見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第52話】中立性の維持

 

 

 

 互いに気を遣い合うラナンキュラ親子とボビとの間に沈黙が流れる中、リリスが萎縮した様子でボビに質問を投げかける。

 

「お聞きしたいのですが、ジークフリートは帝国に支配されていると仰っていましたよね? 今現在、正式に帝国領に属する町となっているのでしょうか?」

 

「いや、正確に言えばジークフリートは何処にも属していない状態ではある。元々ジークフリートは世界的に中立的な立ち位置を保っていたんだ。工業が盛んではあるものの、面積も狭ければ、場所的にも辺鄙で独立した所だからね。統治する為にわざわざ栄えた帝国から鉄と油の町に来る物好きな貴族もおるまい」

 

「そうですか、なら仮に革命を起こすことに成功しても、国と国の大喧嘩にならないということですね」

 

「一応政治的にはそうなるな。人口的にもジークフリートはシンバードの1割にも満たないぐらい少数だしね。現在の状態になったのも結局、武装した帝国兵とビエードがある日突然現れて『我々の指示に従った方がいい、従わなければ大変なことになる』と言い放ったからなんだ。抗う暇もないまま支配されている形だね」

 

「なるほど、では結局のところどうやってビエード達を退けるかという1点が大事になってくるわけですね。今のところ私には何も策が思い浮かびませんが……」

 

 ボビも親父さんもサーシャもリリスも全員が全員の幸せを願っているのに打開策がまるで浮かんでこない。反抗組織も決戦の日に備えて一応武具の調達などを秘密裏に行っているらしいが、それを扱って反抗しようにも人手がまだまだ足りないのが現状だ。

 

 このままでは責任感が強くて優しい親父さんを筆頭に消耗していく一方だろう。そもそもジークフリート全体が過酷な労働で疲弊しきっているのだから尚更だ。

 

 どうにか潰れてしまう前に短期間で戦力を揃えて、一気にジークフリートを取り戻したいところだ。俺は頭の中で必死に情報を反芻し続ける。その結果リリスの質問をきっかけにある1つの方法を思いつき皆に提案した。

 

「そうだ! ジークフリートは完全支配されている訳ではないんだから力を借りればいいんだ! リリス、サーシャ、直ぐにシンバードへ連絡するぞ!」

 

 俺が提案すると直ぐにボビが否定の言葉を返す。

 

「ちょっと待ってくれ、1個人であるハンター達に力を借りるならまだしも、シンバードに力を借りるとなると大陸則(たいりくそく)が絡む大きな問題となって、何百年と続けてきたジークフリートの中立性が崩れる事となってしまう! この町は自由な物作りを愛し、命を守る武具で世界に貢献するという理念でやってきた場所なんだ」

 

 ボビの言いたいことはとてもよく分かる。大陸則(たいりくそく)はシンバード・ヘカトンケイル・ポセイド等々、俺達の居る大陸全てに適応される法律の様なものだ。ただし帝国だけは強さと傲慢さにものを言わせて大陸則(たいりくそく)を守らないことがあるのだが……。

 

 大陸則(たいりくそく)は中立国であろうと同大陸内であれば必ず適応される法律だ。ボビの言う通り、国が国に対して大規模な戦力援助などを求めた際には、属国とまでは言わないまでも中立性は無くなるだろう。上下関係だって生まれてしまうし、自治の形態も変わってくる。

 

 だが、今はジークフリートの民衆の人生がどうなるかの大事な時だ。俺はボビの意見に共感の姿勢を見せつつも説得を続ける。

 

「ずっと変わらなかったことが変わってしまうのが恐ろしい気持ちはよく分かる。でも今は多少、未来への不安を抱えてでも変革しなきゃいけない時じゃないのか?」

 

「多少だって? ラナンキュラ家、先祖、そして俺達がジークフリートの中立性を保つためにどれだけ頑張ってきたか知らないから、ガラルド君はそんな事が言えるんだ!」

 

 マズい……ボビを怒らせてしまったかもしれない。ジークフリートに辿り着いたばかりの俺が発する言葉では重みがなかったようだ。このまま話が流れてしまうかと思ったが、親父さんがおもむろに咳払いをした後、自分の考えを述べる。

 

「ワシはガラルド君の意見に賛成じゃよ。今は少しでも安全な選択を選んだ方がいい。理念や伝統を守るのは大事な事じゃが、最優先すべきなのは人の命と健康だ。さあ、ガラルド君、ラナンキュラ家の柱として貴方にお願いしたい。シンバードの力を貸していただけないかな」

 

 親父さんは、家にいた時とは違い、町の代表としての顔を見せながら俺に言ってきた。何かを為すためには、何かを犠牲にしなければいけないのは世の常なのかもしれないが、もっと良い解決方法は無かったのだろうか……。今は只々帝国が憎い。

 

 ジークフリートから正式にシンバードへ救援要請の手紙を送るなら、ギルド所属の俺が契約書を書き、俺と親父さんの名前と血判を押し、下山ワイヤーに乗せて送れば2日もかからずシンの元へ情報が伝わる事だろう。

 

 これしか方法がないんだと自分で自分の心を言い聞かせながら、俺は契約書を手に取った。

 

 そういえば、サーシャの時にも契約書を作ったなぁ、とそれほど昔ではない過去を思い返していた。そして俺は、サーシャとの過去をきっかけに全員が悲しまない唯一の案が突然脳内に浮かび上がった。

 

