『何か』を失った俺達のリスタート〜やたら好感度が高い仲間達(知らない人)と、恋人を自称するヒロイン(知らない人)と、何も知らない俺〜   作:鴨山兄助

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第7話:want【求めるものは一つ】

 戦闘後の帰り道は、嫌なくらい無言であった。

 ユキを家まで送り届けることは変わらない来翔(らいと)であったが、会話は何も浮かんでこない。

 周囲に気を配っているせいもあるが、そもそもユキが何も喋らない。

 彼女の顔が見えない事も相まって、来翔は形容し難い不安を覚えていた。

 

(なんか、初めて通る気がしない道だな)

 

 普段訪れるような用事もないので、今まで近づかなかった住宅街の道。

 全くの初見である筈だが、来翔の身体は不思議と馴染んでいるような気がしていた。

 そしてユキの後をついて、徐々に一軒の家に近づいていく。

 

(……でっか)

 

 たどり着いた場所は、普通の一軒家という言葉から明らかに逸脱した建物。

 まるで漫画にでも出てきそうな金持ちの屋敷のようにも見える。

 表札に「鶴城(つるぎ)」と書かれているという事は、ユキはここに住んでいるのだろう。

 来翔の中にあるユキ像が「美少女系奇行種」から「お嬢様系奇行種」に訂正された。

 

「ユキ、無事だったか」

 

 門の前に立って、ユキ達を待っていたのは長い黒髪の女子。

 生徒会長の鶴城桃香(とうか)であった。

 恐らくイロージョン騒ぎもあって、義妹を心配していたのだろう。

 桃香はホッと安堵の様子を見せたが、俯いているユキを見て何かが起きたのだと察した。

 

「何があった?」

 

 真剣な表情で問いかけてくる桃香。

 来翔がどう説明しようか迷っていると、ユキはさっさと門を潜ってしまった。

 

「ユキ!」

 

 思わず声を上げて呼び止めようとする来翔。

 ユキは一度は立ち止まるも、僅かに振り返って一言「ごめん、なさい」とだけ呟いて去ってしまった。

 消えゆくユキの背中を、来翔は悔いるように見届ける。

 桃香はそんな二人の様子を見て、一つの嫌な可能性が思い浮かんだ。

 ユキが来翔に対して抱いている好感を知っているからこそ、桃香は彼女があのような謝罪をする可能性が一つしか浮かばなかったのだ。

 

高杯(たかつき)……一つ、質問をしてもいいか?」

 

 声が震えている。だが決して怒りによるものでは無い。

 来翔は直感的に感じた、これは恐れによるものであると。

 ゆっくりと来翔の方へと向く桃香。その顔は僅かに青くなっていた。

 

「何か、アプリケーションを使ったか?」

 

 振り絞るように出てきた問いかけ。

 恐らく桃香は、ユキと来翔がイロージョンに遭遇したのだと勘付いているのだろう。

 そう解釈した上で来翔は、桃香は『何か』を知っている側の人間だと判断し、端的に真実を話す事にした。

 

「『SaviorX(セイヴァー・エックス)』ってアプリと、契約しました」

「ッ!?」

 

 ただそれだけ。

 その真実を聞いただけで、桃香の心に傷が入る音が聞こえた気がした。

 来翔は後悔してしまう。だがそれでも、前に進まねばならないとも考えていた。

 

「先輩。俺は何を忘れてるんですか?」

 

 来翔の問いに、どこか苦々しい様子になる桃香。

 何かを知っている事は確かだと、来翔は感じていた。

 

「俺は鶴城ユキなんて女子とは出会って間もない。先輩だって今まで大した関わりも無かった。だけどそんな自分の記憶や認識を信じきれないんです」

「そう、か」

「それに『SaviorX』なんてアプリも今日初めて知った。なのにユキは「また」って言ったんですよ! 俺は何を忘れてるんですか!?」

 

 心から正解を欲する来翔。

 桃香にもそれが伝わったのか、少し考え込む。

 無言の数秒が経つと、意を決したように桃香は自身の答えを伝えた。

 

「ユキと話をつけてくる……だから明日まで、待ってもらえないだろうか?」

「約束は?」

「必ず守る。破れば私自身が許せなくなる」

 

 今日はこれ以上進めることは不可能だろう。

 鶴城桃香はきっと信用できる人物だと、自分に言い聞かせる。

 そう判断した来翔は深々とお辞儀をした後、その場を去るのであった。

 

 後ろ髪が引っ張られる思いがあったが、耐える他なかった。

 

 

 

 

 自宅に帰る来翔。

 迎え入れる者の声は聞こえない。

 物心ついた頃から母と二人暮らしの来翔にとっては、至って普通の日常だ。

 部屋の明かりをつけて、諸々を片付ける。

 自室にある小さなテレビを意味もなく点けると、夕方のニュース番組が流れてきた。

 だがそれに大した意味はない。来翔はただ、背景音楽が欲しかっただけだ。

 

