田中杏奈は答えた。
高校入学と同時に、髪をきらず、ショートボブから、ようやく肩に毛先が届くかなぁと思いはじめた2日後だ。
整形したでしょと友人によく言われた二重瞼の下、瞳は水分が失われながらも、瞬きをしない。
「私は何かを深く考えたことはない」
公園と呼べる場所の砂地に私は膝をついている。
発言してから、間違いだなぁって思う。
死にたくないから当たり障りのない単語を並べたけど、それは違うと諦念を覚える。
銃口を頭に突きつけられていて、自分の頭にそれをつき立てていられる処刑人の質問に、そんな返答をしてしまったことは申し訳ない。
私は2097年に生まれた。
現在は2107年。
私の、非公式の、祖父は、「はたち」になることは、成人といって、とにかく重要なことなんだよと言っていた。
言葉を覚えてはいる。覚えている。理解はできない。
そんな時代ではない。
私の頭に銃口を密着させている人は、何も言わない。
顔も知らない。声は
「お前が死ぬ理由はなんだ?」
その質問を受けた時に聞いた。
悲しそうな声だった。
1秒後に私の脳が飛び散ることになる。
私の脳が、飛び散る1秒に満たない間に、若い処刑人が引き金を引くのを少し迷った合間に、私は身体を横に倒して、処刑人に押さえつけられる。
首をかしげて、言葉を紡ぐ。
「恨みます」
ちゃんと言えた。
国語の教育が残っていたから言えた言葉なのかなと思う。飛び立った私の脳みその破片が記憶していた限りでは。
そして私の意識は途絶えた。
途絶える少し前に、私の頭に銃口を押し付けていた男の顔がしっかりと見えた。
見えなければ
恨みも、愛しも、
信じもしなかった。
2025年。
山田杏奈は、不意に衝撃を覚える。
頭を銃弾で撃ち抜かれる衝撃ではない。子供の頃に、川で泳いでいいかと質問した時、頭を叩かれた衝撃に重なっている。
意味がわからない。
「山田ー! そんな堂々と寝るなよー!」
パッと目を開けて、身体を起こす。
鼓膜を知らない音が揺らす。
私は反射的に、暴れてしまう。
これが私の意識の始まりだ。
「わぁあー!」
同級生が急に暴れはじめた。鈴木拓也が気になる女子の山田杏奈が、教師を押さえ込み殴りはじめた。
YouTubeでみる総合格闘技の試合。
テイクダウンしてのパウンド?
みたいなことをしはじめた。
後から聞いた話だと、数学の先生は運良く後遺症が残らなかったらしい。
ここから僕が話す物語は、悲劇だ。
でも、仮にそれを喜劇だと感じる人がいるなら、きっと、そう感じた人は優しい人なんだなぁと思う。