『何か』を失った俺達のリスタート〜やたら好感度が高い仲間達(知らない人)と、恋人を自称するヒロイン(知らない人)と、何も知らない俺〜   作:鴨山兄助

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第11話:nice guy【ウラありオジサン】

 いつもの下校ルートから外れて、オフィス街から少し離れた場所にある公園に向かう。

 比較的広い公園で時間は夕方。

 学校終わりの子ども達が楽しそうに遊んでいる。

 そんな旧時代から変わらない光景だが、中には大きく変化したものもある。

 

「みんなスマホは持ってきたなー?」

「今日こそ新しい能力ゲットするぞ!」

「その前にあの動画でやってたやつ再現しよーよ!」

 

 スマホを持ち寄った小学生くらいの子どもの集団。

 彼らは『Skill(スキル) Editor(エディター)』を使って遊ぶつもりらしい。

 一応扱いさえ間違えなければアプリ能力も無害ではあるが、万が一の事故なんてものは後を絶たない話だ。

 最近では『Skill Editor』専用のセーフティアプリもあるので、あの手の子ども達は親にそれを導入されたスマホを持っているのだろう。

 そんな微笑ましい日常風景を横目に、来翔(らいと)はお目当ての店を探す。

 

「おっ、今日は来てたラッキー!」

 

 公園横の駐車場。そこに停まっていた一台のキッチンカーを目指して、来翔はユキを連れていく。

 

「ジライヤさーん、来たよー」

「おっと、来翔少年か。毎度ご贔屓にどうも」

 

 キッチンカーの前でタバコを吸っていた四十代くらいのガタイの良い男性に、来翔は声をかける。

 ジライヤと呼ばれた男性は、来翔の後ろにいるユキを見るや意味深に口笛を吹いた。

 

「ヒュー、彼女連れとはやるね少年」

「一応彼女ではないはずです」

「将来的に確定してるんで彼女でいいです」

 

 来翔は無言でユキの両頬を引っ張ってお仕置きをする。

 ややこしい表現を使うユキに、無言で制裁を行う来翔。

 そんな二人を見てジライヤは、どこか優しげな笑みを浮かべていた。

 

「こんな可愛い子に愛情向けられるとは、少年も中々幸福じゃないか」

「急にポップアップした幸福は恐ろしさと大差ないんですよ」

「ハハハ、そう言うな! 何でもかんでも派手に受け入れた方が人生楽しいぞ!」

「そうだよライト。早くボクを受け入れて派手にイチャつこうよ」

「俺、慎ましさは美徳だと思うんだ」

 

 来翔は悪ノリする二人対して、慈愛と憤怒が入り混じった声と表情でそう答えた。

 それはそうとして、来翔はお目当てものを注文する。

 

「ジライヤさん、チョコパンを二つお願いします」

「おっ、彼女さんの分もかい? オジサン張り切っちゃうよ」

「ツッコミたくないんで、早めにお願いします」

 

 来翔から六百円を受け取ると、ジライヤは「ヘイヘイ」と言い、タバコの火を消してからキッチンカーの中に入っていく。

 出来上がるまでのんびり待とうとすると、ユキが来翔に声をかけてきた。

 

「ここってライトの行きつけ?」

「ん? あぁちょくちょく来るんだよ。パンとか焼きドーナツとか美味しくてさ」

「今日はライトもチョコパンなんだ」

「この前言ったけど、なんか最近マイブームなんだよ」

「……そっか」

 

 一抹寂しさ、だがそれ以上に幸せを噛み締めているような笑顔を浮かべるユキ。

 そんな彼女を見て来翔は「大人しかったら本当に可愛いんだけどな」と心の中でぼやいていた。

 数分待つと注文した品物が出てきた。

 

「はい、チョコパンお待ち」

「ありがとジライヤさん」

 

 オーブンで香ばしく焼かれた二つのチョコパンを受け取り、来翔は一つをユキに手渡す。

 紙の包みに入っているパンを受け取るや、ユキは無邪気そうに目を輝かせていた。

 

「ふわぁぁぁ! 美味しそう」

「よかったな少年。彼女さんの好感度は間違いなく上がったぞ」

「上げた先のこと深く考えてないんで、今は触れないでください」

 

 隣で「考えてもいいのに」と言うユキスルーしつつ、来翔は礼を言ってその場を後にした。

 ジライヤは去り行く二人の背中を優しく見届ける。

 そして二人の姿が見えなくなると、振り向くことなく後ろに声をかけた。

 

「様子が気になるなら、もう少し上手く隠れた方がいいぞ」

 

 ジライヤがそう言うと、駐車場の車の影から尾行していた者が姿を現した。

 長い黒髪が特徴の女子高生、鶴城(つるぎ)桃香(とうか)である。

 桃香はジライヤを警戒し、姿は見せても距離は保ったままであった。

 

