造花を持ったプロデューサー   作:宮田宮田

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第6話

「今日はここまで、ですかね」

「はーい。そんじゃ、行ってきます!」

 プロデューサーはひらひら、と手を振って私を送り出す。

 行き先は、審査員立ち並ぶレッスン室。

 今日は、これまでの一ヶ月の成果を問われる、オーディションの日だ。

 

「って待て待てまていっ!」

「なんでしょうか」

「なんかないんですか、こう、頑張れとか、出来るぞ、とか!私今からオーディションですよ!」

「一応私も、準備はしてきましたよ。藤田さんにかけるための言葉を色々と」

 

 だったら言えよ。

 アイドルのモチベーション管理だって、プロデューサーの仕事だろ?

 ほら、私を最大限励ましてみな?

 

「でも、今の貴方には全部必要なかった。ダンスも、ボーカルも、ビジュアルも、完璧です。何か言うだけ、空回りするだけじゃないですか」

 

 うぐ、確かにその通りだ。

 ぶっちゃけ、なんか良い感じに褒めてくれないかなって思っただけだ。

 あとプロデューサーってこういうとき何言うのか気になったのもある。

 

「うー、要るか要らないかで言えば要らないですけど、欲しいんですよ!」

「……仕方ないですね」

 

 プロデューサーは咳払いをして、真っ直ぐ私の目を見つめた。

 

「藤田さん、今日の貴方は、今までで一番かわいい」

「っ〜!」

「さて、ちょうど時間ですよ、藤田さん」

「よーし!そんじゃちょっくら行ってきますかぁ!」

 

 自己肯定感も百点どころか千八百点!

 私は一気に廊下を走り抜けると、オーディションの会場の扉を勢いよく開けた。

 

「藤田ことねです!今日は、よろしくおねがいします!」

「よろしくおねがいします。それでは、曲を流すのでそれに合わせて歌い、踊って下さい」

 

 今回のオーディションは歌って、踊る。

 そのクオリティだけを競うというストイックなものだ。

 

 だから誰もが、ダンスとボーカルを鍛え上げる。

 

 でも、私は違う。

 

 見ろ、この笑顔を。

 歌ってる間も、踊ってる間でも、思わず見てしまうぐらいかわいいだろ。

 

 そして当然ダンスとボーカルも最高の出来だ。

 指先にまで意識が回る。声がいつもより長く伸ばせる。

 ああ、歌うって楽しい。踊るって楽しい。

 

 アイドルって、こんなにも楽しかったんだ。

 

「ありがとう、ございましたっ!」

 歌い終えて、礼をする。

 そしてそのまま部屋を出る。

 

 そこには、月村手毬の姿があった。

「何でここに?」

「順番次だからに決まってるでしょ。それ以外にある?」

「なんでそこで突っかかるんだよ。そんじゃ、頑張れよー」

「……負けないから」

 

 手毬は、私に敵意を剥き出しにしてオーディションへと向かった。

 そこまでされる理由があるか、と考えてから、一つの可能性に気付く。

 

「もしかして、私のオーディション見てた?」

 それも、下手とかまあまあとか、そんな微妙な評価じゃない。

 負けず嫌いの手毬が、負けないなんて言い出すようなパフォーマンスが出来てたってことだ。

 

「っ〜!」

 隣でオーディション中なことをギリギリで思い出し、必死で口を押さえて廊下を走る。

 そしてプロデューサーの待つ部屋まで辿り着き、叫ぶ。

 

「おっしゃあーーーーーー!」

「おめでとうございます」

「合格が決まったとかは一切ありませんっ!」

「その喜び方でそれは、流石に予想外です」

 

 流石にそうか、と思い直し、手毬とのやり取りを説明する。

 するとプロデューサーは頭を抱えてため息をついた。

 

「え、あ、あの、どうしたんですか?」

「いえ、失敗したな、と。私も廊下から見ておけば良かった」

「一ヶ月ずっと見てたじゃないですか」

「子供の学芸会を、練習を観ていたから観ないと言い出す親がいますか?」

「言いたいことはわかりますけども」

 

 プロデューサーが準備していた冷たいお茶を飲んで一息つく。

 改めて、自分の成長が感じられてじわじわと笑顔が込み上げる。

 

「なんか、やりきったって感じです」

「何よりですね」

「はい。私がここまで成長出来たのはプロデューサーのおかげです。ありがとうございますっ!」

「まだまだですよ。それでは、行きましょうか」

 

 プロデューサーは時間を確認すると、私を何処かへと連れて行く。

 もしかして、打ち上げの準備してくれたり……?

