見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「ハァハァ……ガラルド! 聞いての通りだ! 数分だけナイトメア・メイズで時間を稼いでやる。だからお前達は死ぬ気で体力を回復しろ……そして、クソ親父をぶっ殺せ!」
ナイトメア・メイズの中で瀕死になっているザキールが外にいる俺達へ想いを託す。ザキールは宣言通りディザールの動きを3分、4分……と長い時間抑え込んでいる。
もうナイトメア・メイズを発動してしまった以上、俺達がザキールの死を止める方法はない。だからザキールが作ってくれた数分間で戦えるレベルまで絶対に体力と魔量を回復させてみせる。
俺はリリスの回復魔術とサーシャのアクセラを受けながら自分の体に流れる魔力を見つめていた。魔量は全快どころか3割も回復できていないが、ネメシスの巨剣を受けた直後に比べれば遥かに回復できている。
グラッジ、レック、フィルは俺ほどではないけれど、それなりに魔量を回復できているようだ。ネメシスの右腕が消失し、ザキールとの死闘を繰り広げたディザールがどれほど消耗しているかは分からないが、ザキールから貰ったと言ってもいい魔量を使って必ずディザールを倒してやる。
俺は間もなく消滅するであろうナイトメア・メイズを見つめながら戦いの覚悟を決めて両方の拳を握った。すると両拳に強烈な痛みが走り、堪らず俺は握り込んでいた指を開いてしまった。
この痛みはマズい……完全に骨へヒビが入っているうえに筋肉もズタボロだ。こんな調子じゃ拳撃どころか武器も握れない。スキルだけで何とか出来るのだろうか……。不安を膨らませていると、リリスが優しく俺の両手首に触れて呟く。
「ガラルドさん、痛いときは痛いと弱音を吐いてください。全部1人で背負い込まれてしまったら助ける事もできませんから」
「そうか、バレバレだったか。気を遣わせてしまったな。正直、まともに武器も握れそうにない。それでも俺は他に攻撃手段がある、やれることをやるだけだ。リリス、サーシャ、シンはやれることを全てやって俺達に後を託してくれた。もう大丈夫だから、リリス達はここで腰を下ろして俺達4人の最後の戦いを見守っててくれ」
俺は脂汗を掻きながらも笑顔で言葉を返す。だがリリスは首を横に振り、俺の両手首を掴んでいる手に魔力を込め始めた。
「いいえ、まだ私には最後の仕事が残っています、先天スキル『イントラ』でガラルドさんの両手を治すという大仕事が」
そう呟くとリリスと俺の手が眩い光に包まれた。過去視でディザールとリーファの左目の状態を交換した時と同じように俺の手は何事もなかったかのように痛みも傷も消え去っていた。
一方でリリスの両手からは痛々しく血が流れ始め、激痛のあまりリリスは両膝をついてしまう。リリスに対して申し訳ない気持ちと深すぎる感謝の気持ちが湧いてくる。俺はすぐに「すまないリリス、俺のせいで……」と謝ったがリリスは再び首を横に振り、痛みで声を歪めながら言葉を返す。
「……すまない、じゃなくて、ありがとうですよガラルドさん……。さ、さあ、私達の事はいいですから、早くナイトメア・メイズの傍に行ってください。術が切れたザキールさんの体をその手で支えてあげる為に……」
「……ああ、ありがとうリリス。それじゃあ行ってくるよ皆。グラッジもレックもフィルも瓦礫の中から出る準備はいいな?」
問いかけると、一際精悍な顔つきになった3人が頷き、それぞれ言葉を返す。
「はい! ザキールの想いを受け取りに行きましょう!」
「俺達の敵だった奴にここまでされては応えないわけにはいかないな、行くぞ!」
「一応ザキールは僕の兄貴だ、弟としてバトンぐらいは繋いでやらないとね!」
俺、グラッジ、レック、フィルの4人は外を覗いていた瓦礫の隙間に手を突っ込み、体を通せるようにゆっくりと瓦礫を左右に動かして外へ出た。
次の接触こそが本当に最後の戦いとなる。一歩一歩ディザールのいるナイトメア・メイズに近づく度に鼓動が早くなっていくのを感じる。
リリス達から離れてナイトメア・メイズの前に到着した俺達は禁忌魔術が解かれる瞬間を待ち続けた。ナイトメア・メイズが解かれることが、そのままザキールの死に繋がることになるから本当は待ちたくなんかないけれど時間は容赦なく流れてしまう。
ナイトメア・メイズの前に到着し、1分、2分、3分――――――――俺達の前に展開されていたナイトメア・メイズはとうとう崩壊を始め、虹色の光と漆黒の煙は命を散らすように四方へ弾けとんでしまった。
ナイトメア・メイズのあった場所の中央には目を瞑り、ふらつきながらも何とか立っているザキールの姿があった。ザキールはゆっくりと目を開くと俺と目を合わせて薄く微笑んだ。
ザキールらしくない優しい表情に改めて死が訪れていることを実感する。俺は直ぐ近くでディザールがうつ伏せで倒れているにもかかわらずザキールに向かって駆け出し、手を伸ばして叫ぶ。
「ザキールッ!」
今にも倒れそうなザキールを支えるべく俺の右手がザキールの背中へと伸びる。しかし、ザキールは最後の力だと言わんばかりに左手に魔力を込め、犬でも追い払うかのように左手を振り払って小さな火を俺に飛ばす。
ザキールの火を胸で受けた俺は慌てて後ろに下がった。だが、火からはほとんど熱量を感じないし、ザキールは悪戯っぽく笑っている。きっとザキールは最後の最後までひねくれ者を貫き通したかったのだろう。
俺の予想を答え合わせするようにザキールは最後の言葉を呟く。
「ケッ! ガラルドの……腕の中で……死ぬなんてごめんだ。クソ親父と相討ちして……2人とも……くた……ばって……しま……え……」
ザキールはザキールらしい憎まれ口を残し、その場に倒れて息を引き取った。
ザキールはグラドの仇であり、イグノーラを大いに苦しめた存在だ。死の山でも奴の幻影魔術に苦しめられたし、奴と直接戦った2回の勝負はどっちも死闘だった。
残虐な面を持ち、そのくせ感情の浮き沈みが激しく面倒な奴だった。ザキールの遺体を前にしても碌な思い出が蘇ってこない。それでもザキールにはザキールなりの信念があり、自らの命をかけて想いを貫き通した。ザキールの事は大嫌いだが腐れ縁のよしみで想いは受け取ってやる。
俺の全身に形容しがたい熱さが漲ってくるのを感じる。俺は未だにうつ伏せで倒れているディザールの方へ向き、言葉を掛ける。
「ほら、さっさと立てよディザール。いつまで寝転んでるつもりだ? 俺達はザキールから喧嘩の続きを託されているんだ。早く始めようぜ」