見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第439話】夢を託す

 

 

「ば、馬鹿な、私が……負けるのか……グラドの血と……シリウスの置き土産なんぞに……」

 

 レストーレを刺されたアスタロトはうつ伏せのまま現実を否定している。一方、こちらの様子に気付いたグラッジとクローズは戦いの手を止め、口を開けたまま倒れているアスタロトを見つめていた。

 

 今までに見たことがない青ざめた表情を浮かべたクローズはグラッジとの戦闘を放棄し、慌ててアスタロトの元に駆け寄って仰向けに起こし、片膝を立てて手を握る。

 

「し、しっかりしろ、アスタロト! あいつらを殺し、あの世にいるグラドへ復讐するんじゃなかったのか!? こんな最後……私は絶対に認めないからな!」

 

「フッ……クローズが叫ぶ姿を初めて見たかもしれないな。お前はいつも人を揶揄うような言動ばかりの不快な奴だったからな」

 

「私のことなんてどうでもいい! 早く立ち上がるんだ! アーティファクトなんかに負けるな! このままあいつらに捕まって、一生つまらない償いを続ける姿なんて見たくないぞ! 私と一緒に計画を完成させる約束だろう!」

 

「……そうだな、そうしたかった。だが、レストーレの影響で魔人の肉体すら維持できなくなってきたからな……悔しいが、私達の負けだ」

 

 アスタロトが呟くと言葉通り魔人の肉体が発光し、徐々に人間の肉体……ディザールの肉体へと変貌しはじめた。魔人の寿命が長い影響か、人間に戻ったアスタロトの見た目は若々しく30代程度に見える。過去視で見たディザールが少しだけ大人びた姿に変わった感じだ。

 

 長いような短いような濃い戦いだったが、人間になったアスタロトを見て終わったんだな……と実感が湧いてくる。

 

 初めてパニックになっている姿を見せたクローズを直視するのは辛い。敵ながら申し訳ない気持ちが湧かないと言えば嘘になる。それでも戦いは俺達の勝ちだ。あとは2人を拘束して逃げられないように処置し、大陸を巻き込んだ戦いに終止符をうつことにしよう。

 

 俺はひとまずクローズの両手を縛る為に左手にロープを持ち、右手をクローズの手首に近づけた。すると、クローズは突然鋭い目でこちらを睨み、俺の右手を弾いた。

 

 往生際が悪いぞ! と怒鳴りつけてやろうと思ったが、クローズの危機迫る表情に押された俺は言葉が出なくなってしまっていた。クローズはふらつきながら立ち上がると、一際低い声で呟く。

 

「……アスタロトは肉体を崩壊させぬように変化の霧・合成の霧を少しずつ数十年かけて取り込んできた。それでもレストーレの強化解除には勝てないのか……。流石はアーティファクト……いや、ガラルド一行と言うべきかな。どうやら私は死ぬしかないようだな、そうだろう、ガラルド君?」

 

「このロープが見えてないのか? 既に戦えなくなった奴を殺したりはしないぞ、俺達は拘束するだけだ。もっとも一生牢屋からは出られないだろうがな。脱走もできないように魔力が練れなくなる処置もさせてもらうつもりだ。まぁ、お前達2人が寂しい思いをしないように牢屋内でも会話ぐらいはできるようにしてやるつもりだがな」

 

「相変わらず優しいね、大陸の英雄様は。だけど、計画を進められずに牢屋で生き続けるだけの人生なんて死ぬこと以上に苦痛だね。だったら死を選んででも夢を託した方がいい」

 

「夢を託す? お前は何を言ってるんだ?」

 

 俺が問いかけるのと同時にクローズはポケットから拳サイズ程の謎の赤い石を取り出すと、仰向けで倒れているアスタロトの横へと放り投げた。続けて自身の胸ポケットから青い石を取り出すと、石を真上へと掲げ始めた。

 

 何故か分からないが嫌な予感がする……2人から1番近い距離にいた俺はすぐさまアスタロトの横に転がった赤い石を遠ざけようと一歩を踏み出す。しかし、俺が赤い石に触れようと手を近づけた瞬間、強烈な電撃がほとばしり俺は堪らず後ろへ下がらされてしまう。

 

 クローズはまだ何かやる気だ……アスタロトに近づけないなら今度はクローズから青い石を奪ってやる! 俺はクローズの懐に入り込もうとレッドステップを発動する。けれど、アスタロトの時と全く同じ電撃がほとばしり、再び後ろへ下がる羽目になってしまう。

 

