見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第457話】里帰り

 

 

 祝勝会から5日後の朝――――俺、リリス、サーシャ、グラッジはシンにお願いして少しの間休みを貰い、ヘカトンケイルを訪れていた。ここを訪れたのはもちろん女神長サキエル様に会う為だ。

 

 俺達がヘカトンケイルに着いた頃はちょうど夜になっていたこともありヘカトンケイルの宿屋で一泊する流れになった。この宿屋は昔、リリスがベッドで眠り、俺が床で寝た思い出のある懐かしい場所だ。

 

 あの頃はまさかリリスとここまで濃い冒険をするとは思っていなかったし、他の仲間と共にヘカトンケイルの宿屋に再び泊まることになるとは思わなかった、人生とは不思議なものだ。

 

 

 

 

 

 

 俺達はチェックインを済ませて風呂に入るとすぐに就寝して早朝に宿屋を出て、早速女神長サキエル様がいる神託の森の泉へと向かう事にした。わざわざ早朝に出たのは人目に付かないようにする為だ。

 

 最近、大陸で有名になってきた俺達は他の町を歩くだけで度々声を掛けられてしまう悩みがある。そんな俺たちが女神長というお伽話みたいな存在と接触しているところを見られるとめんどくさいことになりかねないから人目を避けるに越したことはない。もっとも横を歩いているリリスも女神なのだが。

 

 神託の森の入口に辿り着いた俺達はそのまま奥へと進み続けた。周りの景色を見渡すとレック達に見捨てられた過去とリリスに助けられて初めて会話をした過去が蘇り、何とも言えない気持ちになってくる。

 

 そんな事を考えながら歩を進めている内に俺達は奥にある泉へ到着していた。リリスが「サキエル様、ただいま帰還しました」と告げると泉が眩く発光し、光の中から出会った頃と全く変わらない女神長サキエル様が現れ、笑顔で出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい、リリス、ガラルドさん。それと初めましての方もいらっしゃいますね。私は女神長を務めるサキエルと申します。いつも、リリスがお世話になっております」

 

 リリスより数段神々しいサキエル様を初めて見たサーシャとグラッジは美しい姿に見惚れてしばらく言葉を失っていた。そして、2人が自己紹介を終えるとサキエル様がリリスを見ながら首を傾げて尋ねる。

 

「そういえば、リリスの髪色が銀色から金色に変わっていますね? それにどこか雰囲気も違います。貴方達の活躍や戦争の話は伝え聞いていますが、リリスの変化については何も知りません。よかったら教えていただけませんかリリス?」

 

「はい、分かりました。全て順を追ってお話します。まず私とガラルドさんがヘカトンケイルを出た後――――」

 

 それからリリスは30分以上かけて俺達の旅の軌跡を伝えた。リリスが人間の頃の記憶を取り戻したり、五英雄と呼ばれる存在だった事実は長き時を生きるサキエル様でも目を点にするほどの驚きだったようだ。

 

 時に笑顔に、時に涙を流しながらリリスの話を聞き終えたサキエル様はリリスの手を両手でギュッと握り、これまでの活躍を称える。

 

「貴方は本当に……本当によく頑張りましたね。女神として転生してから僅か8年で大陸を救う英雄の1人にまで成長するなんて……育ての親である私も鼻が高いです。今のリリスなら私と同じ特級女神へ昇級することも許されるでしょう。それどころか女神族の中で永遠に語り継がれるような存在になれるでしょうね」

 

 確かリリスの階級は2級女神だったはずだから特級女神になれば1級女神を飛び越えての大出世だ。それに普通の女神は2級女神になるのにすら15年程度はかかるところをリリスは7年で2級になれたと過去に自慢していたことを覚えている。だから今回の昇級は前人未到のスピードの出世になるのではないだろうか?

 

 これは相当めでたい事だ。俺もサーシャもグラッジも拍手で昇級を祝い始めたけれど何故か

リリスは首を横に振って言葉を返す。

 

「ありがとうございます、サキエル様。ですが、私は特級女神への昇級は辞退させていただきます」

 

「なっ? ど、どうしてです? 貴方ほど一生懸命に努力し、世の為に頑張った女神はいないというのに……。それに昔の貴方は早く昇級したいと言っていたじゃないですか!」

 

 サキエル様が問いかけるとリリスは俺の方へ一瞬だけ視線を向け、再度サキエル様を見つめながら真意を語る。

 

「私は……女神を辞めて人間に戻りたいのです。愛するガラルドさんと共に同じ時間の流れで老いていきたいと考えています。女神は限りなく不老不死に近い存在ですからね。故に私は女神から人間に戻る秘術を掛けて頂きたくてサキエル様をたずねたのです」

 

