固有スキル『ヘッドスライディング』   作:流石兄者

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残っていたやりたかったことを詰められるだけ詰め込みました。
良ければ観ていってください。


天使にバイキングを

 

 ウマ娘という生き物は、走ることが好きである。

 

『速く走りたい!』という欲求が本能に刻み込まれている彼女たちは、大きなレースに出走できると聞けば喜ぶものだろう。

 

 ましてや、わざわざ中央トレセンに入学してくるウマ娘の中に「私走るの嫌なの!」なんていう気狂いは今まで存在しなかった。

 

 故に、桐生院さんにとってレース直前にこういう反応する子を見るのは初めてだったわけで。

 だからまあ、話しかけるとき少し自信なさげに、口調もたどたどしくなってしまうのも仕方ないことだった。

 

「あの、マネーガールさん?今からでもスタッフさんに話してリタイアするっていう手もあります。

 異例の事態なわけですから、誰も責めたりしませんよ!ですので……」

 

 それでもマネーガールを気遣う声は優しさに包まれていた。

 だがその声は、そもそも届いているかどうか怪しい。

 

 呼びかけた対象であるマネーガールは、控室の椅子の上でなぜかもうすでに真っ白に燃え尽きていた。

 元から白い顔がさらに白くなっていて、今の彼女に白い服を着せ雪の中に放り込んだら見失うかもしれないと思うほどである。

 

 

「うぅ、おうち帰りたい……いやおうちなかった……寮の布団に帰ってゴロゴロしたい……。

でもでなきゃ……お金稼がなきゃ……」

「マネちゃん大丈夫!?お顔真っ白だよ!」

「……元気出して」

「ならば保険医である私がメンタルケアしてあげよう!

 聴いて下さい、米津〇師で『Lemon』

 

 夢ならばー、どーれほど、良かったでしょ──

 

「バカにしてますぅ!?」

「ごめん」

 

 キャンキャンと吠えるマネちゃんのコンディションはまさに絶不調。

 そんな状態のマネーガールを見ながら桐生(院)ちゃんは頭を抱えた。

 

 

(どうしましょう……メイクデビュー前に重賞に出ることになったウマ娘の落ち着かせ方、トレーナー白書に書いてませんでした……!)

 

 

 

 書いてある方がおかしいよね、そんなの。

 

 

 

 

 葵ステークスはメイクデビューの前に開催されるレースであり、それ故ジュニア期のウマ娘は出場できないレースとなっている。本来であれば

 しかし文字通り神様のスキルによって自身を修羅の世界に放り込んだマネちゃんは、弱弱しく「ひぃん」と鳴いていた。

 

 クラシック級ウマ娘達の中に放り込まれてしまう。

 そのプレッシャーにマネちゃんは押しつぶされそうに──いや、もう潰れている。ぺちゃんこ。

 

 ここで『格上に挑む!?上等だ、やってやるぜー!』となればよかったのだが、メンタルよわよわマネちゃんはそんな反骨精神、前世のどっかに置いてきてしまい。

 TS転生ウマ娘だからか、『レースに出たい欲求』も正常に動いていなかった。パッチ当ててパッチ。

 

 そんなわけで、レース前に燃え尽きるという器用なことを披露しているマネちゃん。

 そんな彼女を救うべく立ち上がったのは、桐生(院)ちゃんでもミークパイセンでも、ましてや部屋の隅でポロンポロンと悲し気にウクレレを弾く保険医でもなく。

 

我らが大天使、ハルウララだった。

 

 ハルウララは椅子に座っているマネちゃんに目線を合わせながら、いつものように話しかけた。

 

「マネちゃん、レース出るの嫌なの?じゅーしょー?っていうおっきなレースなんだよ!」

「……だからかな。本当は、私が出れるようなレースじゃないんだよね。

 もっとすごい人が出るようなレースで、今回は特別というか……何かの間違いというか……」

「嬉しくないの?」

「うん。たぶん、ぼろ負けしちゃって、情けないデビューになっちゃうと思うんだ」

「でも、出るの?」

「あー、そうだね。なんというか……」

 

 言葉に詰まり、マネちゃんの目が泳ぐ。

 目の前にいる純粋無垢な天使に向かって、『はい!私は特別出走手当(参加賞)の43万円目当てで走りまーす!』という守銭奴みたいなこと、言っていいものか。

 

