『何か』を失った俺達のリスタート〜やたら好感度が高い仲間達(知らない人)と、恋人を自称するヒロイン(知らない人)と、何も知らない俺〜   作:鴨山兄助

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第1話:common【平凡な高二?】

 何故だか分からない欲求に従い、チョコパンを咥えて学校に向かう。

 ごく平凡な黒髪の少年、高杯(たかつき)来翔(らいと)の何気ない通学風景だ。

 

「なんと言うか、マイブームってこうやって来るんだな」

 

 前触れも無くやってきたマイブームに、どこか面白さを感じる来翔。

 とはいえ、こんなものは日常の些細な変化に過ぎない。

 健全なる男子高校生は胸に『冒険少年』という概念を秘めているのが常だ。

 大きな変革、ハチャメチャな未知への冒険こそ、男子高校生の魂を熱くするのである。

 

「まぁ、こんな小さな変化で満足できるんだから。デカい変化なんてそう無いよな」

 

 どこか諦めた様子で一人呟く来翔。

 とはいえ何か大きな変化があれば嬉しい事に変わりはない。

 だが同時に、来翔の中には「向こう百年はデカい変化なんて起きないだろう」という気持ちもあった。

 

 来翔の耳には、同じく通学中の学生達の声が聞こえてくる。

 

「ねぇ見て! 『Skill Editor(スキルエディター)』に新しい能力入れたの!」

「えっ、どんなの!? 映えるやつ?」

「めっちゃ映えそうなやつ! 後で一緒に配信しよ」

 

「頼む、加速系の能力を貸してくれ! もうお前だけが頼りなんだ!」

「言っとくけど学校で使うなよ。絶対にバレるんだからな」

 

「あーしも映える能力出ないかなー」

「しゃーないっしょ、適性とかいうのあるんだし」

 

 きっと昔の時代なら考えられない若者の会話。

 だがこれが現代の普通なのだ。

 

 どこかの国会議員が言うには「超能力共存社会」。

 旧時代ではフィクションの存在であった超常現象を起こす能力だが、十年以上前にそれが現実のものと化した。

 それがスマートフォンアプリ『Skill Editor』の登場である。

 簡単に言えば人間に特殊能力を与えるアプリケーション。

 それは飛行能力であったり、火を出す能力であったり、果ては記憶力や身体能力の強化もある。

 

(なんか最初は色々危惧されてたとか聞くけど、案外綺麗に収まってるよな)

 

 アプリによって発現した能力は、早期に無効化技術が確立した。

 そのおかげで当初想像されていたような混乱は防ぐ事ができたが、まだまだ現代にも問題は残っている。

 来翔はチョコパンをモゴモゴと食いながら、ぼんやりそれを考えていた。

 

(アプリで怪物化とか、怪物退治をする謎集団だとか。色々ニュースは聞くけど、案外ウチの周辺は平和だし……ほんと日常にしか縁がない人生だな)

 

 平和は良い事だが、それはそれとして物足りなさを感じる思春期男子。

 今日は4月10日、年度始めである。

 来翔は「聖園高等学校」と銘板に書かれた校門を通り過ぎる。

 クラス分けが書かれた大きな方眼紙を確認すると、来翔はさっさと新しい自分の教室へと向かった。

 教室にはすでに何人かのクラスメイトが談笑をしている。

 

(高校二年生、これから十七歳……つまりラノベでは恋とか出会いのイベントが始まる時期だ!)

 

 来翔の脳はロマンに侵食されていた。

 未来に対する根拠のない謎の自信を胸に、来翔は自分の席を探す。

 できれば初対面の女子が隣ならロマンだと考えていたが、残念ながら来翔の隣は男子生徒であった。

 特に問題は無いのだが。

 

「初めましてお隣さん。去年は別のクラスだったな」

 

 来翔は隣の席で窓の外を見ていた男子生徒に、そう挨拶をする。

 この初手が向こう一年の明暗を分けるので、来翔は可能な限りフレンドリーさを心がけていた。

 メガネをかけた、体格の良い男子が来翔の方へと振り向く。

 

「俺は高杯来翔。一年間よろしくな」

 

 笑顔で挨拶。これで掴みはバッチリだと考えていた来翔。

 だがメガネの男子生徒は、振り返ったままの体制で固まっていた。

 見た目と異なり人見知りが激しいタイプなのだろうか。

 来翔がそう考えると、男子生徒はどこか悲しそうな表情を浮かべてきた。

 

「あれ? 俺なんかした?」

「いや、なにも……なんでも、ないんだ」

 

 そう言うと男子生徒は悲しみと喜びが混在したような、不思議な様子へと変化した。

 何かを我慢しているようにも見えたが、その奥までは分からない。

 

「えっと、名前は――」

杖村(つえむら)拓真(たくま)。お前と、友達になりたい男だ……来翔」

「なぁ本当に大丈夫か? めっちゃ泣きそうな顔になってるけど」

「気にするな。お前が生きていてくれれば……それだけで、オレは嬉しいから」

「申し訳ないけど急に激重感情を豪速球で投げつけないでくれるか」

 

