見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「え~、皆さん。お食事を楽しんでいるところすみません。ここで、1つシンバードから大きな発表をさせて頂きたい」
改まって宣言するシンに来客たちは一斉に静まりかえる。全員の視線が自身に集まったことを確認したシンは仰々しく咳払いをした後、俺ですら聞いていない情報を発表した。
「俺は将来的にシンバードに負けないぐらい大きな第2のシンバードを作ろうと考えている。それはドライアドみたいに元々あった場所を再復興させるような話ではなく、西の広大な平原に1から積み上げていく形で国を作ろうと考えている」
あまりに大きなプロジェクトに全員がざわめきだした。特に大国を率いる皇族のレックは驚きが大きかったらしく「新しい国を作る狙いは何だ?」と尋ねていた。シンは各国の要人を見つめながら理由を語る。
「大戦争を終えた今、シンバードは間違いなく大陸一の勢いを持っているはずだ。帝国の人間を前にして言うのも失礼かもしれないが、帝国を超える日も遠くないのでは? と考えている。だから、普通に考えれば今まで通り領土と同盟国を広げて、『一国・一王・一領土』として肥大していくのがベストなのかもしれない。だが、此度の戦争を通して俺の考えは変わった。それが何か分かるかな、レック君?」
「……もしかして『一国が力を持ち過ぎない』ようにするのが狙いか? わざわざ俺に聞いてきたのは皮肉を利かせているのだろう?」
「別に皮肉を利かせた訳じゃないさ。レック君が帝国の体制を作った訳ではないのだからね。ただ、帝国という1番大きな力に触れてきた為政者だから問いかけただけだよ。俺の狙いは正にレック君の言った通りだ。シンバードが培ってきた『血を流さず、商業によって国を栄えさせて平和を作る』スタンス……それを軸に新たな大国を作りたいんだ。もし、それが実現出来たら未来はどうなっていくと思うかな、ガラルド君?」
今度は俺に質問が飛んできた。一国が力を持ち過ぎないようにする狙いが成功して、各国が均等な力関係になれば一見戦争が起きてしまいそうな気がするが……。シンバードみたいな国が増えれば基本的に平和な施政が続き、誤った道に進みそうな国が出ても互いに止め合うことができる……ということだろうか?
俺に難しい話は分からないけれど、問われた以上は自分なりの答えを伝えておこう。
「端的に言えば平和な教えを持つ国を増やして、どこかが暴走しそうになった時は互いにフォローし合う未来になるって言いたいのか?」
「ああ、その通りだよ。現実問題、中々そう上手くはいかないとは思うし、完全な平和を作り出すには莫大な時間がかかると思う。それでも、俺達の時代から動き始めなきゃいけないと思うんだ。人も組織も孤独になったり肥大化する事でいつか必ず暴走や綻びが生じる。それはアスタロトや旧帝国が証明しているだろう? 危ないのはシンバードだって例外ではない。だから、大陸全体が変わっていかなきゃいけないんだ」
シンの熱い語りを受けて為政者も為政者以外の人間も深く考え込んでいる様子が伺えた。特に戦争の中心でもあった帝国リングウォルドの面々は噛みしめるようにして言葉を受けている。
そして、シンは最後にとんでもない願望を語り始める。
「それで、新しい国の王に推薦したい人がいてね…………ガラルド君、君が新しい国の王になってくれないだろうか?」
「…………えっ? なんで? 冗談だろ? 俺はろくに政治的な知識もなければ血筋も無い普通のハンターなんだぞ?」
