見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第442話】魔人の殻

 

 

「……アスタロト様はダンザルグがどうなったか、ご存知ですか?」

 

 仲間への想いが感じられないディザールに対し、ザキールは亡くなった魔人ダンザルグの事を震え声で尋ねた。ディザールは大きな溜息を吐き、呆れ顔で呟く。

 

「さっきも言ったが役立たずのお前等のことなんか気にかけていない。故にダンザルグの動向など把握していない。ダンザルグは弱くとも真面目な奴だ、精々死の山で人間の死体を増やしているのではないか?」

 

「……ダンザルグは人類側に捕まった後、自害しました。スキルやアーティファクトによって自身が情報を漏らし、アスタロト様に迷惑を掛けてしまう事を恐れたからです……」

 

「……そうか。それで話は終わりか?」

 

「ちょっと待ってください! 俺達……特にダンザルグは貴方に対して忠義を尽くしてきた! なのに、そんな簡単に話を終わらせるのですか? 俺達は貴方にとって何なんですか?」

 

「魔獣、ブロネイル、ソニア、ダンザルグ、ザキールも僕にとってはただの駒だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 ディザールは大事な存在以外には毛ほども関心や愛が無いのだろうか? 仮にも一緒に頑張ってきた息子相手に酷い言葉を吐きやがって……腹が立ってくる。

 

 本当は今すぐディザールの胸倉を掴みたいところだが、今は回復を優先しなければいけない。それにザキールが1対1で話をする大事な場面だ、我慢しなければ。

 

 俺以上に拳を震わせているザキールは懐から何かを取り出すと、それをディザールの前に掲げた。少し遠いからよく見えないが瓶か何かだろうか? ディザールも何か分かっておらず沈黙する中、ザキールが説明を始める。

 

「駒だって……? ふざけるな! こいつを見ろ! これは魔術で自害し、泥状(でいじょう)化したダンザルグの遺体だ。奴は死ぬ前に遺体を大陸北の海へ流して欲しいと願った。その願いは敵であるガラルドですら聞き入れてくれて、俺達は泥状(でいじょう)化した遺体を分け合った。なのに……あんたには欠片も弔いの気持ちが無いのか!」

 

 とうとうザキールは敬語も無くなり、声を荒げてディザールに訴え始めた。遠くて見えなかったが、あの瓶が俺も預かっていたダンザルグの遺体だったとは……ザキールの一際熱い想いを感じる。

 

 しかし、ディザールは氷のように冷たい目でザキールを見つめると指先を瓶の方へ向けて風の刃を放ってしまう。瓶は小さな破壊音を発してバラバラに砕けてしまった。

 

 瓶を持っていたザキールの右手にダンザルグの泥状(でいじょう)化した遺体が滴る中、ディザールは吐き気を催す持論を並べる。

 

「そんなものを大事に持ち運び、情だの誇りだのに拘るな。だからガラルドもお前も三流なのだ。そんな小汚い泥は海ではなく地面にでも捨てておけ。そして、お前はさっさとガラルドを見つけてこい」

 

 ディザールが吐き捨てるとザキールは糸の切れた人形のようにうなだれた。表情が見えないから分からないが、完全に心が折れてしまったのだろうと俺は予想した……だが、答えは違った。

 

 ザキールは体から凄まじい熱量の黒い炎を生み出して鎧のように纏うと、指先を前に向けて黒い糸をディザールに伸ばした。

 

 あの黒い糸はザキールの3つ目のスキル『ジェロイ』だ。この黒炎(こくえん)が灯り、黒糸(こくし)で繋がっている間、ザキールは憎しみ抱いている相手に力を増大させることができる。しかも、憎しみが強ければ強いほど力は比例して大きくなる性質がある。

 

 ジェロイを展開している間は黒糸(こくし)で繋がっている相手以外には防御力が激減してしまうデメリットはあるけれど、1対1である現状では関係ないデメリットだ。

 

 ザキールは俺と戦った時とは比較にならない魔力を纏い、黒炎の化身とでも言わんばかりの様相で拳を構えた。離れた位置にいる俺達にもしっかり聞こえるように割れんばかりの大声で叫んぶ。

 

「俺は今からクソ親父を殺す! お前らは精々体を休めておくんだな!」

 

 ザキールが全力で叫んだのは俺達が隠れているポイントの候補を広げる為だろう。普通の声で語り掛ければ近くの瓦礫や物陰に隠れている事をディザールに悟られるからだ。

 

 一方、ディザールは殺されるはずがないと確信を持ち、余裕の笑みを浮かべてザキールを煽る。

 