 もしこれでウララちゃんに変な影響が出た場合、マネちゃんは罪悪感のあまり、タイキシャトルからリボルバーを借りてロシアンルーレットを始めるだろう。

 

 悩みに悩んだ末、マネちゃんはたとえ話でごまかすことにした。

 

「注射みたいなものかな。怖いしやりたくないけど、将来のことを考えるならせざるを得ない。そんな感じなんだよね」

「そっかー。注射痛いもんね、ウララも苦手なんだ!」

「あはは、そうなんだ」

「うん!でもね──」

 

 そう言いながら立ち上がり、ハルウララは大きく手を広げながらマネちゃんに語り掛ける。

 

「ウララはね、注射は苦手だけど好きなんだ!

 終わった後、皆が頑張ったねって褒めてくれるから。それがすっごく嬉しくて、痛くても頑張ろうって思うの!」

 

 その言葉に思わず顔を上げたマネーガールの目には、蛍光灯の光を背に立つハルウララが映る。

 その眩しい光は、まるで後光のようで。

 

「だからレースが終わった後、ウララがいっぱい褒めてあげるね!

マネちゃんが頑張れるように!」

 

まばゆい光を放つその姿が、じりじりとマネーガールの脳裏に焼き付いていく。

マネーガールはこのことを忘れないだろう。

 

「あとね、レース頑張った後のにんじんジュースすっごく美味しいんだよ!それとね──

 

 友達にレースを好きになってほしい。その一心で思いつく限りの『レースの楽しいところ』をあげ続けるハルウララ。

 

 もしかしたら本当にウララちゃんから後光出てるかもしれない。

 こんなに天使なんだから出てるでしょ。

 うん、出てるわ。私がそう判断した。

 

 後光を出すウララちゃん。文字通り眩しい彼女を見て、マネちゃんはあることを思い出した。

 それは、マネちゃんのウマ生ToDoリストに書いてあるうちの一つ。

 

「ウララちゃん」

「あ、どうしたのマネちゃん!元気出た!?」

「うん、レースに出たくなったよ」

「よかったー!」

「それでねウララちゃん、一つお願いがあるんだけど」

「なになに、何でも言って!」

 

 その言葉に、頭の中のミニサイズマネちゃんの一人が邪な考えを口にしたが、一瞬でほかのマネちゃん達にバットで袋叩きにされた。

 そんな脳内集団リンチをよそに、気合を入れ直すように帽子をかぶり直しながら、マネちゃんは答えた。

 

 

「今からお金を稼いでくるから、ご飯を奢らせてほしいな」

 

 

 

 

 

 

『美しい青空が広がる京都レース場。ターフも絶好の良バ場になりました!』

『各ウマ娘の好走が期待できます』

『一番人気はこのウマ娘、ジュエルアズライト──

 

 

 いつもの実況解説が響き渡る京都レース場。だが今日は観客も異様に多く、観客席は満員となっていた。

 その理由は、今日出走する一人のイレギュラーが原因だ。

 

 イレギュラーと化したマネーガールに対し、周囲から『マジで出走するんだ……』という視線が飛んでくる。

 普段の彼女であれば委縮してしまい、小さく丸まってしまっただろうが今の彼女は精神だけは無敵状態。

 ハルウララの祝福により、集まる視線もどこ吹く風。

 

『さあ、今日のレースで一番注目されているのはこのウマ娘!

 ほんとに出走させていいのか、5番人気マネーガール!』

『なぜかURAが許可出してますから問題はないのですが……とはいえジュニア級の彼女にとって、このレースは厳しいものになるでしょう。

 頑張ってほしいですね』

 

 ジュニア級にも関わらず、5番人気と意外に高いマネーガール。

 それはネットミームとしての彼女の人気と、『こんな奇天烈な子ならもしかすると……』という期待によって生み出されたものだった。

 

『おっと、マネーガールいい表情してますね。1年上の先輩たちに囲まれてもプレッシャーに飲まれてはいないようです』

『覚悟完了、と言ったところでしょうか。これは期待できますね』

 

 今までにないほど真剣な表情。それはマネちゃんが顔面蒼白状態なことを忘れさせてしまうほどで。

 その表情を崩さないままゲートに入り、前だけを見据える。

 

