見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第437話】厄介なコンビ

 

 

 俺達の間に戦闘前の静寂が流れる――――俺達が先に動くか、アスタロト達が先に動くか。微動だにせず、拳と武器を構えたままで間合いをはかる時間が続く中、静寂は全員が刹那のズレもなく同時に動き出すことで破られた。

 

「ミリオン・メテオ!」

 

 最初に魔術を放ったのはアスタロトだった。アスタロトは両手を真上へ掲げると上方から夥しい数の岩を俺とグラッジに向けて降らせる。

 

 ここは被弾を避けるために高速移動で前進するか横に移動すべきだと考えた俺とグラッジは足裏に魔力を溜めた。しかし、上空から激しい衝突音が聞こえてくると同時にミリオン・メテオは大きな白い塊によって阻まれた、あれはシンの発動した白鯨モーデックだ。

 

 シンはこちらへ親指を立てると得意げに告げる。

 

「君達前衛はとにかく距離を詰めるんだ! 敵の大技を俺とサーシャ君とリリス君で妨害しつつ、援護もする! とにかく敵に考える時間を与えるな!」

 

 シンの言葉を受けてサーシャとリリスも頷いている。ここはシンに従って一気に距離を詰めよう。俺はグラッジとアイコンタクトを取り、一斉に左右へ散らばった。俺はアスタロト、グラッジはクローズを追いかけ敵2人に連携を取らせないのが狙いだ。

 

 クローズの近接戦闘がどれほどの練度か分からないが、グラッジならきっと近接戦で追い込むことができるだろう。とにかく俺は俺ができることをやらなければ。

 

 今1番大事なのは術に長けたアスタロトに大技を撃たせない事……つまり、長い詠唱をさせないことだ。俺は足裏に溜めた魔力を解放する。

 

「レッド・ステップ!」

 

 高熱の直線がバルコニーに刻まれる。同時にアスタロトは大きく横へ跳び、バルコニーから飛び降りた。慌てて追いかけた俺はバルコニーの手摺に足をかけて真下へ降りると既に地面に立っていたアスタロトは両手を俺のいる真上へと向けていた。

 

「かかったな! ブラック・テンペスト!」

 

 レッド・テンペストを黒くしたような闇属性の竜巻が俺に向かって放たれる。既に手摺から足を離してしまった俺は宙に浮いているせいで素早く避けることが出来そうにない。

 

 ここはある程度ダメージを貰う覚悟で防御技を展開するしかない。ろくに魔力を練る時間がなかった俺はレッド・ストームよりも弱い熱砂の壁を作り出す。

 

 だが、全く溜めのないスキルでは大した防御性能はなくブラック・テンペストがそのまま俺の熱砂を飲み込もうとしていた、しかし次の瞬間、俺の横から突然眩い光と共に声が差し込まれる。

 

「ゴス・フラッシュ!」

 

 俺の横に現れたのはアイ・テレポートを発動したリリスだった。リリスの放った眩い光は熱砂に衝突する事で一層輝きを増すとブラック・テンペストをまるで川を分かつ中州の如く、左右へ受け流した。

 

 ゴス・フラッシュは確かヘカトンケイルの神託の森でハイオークに殺されかけていた俺を助けてくれた時に放った技だ。あの時は目潰し目的で使っていて輝度も今より遥かに弱かったはずだ。だが、リーファとしての力を取り戻す事で技が完成形になったのかもしれない。

 

 俺の体は少しブラック・テンペストを被弾したものの、リリスのおかげでダメージをかなりカットすることが出来たみたいだ。全然痛みもないし苦しさもない。俺とリリスはそのままバルコニー下の地面に着地するとアスタロトが思い出し笑いを始める。

 

「毒の影響で出力が下がっているとはいえ、まさか私の闇魔術が捻じ曲げられてしまうとはな。流石は元神官と言うべきか。思えば初めて会った頃から光魔術に関しては相当なものだったな、リーファ」

 

「褒めてくれてありがとう、逆にディザールは昔とは違う魔術を使うんだね。一緒のパーティーだった頃は禍々しい闇属性魔術なんて使っていなかったのに」

 

「あの頃とは魔術に求めるものが変わってしまったからな。合理的に人間を破壊する魔術や拷問に向いている魔術をはじめ捻くれた魔術を沢山生み出し、鍛える事になってしまった。これらの技で次はリーファにとって大事な存在……ガラルドを破壊する事になる、許しておく――――誰だ!」

 

 アスタロトは言葉の途中で慌ただしく後ろに振り向き、風の刃を放った。驚いた俺がアスタロトの後ろ側を確認すると、そこには風の刃を防御したグラッジが剣を持って立っていた。

 

「……残念です、奇襲は失敗しましたか」

 

