聞き、改めて思ったぞ。ガラルドという存在自体が私の過去・失敗・仲間・因縁、全てに繋がっていると。そして、横にいるガラルドの仲間達もまた奴の引力に導かれた者であるとな。グラドの血を持ち、グラドを超え、私の宿敵となったガラルドを今こそ葬る時だ。そうすることでやっと私の心に決着がつき、真の前進が始まる!」
※
俺達の間に戦闘前の静寂が流れる――――俺達が先に動くか、アスタロト達が先に動くか。微動だにせず、拳と武器を構えたままで間合いをはかる時間が続く中、静寂は全員が刹那のズレもなく同時に動き出すことで破られた。