ルーパー   作:バージ1590

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1話 闇に落ちた聖女

 田中杏奈は答えた。

 高校入学と同時に、髪をきらず、ショートボブから、ようやく肩に毛先が届くかなぁと思いはじめた2日後だ。

 

 整形したでしょと友人によく言われた二重瞼の下、瞳は水分が失われながらも、瞬きをしない。

 

 「私は何かを深く考えたことはない」

 

 公園と呼べる場所の砂地に私は膝をついている。

 発言してから、間違いだなぁって思う。

 

 死にたくないから当たり障りのない単語を並べたけど、それは違うと諦念を覚える。

 

 銃口を頭に突きつけられていて、自分の頭にそれをつき立てていられる処刑人の質問に、そんな返答をしてしまったことは申し訳ない。

 私は2097年に生まれた。

 現在は2107年。

 私の、非公式の、祖父は、「はたち」になることは、成人といって、とにかく重要なことなんだよと言っていた。

 

 言葉を覚えてはいる。覚えている。理解はできない。

 

 そんな時代ではない。

 

 私の頭に銃口を密着させている人は、何も言わない。

 

 顔も知らない。声は

 

 「お前が死ぬ理由はなんだ?」

 

 

 その質問を受けた時に聞いた。

 悲しそうな声だった。

 

 1秒後に私の脳が飛び散ることになる。

 

 私の脳が、飛び散る1秒に満たない間に、若い処刑人が引き金を引くのを少し迷った合間に、私は身体を横に倒して、処刑人に押さえつけられる。

 首をかしげて、言葉を紡ぐ。

 

 

 「恨みます」

 

 

 ちゃんと言えた。

 国語の教育が残っていたから言えた言葉なのかなと思う。飛び立った私の脳みその破片が記憶していた限りでは。

 

 そして私の意識は途絶えた。

 

 途絶える少し前に、私の頭に銃口を押し付けていた男の顔がしっかりと見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 見えなければ

 

 恨みも、愛しも、

 

 

 

 

 

 信じもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年。

 山田杏奈は、不意に衝撃を覚える。

 頭を銃弾で撃ち抜かれる衝撃ではない。子供の頃に、川で泳いでいいかと質問した時、頭を叩かれた衝撃に重なっている。

 

 意味がわからない。

 

 「山田ー! そんな堂々と寝るなよー!」

 

 パッと目を開けて、身体を起こす。

 鼓膜を知らない音が揺らす。

 私は反射的に、暴れてしまう。

 

 これが私の意識の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わぁあー!」

 

 同級生が急に暴れはじめた。鈴木拓也が気になる女子の山田杏奈が、教師を押さえ込み殴りはじめた。

 YouTubeでみる総合格闘技の試合。

 

 テイクダウンしてのパウンド?

 

 みたいなことをしはじめた。

 

 後から聞いた話だと、数学の先生は運良く後遺症が残らなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから僕が話す物語は、悲劇だ。

 でも、仮にそれを喜劇だと感じる人がいるなら、きっと、そう感じた人は優しい人なんだなぁと思う。

 

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