見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第447話】101%

 

 

「首絞めは有効な手段だが、喧嘩っていうのは何でもありの戦いだ。噛まれることぐらいは想定しておかないとな。ほら、掛かって来いよ。魔人になって胡坐をかいていたお前に喧嘩のやり方を教えてやるよ」

 

 俺が挑発するとディザールは子供のようにぼやき始める。

 

「チッ! 何が喧嘩のやり方だ、あれじゃあまるで野生動物じゃないか。僕はグラドやお前みたいな品の無い戦い方は好きじゃないんだ。だから、もう首絞めのような僕らしくない手は使わない。魔術師らしい決着をつけてやる!」

 

 そう呟くとディザールは少しだけ後ろに跳んで距離をとり、両手の人差し指に超高速で回転する風の輪を作り出した。まるで風の円刀(えんとう)……円月輪(チャクラム)とも言うべきエネルギーは触れるだけで大ダメージになりそうだ。

 

 ディザールは勝ちを確信した顔で微笑むと勢いよく2つの風の輪をこちらへ飛ばす。

 

「さあ! この刃を避け切れるか、ガラルド!」

 

 風の輪は1つ1つが意思を持っているかのように正確かつ、規則性の無い動きで俺を狙い続ける。俺は避けるか、回転砂で受け流すのが精一杯でとてもじゃないが攻撃に移れそうにない。

 

 防戦一方のまま風の輪を捌き続けているとディザールは更に氷の槍を作り出して両手に持ち、風の輪の制御を続けたまま、こちらへ突進し始める。

 

「風の輪で貴様は手一杯だろう! このまま槍で貫いてやる!」

 

 俺は片方の輪を棍で防ぎ、もう片方の輪は体を捻ってギリギリのところで躱してみせた。しかし、2つの輪に気を取られてしまったのがまずかった。突進してくるディザールに対し、密度の低いレッド・ストームしか展開する事ができず、あっさりと氷の槍に壁を破られてしまう。

 

 目の前で弾けとぶ熱砂の奥から槍を持ったディザールが勝ち誇った笑みを浮かべて突っ込んできている。このまま俺はディザールの氷槍に貫かれてしまうのだろうか? いや、どんな状況になっても諦めるのだけは無しだ。如何なる手を使ってでも絶対に切り抜けてやる。

 

 気が付けば俺は自身の懐に手を突っ込んでいた。目の前2メードの位置まで槍先を近づけているディザールに対し、ペッコ村の村長の形見である『浄魔(じょうま)のネックレス』を突き出してやったのだ。

 

「なっ!」

 

 突然の事態に動揺したディザールは浄魔(じょうま)のネックレスを壊さないように反射的に槍の軌道を横に逸らす。本当は敵の良心を突くような手は取りたくなかった。だけど俺はディザールに人の心が残っているはずだと信じている。信じているからこそネックレスで虚を突くことができたのだ。

 

 俺の横で空を切る氷槍と半身になって姿勢が崩れたディザール。俺はすぐさま旋回の剣(せんかいのつるぎ)を握りしめて残り僅かな魔力を注ぎ込み、容赦なく叩きつける。

 

「喰らえ! 旋回の剣(せんかいのつるぎ)の一撃を!」

 

 極限まで鋭い音を発する熱砂の回転は姿勢の崩れたディザールの肩へ狂猛と呼ぶに相応しいエネルギーを叩きこむ。ディザールは閉じられた空間である廃王園(はいおうえん)に断末魔の叫びを反響させ、勢い良くその身を地面に打ちつける。

 

 2つの風の輪はコントロールを失い、力尽きた羽虫のようにひらひらと地面に落下し、高密度の魔力を纏った氷槍も数秒後には熱湯をかけられた氷のように溶けていった。

 

 仰向けになって倒れたディザールを見つめ続けていた俺だったが、奴は目を瞑ったまま起き上がってこない。俺が渾身の魔力を込めて叩きつけた旋回の剣(せんかいのつるぎ)が決着の一撃になったのだろうか?

 

 まだギリギリ立っていられる程度の力が残っていた俺はディザールを起こしてやろうと右手を伸ばす。するとディザールはカッと目を見開き、弱々しくも意地の込められた手で振り払い、俺の手を弾く。

 

「か、勝った気になるなよ! 僕はまだ負けていない。立ち上がれなくなるまでは負けではない!」

 

 ディザールは震える足を庇うように両手を地に付けて体を支えながら立ち上がる。続けてネメシスどころか杖すら持たずに両こぶしを前に構えた。もう、魔術もスキルも放てないほどに消耗してしまったのだろう。

 

 だが、消耗したのは俺も同じだ。旋回の剣(せんかいのつるぎ)にありったけの魔力を込めたせいで、熱砂どころか普通の魔砂(マジックサンド)すら使役できそうにない。

 

