固有スキル『ヘッドスライディング』   作:流石兄者

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イラストレーターさんにマネーガールを描いて貰いました。
途中に挿入してあります。


友情トレーニング ~初対面を添えて~

 

 スキルを自由に取れる。それはとても素晴らしいことだろう。

 

 自分に必要なスキルを取捨選択し、タップするだけ。そうして手に入れたスキルは完全に身についている。

 

 それは神の御業の如く。ポイントさえ支払えば、どんな技術も手に入る。

 一切練習していない技術を一瞬で極めるという理不尽がまかり通るのだ。

 日々レースという名の戦いに明け暮れているウマ娘には、喉から手が出るほど欲しいシステムであろう。

 

 保険室のベッドの中で難しい顔をしながら、数多のスキルとにらめっこしている彼女もきっと大満足──

 

 

 

 

『燃えるウマ娘』

『広角打法』

『対エース○』

『プレッシャーラン』

 

 

 

「このスキルはどんな効果なの?いつ発動するの……?」

 

 

 まあ、内容見れたら代打だのレーザービームだのは取ったりしないよね。

 つまり、そういうことなんだ。

 

 

 どれだけ簡単にスキルが手に入ろうとも、それが必要なのかどうかが分からなければ意味がない。

 そんな当たり前だけど大事なことを思い出させてくれた彼女はマネーガール。TS転生ウマ娘である。

 

 知らない男の情報なんぞに興味を持つ方などいらっしゃらないと思うので、前世の話は割愛してマネーガールのことだけ話していこう。

 

 そう言えば彼女がどんな容姿をしているかまだ語ってなかったね。まずはそれからにしようか。

 

 彼女の顔は整っている。しかし顔色の悪さと目元の隈が先に目につくだろう。

 

 彼女の髪は綺麗な白だ。しかし乱雑にルーズサイドテールに纏めあげられ、所々ぴょんとはねている。

 

 彼女は落ち着いた大人の雰囲気を漂わせている。──同時に『昼間になぜかスーツ姿でブランコを漕いでいる人』のような陰鬱さも感じる。

 

 彼女の胸はぺったんこだ。ひょっとしたら前回のヘッドスライディングでちょっと削れたかもしれない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 目の隈。乱雑な髪型。陰鬱な雰囲気。大人っぽい表情。それらすべてが合わさり、変な相乗効果が生まれた。 

 彼女の印象を一言で表すなら『夫に先立たれた未亡人』

 黒っぽい服を着せて街を歩かせれば、誰もが振り返りお悔やみを申し上げてくるだろう。

 大丈夫。誰も死んでない。

 

 

 大丈夫(ダイジョーブ)沢刺々美に『元気で健康になれる秘孔』を突かれたにもかかわらず、わずか数日で目を離したらぶっ倒れてしまいそうなくらい儚い生き物になってしまったマネーガール。

 なぜこんなことになってしまったのだろうか? 

 

 女生徒しかいない学校で女の子として過ごさなきゃいけなくなったこと。

 常に襲いかかってくる将来の不安に悩まされていること。

 ひょっとしたらこの2つがなにか関係しているかもしれないし、してないかもしれない。どっちだろうね。

 

 

 

 

 さて、話を冒頭に戻そう。

 ゴールと同時にヘッドスライディングをかまし、保健室に運ばれることによってその後待っている特大タイムロスイベント『トレーナー達の勧誘』をスキップする。

 そんなRTA走者が拍手喝采するプレイを披露したマネーガールは保健室にて検査を受け、ベッドで休んでいた。

 別にケガが酷かったわけではない。睡眠不足と診断され、ベッドで休むことを推奨されたのだった。

 

 だが場所が変わった程度では眠れない。気分を紛らわせたいマネーガールは彼女にしか見えないウインドウを操りスキルを眺め、ときには習得していった。

 

「やっぱり名前から効果を推測するしかないかぁ……。これと、これはぁ……どうだろ」

 

 そうこうしていると保健室の先生によりカーテンがゆっくりと静かに開けられる。だがマネーガールが寝ていないことに気づき、話しかけてきた。

 

「眠れないのかい?もう少し照明を暗くしようか。

 それともナイトクラブ風に点滅させようか?」

「え?あ、あぁいえ、大丈夫です。お気遣い感謝します。

 ……あの、もしよろしければ睡眠薬か何かを──「しょうがない。よく眠れるよう私が歌ってあげようじゃないか!」

 

 医学薬学より先に歌の力を頼り始めた保険医は、白衣の中からウクレレを取り出した。お前ホントに医者か?