「確かに特級女神の私なら女神を人間に戻す事は可能です。言い方はよくありませんが女神という上位存在から人間という下位存在に変異させる秘術は難しくもなければリスクも無く、記憶を失う事もないでしょう。ですが、本当によろしいのですか?」

 

 俺と共に老いていきたいという思いだけでリリスの人生を縮めてしまってもいいのだろうか? と考えがよぎる。本当は俺が止めなければいけない場面なのかもしれない…………だが、リリスの表情に欠片も迷いがない様子を見て、俺は言葉を飲み込んだ。

 

 サーシャもグラッジも止める様子はなく、笑顔でリリスの決断を見守っている。そして、リリスは一際晴れやかな顔で答える。

 

「はい、微塵の迷いもありません。人間への転生をよろしくお願いします、サキエル様」

 

「……昔から貴方は一度言い始めたら聞かない性格でしたね。分かりました、それでは少しの間だけ目を瞑っていてください」

 

 そう告げるとサキエル様は両手を魔力で光らせて、リリスの足元に何かの紋章を刻み始めた。足元の紋章は神々しい光を円柱状に放出すると今度はリリスの体が光り始め、1分ほど経過したところでようやく全ての光が収まった。

 

 別段何か変わった様子の見当たらないリリスに対し、サキエル様は笑顔で結果を伝える。

 

「あまり実感が湧かないかもしれませんが、これでリリスは人間に戻りました。とはいえ、リーファとしての記憶を取り戻した段階で髪の色も戻っていたようですし、見た目に変化はありませんね。女神としての魔力と魔量は失ったので少しだけ魔術練度、魔力、魔量が下がったかもしれませんが、神官リーファとしての土台がありますし大丈夫でしょう」

 

 傍から見ても全く分からないがリリスは人間に戻ったようだ。リリスは自身に流れる魔力を見つめながら人間に戻ったことを実感し、改めてお礼の言葉を返した。

 

「サキエル様、わがままを聞いていただきありがとうございました。これで私は女神としての務めを終え、人間リリスとしての人生をスタートさせることになります。女神ではなくなってしまったわけですが、最後にもう1つだけお願いしてもいいでしょうかサキエル様?」

 

「人間に戻っても貴方は私にとって娘のような存在です。出来る事ならなんでもいたしますよ」

 

「時々サキエル様の元へ帰ってきてもいいでしょうか? 私を娘と言ってくれたように、私にとってもサキエル様は……お母様のような存在なので」

 

 照れ顔で視線を逸らしながらお願いするリリスに対し、サキエル様は満面の笑みで答えを返す。

 

「もちろんです。ここは貴方にとって帰るべき家の1つです。いつでも帰ってきてください。他の女神達と一緒におかえりを言って出迎えますよ」

 

「……はい! ありがとうございます!」

 

 2人のやり取りを見て、改めてリリスがホームシック気味になっていた気持ちが理解できた。

 

 リリスはもう両親やシリウス以外の五英雄とは会えないけれど、妹達や女神達とはこれからも会う事ができる。だから、これからはリリスが定期的に里帰りできるよう気を配ることにしよう。

 

 色々あったがこれでリリスの目的は達成だ。まさかリリスが女神をやめるとは思わなかったが、本人が満足しているならいいのだろう。俺はサキエル様に別れの言葉を言い、泉を離れようとするとサキエル様は慌てて俺達を呼び止めた。

 

「ちょっと待ってください! 折角ですからスキル鑑定をしていきませんか? リリスは女神ではなくなったのでスキル鑑定の力を失いましたし、街でスキル鑑定をするとお金がかかりますから」

 

 サキエル様の申し出はありがたいけれど俺達には全知のモノクルがあるから現状スキル鑑定はいつでもどこでも可能だ。だから俺が「全知のモノクルがあるので大丈夫ですよ」と答えるとサキエル様は首を横に振る。

 

「もしかしたら全知のモノクルでも分からない部分が分かるかもしれません。それに私は女神族の中でもかなり古代文字の解読に精通している自信があります。1度鑑定したスキルも一層細かく情報を得られるかもしれませんよ? 時間もかからないので4人分まとめてやってしまいますね!」

 

 サキエル様はやや強引に話を進めると再び手に魔力を溜めて、俺達全員の体に魔力を照射し、スキル鑑定の結果が書かれた石版を地面から出現させた。

 

 立ち去ろうとする俺にスキル鑑定をする流れが会った日とデジャヴして何だか少し笑えてくる。俺達は足元に現れた石版を渡すとサキエル様は順番に読み上げを始めた。

 

「ふむふむ、リリスもサーシャさんも話に聞いていたスキルと変わりないようですね。グラッジさんの先天スキル魔獣寄せも神獣と仲良くなれるスキルで間違いなさそうです。最後にガラルドさんの先天スキルは回転砂で後天スキルが…………フフッ、なるほど、一歩(ワン・ステップ)というスキル名ですか。如何にもガラルドさんらしいですね」