 

「着きました」

「……オーディションの部屋?」

 

 連れて来られたのは、さっきまで私が踊っていた場所。

 今は、丁度出番を終えた手毬が荒い息を吐いているところだった。

 

「なにするんですか?」

「決まっているでしょう。結果を聞くんです」

「は!?」

 

 プロデューサーはそのまま堂々とオーディション会場へと足を踏み入れ、審査員の方を見た。

 

「それでは、二人の結果をお願いします」

 

 手毬もこのことは知らなかったようで、突然の乱入に目を剥いていた。

 というか、流石に無茶苦茶過ぎる。

 たった今終わったばかりの手毬のパフォーマンスと私のを比較して優劣を決めるなんて。

 

「はあ……事情が事情だから今回は許しますけど、次からは駄目ですからね」

「もちろんです、根緒先生」

「はい。それじゃあ皆さん、気を付けて帰って下さいね」

 

 そう言うと先生は、白色の封筒を三枚プロデューサーに手渡した。

 アレに、このオーディションの結果が書いてある。そう思うとなんだか急に胸が痛くなってきた。

 これだけいろいろやってもらって、落ちたらシャレになんない。

 

「行きましょう、二人とも」

 だけどもプロデューサーは、そんな不安なんて一切ないかのように私達を部屋に案内した。

 

「ねえ、何この部屋」

「プロデューサー室、まあ普通のアイドルで言う事務所ですよ。前から申請していたのですが、昨日から使えるようになったんです」

 プロデューサーはポットをお湯で温めてから紅茶らしき茶葉を入れ、たっぷりのお湯を注ぐ。

 少しお湯が紅くなったところで、プロデューサーはポットに布をかけ、テーブルに置いた。

 

「さて、少し蒸らす間に結果を見ましょうか」

 そしてプロデューサーは本題とばかりに、二枚の封筒を私と手毬の前に差し出した。

 私はたまらず自分の前に置かれた封筒をひったくり、破って開けようとする。

 

「ねえ、これ名前ないけど。逆に渡したりしてないよね?」

「大丈夫ですよ。中身は同じですからね」

「「……え?」」

 

 オーディションの結果が入った封筒。

 その二つの中身が同じってことは。

 

 ドクン、と心臓が荒ぶる。

 でも、私の手は既に中身を取り出してしまっていた。

 

『合格通知』

「え、あ、おっしゃあああああ!?」

「……どういうこと?合格したのは私でしょ?」

 

 直後、手毬は自分の封筒から取り出した紙を見せつける。

 それにも、同じように合格との文字が書かれている。

 

 二人同時に、プロデューサーの方を向く。

 そこには、冷蔵庫から三人分のケーキを取り出すプロデューサーの姿があった。

 

「藤田さん、どれがいいですか?」

「え、いや、その、そうじゃなくて、なんで二人共合格なんですか!?」

「説明して貰えますよね、プロデューサー!あと、私はチョコケーキで!」

 

 なんでこの状況でケーキの種類を吟味してんだ。

 確かに美味しそうなケーキだけど!

 

「まずはお二人とも、合格おめでとうございます」

 プロデューサーは慣れた手つきで紅茶を注ぎ、ケーキと共に私達の方に並べた。

 キラキラとナパージュが輝く、様々なフルーツの乗った滅茶苦茶美味しそうなケーキを!

 

「二人とも合格って、どういうことですか?」

「どうもこうも、どうして月村さんは自分の受けたオーディションの説明をみていないんですか?」

 

 そう言って面倒くさそうにポン、とタブレットをタップして私達に見せる。

 そこには今回の学費免除オーディションの概要が詳細に記されていた。

 

 

「って、学費免除オーディション!?」

「は?まさか知らずに受けてたの?」

「私の判断で伝えなかったので」

 

 コイツしれっと何か言ったぞ!?

 

「あ、あのー?なんで私に言わなかったんですかぁ?」

「忘れましたか、私が契約のときに渡した紙を」

「え、あれは学費の……あ!」

 

 そうだった。私は学費を払ってもらう条件でプロデューサーと契約したんだった!

 じゃあ、これに合格したことで私の学費はタダ。じゃああのときもらった払込票は、どうなるわけ?