 呆然とするマネーガールをよそに、チューニングを終わらせ口を開く。

 

「聴いて下さい。米津〇師で『死神』」

「あの、医者にそれを歌われるのは縁起的にちょっと……」

「『LOSER』の方が良かった?」

「私、仮にも競技者なのでそれも縁起的にちょっと……」

 

 結果的に言えば、保険医の歌とウクレレはめっちゃうまかった。

 ただ一つ言えることは、『KICK BACK』は子守唄には向いていなかった。

 

 

 

「あ、マネちゃん!大丈夫だった?」

「うん。たいしたことないって」

「よかった~!」

 

 保険医の現場ネコみたいな最終チェックを終え、外に出たマネーガールのもとに、夕焼けに包まれたハルウララがやってきた。

 保健室に運ばれる時、ハルウララも付いていこうとしたのだが『一人で自爆したバ鹿に付き合わなくていいんだよ』とマネーガール必死の説得。

 何とかその場に残したのだが、彼女はトレーナー達に勧誘されたのだろうか。

 

「それで、どうだったウララちゃん。トレーナーさん達来た?」

「んーん、スカウト?っていうのしてもらえなかった」

 

 適正ではない芝のコースを走ったためか、ハルウララの模擬レースの結果は芳しくないものだった。

 だが彼女がトレーナー達の目に留まらなかったのは、同じレースでやりたい放題やったどっかのウマ娘のせいでもある。

 初レースで領域を出したのもそうだが、色々とインパクトが強すぎたのだ。もはや後ろの子たちは彼らの記憶には残っていなかった。

 そんなことを知ってか知らずか、マネーガールはハルウララを慰め始めた。

 

「……そっか。でも、次のレースでいい所を見せれば、きっとスカウトしてもらえるよ。

 スカウトっていうのをされるとね、ファンの人たちがいっぱい来るすごいレースに出られるんだ」

「ほんと!?よーし、トレーニング頑張るぞー!

 マネちゃんも一緒にやろうよ!ウララ、あのトレーニングやってみたいんだ!」

 

 そう言いながらハルウララが指をさす先にはスピードトレーニングのうちの一つ、ショットガンタッチをしているウマ娘達がいた。

 片方がバレーボールを投げ、もう片方がバレーボールが落ちる前にキャッチするというトレーニングlevelが5くらいないと出来なさそうなトレーニング。

 だがハルウララに「あれやりたい!」と言われたら「NO」とは口が裂けても言えないマネーガールは、「イエスマム」と答えた。

 

 

 それはアプリで何度も見たトレーニングだったが、実際にやってみるとそう上手くはいかなかった。たとえ投げる側だったとしても。

 ただ投げるだけでは駄目なのだ。ハルウララがキャッチできる限界を見極め、必要な速度と距離を正確に再現し、投げる。かなりの技量が必要だった。

 

 そんな高等技術を持っていないマネーガールはとりあえず、ハルウララがケガしないようにやさーしく投げた。

 それをハルウララが「わーい!」と喜びながらキャッチし、マネーガールへと投げ返す。

 もはや『アスリートの過酷なスピードトレーニング』というよりは『学生達のたのしい放課後キャッチボール』と化していたが、本人達もそれを見る周囲もニコニコだった。

 

 精神年齢が幼いウマ娘たちが混ざりたそうにそわそわし始めたころ、ほのぼのキャッチボールにエントリーする一人のウマ娘が現れた。

 

「やあ。キャッチボールを楽しんでいるところ悪いが少しいいかな、マネーガール君」

「スピードトレーニングです」

「え?」

「ショットガンタッチです」

「え?」

 

 彼女は『すべてのウマ娘が幸福になれる世を目指す皇帝』シンボリルドルフ生徒会長。

「なんかすげー顔色しながら走ってたウマ娘がゴールでぶっ倒れた」という話を聞き様子を見にやってきた、心優しきウマ娘である。

 

 

 

 

「目の隈が酷いじゃないか、ちゃんと眠れているのかい?」

「ご心配ありがとうございます。最近は、何とか眠れてるんです」

「マネちゃん、夜が怖いんだって。だからウララが一緒に寝てあげるの!」

「そうか、眠れているならよかった。………………待て、一緒のベッドで寝てるのか!?

