堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第10話:プラスとマイナス

 ※※※

 

 

 

「ッ……なに? この、嫌なカンジ──」

「外の方が騒がしいですね」

「……何だか妙な事が起こってやがるな。マスター悪い、また今度だ」

 

 

 

 双子と鹿島は店を出る。

 

 そして、耳の良い凍花はすぐに喧騒の正体を察した。

 

 無数に重なり合う恐怖の悲鳴。そして、群集が走り去っていく音。何かが壊れる音。

 

 人々を追い散らすようにして、何かが迫りくる。剣を振るえば衝撃波で車がへしゃげ、街路樹が根元から圧し折れる。

 

 背中に剣が突き刺さった甲冑の騎士を姿をした鬼だ。

 

「鬼ですッ!! 渋谷の町中に、鬼が……!!」

「ねえ、あいつ……ステゴ剣鬼……なの!? なんか、姿が違うような……!!」

「分かりませんが、感じる霊気はステゴ剣鬼と同じです……! 恐らくコイツが”本物”!」

「おいおいおい!! やってくれるじゃねえか!! ──先ずはパンピーの安全確保だッ!!」

 

 鹿島の頬に薄っすらとだが、毛皮が生え、頭からは巨大な角が現れる。

 

「オン マカシリ ソワカッ!!」

 

 そして──鹿島の背後に現れたのは、鹿の頭をした巨大な仏像だ。

 

 それが印を組むと同時に、鹿島の周囲は光に包まれる。

 

「対象を俺と城ケ崎凍花、城ケ崎雷花、そして──鬼に指定ッ!!」

 

 次の瞬間、逃げ惑う市民たちの視界からは鬼の姿が消え失せる。

 

 そして彼らは、突如現れた怪人が何だったのかを知る由もなく、困惑する事になるのだった。

 

 

 

「──”守りの鹿目(カナメ)”ッ!!」

 

 

 

 これは鹿島が展開した術だ。入る事が出来る人間を予め指定し、それ以外の者から視認されたり侵入されることを防ぐ空間を発生させる。

 

 更に、発生した物の破壊などは外からは無かった事になるなど、空間内は完全に隔離された異空間となる。

 

 絶滅したシカ属”メガロケロス”を神聖なる使いとしての”鹿”と結びつけることで習得した鹿島の得意技だ。

 

 とはいえ展開している間、ずっと鹿島は体力と気力を消耗し続ける。時間制限は存在する。

 

「おい嬢ちゃん達!! こっちはいつも通りコイツを展開してるだけで精一杯だ、オジサンがバテる前にケリ付けてくれや!!」

「オーケイ!! 任せといて、鹿島のじっちゃん!!」

「オーライです、鹿島さんッ!!」

 

 こうなれば、町中でももう遠慮する理由はない。思いっきり暴れる事が出来る。

 

 コスプレ衣装を脱ぎ捨て、変身した双子はステゴ剣鬼に向かって行く。

 

「ゥゥゥ……ぅるぁああああああああああああッッッ!!」

 

 だが、以前までとは違うのは姿だけではなかった。咆哮に似た叫びは飛び掛かった二人の足を止める。

 

 ビリビリと身体全部が震え、二人は臆してしまう。

 

「な、なに、これ……!!」

「……それに、今の声って──」

「ぅうううう……あああああああああああああッ!!」

 

 刀を背中から1本抜き取ったステゴ剣鬼は双子たちに容赦なく襲い掛かる。

 

 型も何もあったものではない力任せの一振り。道路が割られ、衝撃波が飛ぶ。

 

 散開した二人は戦慄する。確かにこれまで戦ったステゴ剣鬼も強敵だったが、此処までの力の持ち主ではなかった。

 

 もしも剣による一撃を喰らえば、幾ら霊気に守られた身体でもただでは済まない事を実感させられる。

 

凍土の颶風(コールドボレアス)!!」

 

 凍花が冷気のブレスを吐きだせば、ステゴ剣鬼は一瞬で全身が氷に覆われていく。

 

 そして雷花は地面を蹴りステゴ剣鬼に突っ込み、凍花は流れ弾を防ぐために空へ飛ぶ。

 

「”オシオキッ!! 電気ビリビリ100パーセント”ッ!!」

 

 拳を握り締めて電気を溜める。そして、生体電気を全身に流して筋力を活性化。

 

 跳ぶ。ステゴ剣鬼の顔面に必殺の右ストレートをぶつけた。

 

 しかしステゴ剣鬼は──驚くほどにびくともせず、その場に直立している。

 

 凍結しているのもあるが、全く手応えというものが感じられない。生身で鋼鉄の壁を殴ったかのようだ。

 

(ウッソ、こんなに響かない事、ある!? 電気流されてるんだよ!?)

