見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第443話】真似事

 

 

「クソ親父に勝つ為には魔人の殻を被ったままじゃいられない。あんたへの恨みとダンザルグへの無念で変わることができた今の姿で、全てを終わらせる!」

 

 火を纏う半人半竜(はんじんはんりゅう)へと姿を変えたザキールはディザールを倒すと宣言した。一方、ディザールは驚きつつもザキールをゆっくりと観察し、自分なりの分析を口にする。

 

「そうか、まさかザキールがサラマンダー……いや、神獣化に到達するとはな。神獣には謎が多く元々神獣として生まれる者もいれば、別の種族が何かの拍子で神獣化することもあるという。研究を重ねてきた僕ですら神獣にはなれなかった事を考えるに強い意志や目的を持つ者、もしくは全てを犠牲にしてでも変化を望んだ者が神獣になれるのか? ふむ、興味深いな」

 

「ウダウダうるせぇんだよ! ここから俺は巻き返してやる、お前の体に拳の跡を刻んでやるからな!」

 

 ザキールの荒々しい口調が戻ると2人は一斉に前へと飛び出し、互いに右の拳を繰り出した。2つの拳の衝突は俺達の隠れている瓦礫の山すら崩してしまいそうなほどの空気振動を生み出している。

 

 拳が衝突した状態のまま2人が3秒ほど停止すると、ディザールの腕からいきなり血が噴き出してきた。両者の膂力が強すぎて分からなかったが、単純なパワーならザキールの方が上なのだろう、スキル『悪魔の右腕』を持っているのだから尚更だ。

 

 きっと近くで魔力を感じているディザールは拳を繰り出す前から分かっていたはずだ。それでも天使ネメシスをぶつけずに自ら拳を振るったのは我が身を持って力量を測りたかったのだと思う、何故ならディザールは血を流しながらも笑っているからだ。

 

 そこからは互いの技を当て合う一進一退の攻防が続く。

 

 悪魔の右腕を伸ばしたザキールがディザールの頭を掴んで地面に叩きつけてダメージを与え、その間に天使ネメシスがザキールの背中を斬りつけていた。

 

 背中を斬られたザキールは余った左手で爆炎魔術を放ってネメシスを吹き飛ばすと、今度は頭を掴まれていたディザールが氷の刃を作り出してザキールの右腕を斬りつけ、悪魔の右腕による拘束を解かしてみせた。

 

 拘束が解けた後、2人は肩で息をしながら互いの出方と距離を探り合っている。傍から見ているだけで心臓がおかしくなりそうな緊張感の中、先に動き出したのはディザールだった。

 

 ディザールは自身の右手をネメシスの背中に当てると一列になってザキールに走り出した。

 

 どんな技を放ってくるのだろうか? 生唾を飲み見つめているとネメシスの右手と剣が光り出し、魔力が剣先に集まり出した。そのままネメシスが右肘を後ろに引くとレイピアで突きを放つように大きな剣を前へと突き出し、ディザールが叫ぶ。

 

「消し飛べ! コラプス・トラストッッ!」

 

 空気の壁を突き破る剣先に対抗し、ザキールは右腕を一際赤く光らせると豪快に振りかぶって叫ぶ。

 

「インフェルノ・アームッッ!」

 

 両者の渾身の一撃が正面衝突すると辺り一帯が眩い光に包まれた。ザキールがサラマンダー化した時を彷彿とさせる光に数秒視界を奪われた俺は再びゆっくりと目を開ける。

 

 すると視線の先には右腕が消失したネメシスと右腕の肘から先がごっそりと消滅してしまったザキールの姿があった。ザキールは腕からおびただしい量の血を流すと、すぐに革袋の紐で止血を始める。

 

 しかし、あれだけの血を流したザキールが無事でいられる訳がない。すぐに両膝をつき、呼吸を荒くしてうずくまってしまった。一方のディザールもネメシスの右腕をやられた影響か、切断こそされていないものの自身の右腕から大量の血を流しており、ネメシスも右腕を失ったまま停止している。ダメージがある程度リンクしているらしい。

 

 青ざめた顔のザキールは舌打ちをすると「畜生、あいつの腕一本すら消し飛ばせなかったか」と悔しがっていた。強敵ディザール相手に単身であれだけのダメージを与えたというのに凄い執念だ。自身の失った腕の事など全く気にしていないような物言いにも驚かされる。

 

 あまりの衝撃にディザールですら絶句して立ち尽くしている状況ではあるが、ザキールはとっくに限界を超えている。今すぐにでも飛び出して助けいかなければ! 俺が今まさに立ち上がろとしたその時、ザキールが離れた位置から瓦礫の中にいる俺の目を一瞬だけ睨みつける。

 