「駒のお前が僕を殺す? ハッハッハ! 冗談は程々にしておくのだな。いくらお前がジェロイを発動しようとも僕に勝て……ガハッ!」

 

 俯瞰で見ていた俺ですら動き出しを見極めるのがやっとなほどに素早い拳撃がディザールの腹へめり込んだ。

 

 より正確に言えば拳が届かない位置にいたはずのザキールが魔力の拳撃を飛ばしてディザールの腹に撃ち込んだというのが正しいだろうか、まるで俺のレッド・バレットの黒炎バージョンだ。

 

 口から血を垂らして睨むディザールに対し、ザキールは静かに怒りの炎を燃やしながら呟く。

 

「俺のジェロイは憎しみが大きいほど力が増すんだ。あまり舐めない事だな」

 

「駒風情がッッ! 生意気な口を聞くなァッ!」

 

 そこからは頂上決戦と言わんばかりの激闘が繰り広げられた。

 

 拳撃と黒炎を軸にパワーで上回るザキールがディザールを攻め、ディザールは自身の魔術と天使ネメシスによる同時攻撃で手数を増し、ザキールにダメージを与え続けている。

 

 離れた位置にいる俺達ですら黒炎の熱の影響か、吸い込む空気が熱く乾いて喉が痛い。2人が触れていない廃王園(はいおうえん)の建物が衝撃波で揺れ、崩れてしまわないか心配になるほどだ。俺は激しい戦いを続ける両者を見つめる事しかできなかった。

 

 戦いは時間を追うごとに激しさを増していき、両者の動きも完成されていくのを感じる。ジェロイも天使ネメシスも感情が揺さぶられる事で発動したスキルだから恐らく2人とも使い慣れてはいなかったのだろう。

 

 均衡した戦いは5分以上続き、このまま相討ちになるのではと思った矢先、均衡は突然崩れることになる。ディザールと天使ネメシスの両方が戦いの中で成長することにより、総合的にザキールを上回り始めたからだ。

 

 少しずつ手数で押され始めたザキールは後ろに下がる事が増え、体の傷も増えている。やはりディザールの戦闘センスは半端じゃない。唇を噛みしめながら戦いを見つめていると突然ザキールが体から爆風を発生させ、自身の体を発光させた。ディザールは堪らずバックステップで距離を取って呟く。

 

「なんだ? ここにきて魔力を使った威嚇か? それとも何か始める気か?」

 

 警戒しながら尋ねるディザール。肩で息をするザキールは疲弊しつつも力強い目で睨み、宣言する。

 

「クソ親父を負かさなきゃ……ハァハァ……俺はダンザルグに顔向けできねぇ……。醜かろうと絶対に勝ってやる。たとえ俺自身が踏み台になろうともなァッ!」

 

 ザキールは大声で叫ぶと体の発光を強め、周囲の空気と地面が激しく揺れ始めた。

 

 閉ざされた空間である廃王園(はいおうえん)の天井から砂や岩の破片が降ってきている。まるで地震を彷彿とさせる現象が目の前で繰り広げられる中、ザキールの体は直視できないレベルの輝きを放ち、周囲にいる全員が堪らず目を閉じた。

 

 瞼を閉じていても光が沁み込んでくる時間が数秒続いた後、俺はゆっくりと目を開けてザキールのいる方向を見つめた。そこには変わりきったザキールの姿があり、俺は言葉を失う。

 

 なんとザキールがドラゴンニュートを少しトカゲ寄りにしたような半人半竜(はんじんはんりゅう)の姿に変わっていたからだ。

 

 目・鼻・口・羽は魔人状態から変わっておらず二足歩行である点も変わっていないが、赤みがかった皮膚が鱗っぽくなっている。顔周りも髪はそのまま残っているものの竜の輪郭になっていて、尻尾も生えている。

 

 そして1番目をひくのが常時体から噴出している赤黒い炎だ。俺は目の前の存在に既視感がある。子供の頃に読んだ絵本で見た事があるサラマンダーという竜型の精霊にそっくりなのだ。

 

 海底集落アケノスでウンディーネさんと話をしていた時に『魔人が神獣化するのかもしれない』と言っていたけれど、ザキールが目の前でそれを証明してしまったわけだ。

 

 いや、正確に言えば精霊であって神獣ではないのかもしれないが違う生き物に変わっているという意味では同じだ。奇跡・伝説レベルの凄さであることは確かだ。

 

 目を点にして驚くディザールを前にザキールは一層尖った爪先を向けて、真っすぐに言い放つ。

 

「クソ親父に勝つ為には魔人の殻を被ったままじゃいられない。あんたへの恨みとダンザルグへの無念で変わることができた今の姿で、全てを終わらせる!」

 

 

 

 

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