「クローズ! 何をする気だ!」

 

 俺の問いかけを受けたクローズは目尻を下げ、今にも泣きだしそうな笑顔を浮かべる。

 

「何をする気だって? もちろん反撃の準備さ。吸収の霧を宿した石で私の魔力をアスタロトに分け与えるのさ。アスタロトが魔人の姿を解除されてしまった以上、人間の姿のまま限界を超えなければガラルド君達には勝てないからね」

 

「馬鹿な真似はよせ、魔力を失って死んでしまうぞ! それにクローズ1人が魔力を送ったところで劇的に強くなれるはずが……あっ!」

 

 俺は言葉を発している途中でクローズの真の狙いに気付いてしまう。その真の狙いは『スキル脱皮(シェディン)』によって膨大な魔力をアスタロトに送る事だったのだ。

 

 赤い石と青い石は帝国でいうところの魔力砲やサクリファイスソードみたいに魔力を送り、受け取る機能があるのだろう。加えて魔力が通る事によって強力な電撃を放って触れさせない機能のおまけ付きで。

 

 目の前のアスタロトはじわじわと傷を治し、体に魔力が満ちていくのが見てとれる。一方、クローズはスキル脱皮(シェディン)の連続使用で益々老化が進み、あっという間に60~70歳程の年齢になってしまった。

 

 しかし、魔力を送り続けて老化を加速させているクローズには一切の迷いが無い。それどころか満ち足りた笑顔すら浮かべている。クローズは穏やかな笑顔でアスタロトの方を向き、言葉を託す。

 

「……アスタロト、君には散々迷惑をかけてすまなかったね。ハァハァ……私がいなければシルフィさんは死ななかったし、君も普通の人生を送れていたかもしれない。そんな君とシルフィさんの幸せを吸い取るかのように……私の人生は楽しかった。君達に会えてよかった。ハァハァ……私の……魔力で必ずガラルド君達を退けて……計画を進めてくれ……頼んだよ」

 

 クローズの言葉を受けたアスタロトは手を震わせながら何とか上半身だけを起こして言葉を返す。

 

「ふ、ふざけるな! 私はまだクローズへの恨みを晴らせていない! お前の事は計画が終わった後に思いっきりぶん殴ってやるつもりだったんだ! 今すぐ魔力供給を止めろ! 死んで逃げるなんて卑怯だぞ!」

 

「死んで逃げる……か。フフフッ、確かにそうかもね。私はシルフィさんを死なせてしまってから……ハァハァ……ずっと心に穴が開いていた。大事なアスタロトを傷つけて、大事なシルフィさんの未来を閉ざしたからね。ずっと1人でも平気だった私を……ハァハァ……君達という存在が変えてしまったのかな? すまない……喋れるのはここまでだ、私は一足先に……シルフィさんに謝って……くるよ」

 

 最期の言葉を言い切るとクローズはどさりと地面に倒れてしまった。スキル脱皮(シェディン)によって文字通り未来を託したクローズは穏やかな顔で命の幕を閉じたようだ。

 

 クローズによって魔量を回復させ、人間の肉体ながら自身を強化したアスタロト。ふらついた足取りで立ち上がってうなだれていたアスタロトは突然自身の体を青く発光し、魔力を爆発させると周囲にいる俺達を爆風で吹き飛ばす。

 

 まるで双蒸撃(そうじょうげき)の爆風に巻き込まれたかのような凄まじい風の影響で堪らず俺は目を閉じる。ようやく風が収まり、ゆっくりと瞼を開くと視線の先には髪の毛を逆立てて、魔力で浮遊するアスタロトの姿があり、奴の背後には過去視で見た天使ネメシスが浮かんでいた。

 

 確かネメシスはディザールがカッツの罠に嵌められた時に怒りで発現した召喚系の後天スキルだ。ネメシスは過去視で見た時と変わらずディザールの2倍ほどの背丈を有する剣を持った天使の姿だ。

 

 ネメシスは羽織ったローブも肉体も青く光っている。あの頃と同じで目も閉じているから感情も読み取り辛い。天使故に性別も分からず喋りもしない不気味な点も過去と同じだ。

 

 アスタロトは杖先を、ネメシスは剣先を俺の方へ向け、いつでも戦えると言わんばかりの雰囲気だ。俺が「まだ戦う気かアスタロト!」と問いかけるとディザールは首を縦に振り、宣言する。

 

「ここから僕はアスタロトではなく、ディザールとして戦う。友から預かった力でお前達を討つ」

 

 

 

 

 

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