「そう警戒しないでくれ。オジサン傷ついちゃうからさ」

「これでも気配遮断はプロから叩き込まれている身なのでね」

「なるほど……オジサンが何者かって知りたいわけ」

 

 意味深そうな表情浮かべながら、余裕満々な様子でジライヤは振り返ってくる。

 桃香は決して警戒を解かない。右手には既にスマホが握られており、いつでもアプリ能力を使えるようにしている。

 だがそれすらジライヤには見抜かれていた。

 

「アプリ能力なんて物騒なものは遠慮してくれるかな? オジサンこう見えて荒っぽいの嫌いなんだよ」

「……何者なんだ」

「先にそちらから名乗った方が良くない? マナー的にさ」

 

 数秒の静寂が二人の間を支配する。

 桃香はひとまずスマホは握ったまま、素性を明かすことにした。

 

「鶴城桃香。先程こちらを訪れた鶴城ユキの義姉であり、高杯(たかつき)来翔の仲間だ」

「鶴城……なるほどね〜、異世界研究の投資で有名になった資産家の娘か」

「両親は色々と後悔してるがな」

「だろうな。あの異世界研究で良識を持っていたのは鶴城家くらいだろ。まぁ色々と後手だったけどな」

 

 その言葉を聞くや、桃香は苦々しい顔をしてしまう。

 ジライヤはそれを見て、彼女が問題を正確に認識できている人間だと理解した。

 

「それだけ痛みを理解できてるなら上出来だな。逃げもせず戦う道を自分で選べている。あの二人は良い先輩に恵まれたらしい」

「その言葉は素直に受け取ろう。では次はこちらの質問に答えてもらおうか」

「警戒を安易に解かないのも花丸だ」

 

 そう言うとジライヤは軽く背筋を伸ばして、空を眺めてから問いに答えた。

 

「オジサンは見ての通り、ただのキッチンカーの親父だ」

「……続きは?」

「色々訳ありで深入りは歓迎しない。ただし君達の敵ではないという事だけはハッキリさせておこう」

「それを安易に信じろと?」

「無茶な要望というのは承知の上さ」

 

 疑惑の眼差しをジライヤに向ける桃香。

 だが同時に今の彼に敵意が無いことは理解できていた。

 

「あの二人に何かを企んでは?」

「ないな。オジサンは見守る者であり、時には尻拭いをする者だ」

 

 そう言うとジライヤはエプロンのポケットから自身のスマホを取り出し、桃香の方へと画面を向ける。

 その画面を見た瞬間、桃香はハッと驚いた。

 

「これで、分かってくれたかな?」

「……はい。ここまでの非礼、申し訳ありませんでした」

「おいおい、年頃の娘さんがそう簡単に頭下げるもんじゃないよ」

「しかし」

「人間なんて分かり合えたらそれで良いんだ。難しく考えたら全部ややこしくなっちまう。一緒に美味いもん食って、遊んで、のんびりできれば万事解決だ」

「……お気遣い痛み入ります」

 

 そう言って頭を上げる桃香。

 固苦しい雰囲気は中々治らないものだと、ジライヤは考えていた。

 

「しっかし仲睦まじいカップルを尾行するのは、オジサン関心しないな〜」

「失礼ながら、私は『ユキ×らい』の紡ぐ愛の物語を観測するために命を賭す覚悟はできているので」

「わーお、過激派カプ厨だったか。オジサンびっくりだよ」

 

 よく見れば桃香は首から一眼レフカメラをぶら下げている。

 恐らくスマホは元々ボイスレコーダーを使うために握っていたのだろう。

 愛の物語を記録する気まんまんである。

 

「じゃあそんな観測者ちゃんに、オジサンから質問が一つ」

 

 瞬間、ジライヤはこれまでの飄々とした雰囲気から一変。

 鋭い様子で桃香に質問を投げかけた。

 

「来翔少年、何か無くしたな?」

「気づいたのですか」

「彼はウチの店には以前からよく来てくれるし、話もする……違和感が出始めたのは二月頃か? たしか七瀬の家で当主が捕まった時期だ」

「……お察しの通りです。高杯はその事件で、記憶を失いました」

 

 辛そうに語る桃香。

 ジライヤは放たれていた雰囲気を柔らかく戻すと、困ったように首の裏をかいた。

 

「なるほどね〜、自分だけが何も知らない状態になったわけか……難儀なことだ」

「できる事なら、もう戦いとは無関係な生活を送って欲しいのですが」

「少年はそれができるタイプじゃないでしょ。ああいう男は記憶じゃなくて魂に信念が染み付いてる」

 

 だからこそ、とジライヤは厄介そうに続ける。

 

「自分の間違いに気づきにくい」

 

 杞憂で済めばいいと思いつつ、ジライヤは高杯来翔という少年に「何も起こらなければ良いんだけどな」と心配するのだった。

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