見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「まったく……クローズは馬鹿な奴だよな。僕は魔人として200年~300年生きられるだけで十分満足しているというのに奴は全く満足していなかった。それどころかクローズは僕が生きている内に大きなプロジェクトを1つ成し遂げようと言い始めたんだ」
ディザールが語るクローズの言動は、まるで生きた証を作らせたがっているように思えた。クローズの言う大きなプロジェクトとやらがサラスヴァ計画とは別のもう1つの計画の事だろうか?
気になった俺は「そのプロジェクトとやらが『もう1つの計画』ってやつか?」と尋ねた。するとディザールは首を小さく横に振り、否定の言葉を返す。
「半分正解で半分不正解だ。というのもディザールが持ち掛けてきたプロジェクトはモンストル大陸より遥か北に存在するというプレシャーデン大陸をモンストル大陸と繋いでやろうというプロジェクトだったんだ」
「モンストル大陸の外だとォッ? というかモンストル大陸の遥か北に大陸があったのか。確かに言われてみれば過去視でクローズは大陸の外に出た事があると言っていたな……。それでクローズはプレシャーデン大陸をモンストル大陸に繋いで何をするつもりだったんだ?」
「クローズ曰く、いきなり互いの存在を知らない大陸同士を接触させたら色々と面白い事になりそうだからやってみたくなったそうだ。クローズ的には面白がっているだけじゃなくて生態系を乱して進化を促してみたい気持ちがあったのだとは思う。だが、僕は正直子供じみた動機だと呆れたものだ」
「まぁ、クローズの知的好奇心に由来する奇行は今に始まった事ではないから、ある意味クローズらしいとも思うが……。ディザールに賛成の気持ちは湧かなかったのか?」
「僕はモンストル大陸の人類が大嫌いだが、別に他大陸に恨みはない。だから最初は反対しようとしたんだ。だけど、クローズからプレシャーデン大陸の話を聞いているうちに僕の中で少しずつ興味が膨らんできたんだ」
「そのプレシャーデン大陸っていうのはどんな大陸なんだ?」
「一言で言えば文明レベルの低い大陸だ。人々は魔石の加工はおろか、製鉄・金属加工すらままならず、魔術なんて誰も使えない。武器は石斧や弓など原始的なものばかりで、住居は木造か洞窟を掘ったもの大半だ。モンストル大陸で言えば2000年近く前の文明レベルだろう。もっとも気候だけは安定しているから人口はモンストル大陸より多いがな」
「話を聞く限りディザールが興味を持ちそうな大陸には思えないが、何に興味を持ったんだ?」
「プレシャーデン大陸の人々はモンストル大陸よりも広い大地を持ち、多くの人間がいるにもかかわらず人間同士で争っていないのさ。まるで戦争や殺しという概念そのものを知らないかのようにな。文明レベルが低いと言っても武器の類は持っているにもかかわらずだ」
大小様々な小競り合いがあるモンストル大陸の人間からすれば信じられない事実だ。自分達の住む大陸が憐れな存在に思えてくる。
俺ですら行ってみたくなったプレシャーデン大陸についてディザールは更に話を続ける。
「興味を持った僕はプレシャーデン人みたいな優しい人類だけになれば悲劇は起こらないのではないかと考えた。だからクローズにはプレシャーデン人に一切迷惑を掛けるなと伝えた上で別の計画を考えた。その計画はモンストル大陸の人類を絶滅させた後、プレシャーデン人にモンストル大陸という存在を教える計画だ。僕達はシンプルに『プレシャーデン計画』と名付けた」
「きつい言い方をすれば『愚かなモンストル人を消し去って、優しいプレシャーデン人でモンストル大陸を上書きする』って事か? それが出来ればモンストル大陸の町・物資・資源を残したままプレシャーデン人に渡すことが出来るだろうな。加えてディザール達がいればモンストル大陸の歴史を伝え残したうえで教訓や戒めにすることも可能だろうな」