『各ウマ娘、ゲートに収まりました』

 

 その言葉を合図に『一掃』『威圧感』が発動。

 しかし相手も1年間、様々なレースを走り続けてきたウマ娘達。威圧感を受けてもあまり動揺していないように見える。

 出遅れにはあまり期待できないだろう。

 

 だがこのレースはフルゲート18人。『一掃』がステータスを17段階上昇させ、マネーガールの体をこれ以上ないほどの仕上がりへ変化させる。

 

『さあ各バ一斉にスタート!』

 

 

しかし、それだけやってもまだ足りず。

逃げのはずのマネーガールは先行ウマ娘達のバ群に沈んだ。

 

 

 

 

『さあハナに立ったのはジュエルアズライト!それに続く形でリボンビート──』

 

 

 先頭争いは2人のウマ娘によって行われ、しかしマネーガールはそこにいない。

 前から数えて6番目。マネーガールはここに居た。

 

 普段アホみたいに前をバクシンしていたマネちゃんは、『囲まれる』ということを経験しておらず。

 故にこの状況は、絶体絶命であった。

 

(まずい、どうやって抜け出せば……!?)

 

 絶望的な経験の無さ。それがマネーガールを苦しめる。

 

タイミングは?

 

スタミナは足りるの?

 

ほら、1200mしかないのにもたもたしていいの?

 

 どうすれば。焦る。抜け出せない。焦る。分からない。焦る。

 

 もはや自分ではどうにもできない状況。

 だけど、どんな時でも駆けつけ助けてくれる。そんなヒーローがマネーガールには居るのだ。

 

 

 

 キュピーン

 

ジャイロボール

 

 

 

まあ、そのヒーローは救助対象を巻き添えにするタイプなのだけれど。

 

 

 

 

 

 想像してほしい。

 あなたは車に乗り、あなたの好きな音楽をかけて、時速70キロくらいでご機嫌なドライブをしている。

 そんな時、ふと横を見ると。

 

同じくらいの速度で車がジャイロ回転をしながら並走していたら。

 

 きっと、恐怖を感じることだろう。

 

 

頭を前方に向け、気をつけの姿勢で弾丸のように回転しながら飛んでいる。

そんなマネーガールを見た周囲のウマ娘は、今まさに恐怖に襲われていた。

 

 

 横に走るは──いや、横を飛ぶのはギュルルルルルと激しいジャイロ回転をするナニカ。

 そんな彼女から皆、飛び退くように距離を離す。

 

 彼女がレース前に放っていた威圧感。

 それとはだいぶ別ベクトルの、チェーンソーの駆動音から感じるような威圧感が彼女から放たれていた。

 

 今までどんなレースでも見たことが無い光景に、観客席も実況も騒がしくなり始める。

 

「あ、あれはなんだ!?」

「鳥だ!」「飛行機だ!」

「いや……なんだあれ!?」

「1200万パワー!!」

「はがねタイプ PP5 めいちゅう100 相手より素早さが遅いほど威力が上がるわざ!!!」

「oh!!アレはジャパニーズニンジャ!!!ガツウガ(牙通牙)デース!!!!」

『ここでマネーガール、驚くべきことに超級覇王電影弾を繰り出し、バ群から解放されました!

 信じられません!今までこんなレースがあったでしょうか!?』

『いやー、今回もやってくれましたねぇ。私ファンになりそうですよ』

 

 

 スキルジャイロボール(メタナイトの横B)

 それは自身の周囲にいたウマ娘を混乱の渦に陥れた。前方にいるウマ娘を除いて。

 

 後ろにいたウマ娘が急に外ラチ側に飛び退き、しかし一向に追い越してこない。

 それを不審に思った前を走るウマ娘は、ようやく後ろをチラ見して。

 

 

 キュピーン

 

『ノビ〇』

 

 

 自身に向かって発射されるジャイロボール(マネーガールの幻覚)を目撃した。

 

「きゃあああああああ!?」

 

 青春スポコンからパニックホラーへとジャンル移行させたのは、加速し自身に接近するジャイロマネちゃんの幻影。

 このままでは背中にドリル頭突きが突き刺さる。それを恐れた彼女は外ラチ側へ飛び退き。

 

 

 邪魔をするものが誰一人いなくなったマネーガールは、前から3番目の位置に着いた。

 

 

 

 

 

 レースは中盤。回転しながらも器用にカーブを曲がるマネーガールは静かに危機に陥っていた。

 危険物に近寄らないように走ることに決めた後ろの子達はもはや脅威ではない。では脅威とは何か?