 どうやらグラッジはクローズを追いかけていた途中でアスタロトが背を向けているのを見かけ、後ろから斬りかかろうとしたようだ。抜け目のないグラッジを見て薄く笑みを浮かべるアスタロト。竜巻を起こして強引に俺達から距離をとったアスタロトは少し離れた位置にいるクローズに声を掛ける。

 

「どうしたクローズ? グラッジはお前の相手だろう? お前がしっかりと相手しないから隙を突いてこちらに来てしまったではないか。小僧の1人すら面倒みきれないのか?」

 

 煽られたクローズは頭を掻きながら小走りで駆け寄り、両手を合わせて謝りはじめる。

 

「いや~、ごめんごめん。やっぱり私1人ではグラッジ君、サーシャ君、シン君を同時に抑えておくのは厳しそうだ。アスタロトは僕と役割分担して戦うのは嫌かもしれないけど、ここは1つ前衛・後衛に分かれようじゃないか。アスタロトの詠唱が邪魔をされないように私がサポートする、だから魔術に集中しておくれ」

 

「……仕方ない。精々頑張って私を守ってくれよ。特別にお前の動きが良くなるように補助魔術を掛けてやる。火と風の精霊よ、猛き力と疾風の如き(はや)さを与えたまえ……スカーレット・ウインド!」

 

 アスタロトの手から魔力の線が伸び始めてクローズに付着する。クローズは今までよりも力強い魔力を纏い始めたようだ。ここにきて補助魔術を使って役割分担してくるとは。

 

 手の骨を鳴らし、一層やる気を漲らせたクローズは身体能力の向上を確かめると言わんばかりにグラッジへ突進する。

 

「さあ! まずは試運転だよ、ロック・ナックル!」

 

 腕を高密度の鉱石で纏ったクローズはグラッジに向かってぶっきらぼうに拳を振るう。慌てて千色千針(せんしきせんしん)を発動し、防御したグラッジだが、ロック・ナックルのあまりの威力に一撃で地面に叩きつけられてしまう。

 

「グハッ! な、なんて威力だ……」

 

「うんうん、流石はアスタロトの補助魔術だ。これならアスタロトの詠唱時間を稼ぎながら君達を同時に相手できそうだね。シンバード御一行さん、私でもアスタロトでもいいから攻撃してきなよ」

 

 俺達は完全に舐められているが、今のクローズには調子に乗れるほどの力がある。それから俺達はクローズを攻撃しつつアスタロトにも攻撃を放ち続けたけれど、前衛のクローズに悉く阻まれる時間が続く。

 

 クローズは各属性の魔術を駆使し、石の(こぶし)や風の矢など射程を問わず様々な攻撃を放って俺達を退けた。一方、後衛のアスタロトはクローズに守られながら一定間隔で強力な魔術を放ち、俺達パーティーの耐久力を削り続けてくる。

 

 こちらが3回ダメージを与えたら向こうは5回ダメージを与えてくる……そんな比率で戦いが続き、人数で勝っているはずの俺達の方が消耗を加速させている。

 

 クローズはアスタロトを守るという役割がある以上、後衛のリリス、サーシャにまで攻撃を加えてこない事だけが救いだろうか。それでもリリス達の魔量は確実に減っていき、敗北へのカウントダウンが進んでいく。

 

 クローズとアスタロトが連携を取り始めてから5分ほど経った頃だろうか? 実時間の何十倍にも感じるほどに苦しい戦いが続く中、クローズは突然後ろへ大きく下がりアスタロトのすぐ横に立った。

 

 一体何をする気なのかと出方を伺っているとクローズはなにやらブツブツと呟いた後、戦況を分析し始める。

 

「なるほど、君達の戦い方やスキルは大体理解できたよ。それを踏まえて戦力比を表すなら私達が10で君達が7ってところかな。君達人間は本当によく頑張ったけど、このままじわじわとやられてしまうのは確定だね。もっともアスタロトが毒を喰らっていなければここまで苦戦する事はなかったのだけど」

 

 クローズの嫌味を受けたアスタロトは舌打ちし、こちらに魔力を溜めた手の平を向けて呟く。

 

「誰のおかけでここまで戦えたと思っているんだ? クローズ1人ならとっくやられているぞ? くだらないことを言ってないで早く決着をつけるぞ。私とお前の複合魔術でな」

 

「やっと魔術を練り上げる事ができたのだね? 頑張って時間を稼いだ甲斐があったよ。それじゃあこの攻撃で終わらせようか、いくよアスタロト!」

 

「ああ、遅れをとるなよ!」

 

 クローズは左手、アスタロトは右手を突き出すと2人の魔力が一点に集まり始めた。まずい……奴らは何かとんでもない魔術を放ってくるつもりだ!