 

『怖くて眠れないの?じゃあウララが一緒に寝てあげるね!これで怖くないよ!』

 ベッドに入り目をつぶると、マネーガールの頭に浮かぶ『住所不定無職予備軍』。

 まるで中国語みたいな9文字に怯え、震えていた彼女を救ったのは、同室のハルウララ(大天使)だった。

 ハルウララに抱き着かれながら眠るという、誰もが血涙を流しながら羨ましがる不眠治療を受けたマネーガールは、最近は必要最低限の睡眠はとれている。

 

 こんな感じに表現すればいい話風に聞こえるが、端的に言えば同衾。悪意をある表現をすればウマぴょい(動詞)だ。

 皇帝という異名がついている彼女も年頃の女の子。頭の中に『ウマぴょいなことしたんですね!?』という疑惑がちょびっとだけ顔をのぞかせても、それは仕方のないことなのだ。

 

 

「ま、まぁ……仲がいいのは良いことだね。うん……」

「カイチョーさん?顔赤いけど大丈夫?」

「あぁいや、大丈夫だ!問題ないよ。

 そ、そうだ!トレーニングをしていたんだったね。私も協力しようじゃないか」

 

 頭をぶんぶんと振り、やたら早口になるシンボリルドルフ。うまぴょいなこと考えたんですね!?

 

「ショットガンタッチはバレーボールをだいたい10メートルくらい先に投げて、それをキャッチするトレーニングなんだ。

 お手本を見せよう。投げてみてくれるかい?マネーガール」

「わ、私がですか?」

「だいたいでいいよ。キャッチして見せよう」

 

 そう自信ありげに笑いながらバレーボールを渡した会長。それを受け取ったマネーガールは緊張していた。

 現在、マネーガールの衣食住はそのすべてがトレセン学園に握られている。

 そのトレセン学園のトップ層の一人、シンボリルドルフ。彼女の機嫌を損ねてはいけない。

 

 彼女は気に入らないから追いだすなど絶対にしないだろうが、それでもつい考えてしまう。

 下手な球は投げられないと体が強張り、手に力が入ってしまった。

 

 それがトリガーとなったのだろうか。頭の中にあの効果音が鳴り響く。

 

 

 キュピーンと。

 

 

 

『レーザービーム』

 

 

 

 マネーガールの体は大の字のように大きく開き、振りかぶった。

 頭の中ではパニックになった彼女が必死に制止命令を送り続けているが、体は『スキル』にオ-バーライドされていて、動作が完遂されるまで命令が届くことはない。

 

 スキルが行おうとしているのは、伝説の再現。

 ガッツポーズをしただけで5点入ったという(都市)伝説を持つ男、イ〇ロー。

 そのイチ〇ーが得意としたレーザービーム。

 その送球は低く鋭く、重力を無視した。

 

 その伝説となった送球が、今トレセン学園で蘇る。

 

「ッ!?」

 

 虫を殺せないどころか虫に殺されそうな女、マネーガール。

 そんな彼女の表情が突如変わり、息を呑むほど美しい投球フォームでバレーボールをぶん投げようとしている。

 そのことに驚きつつも、会長の心は少し踊った。

 

 訓練相手となった生徒会長に「これにて遊びは終わりです(初球)」と言わんばかりの剛速球を投げるイカれたウマ娘など居なかった。

 それ故に。

 

(これは、面白そうだ)

 

 意外と負けず嫌いのルナちゃんのスイッチが今、入ってしまった。

 

 

 ウマ耳が『どうか許してください』と言わんばかりにペタッと伏せられているマネーガール。

 そんな彼女の手からバレーボールという名の光線が放たれた、その瞬間。

 

 

【汝、皇帝の神威を見よ】

 

 

 皇帝は紫電を身に纏った。

 

 

 

 光線を追いかけるは神鳴。

 突如トレセン学園に発生したナニコレ珍〇景、『空気を切り裂きながらグラウンドをバクシンするバレーボールと生徒会長』。

 アメコミに出てくる方のフラッシュのように駆け抜ける彼女とバレーボールは非常に注目を集めた。

 

 あるものは驚き、あるものはその先頭の景色が見たくなり、あるものは激しい雷鳴を聞き尻尾を取られるんじゃないかと怯えた。

 それを見た会長とマネちゃんは胃が痛くなった。驚かせちゃってごめんね。

 

 どこまでも突き進もうとするバレーボール。だがバレーボール自身は加速する手段を持たず、速度がだんだんと落ちてゆく。

 対してエンジンが温まってきたのかどんどんと加速するルドルフ。

 

 ならばその距離は当然縮まっていく。

 

 走る。ここがチャンスだと言わんばかりに走る。

 そして。

 

「──取った!」

 

 宣言通りに、バレーボールはキャッチされた。  

 

 

 

 

 

 

 

「ほんっっっっっっとにすいませんでした!!!!!!!!!!