 もう今すぐ地面に倒れてしまいたいが最後の大仕事……いや、泥臭い延長戦の始まりだ。俺はディザールと同じように拳を構えて、拳闘の合図を告げる。

 

「ハァハァ……俺に拳で挑むのか? 上等だ、俺の拳で馬鹿親父の目を覚まさせてやるよ。さあ! 最後の大喧嘩を始めようぜ!」

 

「フッ……ガラクタ未満の失敗作がいい気になるなよ? 最後に立っているのは僕だと教えてやる!」

 

 互いに啖呵を切ってからの殴り合いは大陸の命運を分ける戦いとは思えないほど不様なものだった。

 

 防御も回避もフェイントも無い大振りの拳撃をひたすら当て合うだけの時間が続き、お互いに何度も尻もちをついてはゆっくりと立ち上がって拳を構え続けた。

 

 殴り合いに慣れておらず魔量も枯渇しているディザールの拳すら避けられず、まともに受けてしまっている俺は相当限界が近いのだろう。

 

 顔に手を触れなくても腫れているのが分かるし、口の中はずっと血の味と匂いがする。自分の振るった拳が当たった瞬間ディザールがろくに踏ん張りも効かなくなっていることも感触で分かる。

 

 俺とディザールに最後の戦いを託してきた者達がこの戦いを見たらどう思うだろうか? きっと笑うか呆れるかのどちらかだと思うが不思議と許してくれそうな気がする。

 

 思えばコロシアム決勝のフィル戦も死の山のアジトでぶつかったザキール戦も最後は泥臭い殴り合いで決着がついた。まさか兄弟2人だけじゃなく父親とすら殴り合いで終わるとは思っていなかった。

 

 俺には意地っ張りな馬鹿を引き寄せる素養があるのだろうか? それともディザールの血と細胞が同じ結末を呼び寄せているのか、答えは誰にも分からない。だが、どれだけカッコ悪くても、顔や体や拳が痛くなっても何故か今の戦いは心地良い。

 

 きっと自分を全てさらけ出した者同士の喧嘩は痛みや苦しみを超越させてくれるのだと思う。何故なら目の前のディザールも俺も笑っているからだ。

 

 だが、痛みや苦しみを超越しても戦いには必ず終わりがくる。互いに言葉を交わしていないはずなのに不思議と次の攻撃が決着になると分かる。俺とディザールは擦れた小さな声で笑い、相手目掛けて真っすぐに走り出す。

 

「こいつで最後だ! ガラルドッッ!」

 

「絶対に負けねえぞ! ディザールッッ!」

 

 疾走の勢いを乗せた2人の右拳は磁石に吸い寄せられるように一点で衝突する。寸分の狂いも無い真正面の衝突により乾いた破裂音が廃王園(はいおうえん)に響き渡り、俺達は互いに後ろへ仰け反った。

 

 拳同士の激突による引き分け――――で、終わらせるつもりはない! 仰け反って姿勢を崩しているディザールに対し、俺は歯が割れそうな程に食いしばって倒れそうな体を踵で踏ん張り支える。

 

 (まばた)き程度の刹那の時間でいい、俺の体の奥から力を出させてくれ。気張る肉体以上に力強く念じた俺の足裏へ僅かに回転砂が現れる。

 

 100%魔力を使い切った俺の体に限界を超えた1%の魔力が迸る。この魔力は俺の体から出ているはずだが不思議と天から降ってきた贈り物のようなパワーを感じる。魔砂(マジックサンド)に乗せた足裏へありったけの力を込めた俺は最後の技を呟く。

 

「サンド・ステップッ!」

 

 最後に放った技はレッド・モードでもなければ双纏(そうてん)状態でもなかったけれど、1番力を込めた渾身の蹴り出しだ! 未だ体勢の整っていないディザールに俺は加速と気持ちを乗せた拳を叩き込む!

 

「これで終わりだァッ!」

 

 俺の拳がディザールの胸にめり込む。ヒットのタイミングは一瞬のはずだが、俺の拳にかかる反発は重く長い。攻撃を受けたディザールは肺の空気を一息で出し切るように呻き声をあげて吹き飛んだ。

 

「ガハァッッ!」

 

 俺の拳が胸に衝突して体を押し出した瞬間、ディザールが少しだけ笑っているような気がする。ディザールは吹き飛んだ勢いをそのままにゴロゴロと地面を転がると右手を地面につけて上半身を少しだけ起こそうと力を入れる。

 

 だが、起き上がるだけの力は残っていなかった。そのまま再び地面へ仰向けに倒れると確かめるように呟く。

 

「起き上がれそうにないな……そうか、僕は負けたんだな」

 

 

 

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