 

「ぅううううううううッ!!」

 

 ピキ、パキパキパキ。

 

 ステゴ剣鬼の身体が動き出す。無理矢理凍結した身体を動かしているのだ。

 

 剣が思いっきり振り抜かれ、ゴム毬のように雷花は吹っ飛ばされた。

 

 ビルの壁に叩きつけられ、そのまま雷花は地面に倒れる。此処まで雷花が飛び出してから約1秒。

 

 凍花は上空から、それを見ていることしか出来なかった。

 

「姉さんッ!!」

 

 三人での取り決めも忘れ、凍花は雷花が倒れた方へ飛ぶ。

 

 瓦礫が崩れ落ちる中、げほげほ咳き込みながら雷花は起き上がった。

 

「……痛ァ……なんなの、あいつ、強すぎでしょ……!!」

「姉さん、ケガは……!?」

「あの剣喰らった場所……霊気が抉られてる……!! とんでもない威力だよ……!!」

 

 雷花は服を捲り上げた。剣を受けた個所だけ変身が解けてしまい、鱗が無くなっているのだ。

 

 もしも次喰らえば、当然だが──あの剣に生身を抉られることになる。しかし、彼女の懸念を他所に、再び雷花の腹には鱗が生えていくのだった。

 

「でも、この空間……鹿島のじっちゃんの結界の中だから、直ぐに回復する……!」

「連携技です!! バラバラに攻撃して勝てる相手ではありません!!」

「オーケイ……今ので、アイツの顔面に()()()()()()()()()()……!」

「やってやりましょうッ!!」

 

 ふぅ、と凍花は自分の手元に冷気のブレスを吹き込み、巨大な氷を作り出す。

 

 そして、雷花は今度は左の拳を思いっきり握り締め──宙に浮かぶ氷の塊を渾身の力で殴る。

 

 氷の塊は砕け散る。そして、バラバラになった氷の塊に更に凍花がブレスを吹きかけ、硬化させる。

 

「氷の塊に──マイナス電気を付与したッ!!」

「プラス電気とマイナス電気は引き合いますッ!!」

「ブチ抜いてやるッ!! ”電導式・氷散弾(アイス・ショットガン)”ッ!!」

 

 氷の破片は、硬く尖った弾丸となり──プラスの電気を帯びたステゴ剣鬼の頭部目掛けて纏めて飛んで行く。

 

 追撃を仕掛けるべく追ってきたステゴ剣鬼だったが、目にもとまらぬ速度で飛んできた氷弾を纏めて顔面で受ける事になった。

 

 これが電気能力の真骨頂。雷花は霊気を帯びた二種類の電気を使い分けられる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、双子は便宜上この2種類の電気を「プラス電気」「マイナス電気」と呼称している。

 

 この「プラス電気」と「マイナス電気」が引き合う性質を利用すれば、電気を付与した相手に飛び道具を超高速で必ず命中させられるのだ。

 

 更に、凍花のブレスを吹きかけた氷弾は鋼鉄よりも硬くなる。この2つが合わされば──ステゴ剣鬼の硬い装甲も打ち破ることができるのだ。

 

「命中ッ!!」

「装甲が砕けましたッ!!」

 

 ──割れた装甲から、変身者の顔が露わになる。

 

 強化された視力により、雷花と凍花も嫌でも敵の素顔を見る事になった。

 

 目は血走っており、こめかみには血管が浮かび出ている。

 

 だが間違いない──

 

「つるぎ──ッ!?」

「つるぎさん……!?」

 

(つるちゃん……ッ!!)

