「分校統合計画?」
「そうだね、我がアリウス含め全ての対ゲヘナを掲げる学園を統合し新たな学園を創設する」
アリウス分校 生徒会室
「しかし、突然ですね?」
「シオの見解を聞きたい。私の右腕として」
「それは光栄です。神﨑カナデ生徒会会長殿」
長い黒髪に青色のメッシュが特徴の生徒会会長は生徒会長の椅子に深々と座ると気だるそうに顔に仮面を着けた副会長に問いかける。
「一番は昨今のゲヘナ情勢の変化に対応するという事でしょうか」
「建前はそうだろう」
ゲヘナ学園、アビドス高等学校に並ぶマンモス校であり、アリウス含む対ゲヘナ同盟《ニカイア同盟》の敵である学園だ。
ゲヘナはアビドスとは違い統率力の無さが顕著であり、形ばかりの生徒会があるだけでその実は戦国時代のように各部活が派を争い内戦を繰り返しているのが実態である。
だがその矛先はゲヘナ同士ではなくこちら側《ニカイア同盟》に向けられることも少なくない。
度重なる攻撃を受けその最前線となっているのがゲヘナ学園に最も近いこのアリウス分校だ。
第二戦線として挙げられるのはニカイア同盟三大派閥の一つ《パテル分校》である。
「だがユスティナ聖徒会を巻き込んだ話だ。かならずフィリウス分校が関わっている筈だ」
「あの淑女様か…」
フィリウス分校生徒会長《樫谷 ハイカ》物腰の柔らかく、常に敬語を使う人物であるが何を考えているか分からない人物でもある。
「だがゲヘナ学園内にて急速に各部活を統合しようとしている動きがあるのも事実だ。ゲヘナ学園が纏まりを見せ、こちらに襲いかかってきたら対処しきれない」
「我々アリウスもパテルもこれまでゲヘナの進行を阻止してきました。ニカイア同盟により各分校からの戦力を抽出して同盟軍を組織すれば戦力としては拮抗します」
「それでは各分校同士の部隊に歪みが生まれる。それにニカイア同盟は合議制だ。ゲヘナの動きに素早く対応できない」
各分校の意見を統括し軍を一つにして機能させるには膨大な時間を要する。もちろん、この学園統合計画も同じことだがニカイア同盟の調停組織であるユスティナ聖徒会も賛同しているとなると反対は極めて少ないだろう。
だがシオの懸念は別にある。
「この統合計画、三大分校による権力掌握が透けて見えます。このままでは我らアリウスはその武力だけを吸い上げられ三大分校の言いなりに成り下がります!」
「やはり気づくよね…」
カナデは椅子でクルクルと回りながらシオの視線から逃げる。
アリウスは対ゲヘナ最前線として他の分校に比べ多くの犠牲を強いられてきた分校だ。それ故に学校の規模に対してニカイア同盟の中でも発言件はかなり強い。
だが樫谷ハイカの発案した分校統合計画の草案には新学園創設時の発言権は分校の所属人数に比例するとされていた。
これは完全に完全にアリウスを狙い撃ちにしたものである。
まだシオには見せていないがこれが公開されればアリウス生徒が反対するのは目に見えてる。
(反発を期待していると言った方が正しいのかもしれないな…)
この通達と同時に各中小分校の生徒会宛に助力を申し出ているが反応が良くない。彼女らも三大分校の配下に加わった方がメリットが大きいからだ。
「やはり肝はユスティナ聖徒会か」
ニカイア同盟における調停組織であり同盟間における紛争を阻止するためならいかなる手段おも肯定する影の組織。
「会長!」
「まだ決まった訳じゃない。落ち着きなさい」
もちろんカナデ自身もこれに納得しているわけではない。先人たちの奮闘を無駄にするつもりはない。
「私だって先人たちの血と汗を無駄にするつもりはない。ニカイアを護ってきたのは私達だ。長年後方に居座っていたフィリウスやサンクトゥスの好き勝手にさせるつもりはない」
「はい、取り乱し申し訳ありません」
深く息を吸うと落ち着きを取り戻したシオ。
「シオはリエと連携して今後の通常運用を頼む。それにもしもの時に備えての備蓄もね」
「承知しました。他の分校に頼らない備蓄をしておきます」
「頼む、私は政治というヤツをしなくちゃならなくなった。嫌だね全く」
「確かに会長は戦場に立たれた方がお似合いですな」
心底めんどくさそうに椅子でクルクル回る会長を見てシオは少し笑いながら答える。
「可愛くないヤツだね。昔はもっと愛嬌があったのに」
「成長したのです」
「なんでもかんでも成長すればいい訳じゃないんだけどね」
ため息をつきながら立ち上がる会長に敬礼をして生徒会室から立ち去るシオは足を早めるのだった。