 

それは、高速回転によりマネーガールの意識が消し飛んでいることである。

 

 もし意識があった場合、今頃ゲロをまき散らしながら時速70キロでかっ飛ぶバイオ兵器となっていただろう。

 それを回避できたのは良かった。だがしかし。

 

 もうすぐスキルの効果時間が終了するというのに、意識が無い。

 このままではきりもみ回転しながら墜落し、頭からターフに沈んでしまうだろう。

 

 だが、外部からの刺激でもない限り意識は戻らない。

 そうこうしているうちにスキル時間が終了し、マネーガールを支えていた謎浮力が消失。

 

「メーデー!」と叫ぶこともできず、マネーガールは地面に叩きつけられる──

 

 

 キュピーン

 

『走塁』

 

 ことはなかった。今は、まだ。

 

 彼女を救ったのは、普段マネちゃんを悩ませている『スキルによる体のオーバーライド』

 スキルが発動している間だけは、主の体を乗っ取り動かすことができる。それがプラスに働いた。

 

 頭だけはグワングワンと振り回し、しかし体は機械のように正確で美しい姿勢を保っている。

 そのアンバランスさはもはや先頭争いよりも注目を集めていた。

 

『マネーガール、白目をむきながらも走っています!

 意識を失いながらも走り続ける!これがウマ娘の底力なのでしょうか!?』

『もはやゾンビかターミ〇ーターですね』

『女の子ですよ!?なんてこと言うんですか!?恥を知りなさい!』

 

 しかしこれは問題の先延ばしに過ぎない。彼女が意識を取り戻さない限り、勝利はない。

 

 今、彼女を起こすことができるのは、もはや一人しかいなかった。

 

 

 

 

 

「マネーガールさん!しっかりしてください!マネーガールさん!!」

「起きてマネちゃん!倒れちゃダメー!」

「……ファイト!」

「なぜマネーガール君はまだ走れているんだ……?」

「……タキオンさん、あなたの研究対象がピンチですよ。応援してはいかがです?」

「ひぃ……ひぃ……笑いすぎて苦しい……!」

「……駄目ですねこれは」

 

 観客席から応援するは、内気なマネちゃんが懸命にコミュニケーションをし、その果てにできた友人達。

 桐生院、ハルウララ、ハッピーミーク、シンボリルドルフ、マンハッタンカフェ、アグネスタキオン。

 

 ちょうど彼女たちの目の前まで来たマネーガールが意識を失ってしまっている。

 そんな彼女を起こすため、観客席から飛び出さん勢いで声をかけるが、意識が戻る気配がない。

 

(私は、何もできないのでしょうか……)

 

 そんな言葉が、トレーナーである桐生院の心に浮かぶ。

 その瞬間、彼女の目の前に『できるさ!これがあればな!』と言わんばかりに現れたのは、あの選抜レースの時見た、戦術と書かれたウインドウだった。

 

 

戦術

 

『伝令』

『おまかせ』

『内角中心』

『外角中心』

『犠牲フライ』

『敬遠』

『待て』

『ラッキーガール』

 

 

「これは、あの時の……」

 

 送り出したウマ娘には、応援する以外の干渉方法はない。

 だが、これはそんな常識をひっくり返すことができる。ただタップするだけで。

 

(これでマネーガールさんを起こせるかもしれない。だけど、どれを選べば……?)

 

 わかっているのは『間違っても犠牲フライを選択してはいけない』

 ただそれだけ。

 

(大事なのは、彼女に「起きて」と伝えること。なら、これ……でしょうか……?)

 

 そう考え、恐る恐るタップしたのは『伝令』

 そしてその瞬間、ある変化が訪れた。

 

「……わかった。行ってくるねトレーナー」

「え!?ちょっとどこに行くんですか、ミーク!ミーク!?」

 

 ただし変化したのはマネちゃんではなく隣にいたハッピーミークで。

 桐生院のオーダーを受けたミークは、マネーガールに伝令をするためターフに舞い降りた。

 

 

『おっと、観客席から誰かがレースに乱入しました!