「よく分かっているじゃないか。計画通り一部プレシャーデン人をモンストル大陸に動かすことが出来たなら、きっと平和に大陸を利用してくれるはずだ。モンストル大陸にプレシャーデン人が溢れたその時、僕達みたいな異物は恐らく邪魔になるだろう。だから僕は最終的には
「ディザールは過去視で見た時からずっと考えが極端すぎるんだよ。クローズにそそのかされた点は気の毒だとは思うが、0か100を選ぶんじゃなくて、もっと丁度いい塩梅の選択を……いや、もう終わったことだ、説教はやめておくか」
「昔、グラドにも似たような事を言われたよ。ディザールは優し過ぎるし真面目過ぎるから極端な行動に出てしまうんだ! っとな。優しい人間がこれだけ多くの者を殺せるはずがないし、子供や仲間を大切に出来ないはずがないだろうにな……。グラドの目は正しいのか曇っているのか今でもよく分からない」
そう語るディザールの目には薄っすらと涙が溜まっていた。きっとディザールは何が正しくて何が間違っているのか本当は分かっていて、それでも歯止めが効かなくなっていたのだろう。
辛い言い方をすればディザールはどこかのタイミングで『壊れてしまった』のだと思う。真面目で優しかった人間が1人で背負うにはあまりにも重い人生だ、敵である俺ですら思うほどに。
俺は何て言葉を掛ければいいのか分からず、黙る事しか出来なくなっていた。そんな俺を尻目にディザールは上半身を起こすとザキールと戦っていた地点を見つめて、か細い声で呟く。
「ザキールは残虐なところこそあったが、それでも最後には仲間を想い、自身の命を燃やしていたのだから僕なんかよりよっぽど立派だったな。フィルを運び終わった後しばらく姿を見かけなかったのは恐らく1人で動けるうちに
「そうか、それでザキールはフィルに『探し物がある』と言っていたんだな。それで結局、計画書はどこにあるんだ? あんたはもう拘束されて一生外には出られなくなる身だ。俺が代わりにプレシャーデンに行って冒険話を聞かせてやってもいいぜ?」
「フッ、計画書を手にしたとしてもお前達では絶対に外海を出られはしない。外海は死の海以上に厳しい海域が途方もない広さで広がっているのだからな。羽を持つ魔人でもしっかりと計画を練らねば辿り着けはしない」
「ケッ、最後まで嫌味ったらしい親父だぜ。まぁ時間はいくらでもあるんだ、続きは牢屋の中でゆっくりと聞かせてもらうさ。計画書を読みながらな」
――――ち、父親譲りで忠告を聞かないね。ガラルド君は――――
後ろから突如聞こえてきた声に驚き振り返ると、そこには髪が全て白髪になり、顔に皺を刻んだ老人に変貌したクローズが今にも死んでしまいそうな程に息切れしながら立っていた。
クローズは
事実クローズは今にも死んでしまいそうな状態だ。ここまで歩いてきて一言呟いただけでも凄まじい執念だ。もしかしたらクローズは最後にディザールへお別れを言いに来たのだろうか? 敵とはいえモードレッドと合わせて2度も死に目に立ち会うのは辛いものがある。
だが、これも死闘を繰り広げた者同士の義理だ、最後に奴を支えてやろう。俺は回復魔術で少しだけ動くようになった両足を震えさせながら立ち上がる。今にも倒れそうなクローズの横に行き、肩を支えて呟いた。
「ほら、しっかり立てよクローズ。最後に何か言いたくてここまで歩いて来たんじゃないのか?」
「…………」
俺が問いかけたにも関わらず何故かクローズは黙ったままだ。息切れしているから喋れないのかとも思ったが、それだけが理由じゃない気がする。なんというか今のクローズには生命力を感じない。
様子がおかしく困惑する中、クローズは明後日の方向を見ながら消え入りそうな声で呟く。
「あれ? 変だな、皆の声が聞こえなくなった……それに目も見えない……今、私を支えてくれているのは誰だ?」