 

 ──ステゴ剣鬼の変身者は、荒神つるぎだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あらあら。追い出されてしまいましたわ」

 

 

 

 洞道は結界の外からつまらなさそうに言った。

 

 だが、彼女の手には──相も変わらず呪具・呼獲箱(コトリバコ)が握られている。

 

 

 

「あんまり退屈させるなら……百鬼夜行、起こしちゃいますわよ? フフフッ……!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「な、なんで……!? 荒神家の人間は、動物霊に憑かれないんじゃ……!!」

「姉さん!! 来てますッ!! 全然怯んでませんッ!!」

「うるぁあああああああああああッ!!」

 

 ステゴ剣鬼が走り出し、背中から剣をもう1本抜く。

 

 無数の刃がワイヤーで連結され、鞭のようにしなる蛇腹剣だ。

 

 それが振るわれる也勢いよく凍花に絡みつき、力任せに振り回す。

 

「っきゃぁ!?」

「トーカ!? って、わわわ、こっち来て──」

 

 間もなく、凍花の身体は雷花に打ち付けられ、両者は地面にめり込む事になった。

  

 蛇腹剣は衝撃でバラバラに砕け散ったが──それでも、ステゴ剣鬼の背中には無数の剣が墓標のように生えている。武器には困らない。

 

「がっ、ごふっ……!!」

「げほっ……!!」

 

 血を拭い、凍花は転がって雷花の隣に横たわった。

 

「ねー、ヤバいよね、これ……」

「……姉さん、私……以前、つるぎさんが鬼になったら、って考えた事があったんです」

「それで……?」

「想像以上でした……フィジカルが、鬼になって強化されてるし、電気でも怯まない……!!」

「つるぎ、すっごく我慢強いもんね……!!」

 

 肉体と精神力。その両方が鬼化によって超強化されてしまっている。

 

 同じ動物霊の鬼でも、変身者によって戦闘力には差異が出るが、今まで鬼化無しで動物霊と渡り合ってきたつるぎが変身すれば──最悪クラスの災禍となる。

 

 丸太のような腕から振るわれる超人的な剣技が、ステゴ剣鬼を生ける兵器たらしめていた。

 

「──ぅ……あ──雷……花……? 凍……花……?」

 

 呻くような声が、再展開された甲冑型プロテクター越しに聞こえてくる。

 

 双子は身構えた。だが、双子の名前を呼んだかと思えば──ステゴ剣鬼は、自分を律するかのように構えた剣を地面に突き立てた。

 

「お前達……は、逃げ、ろ──ッ!!」

「ッ……つるぎ、こんな時までボク達の事を……!!」

「こんな時くらい、自分の心配をしてくださいよ、つるぎさんッ!!」

 

 だが、鬼の身体に赤い稲光が迸る。

 

 再び剣鬼は剣を引き抜き、双子たち目掛けて襲い掛かるのだった。

 

 幸い動きは鈍重そのもの。間合いを取っていれば、致命的な一撃は襲ってこない。

 

(唯一警戒すべきは、あの蛇腹剣……! それも耐久性に難があるのか、すぐに壊れる!!)

 

「ねえ、トーカ!! ステゴサウルスに何か弱点無いの!?」

「あんなステゴサウルスが居て堪るものですか! 本来なら武器になり得ない背中の鰭がそのまま剣になってるし……!!」

「でも、あれ、すっごく痛そう……」

 

 ぽつり、と雷花は呟いた。

 

 今のつるぎは──戦いの宿命に囚われた、亡霊騎士そのもの。

 

 自分の痛みにすらウソを吐き、剣鬼は目の前のものを斬り刻み続ける。

 

「つるぎ、ずっと我慢してたんじゃないかな。一人で抱え込んで、悩んで、それでもボク達に気負わせまいって、ずっと強く振る舞ってたんじゃないかな……」

「そんなの、許せませんッ……!!」

 

 息も絶え絶えではあったが、凍花は起き上がる。

 

「私達の為に、つるぎさんだけが痛みを我慢する必要なんてない……!! 何で私達に言ってくれないんですか!! 私達の事を見て見ぬフリをするなんて、許せません!!」

「……だよね。ボク達は……つるぎの抱えてるものを一緒に背負いたいんだ……!!」

「貴方は逃げろ、と言いました──つるぎさん。でも、私達が逃げたら、一体誰が貴方を守るんですか!?」

「そうだよ、つるぎ。ボク達は絶対、君からは逃げないッ!!」

 