 声には出していないけれど、あの強い視線は『まだ出てくるな』という意味だとすぐに理解できた。ザキールは満身創痍の状態からまだ打つ手があるのだろうか? 2人がどう動くのか歯痒い気持ちで見守る中、先に動き出したのはまたもやディザールだった。

 

 ディザールはネメシスを停止させたまま、ゆっくりとザキールに近寄ると薄く笑みを浮かべて、手のひらをザキールに向ける。

 

「まさか、ザキールがここまで強くなるとはな。僕が直接技を受けていたら確実に死んでいただろう。だが、戦いの神は僕に微笑んだようだな。このまま僕が魔術で一気にお前を消し飛ばしてやる。苦痛を感じる間もなく死なせてやるのが僕なりの敬意だ」

 

「ケッ、何が敬意だクソったれ……。他者を想う気持ちがあるのなら息子や部下達に与えるべきだろうが馬鹿野郎! あんたは俺が思っていたよりずっと自分勝手で、子供で、心が脆く、他責思考のクズだ。どうせ体だけじゃなく心にも仮面をしていたんだろ? 自らをアスタロトと名乗り、無理して自分の事を『僕ではなく私』と言っていたのが何よりの証拠だ」

 

「もういい、黙れ。そんなに早く消されたいのか?」

 

「悪いが、俺はクソ親父の手に掛かって殺されるつもりはねぇ。最後にあと1発だけ……あんたに一矢報いてやる」

 

「ほほう、まだ何かやる気か。まさかグラドと同じように自爆技でも放つ気ではないだろうな? だとしたら止めておけ。僕のネメシスは片腕こそ無くなったが、それでも動かして盾にするぐらいのことはできる。お前の刃は僕に届かない」

 

「誰が自爆技なんて言った? ボロボロになった今の俺に出来るのは……母親の真似事をして大嫌いな兄弟に未来を託すことだけだ……」

 

 ザキールは不穏な言葉を呟くと、残された左腕を天に掲げて魔力を広範囲に解き放った。掲げた左手からは驚くことに淡い虹色の光と漆黒の煙が交互に溢れ出し、2人を広い半球状の不思議な空間が包み込む。

 

 俺は肉眼で初めて見る『あの魔術』を知っている。何故なら記憶の水晶でシルフィ母さんが放っているところを見たことがあるからだ。外からでは2人の姿が煙でぼやけているようにしか見えないが、中からザキールの弱々しくも意志の強い声が聞こえてくる。

 

「ハァハァ……これが……禁忌魔術……ナイトメア・メイズだ。あんたは直に見たことないだろうが、名前はよく知っているだろう? シルフィ母さんはこの技を使って亡くなったんだもんなァ?」

 

「くっ……お前がここまで幻影魔術を極めて……いや、自己犠牲的な行動に出るとは……まさか、時間を稼ぎ、隠れているガラルド達を回復させるつもりか? うぅっ! た、立てない……視界が、平衡感覚が……何もできな……」

 

「ああ、シルフィ母さんがシリウスたちを逃がした時と同じような使い方だ。どうだ? 体を動かす事はおろか手足の感覚も曖昧になっているだろう? 自分が何を見て、どこにいるのかも分からないはずだ。俺もあんたが今、どうなってるのか自分の目で確認できないが苦しんでいると確信がもてる。跪いているあんたの姿を想像すると気分が良いぜ」

 

「うぐぐ……今すぐナイトメア・メイズを解くのだ! そうしないとお前は……いや、この禁忌魔術は途中で解除できなかったな……。動転したとはいえ僕がそんなことも忘れてしまうとは……。ザキール、お前はそこまでガラルドに惚れこんだのか? グラドに似た忌々しくも眩しい……あの男に……」

 

「勘違いするな、俺はあんたが心底ムカつくだけだ。だからガラルドを利用して殺させるだけの話だ。自分が死ぬのは辛いが、俺のお膳立てでクソ親父がガラルドに殺されるなら、こんなに気分のいい話はないからな。一足先に地獄で待ってるぜ……」

 

「くっ……お前なんぞに……」

 

 ナイトメア・メイズによって作られた空間から2人のやりとりが聞こえてくる。悔しいが、ナイトメア・メイズが作られた瞬間にザキールの死が確定してしまったことになる。死の山でザキールと未来について話をしたというのに……もう、あいつとは未来を共に歩めない。廃王園(はいおうえん)でお別れになってしまうのだ。

 

 ザキールはナイトメア・メイズの中でふらつき片膝をつくと、絞り出すような声で叫ぶ。

 

「ハァハァ……ガラルド! 聞いての通りだ! 数分だけナイトメア・メイズで時間を稼いでやる。だからお前達は死ぬ気で体力を回復しろ……そして、クソ親父をぶっ殺せ!」

 

 

 

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