『東京都異能刑務所から受刑者1名が脱獄して本日で一週間。父親である七瀬(ななせ)雷蔵(らいぞう)容疑者と共にいまだ足取りは掴めていません』

 

 何やら物騒なニュースが流れた気がするが、来翔は対して気にもならなかった。

 今この瞬間に思考を支配することはユキの事。

 そして謎のアプリ『SaviorX』の事である。

 

(ネットで調べても……まぁ出てこないよな)

 

 アプリの名称で検索しても、それらしき情報は出てこない。

 そもそも的な話、人間に超常的な能力を付与するアプリケーションは『Skill(スキル) Editor(エディター)』のみである。

 あの時来翔は、確かにアプリ能力が付与されたと感じ取っていた。

 しかし冷静に考えれば色々とおかしい。

 

「どう見ても『SaviorX』は無関係なアプリっぽいし。そもそもこんなアプリが存在するなら絶対にSNSとかで話題になるだろ」

 

 非正規なアプリだとしても、自己顕示欲の高い誰かが動画か何かを上げていても不思議ではない。

 しかしSNSを調べても、それらしき情報は出てこない。

 出てくるのは一般的なアプリ能力使った、バズ狙いのショート動画ばかり。

 試しに来翔は検索キーワードを変えてみる。

 

「……『アプリ能力 変身』でも何もなしかよ」

 

 一応いくつかの情報や動画はヒットした。

 しかし出てきたものは例外なく、一般的なアプリ能力による「変身」である。

 ちょっとした悪戯用の能力や、幻覚等応用してそれっぽく見せているものばかり。

 ユキ来翔が使ったような「変身」と同質のものは何もない。

 

「ここまで何も出ないとなると、逆に怖いな」

 

 結局のところ『SaviorX』というアプリに関する情報は、不自然なまでに出てこない。

 来翔は試しに『イロージョン』という視点から検索をかけてみたが、それも思うような結果は得られなかった。

 出てきたものは各地で出現した怪人(イロージョン)の出現情報や目撃情報。あとは隠し撮り写真ばかり。

 イロージョンと戦う謎の集団に関する目撃情報も出てきたが、何故かどれもこれも曖昧な投稿ばかりだった。

 

「全然気にしてなかったけど、妙に具体性が無いな」

 

 故に都市伝説の域を出ないのだろう。

 来翔は妙な納得をしてしまった。

 

「都市伝説は現実でした。男子高校生には何もわかりません……って言ってられるかー!」

 

 今までなら他人事で済んでいたが、流石に今は当事者である。

 情報化社会が進んだ現代において、何も分からない事ほど恐ろしいものもない。

 一応『SaviorX』と契約した際に、簡単なマニュアルは脳に直接インストールされてはいる。

 しかしあくまで簡易、詳細は何もない。

 

「アプリを見ても、説明不足のオンパレード。親切心をもっと持てよ」

 

 来翔はスマホから『SaviorX』を起動してメニュー画面を眺める。

 表示されている項目(アイコン)は『morphing(変身)』『skill(能力)』『setting(設定)』の三つのみ。

 一抹の希望を込めて『setting』を選ぶも、よく分からない英文の設定画面が出てきただけ。

 アプリに関する説明など何もない。

 こうなると流石に来翔もお手上げである。

 

「あー、なんもわからん!」

 

 諦めてベッドに大の字で倒れ込む来翔。

 アプリに関しては恐らく明日、ユキや桃香に聞いた方が早いだろう。

 だがそれだけでは来翔の心のモヤモヤは晴れない。

 どうしても頭の中に浮かび上がるのは、自責と後悔の涙を流していたユキの姿。

 

(あいつの知ってる俺は、どんな奴だったんだろ)

 

 もしも、ユキや桃香が知っている自分であれば、彼女を泣かせるような事をしなかったのではないか。

 今の自分とは違い、失敗などしなかったのではないか。

 来翔はそう思わずにはいられなかった。

 

「ん?」

 

 その時であった。来翔のスマホに一つの通知が表示された。

 LINEの受信通知だが相手の名前を見た瞬間、来翔は首を傾げた。

 

「なんで俺のアカウント知ってるんだよ」

 

 表示されていた名前は「杖村(つえむら)拓真(たくま)」。

 クラスメイトだが、来翔は彼にLINEアカウントを教えた覚えはない。

 だが不思議と来翔は大きな驚き感じていなかった。

 何となくだが、彼もきっと関係者なのだろうと思っていたのだ。

 とりあえず来翔はメッセージを確認する。

 

『明日はオレもいる』『断られても一緒にいる』

 

「その無駄に重い感情やめぇぇぇい!」

 

 別の意味で危機を感じる来翔。

 ふとメッセージをよく見ると、妙な続きがあった。

 

『念のために、公民の教科書だけ目を通しておいてくれ』

 

「……なんだそりゃ」

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