 再び雷花は両の手に電気を纏わせる。

 

 凍花も飛び上がり、冷気のブレスを真下に向かって吐き出した。

 

 冷気は空気中の水分を凍らせて、雷花とステゴ剣鬼だけを閉じ込めるドーム状に形成される。

 

「姉さんッ!!」

「オーケイ!!」

 

 斬りかかるステゴ剣鬼。だが、その剣が届く前に、雷花は左拳でドームの壁に触れた。

 

(ボクの電気は放出するには効率が悪い。だけど──他のモノに伝導させるなら、話は別だッ!! この閉鎖空間で、マイナスの電気を氷のドームに内側から流すッ!!)

 

 

 

「”電導式・凍洞遊戯(コールドゲーム)”ッッッ!!」

 

 

 

 プラスとマイナスの電気は引き付け合う。

 

 ドームに流し込まれたマイナス電気は一斉に雷となって全方位からステゴ剣鬼に襲い掛かった。

 

 頭に直接雷が何本も落ちたかのような衝撃だった。雷花も限界まで電気を放出し切ったのだ。

 

 しかし。流石の体幹。全くフラつく事なく、ステゴ剣鬼は立ち尽くす。そればかりか、まだ背中の剣に手を掛けて引き抜こうとする。

 

「つるぎッ……つるぎ、お願い!! 目を醒ましてッ……!!」

「ライ……カ……ッ!!」

 

 ブン、と剣を振るえば──衝撃波だけで氷のドームが砕け散った。

 

 だがそこに──降り立った凍花が手を広げてステゴ剣鬼の前に立ちはだかる。

 

 電気を放出し切った雷花は、もう戦えないと知っていたからだ。

 

 とはいえ、ステゴ剣鬼もまた──さっきの落雷を受けた事で動くこともままならないようだった。

 

 体は電撃で麻痺してしまっており、ガクガクと痙攣している。

 

「つるぎさんッ……聞こえてますか!?」

「トウ、カ……ッ!!」

「お願いです、もうやめてくださいッ……!!」

「オ、マエ、たち……!!」

 

 膝を突いたステゴ剣鬼は──背中の刀を抜き取る。

 

「俺、おまえ、たち、を……傷、つけて……」

「つるぎさん──」

「つるぎ……!」

 

 それは、呪力に蝕まれた、荒神つるぎの得物たる霊刀だった。

 

 つるぎが何をしようとしているのかを察した雷花は、すぐに無地の御札を彼の腹に投げ付ける。

 

 

 

「ご、めん……」

 

 

 

 刀を逆向きに握り、つるぎは自らの腹に突き立てた。

 

 彼を纏っていた霊気が一気に拡散。そして──全て、御札の中へと吸い込まれていく。

 

 最後に発したのは、後悔混じりの謝罪の言葉。

 

 後に残るのは、意識を失った全身傷だらけのつるぎ。そして、変身が解除された双子だけだった。

 

「……つるぎ。つるぎ……ッ!! しっかりしてよ……!!」

「大丈夫。生きてはいます……!!」

「終わったか──ッ! さっさとトンズラこくぞ!!」

「んぎぎぎ、つるぎ、重い……!!」

「任せろ、こんな時くらいおじさんに仕事させな!!」

 

 鹿島が叫んで、こっちにやってくる。

 

 結界の崩壊は近い。余力のある鹿島がつるぎを背負い、双子たちはバテながらも、その場を脱するのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……あーあ。やっぱり無意識下でブレーキが働きましたのね」

 

 

 

 残念そうに洞道は言った。

 

 

 

「……でも、呪いはそう簡単には解けるものではありませんわ。オホホッ!! ……私達の同族の恨み、必ずや……!!」

 

 

 

 そう言い残すと──がくり、と洞道は力が抜けたように首をもたれた。

 

 

 

「あれ? 私、今まで何を……していたのかしら……? 記憶が……」

 

 

 

 洞道コトリの手にはもう、呼獲箱(コトリバコ)は無かった。

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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