 

 ここは全員が散らばる事で被弾数を下げた方がいいのだろうか? だが『この攻撃で終わらせようか』と言っている以上、俺達を纏めて葬れるような超火力・広範囲の技である可能性が高い。

 

 ここは回避行動をとらずにダメージ覚悟で威力を減衰する技を放つべきだ。俺はハンドシグナルで素早く仲間へ指示を送り、全員が防御技の準備を始める。

 

 間もなく超火力技と大防御がぶつかり合うことになる……自身が飲み込んだ唾の音すら聞こえてきそうな程の静寂がアスタロトとクローズの叫びによって破られる。

 

 

「「氷河の息吹(グレイシャー・ブレス)!」」

 

 

 2人の手から全ての物質や気体を凍らせてしまいそうな青白い光が放射状に飛び出した。当たれば確実に命を凍らされるほどの凄まじい魔力だ……なのに青白い光があまりにも美しくて俺は一瞬だけ見惚れてしまっていた。

 

 隕石の落下や火山のマグマみたいな究極レベルの破壊力を内包したエネルギーは異次元過ぎて美しさを感じてしまうものなのかもしれない。

 

 だが、究極の氷魔術を止めなければ未来はない。俺は熱砂のエネルギーを、リリスは光の壁を、サーシャは黒猫サクのリパルシブを、グラッジは炎の大盾を、シンは白鯨モーデックを解き放って氷河の息吹(グレイシャー・ブレス)を迎え撃つ。

 

「レッド・ストーム!」

 

「シャイン・ウォール!」

 

「リパルシブ!」

 

「フレイム・シールド!」

 

「守れ! モーデック!」

 

 かつてないほどに複数のエネルギーが集結し、互いの生死をかけた押し合いが始まった。

 

 俺達は何とか氷河の息吹(グレイシャー・ブレス)の前進を食い止めてはいるものの、一瞬でも気を抜けば冷気が防御を突き抜け、俺達は凍り付いて息絶えるだろう。

 

 俺は両腕に血管を浮かべ、食いしばった歯が今に欠けてしまいそうな程に力を込めて抗った。他の皆も口から血を垂らしながら踏ん張っている。ここは絶対に堪えなければ……俺達は心を1つに魔術とスキルの出力を上げる。

 

 しかし、互いのエネルギーが衝突して発せられる光の向こう側からアスタロトが落ち着いた様子でとんでもない一言を吐き捨てる。

 

「うむ、クローズの言う通り、お前達人間はよく堪えた方だろう。だが、ここでお前達は終わりだ。均衡を打ち破るために私達はもう1段階出力を上げさせてもらおう」

 

 死の宣告に等しい言葉がアスタロトの口から発せられた。既に俺達は限界だというのに……ここから出力を上げられたら耐えられるはずがない。

 

 この押し合いが剣と剣のぶつかり合いだったら、まだ後ろに下がったり、力を受け流すことで窮地を切り抜けることが出来るだろう。だが、広範囲へ飲み込むように放たれた氷河の息吹(グレイシャー・ブレス)では抗い様がない。

 

 アスタロトが宣言通り氷河の息吹(グレイシャー・ブレス)の出力を上げ始めると、遂に俺達の防御に限界がきてしまう。

 

 なんとシンが膝をついて倒れてしまったのだ。シンは「す、すまない、ここまでのようだ」と謝った直後、押し合いの均衡が崩れ、氷河の息吹(グレイシャー・ブレス)が俺達を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死の覚悟をする暇もなく、視界一面が青白い光に包まれて堪らず俺は目を閉じた。氷河の息吹(グレイシャー・ブレス)に飲み込まれた記憶は確かにある……なのに不思議と体は冷たくない。

 

 そもそも意識があること自体がおかしい、もしかしてここはあの世だろうか? 訳の分からない状況に怯えながら俺はゆっくりと目を開ける。ぼんやりとした視界がクリアになった次の瞬間、2つの声が俺の耳に飛び込んだ。

 

「待たせたなガラルド、解毒に時間がかかってしまった」

 

「ごめんねガラルド君、でもここからは僕らも戦線復帰するよ」

 

 驚くことに俺達の前にはレックとフィルが立っていた。レックはまるでサンド・ストームのようにバニッシュの光で俺達を包み、フィルの生み出した植物は更にバニッシュの外側を包んでいた。

 

 まさかの事態に氷河の息吹(グレイシャー・ブレス)を止めたクローズとアスタロトは目を点にしてこちらを見つめている。硬直するアスタロト達を尻目にレックは俺の体を起こし、剣先を敵側に向ける。

 

「さあ、ここから反撃開始だ! いくぞ、お前達!」

 

 

 

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