 あの、あんな弾投げるつもりじゃなくって、その、手が、滑り倒しちゃって……」

「そ、そうなのかい?でもあのフォームは──」

「カイチョーさんすごかったねー!ビューンってとっても速くてびっくりしちゃった!」

「そうですね!すごい速かったです!尊敬します!」

「あ、ああ。ありがとう」

 

 どうやらマネーガールは手が滑り倒すと〇チロー並みのレーザービームが放てるらしい。もうちょっとマシな嘘はなかったのだろうか。

 当然そんな言い訳は通じず、無事シンボリルドルフの脳内メモに『情緒不安定の可能性あり。要観察対象』と記録されたマネーガール。

 そんな彼女にシンボリルドルフは歩み寄り手を差し出した。

 

「今日は楽しかったよ。ありがとう。

 ……もし、マネーガール君さえよければなんだが。

 またショットガンタッチの練習を一緒にやらないか?今日のはいいトレーニングになったんだ」

「また、これを、やりたいと?」

「ああ、ダメかな?」

 

 マネーガールにとっては『社長と一緒に行く接待ゴルフ』並みに気を遣うイベント。これをダメですと言えたら、どんなに良かっただろうか。

 だが彼女は現在NOと言えないウマ娘。答えは当然──

 

「も、もちろんOKですぅ……」

「そうか、そう言ってくれると嬉しいよ。ではまた会おう!」

「バイバイかいちょー!」

 

 

 夕日に向かっていく会長を、ハルウララと共に見送るマネーガール。

 彼女は苦悶の表情を浮かべながら、お腹を押さえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このトレーニングの一部始終を見ていたあるトレーナーはその時、ふと閃いた!

 このアイディアは、担当ウマ娘との

 トレーニングに活かせるかもしれない!

 

 ミートが10上がった

 守備力が5上がった

 捕球が5上がった

 

 レーザービームのヒントLvが3上がった

 

 担当ウマ娘の成長につながった!

 

 

 

 説明

 

〈マネーガール〉

 

 最近ガラガラを持った不審者にロックオンされてるTS転生ウマ娘。

 男としてのプライドは転生初日にウマ娘用の服の着替え方がわからず、ハルウララに手取り足取り教えてもらったときに粉々になった。

 今でも服を着るたびに思い出し青い顔を真っ赤に染める。

 

〈ハルウララ〉

 

 同室が原作とは違い世話焼きのキングちゃんではなくダメダメなマネちゃんになった影響として、しっかり者になり朝自分で起きれるようになった。

 無意識下に『ウララがしっかりしないと』という気持ちが芽生えている。

 

〈シンボリルドルフ1世〉

 

 トレセン学園を帝政で治めているウマ娘、らしい。

 皇帝って呼ばれてるし多分間違いない。

 

 

〈保健室の先生〉

 

 夢はウイニングライブで自慢の歌声とウクレレを披露すること。

 叶うといいね。

 

 

今回登場したスキル

 

・広角打法

 

 バットで何かを打った時発動。流し方向に強い勢いで打ったものが飛んでいく。

 

 ……このスキルがレース中に使われないことを祈るよ。

 

 進化先『広角砲』

 

・対エース○

 

 対戦相手に『エース』と名のつくウマ娘がいる場合発動。

 能力が上昇する。

 

 え、例えば?ほら、カツラギエースさんとか。カツラギエースさんとかぁ……

 あとカツラギエースさんもいるじゃん!便利!

 

 進化先『エースキラー』

 

・プレッシャーラン

 

 威圧感を撒き散らしながら走る。周囲にいるウマ娘は掛かりやすくなる。

 

 お前と一緒に走ると息苦しいよ……。

 

・燃えるウマ娘

 

 火炎属性付与(エンチャントファイア)。一定時間燃える。

 おまけ的な効果として、スタミナに余裕がある間受けたデバフを軽減する。

 




次回、トレーナーとの話を書こうと思います。

トレーナーアンケート、ウマ娘ばりの白熱したレースを繰り広げていて笑いました。
3話を書き始める時に締め切ります。
……オリトレ1位になったらどうしましょう。なんも考えてないです。

マネーガールにトレーナーをつけるとしたら?

  • 沖野トレーナー
  • 無から生えてきたオリトレ
  • 大丈夫沢博士
  • 桐生(院)ちゃん
  • 樫本理事長代理
  • その他
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