 彼女は……ハッピーミーク!?マネーガールの先輩がエントリーだ!いいんですかこれ!?』

 

 当然困惑する実況。そんな実況席に、突如として速報が舞い込んだ。

 

『……え?伝令?なんですかそれ、初めて聞いたんですけど!?URA買収でもされました!?』

『やはりここで伝令を出してきましたか。

 チーム桐生院、非常にいい判断だといえるでしょう』

『適応するの速くないですかねぇ!?』

 

 

 騒がしい実況席をよそに、マネーガールを目指し走り始めたハッピーミーク。

 まるで高速道路の合流のようにマネーガールに近づき、並走を開始。

 

 いまだに頭を揺らしながら走り続けているマネーガール。そんな彼女の頬をつまみ、

 餅のようにむにーっと引っ張った。

 

「……いてててててて!?」

「……起きて」

 

 マネちゃんへ顔を近づけて、モーニングASMRをかますハッピーミーク。

 それは仮にアグネスデジタルが喰らった場合、鼻からの出血多量で死に至らせるほどの威力を誇っていた。

 

「あれ、ミークさん!?今、私は何を──

「いいから」

 

 普段のミークからは絶対出ない、力強い言葉による遮りと。

 真剣なミークの眼差しは、いまだにぼんやりしているマネちゃんの意識に喝を入れる。

 

「……走り続けて。お金、稼ぐんでしょ?」

「ッ!そうでしたね。今は、レース中でした」

 

 その言葉を受け、満足そうに頷いたハッピーミークは役目は終わったとばかりに離脱を開始。

 

「ミーク先輩、行ってきます!」

 

 その言葉を残し走り去る後輩に向けて、ハッピーミークは無表情でサムズアップした。

 

 

 

 無事に意識を取り戻し、レースに復帰したマネーガール。

 そんな彼女の順位は変わらず3位。前を走るはジュエルアズライトとリボンビートの2名。

 

 彼女たちは逃げであり、それ故『マネちゃんジャイロ回転事件』に居合わせなかった。

 それが幸いし大混乱に巻き込まれずに走り続けていたのだった。

 

(ジュエルアズライトさんは速すぎる。でも……)

 

 先頭争いはすでに決着がついており、ジュエルアズライトが前を独走していた。

 最後の直線に入り始めている彼女に追いつくのは、困難を極めるだろう。

 

 だがその後ろを走るリボンビートになら、もしかしたら追いつけるかもしれない。

 マネちゃんはギアを上げ、さらに加速しようとした。だが。

 

(キツイ……!これ以上速度を上げたらスタミナが持たない!)

 

 ジャイロ回転。あれがここで効いてきた。

 レースに全く不要な高速回転がマネちゃんのスタミナを大幅に削り、もはや現状維持で精一杯の状態にまで追い込んだ。

 

 

 大逃げをかましたわけでもないのに、息が乱れる。

 奇しくもあの選抜レースと同じ状況に陥ってしまった。

 

 サイレンススズカとの再戦では、初見殺しでしかない『ノビ〇』が効かずスタミナ不足で負けてしまった。

 なら今回も同じなのだろうか。

 

 いや、違う。

 

 なぜならば。

 

 

 キュピーン

 

『高速チャージ』

 

 

今の彼女にはスタミナを回復するスキルがあるからだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 スキルが発動した瞬間、マネーガールは走りながらも姿勢を低くさせた。

 その姿はまるで、転がってきたゴロを拾うような動きで。

 

 そして洗練された鮮やかな手さばきにより、

 

 

 

マネちゃんは芝を引っこ抜いた。

 

 

 

(????????)

 

 体が勝手に動き続けるマネちゃんの脳内は疑問と宇宙で満たされていた。

 だが、その疑問はすぐに解消されることになる。

 

 鷲掴みにされた大量の芝。それがだんだんと口元に近づく。

 そして自身の意思に反して、口が開き。

 

(嘘でしょ待って待って待ってそれは食べ物じゃな──!)