 

「授業料が免除になり次第、支払った学費は支払い時に使った口座に返金されます。今回は、私の口座です」

「だ、騙されたぁーっ!?」

「騙してはいません。万が一にも藤田さんが不合格になってしまうようなことがあれば、差し上げるつもりでしたよ。事故か何かでオーディションに出られない可能性も、なくはないですし」

 

 そう言われたら、私は頷くしかない。

 だって、あの紙には確かに四十五万の価値があった。

 それだけの額の金を預けて、プロデューサーは私をプロデュースした。

 もし失敗したとしても、私は学費を手に入れて元の生活に戻るだけだった。

 それを騙された、なんて言うのは失礼だ。

 

「……騙されたなんて言って、ごめんなさい。プロデューサーは、私を信じてくれたんですね」

「絶対に勝つと思っていたので、お気になさらず」

 

 なんで、見ず知らずの私をそこまで信じられるんだ。

 流石におかしい。何か理由がなければここまでの信頼を得られるはずがない。

 知りたい、と思って口に出そうとした瞬間、もう一人が口を挟んだ。

 

「ねえ。でもそれ、合格者が複数って伝えなかった理由になるの?」

「騙すためですよ、貴方がたを」

「はあ!?」

「結局騙されてたぁー!?」

「それでは、タネを明かしましょう。月村さん、契約書は持ってきましたね?」

 

 手毬はこんなものが何、と言いたそうにバン、と机に契約書を叩きつけた。

 内容もサインも、間違いなくあのとき見たものだった。

 

 

 一か月後のオーディションにおいて、月村手毬が合格した場合、私は月村手毬のプロデューサーになる

 

 一か月後のオーディションにおいて、藤田ことねが合格した場合、月村手毬は藤田ことねの仕事を全力で支援する

 

 この二文とサインだけの、シンプルな契約書だ。だが、合格者の数とこの契約に一体何の関係があるのか。

 

「……ん?」

「合格、したら?」

 

 改めて文面をみると、私も手毬も契約内容がおかしいことに気が付いた。

 あのとき、私達は勝った方が、と言っていた。

 でも書面に起こす際、プロデューサーはそれを合格したら、にこっそりと変えていたみたいだ。

 

「オーディションの結果は私と手毬の合格……」

「じゃあ、この契約は両方、条件を満たしてる?」

「正解です。というわけで、私は月村さんをプロデュースする。月村さんは、藤田さんの活動を支援する。例えば、ユニットを組んで支えるとか」

「「!」」

 

 私も手毬も、最初から勝敗について勘違いさせられていた。

 今回のオーディションは、全部プロデューサーの掌の上だったみたいだ。

 

「藤田さんがソロアイドルとして頭角を現す日は近いですが、話題性のある実力者とユニットを組めばそれまでの時間を早められる」

「ちょっと、私は納得してないけど。私が目指すのはトップアイドルなの。そのプロデューサーが他のアイドルのプロデュースも出来るほど、余裕があると思う?」

「なんとかしますよ。それに、契約ですので。拒否はできませんよ」

 

 プロデューサーはぴらり、と契約書を手毬の目の前に示した。

 キメッキメのサインが書かれたその紙は、手毬を黙らせた。

 

「くっ!」

「月村さんにもそのうち納得させて見せますよ。では、お二人は今日中に貰った書類の申請をやっておいて下さい。私は指導方針を決めておくので」

「……今日のところは、引いてあげます」

「はーい。ところで、最後の封筒って何のやつだったんですか?」

 

 プロデューサー自身もその存在をすっかり忘れていたようで、言われてから封筒を開けた。

 

「……これは」

「学費免除申請……まさかもう一人プロデュースする気ですか!?」

「どこに目つけてんの?紙の色が違うでしょ。普通に考えれば違う学科向けの書類って分かるでしょ」

 

 言い方はともかく、それなら納得だ。

 プロデューサーは落ちこぼれだった私を一カ月でここまで育ててくれた。

 それにあれだけのリスクを背負ったのだから、このぐらいのご褒美があっても良いだろう。

 本当は、私が何かしてあげられれば良かったんだけど。

 

「じゃあ、今日は三人で書類提出しますか!」

「いいんじゃない?そのほうが楽だし」

「いえ、私は結構です。それでは、明日からもよろしくお願いします」

 

 プロデューサーは封筒をピッチリと閉じると、足早に去って行った。

 

「ありゃあ、忙しかったかぁ?」

「何やってんの。さっさと終わらせるよ」

「切り替え早っ」

 

 改めて書類を見る。

 確かに授業料免除と書かれている。

 

「むふふふふふふーっ♡」

「気持ち悪い。ニヤついてないで作業したら?」

「なんか言ったかてめぇーっ!」

 

 結局その日は、ケンカばかりで、書類はまともに進まなかった。

 ……スルーしてたけど、私コイツとユニット組むの?マジで?

 

 

 

 

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