 高校二年生思春期男子に、初対面の男から投げつけられる感情の限界値を超えている。

 来翔は一瞬だけ「声かける相手を間違えたか」と思ったが、すぐに脳から流れ出ていた。

 そして拓真は普通に涙と鼻水を流していた。

 流石にこの状態の男に話しかける勇気は無かったので、来翔はもう一人のお隣さんは誰なのかと確認した。

 席の表には「鶴城(つるぎ)ユキ」という名前が書かれている。

 

「もう一人のお隣さんは……なんとなく女子っぽいな」

 

 来翔にとっては何気ない発言。だがそれを聞いた拓真は、酷くショックを受けたような表情になった。

 

「あれ、どうした?」

「いや、なんでもない……なぁ来翔」

 

 意を決したように、拓真が質問をしてくる。

 

「その席に書かれた名前、本当に知らないのか?」

「まぁ、そうだな。去年は違うクラスだったと思うし」

「……そっか、そうだよな」

 

 まるで無理矢理自分を納得させたかのような声を出す拓真。

 来翔には、それに何が含まれているのか見当もつかなかった。

 

 そうこうしている内に始業のチャイムが鳴る。

 来翔にとっては去年と同じ担任の教師が入ってきた。

 馴染みのある担任に安心する反面、来翔は結局代り映えの無さそうな日常を予感して、どこか残念な気持ちが湧いていた。

 

「えぇ~、とりあえず進級おめでとう。このあと体育館に移動してクソ程退屈な話を聞いてもらうんだが――」

 

 気だるそうな表情と無精ひげが特徴的な男性教師の話が始める。

 去年と変わらぬノリに、来翔は「日常は永遠に継続なり」などと内心でぼやく。

 だがその時であった。来翔はふと、隣の席が一つ空いたままである事に気が付いた。

 

「諸君らはスマホアプリでオジサンには想像できないような非日常を味わっているかもしれませんが。今年は他のイベントにも注目してもらいたい」

 

 そう言うと担任教師は黒板に「鶴城ユキ」という名前を大きく書きだした。

 そして教室の扉を開ける。

 

「はーい、それじゃあ転校生でーす。質問とか自己紹介は若いもんで勝手にやっておいてくれ」

 

 転校生、そのワードを聞いた瞬間、教室の生徒達は色めき立った。

 当然のように来翔も期待を感じ取る。

 隣の席が転校生だとは想像もつかなかったからだ。

 だが同時に来翔は心の片隅で「そういえば杖村は何か知ってそうな事を言ってたような?」と考えていた。

 

 だがそんな思考も、転校生の登場ですぐに消え去ってしまった。

 

「…………」

 

 来翔はその転校生を見た瞬間、目が釘付けになってしまった。

 腰まである桃色の髪と低い身長が特徴的な女子。

 顔立ちも整っており、間違いなく美少女と表現できる。

 だがそれ以上に、教室の男子達が注目したのは……制服の上からでも分かるほど大きな胸である。

 男は妄想力が爆発し、女子は男どもに氷点下の視線を向けていた。

 

「な、なんか適当に入場させられたけど……コホン」

 

 転校生は気持ちを切り替えるように、咳ばらいを一つする。

 

「鶴城ユキです。色々とはじめてなので、お世話になります」

 

 無難な名乗りに、教室からは歓迎の拍手が鳴り響く。

 当のユキにも歓迎の意は伝わったのか、可愛らしい笑顔を浮かべていた。

 下心が隠せていない男子を力技で抑え付けながら、女子達がユキに質問を投げようとする。

 だがユキはそれを一切合切スルーして、一目散に自分の席へと移動した。

 正確には、来翔の席の前に立ったのだが。

 

「……えっと」

 

 困惑する来翔に、ユキはニコニコと無言で笑顔だけ浮かべている。

 自分の席に座るでもなく、クラスメイトの質問に答えるでもなく。

 ユキはただ無言と笑顔で、来翔の前に立つだけであった。

 

「は、はじめまして?」

 

 とりあえず挨拶はしておこう。

 そう考えた来翔の発言であったが、どうやら何かの地雷を踏み抜いたらしい。

 ユキの表情は笑顔のままだが、明らかに張り付いたような笑顔であった。

 

「あっ、鶴城さんの席はお隣ね」

 

 話題変更で嫌な予感からの回避を試みた来翔。

 だがユキは小さくため息をつくばかりであった。

 

 ほんの一瞬、ユキが寂しそうな表情浮かべる。

 それが気になった来翔だが、そんな疑問は数秒で大気圏外へと吹き飛んだ。

 

「はじめまして。ボクは鶴城ユキ」

 

 そして……とユキは続けてしまう。

 

「 ラ イ ト の 童 貞 を 貰 っ た 女 だ よ ! 」

 

 平穏な教室に、核爆弾が投下された。

 クラスメイト達は奇異の目で二人を見て、担任の教師は呑気に「おー、進んでるねー」とぼやいている。

 来翔の隣にいる拓真は「本当にやりやがった」と呟いていた。

 だがそんな事は今の来翔に認識できない。

 今来翔の頭の中には「混乱」の二文字しか浮かんでいなかった。

 

(神様……出会いの季節とは言ったけど、誰もロケットエンジンを積んで出会ってこいなんて言ってないんだよ)

 

 何故こんな事になっているのか、来翔には何も理解できない。

 どうにか頑張って口を開いた来翔だったが、出てきた言葉はコレであった。

 

「童貞が行方不明になった?」

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