「そうだ……だったら俺達がシンバードではなくギルドに大金を払って依頼すればいいんだ!」

 

 俺の案を聞いた親父さんは苦笑いを浮かべながら案を否定する。

 

「悪いが、奴隷の様な扱いを受けているワシらはまともに金も持たせて貰えないのが現状じゃ。観光客や旅人が来ることを考慮して身なりや町の景観を整える資金程度は貰えておるが、生きていくので精一杯なんじゃ。ワシがやっている家具職人の収益も裏でこっそりと引き抜いて借金返済に充てているだけなのじゃ」

 

「もちろんジークフリート民の懐が絞られているのは承知のうえさ。だが、俺達にはコロシアムの優勝賞金と準優勝賞金がある。これをぶっ込むことで、かなりのハンターをジークフリートへ派遣させることが出来るはずだ」

 

 ほぼ全員が唖然とした顔をしている。特に親父さんとサーシャは口を開いたまま驚いている。唯一驚いていなかったのはリリスだ。付き合いも長くなってきたから俺の言動に良くも悪くも慣れてきてしまったのかもしれない。

 

「まったく……ガラルドさんは本当にお人好しですね。でも、そういうところも含めて私は好きですよ。元々このお金のうち2000万ゴールドは工場奪還の為に使う予定だったんですし、私は賛成ですよ。ジークフリートとサーシャちゃんの笑顔には100兆億ゴールドの価値がありますからね」

 

「兆億なんて言葉はないがリリスの言う通りだ。悪いが俺達のお金だからあんた達がなんて言おうと勝手にやらせてもらう。サーシャもそれでいいな?」

 

「……うん。サーシャの大好きなジークフリートの為に、お願いします。そして約束するよ、いつかこの金額よりもずっと大きな恩返しをするって!」

 

「ああ、楽しみにしてるぞ」

 

 

 そして、サーシャと一緒にボビと親父さんと反抗組織の皆が俺に何度も何度も「ありがとう、ありがとう……」と頭を下げた。俺の手を強く握る者、顔をくしゃくしゃにして泣きながら感謝する者、色んな人がいたけれど、今は全員等しく守りたい存在だ。

 

 俺は仲間思いで故郷想いの彼等とこれからもずっと関わっていきたいと強く思った。だから俺はもう1つ書類を用意することにした。

 

「よし、これで決まりだな。それとハンター達への依頼書とは別にもう1つ書類を書いておきたいから少しだけ時間をくれ。あと親父さんのフルネームを教えてくれないか?」

 

「フルネーム? ワシの名前は鉄の様に強い男となれるよう願いを込められて、アイアン・ラナンキュラと名付けられた。いい名前だろ?」

 

「ああ、いい名前だし、名に恥じぬ生き方をしていると思うよ。それじゃあアイアンさん、この紙を受け取ってくれ」

 

 そして俺はアイアンさんに書類を渡した。アイアンさんは皆に伝わるように声に出して読み上げる。

 

「我々ガラルド班主軸のもとジークフリートを帝国の支配から取り戻すことが出来たら、アイアン氏を中心とした工業員と協力関係を望む。具体的にはガラルドが自身のギルドを設立した後に、武具やアイテムなどの供給をして頂き、報酬を支払う形態を取りたい。なお、今回の契約で武具類を提供するか否かはその都度ジークフリート側で決めて頂いて構わない。提供して頂いた武具類は魔獣討伐や領地防衛などに利用し、侵略行為には一切使用しないことを約束する。なるほど、これはまた随分とワシらに有利な契約じゃな」

 

「これでも俺はお互いが得する契約だと思ってるぞ? サーシャに契約書を渡した時もそうだ。俺達は何が何でもサーシャと一緒にハンターをやっていきたかったからな」

 

 サーシャは下を向いて恥ずかしそうに笑っている。何だか俺まで恥ずかしくなってきた。俺は誤魔化すようにアイアンへ契約するかを尋ねた。

 

「で、どうかなアイアンさん? ジークフリートが平和になったら手を貸してくれるか?」

 

 アイアンは周りにいる反抗組織の面々を見渡すと全員が首を縦に振っていて、ボビは親指を立てていた。それを見たアイアンは軽く息を吸い込んだ後、俺に握手を求めて言った。

 

「ラナンキュラ家の者として、そしてジークフリートの代表として、この契約を受理させていただくことにするよ。武具は守りの為に存在するのであって戦争の為にあるのではないという我々の考えを見事に汲んでくれている素晴らしい契約だよ。ワシらの上に立つのは帝国ではなくガラルド君が相応しい。老い先短いこの命、残りはガラルド君達の為に使わせてくれ」

 

「……ああ、よろしく頼む!」

 

 俺達は固い握手を交わした後、ギルドに送る依頼の手紙を封し、依頼料を袋に包み、発送する準備を整えた。そして帝国兵を追い出す作戦を話し合って解散した。

 

 一時は気まずい雰囲気になったりもしたけれど丸く収まってよかったと思う。しかし、俺達の本番は帝国兵との戦いだ。なるべく怪我人を出さずに済ませたいものだ。

 

 話し合いを終えたあと、本当はサーシャの家で泊らせて欲しかったけれど、俺達3人はビエード達からしたら死んだことになっているはずだから、町に戻る事はできない。少し不気味だが、地下採掘場で寝泊まりし、ギルドからのハンターが到着する日を待ち続けた。

 

 そして5日後、遂にジークフリート奪還作戦当日が訪れた。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

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