 

 

 口いっぱいに青臭さが広がった。

 

 

 

 

 

 

 2番目を走るリボンビート。

 すでにラストスパートに入ったジュエルアズライトを悔しげに睨みながら走り続ける彼女は、急に背後から追い上げてくる気配に気が付いた。

 

 一番の栄光はもう手に入らないだろうが、だからと言って2着を譲るわけにはいかない。

 後ろからやってきたライバル。その顔を拝んでやろうと目線を後ろにやると。

 

 

口に草を突っ込みながら死んだ目で走る未亡人がいた。

 

 

「ひぃっ!?」

 

 世が世なら妖怪認定されているであろうその姿は、リボンビートを動揺させ足並みを乱す。

 その隙を見逃さず、草を咀嚼しながらもリボンビートに並んだマネーガール。

 

 もはや前を見ず怯えた目でマネちゃんを見続けるリボンビート。

 係の人が『ウマ娘達が快適に走れるように』と丹精込めて仕上げた芝を容赦なくむさぼりスタミナに変換するマネーガール。

 

 その実力は互角だった。いや、恐怖デバフにより互角にされた、と言った方が正しいだろうか。

 

 

 そのままラストスパートにもつれ込む2人。

 そしてそれは、マネーガールの固有スキルの発動条件であった。

 

 キュピーン

 

『ヘッドスライディング level1』

 

 

 

 

 

 まだまだ朝は肌寒い、5月後半。

 高らかにメジロマックイーンが歌う応援歌と共に、ゴールゲートに夏が来た。

 

 

 

 

 

『──見事葵ステークスを制したのはジュエルアズライト!

 そして、誰が予想できたでしょうか!2着には、ジュニア級であるマネーガール!見事、入賞を果たしました!

 3着は、リボンビート!』

 

 

 

 葵ステークス 2着 マネーガール。

 賞金1600万円。

 

 

 

 

 説明

 

〈マネーガール〉

 

 レースが終わった一週間後、彼女の勝負服と人気に目を付けたヴィクトリーズからとうとう「始球式で投げてみない?」というオファーが来てしまった。

『まあファンが増えるならやってみようかな?うーんどうしよ』と悩むマネちゃん。

 

 その時、ふと閃いた!この悩みはやきうに詳しいメジロマックイーンに相談するといいかもしれない!

 

〈ジュエルアズライト〉

 

 1着をとったにも関わらず、話題がほぼすべてマネちゃんに搔っ攫われた一番の被害者。

 だが唯一、冒涜的な姿のマネちゃんを見ずにレースを完走出来た人物でもある。

 

〈ハルウララ〉

 

 マネちゃんの脳をこんがりと焼いた大天使。

 マネちゃんからの思いが『崇拝に片足突っ込んでる友情』に変化したが、それに気づくことはないだろう。

 

 あ、マネちゃんに奢られたご飯は美味しかったって。よかったね。

 

〈エアシャカール〉

 

 テレビで今回のレースを見た。

『貴公のロジカルは柱に吊るされるのがお似合いだ』と言わんばかりのレースに激怒した。

 必ず、かのUMA娘の謎を解明なければならぬと決意した。

 

 

今回登場したスキル

 

・ジャイロボール

 

 囲まれた時に発動。

 

 今の速度を維持しながら、発射されたライフルの弾丸のように高速ジャイロ回転する。

 

 ただそれだけのスキルであり、スタミナも削れてしまうがその分インパクトは強烈。

 これを見て驚かぬものは存在しないであろう。

 

 多分威力も高いよ、知らんけど。

 

 進化先『ハイスピンジャイロ』

 

 

・高速チャージ

 

 芝のコースでスタミナが切れそうになった時発動。

 

 芝を収穫し口に突っ込み、はみはみする。

 栄養補給(物理)により、エネルギーを10秒チャージ。

 スタミナを回復する。

 

 おいおいおい、レース中に道草食ってるわあいつ。

 

 

現時点で解放されているエンディング一覧

 

【ようこそ桐生院家へ!】

【皇帝の道化師】 

【3歳の子に母は必要である】

【メジロタイガース4番】

【ゴルゴル星の怪人】

【君は完璧で究極のモルモット君】

【ミラ子先輩チッス!お隣の億ションを購入したマネーガールッス!】

【高知県天界説】





ひとまずこれで一段落と言ったところでしょうか。
一話で終わらせるつもりだった小説がよくここまで続いたなーと自分でも驚いています。

ひとえに皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。

スイープやクリーク、マックちゃんとの日常小ネタがまだ残っているので、それを小ネタ集にして投稿するつもりです。
また次回を気長にお待ちいただけると嬉しいです。
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