ゲヘナ西部、万魔殿司令本部。
ゲヘナ西部を実質的に支配していた《地質研究部》を制圧した万魔殿は地質研究部が管理していた建物をそのまま徴用し第1校舎にひっそりとあった部室(司令部)を移転させ来るゲヘナ統一作戦の基地として作業が進められていた。
ゲヘナ中央部と西部の境界には大きな川が流れておりその川の両岸から万魔殿と中央部を支配する歴史研究科がにらみ合いを続けていた。
司令本部作戦会議室では万魔殿主要メンバーが揃い、奥に座る万魔殿初代議長《堂東カナ》は黙し視線を副官に移すと副官が話を始める。
会議室の壁にゲヘナの地図が写し出され全員がそれに注目する。
「現在、ゲヘナ地区は大きく分けて3つに分裂しております。制圧している地域としては歴史研究科が中央部、風紀委員会が東部をそして我々万魔殿が西部です」
「歴史研究科は元々、風紀委員から危険部活に指定されるほど活動的な組織です。風紀委員会は言うまでもなく戦力も豊富で統率の取れた組織です」
「対して我々は抱き込んだ地質研究部を含む部活の他には有志で集まった者たちばかり、個々の戦闘能力では我々不利」
「我々の噂を聞きつけ、入部希望者は集まりつつあります。数だけは揃う。それに風紀委員会から奪った戦車で編成した機甲戦力は他にはない強みだ。やりようはある」
万魔殿の支配する西部のさらに西には火山地帯が存在しそこはアビスと呼ばれる未開拓地が存在するつまり背後を気にせずに戦闘を行えるのに対して中央部にいる歴史研究科は万魔殿と風紀委員会に、風紀委員会は歴史研究科と背後にニカイア同盟(後のトリニティ自治区)が存在する。
ニカイア同盟所属の分校の部隊が動き回っているとの情報を得て風紀委員会も自治区境界線に守備隊を配置しておかねばならない状況であった。
だが万魔殿と歴史研究科の間に広がる川、これを渡河しなければなにも始まらない。特に機甲戦力頼みの万魔殿には渡河は難題の一つであった。
それと急速に多くの部活を併合したために部隊編成が終わっていない。
「議長、補給部からの提案なのですがせめて万魔殿直属部隊は銃の統一を行うべきです。弾種が様々で補給がままなりません。制服と武器を統一することで統率感が出るでしょう。」
(※万魔殿で採用されている制服と銃は羽沼マコト時代と同じである)
「補給長、貴官の提案を是とする」
「ありがとうございます」
「各員はそれぞれの役職に基づき、作戦準備を整えよ!準備完了次第、ゲヘナ統一戦争を開始する!」
副官の号令と共に全員が立ち上がり堂東カナに向けて敬礼する。それを見た彼女は敬礼を返して会議室を後にするのだった。
「流石はゲヘナ統一を掲げる議長閣下だ。同じ部屋に居るだけで手が震えてくるよ。」
「そうだろう、議長閣下は新時代のゲヘナを治められるべき御方なのだ。君も頑張りたまえよ」
「あぁ、敵であった地質研究部に居たのに幹部として重用して貰ってそのお心の広さを知ったよ。微力ながら手伝わせていただくよ」
議長が去った部屋では活気が溢れ、次の作戦の為の準備を進めていた頃。当の本人である堂東カナは議長室に戻り、しっかりと施錠を確認すると着ていたコートやら帽子を投げ捨てて高そうなソファに置いてあったクッションに顔を埋める。
(どうしてこうなったんだ!!)
堂東カナは声にできない叫びを心で叫びながら悶える。
(私は頭の良さそうなことをそれっぽく言ってただけなのに!なんでゲヘナ統一!?そんなのしなくていいよってなんで私の万魔殿が三大派閥に食い込んでンだよ可笑しいだろ!!?)
堂東カナはただの不平屋に過ぎなかった。ゲヘナなんぞ不満など吐いて捨てるほどある。そんな不満を垂れ流しながら大人しく勉学に励んでいたらなぜか楽しそうに聞いてくる後輩に頼まれ演説したらそれがそのまま決起集会になってしまい部室欲しさに適当に作った万魔殿というなんか格好いい名前の部活に人が溢れ、風紀委員会に目をつけられ、自衛のために戦い、逃げ惑っていたらいつの間にか地質研究部が入ってきた。
(意味が分からん!!?)
ゲヘナ統一やらニカイア同盟の破壊やらなんか知らないうちに知らない目標が掲げられ、人が集まり続け、言い出せなくなってしまった。
(ってか今違うって言ったら私のヘイローが壊されそうだ)
(なんで…なんで…こうなったんだ……)
堂東カナは頭を抱えながら天井を見上げ、大きなため息を小さくついた。