 

「えっ! 俺の後天スキルがどんな能力なのか分かったのですか?」

 

 古代文字に精通したサーシャでも女神ウンディーネでも『起動・変化』という部分的な情報しか解読しきれなかったのが俺の後天スキルだ。それをサキエル様はあっさり解読できたようだ。結局、最後の戦いを終えた段階でも分からなかった俺の後天スキルが遂に判明する時がきたのだ。

 

 今後の冒険で役に立つ強いスキルや便利なスキルでありますように……そう願った俺だったが、サキエル様から返ってきた答えは意外なものだった。

 

「それでは説明しますね。スキル『一歩(ワン・ステップ)』――――思想や行動を変えたいと強く思っている他者に対し、ほんの少しだけ背中を押して『勇気を与えるスキル』だそうです」

 

「な、なんだそれ? ほんの少し勇気を与える? しかも、既に変わりたいと思っている者に対してだけ? そんなスキル全然役に立たないじゃないか……」

 

 俺は膝から崩れ落ちそうになるのを何とか堪えながら肩を落とす。しかし、サキエル様も仲間達も何故か俺を見て笑っている。

 

 一瞬、馬鹿にされているのかと思ったけれど表情を見た限りそんな雰囲気ではない。そして、リリスは手を握ってしみじみと語り始める。

 

「凄く……凄く、ガラルドさんらしいスキルだと思いますよ。人間という存在は変化を恐れて1歩目が中々踏み出せない生き物ですから。それは差別的な思想だったり、理不尽に抗う気持ちだったり、正に十人十色です。ガラルドさんに関わってきた仲間も敵も『気持ちを一押しされた』事で変われた人が多いと思いますよ」

 

「俺が、一押しを……か」

 

 確かに今まで戦ってきた敵も味方も考え方を変えてきた者は多い。激動の時代を生きる大陸で本当は誰しも『変わりたい、現状を打破したい』と願っていたのかもしれない。

 

 そう考えると海底集落アケノスで行ったスキル鑑定にも合点がいくかもしれない。女神ウンディーネとサーシャは『起動・変化』と部分的に記述を読み取っていたわけだから。このスキルは思ったよりも捨てたものじゃないのかもしれない。

 

 少し後天スキル一歩(ワン・ステップ)の事が好きになり始めてきたところで今度はサーシャとグラッジも俺の傍まで寄ってきて順番に思いを語ってくれた。

 

「きっとガラルド君の生き様がそのまま後天スキルに反映されたんだよ。だって、文字通り後天性のスキルなんだもん。だから、変わりたいと思ったガラルド君が故郷を飛び出し、心身共に強くなってサーシャ達に影響を与えてくれたんだよ。パープルズに虐められたままでいいと思っていた昔のサーシャの心を変えてくれるぐらいに。グラッジ君もそうでしょ?」

 

「はい。僕も呪いのような魔獣寄せのせいで人生を半ば諦めかけていました。だけど、出会ったばかりの僕をガラルドさんは親身になって助けてくれた。だから、僕は少しずつ生きる事への執着を高める事ができた。貴方がいたから変われたんです」

 

 俺には本当に勿体ない言葉だ……。俺は涙を必死に堪えながら言葉を返す。

 

「みんな……ありがとう」

 

 最近ただでさえ涙もろくなっているのに泣かせにこないでほしいものだ。上を向いて目を乾かし、涙が流れないように抵抗しているとサキエル様が自身の解釈を伝えてくれた。

 

「背中を押して勇気を与えるという意味ではガラルドさんは英雄というより勇者と言った方がいいかもしれませんね。英雄とは偉大な功績を成し遂げた『過去を表す言葉』だと私は解釈しています。そして、勇者とは勇気に溢れ、過去・現代・未来を問わず『勇気を与える者』だと解釈しています。今までも、そしてこれからのガラルドさんのように」

 

 ずっと地を這うような生き方をしてきた俺がこんなにも称えられるとは。仲間達と女神長の言葉を誇りにしよう。そして、これからどんな困難が待ち受けていても頑張っていこうと思う。

 

 スキルの話を終えたサキエル様は最後にリリスへ質問を投げかける。

 

「リリス、ここを去る前に教えてもらえますか? 貴方は結婚式を終えた後はどうするおつもりですか?」

 

「私は結婚式を終えて、ここにいる仲間と共に勇者フォグスンの訪れた祭壇を求めて旅をします。それを無事に終える事ができれば、その次は――――」

 

 リリスは娘が母親に話を聞いてもらうように多くの目標と夢を伝え続けた。彼女が語る夢の設計図をどこまで正確に辿る事ができるか分からないが、きっと仲間達となら楽しい旅路になるはずだ。

 

 その旅路はきっと宝物や目的よりも大事なものとなるだろう。

 

 

 

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