「血筋なんて俺にだって無いし、知識なんて後から幾らでも身につけられるさ。それより大事なのは人を惹きつける魅力、そして意思を貫き通す精神力だ。戦争を終えてますます英雄視されてきているガラルド君はもはや大陸一の有名人であり、多くの人間から尊敬されて慕われている。そんな人間こそが王になるべきだろう。あっ、勿論リリス君が王女になるのもオッケーだよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、話が急すぎる……頭を整理させてくれ……というか俺とリリスの関係をサラっと茶化すんじゃねぇよ……」
シンは俺に内緒でいきなり発表する事で断り辛い雰囲気を狙っているのではないか? と疑ってしまいそうだ。まぁ、例えそうだとしてもシンが第2のシンバードを任せたいと思っている気持ちは本当だろう。
周りの出席者達も全員が笑顔を浮かべていて祝ってくれそうな雰囲気だ。ここは本来ならシンの申し出を受けるのが正しい形なのだろう。
だけど、俺は了承の言葉を出せずにいた。それは王という仕事が嫌なのではなく、他にやりたいことがあるからだ。ディアトイルで拾われてから20年以上の時を生きてきて、1番やりたいと思った事…………俺はそれを正直にシンに伝えることにした。
「悪いがその話、断らせてくれ。俺には他にやりたい事があるんだ」
「ガラルド君の表情を見て、そう言われる気がしたよ。やりたい事が何か聞いてもいいかい?」
「俺がやりたい事……それは……」
俺は今までに関わった人達に視線を向けた後、横に並んで戦ってきたリリス達に視線を向けてから口を開く。
「俺はこれからもずっと冒険がしたいんだ。リリス、サーシャ、グラッジ、そして各国の皆と関わる中で多くの街や景色を見てきて、そのどれもが俺にとっての宝物だ。そんな宝物をこれからも増やしていきたいんだ、大切な仲間達と共に」
「そうか……まぁ、ガラルド君らしいといえばらしいのかな。シンバード国王としては残念な返事だけど、一友人としては納得の返事だよ。それに、ガラルド君の大切な仲間達もやる気満々のようだしね」
そう言うとシンは視線を横にやって指をさした。そこには俺の目を見て頷く、リリス、サーシャ、グラッジの姿があった。彼らにはこれから俺の旅についてきて欲しいとお願いするつもりだったが、手間が省けたようだ。
3人は俺の前まで歩いてくるとサーシャから順番に話し始める。
「ガラルド君の旅にサーシャもついていくよ。ちょうど行きたいと思っている場所もあるから。ね? グラッジ君?」
「そうですね、その話は長くなりそうですから祝勝会が終わった後に伝えましょうか。ガラルドさん、僕も貴方の旅について行かせてください。貴方と出会ってからの旅は驚きと感動の連続で本当に楽しかった。そして僕にとってガラルドさんは大きな目標でありライバルです。これからも切磋琢磨しましょう」
そして、最後にリリスが俺の手を握り、想いを語る。
「ガラルドさんは私にとって愛すべき人であると同時に肩を並べて戦う仲間です。今まで私達はガラルドさんに助けられてばかりでした。だから、これからは恋人として、そして仲間として、2つの意味でガラルドさんを支えさせてください」
「みんな……ありがとう」
俺は涙を必死に堪えながら皆に礼を伝えた。王としての務めは果たせなくなったけれど、それでも祝勝会に来てくれた皆が俺達に拍手を贈ってくれている。人数よりもずっと多く感じる拍手の雨は狭いギルド内で反響し合い、中々止まる事は無かった。
暖かいエールを受け続けた俺達の祝勝会は最後にリリスの一言で一旦区切りを迎える事となった。
「というわけで私達は情勢が落ち着いたら旅に出ます。それまではシンバードで一生懸命働きつつ、ガラルドさんとの結婚式の準備も進めるつもりです……キャー! 遂に言っちゃいました! ですので、皆さん是非参加してくださいね!」
まだ、一言も結婚式の相談なんてしていないのにリリスがとんでもないことを言い始めた。でもまぁ、それも悪くない。空気を読まずにシンの誘いを断ったのだからリリスの誘いぐらいは乗っておくことにしよう。一生大事にすると決めた相手なのだから。