「分校統合計画…私は知らなかったなぁ。少しは私にも話を通してもらいたいものだな。高緑ヒノメ生徒会長?」
「す、すまない。昨今のゲヘナ事情に対応するために急速に話を進めた結果なのだ。起案から草案まで前回の3校会議の間に行われたことなんだ…」
月に一度開かれるフィリウス、サンクトゥス、パテル分校における3校会議。その場では燃えるような赤髪を一つにまとめた髪を持つパテル分校生徒会長《虎杖レイカ》の質問に対してサンクトゥス分校生徒会長《高縁ヒノメ》は怯えながら答える。
「本当に申し訳ありません、レイカさん。ヒノメの言う通り、昨今の状況は変化し続けています。内戦に興じていた学校たちが統合の動きを見せている。時代の流れというものですね」
フィリウス分校生徒会長《樫谷ハイカ》は部屋に入るとイラつきを隠さないレイカに微笑みを向けながら席に着く。
「アッサムを」
「はい」
部屋に控えていた給仕の生徒に告げると改めてレイカに向き直る。
「先日、内戦を繰り返していた百鬼夜行にも紛争調停委員会なるものが発足されたようです。百鬼夜行の内戦も終息に向かいつつあるとか。アビドス高等学校も同じくかつては生徒会長が乱立する群雄割拠時代を得てこのキヴォトス最大の学校になりました。ゲヘナですらアビドスに手を出せぬと言われるほどに」
渡された紅茶を飲みながら静かに語るハイカだが相変わらず話の長い彼女に嫌気を覚えるレイカは口を挟む。
「私はこの統合計画に対して文句を言ってる訳じゃねぇ。筋を通せと言ってるだけだ!」
「……」
「なんのための3校会議だ?ニカイア同盟三大分校である私達が同盟の方向を示しその可否を各分校に判断してもらう。それがこの同盟の基本構想の筈だろ!」
荒々しく机が叩かれ机の上におかれた茶菓子が一瞬宙に浮き、ヒノメは声にならない悲鳴を上げる。
「それをなんだ?まるで既定路線かのように草案まで出してきやがって各分校に通達する前に私に話を通しておくのが筋じゃないのか?二人が昔馴染みか知らねぇが私抜きでやりたいなら言えよ。口も出さねぇが参加もしねぇぞ!」
「レイカさん、言わずとも分かるでしょう?この計画にはパテル分校の力が必要不可欠なのです。あまりにも火急の案件だったので話をせずに進めたのは謝罪いたします。」
深々と頭を下げるハイカを見て一応、怒気を抑えて席に荒々しく座る。
「こちらをご覧ください」
ハイカから渡された書類に目を通したレイカは更に怒気を抑える。
その書類はフィリウスの諜報機関が把握したゲヘナ内部状況に関するレポートだった。
「
「これが現状、ゲヘナ学園の内部を暴れまわっている新規の部活です」
当初、50にも満たない小さな部活であった万魔殿はゲヘナらしく武力でゲヘナ西部の中規模部活を配下に置き、今では中規模部活となっている。
これがたった3ヶ月での出来事だというのだ。
「これを見るにゲヘナ西部を統合したに等しいのか」
「はい、このレポートは1週間前に提出されたものです。我々ニカイア同盟は合議制のために動きが遅い。ゲヘナのように力ある独裁ではありません」
「改革は独裁の方が早く進むか…」
「はい、それにこの分校統合計画は草案ではあるもののまだ初期段階です。事が事だけにどうやら起案段階で情報が漏れたようです」
どうせ隠す気もなかったのだろうと思うがこれ以上の議論は無駄だと判断したレイカは給仕の生徒に紅茶のおかわりを告げると座り直す。
「それで、アリウスは黙ってないだろ?」
「…それが難点です。アリウスは対ゲヘナの最前線です。もちろん、レイカさんのパテル分校も前線に立たれていますがニカイア同盟屈指の武力を誇るアリウスは無視できません」
「ならアリウスを4校目にするのか?」
「アリウス分校の規模は我々3校に比べたら比にもなりません。そんな学校を贔屓しては他の中小分校の不満材料となります」
「だがアリウスが今までニカイア同盟の中でも最も貢献しているのは事実だろう?」
「……」
沈黙、それがハイカの答え。
屈指の武力を誇るアリウスの不満より他の中小分校の不満の方が重視すべきだと彼女は判断したのだ。
一を切り捨てて他を取る。分校統合計画を急速に推し進めるためには得票数が必要になるのだ。
「交渉は続けます。まだ我々は分かたれるわけにはいかない。先も申した通り、ゲヘナだけではなく百鬼夜行地区なども急速に内戦の平定に動いています。ここで我々も遅れるわけにはいきません」
ーー
「ハイカ!だから言ったんだ、私はレイカを怒らせることになると!」
「結果的には納得しました。あそこまで激昂するとは想定外でしたが」
今後の分校統合計画の大まかな案をまとめ終わり、レイカが退出した後。ヒノメは情けない声を上げながらハイカを問い詰めた。
「それになんで私が初代ホストなんだ!君が起案したんだ、君がやればいいじゃないか!」
「私は他校からの印象が悪いのです。レイカさんは粗暴すぎます。ヒノメ、貴方が適任なのです」
「私がサンクトゥスの生徒会長になれたのは君が居たからじゃないか元々なるつもりもなかった。どうせ統合された学園を動かすのは君だろう」
「ヒノメ」
ハイカの冷たい声にヒノメは力無く椅子に座り彼女の言葉を待つ。
「貴方なら出来ますよ。私は貴方が求めたときに助言を差し上げているだけに過ぎません」
ハイカは立ち上がり、彼女の背後に立つとゆっくりと両肩に手を添える。
「昔から言っているでしょう。貴方は自身の力を過小評価しすぎです。それにこの計画に私がどれだけ賭けているか知っているでしょう?」
「君の先代のようになりたくないからね」
「なにを言うのですか?彼女は自滅したのですよ、自らね」
大きくため息を着いたヒノメは冷めきった紅茶を飲み干すのだった。